公益通報者保護法改正2026年12月|刑事罰導入・立証責任転換と企業の内部通報体制整備

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公益通報者保護法改正2026年12月|刑事罰導入・立証責任転換と企業の内部通報体制整備
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最終更新日: 2026年10月4日

2025年6月4日に成立し同月11日に公布された「公益通報者保護法の一部を改正する法律」(令和7年法律第62号)は、2026年12月1日に施行される(2026年10月時点で、施行まで約2か月)。今回の改正は、(1)事業者が公益通報に適切に対応するための体制整備の徹底と実効性の向上、(2)公益通報者の範囲拡大、(3)公益通報を阻害する要因への対処、(4)公益通報を理由とする不利益な取扱いの抑止・救済の強化の4つの柱で構成される。公益通報を理由とする解雇・懲戒に対する刑事罰の新設(個人:6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金、法人:3,000万円以下の罰金)、通報後1年以内の解雇・懲戒を報復と推定する立証責任の転換、フリーランスへの保護拡大などが盛り込まれている。改正法に対応した指針(法定指針)は2026年3月31日に確定・公表されている。本記事では、改正法の全体像から企業の内部通報体制整備の実務対応までを体系的に解説する。


公益通報者保護法とは

法律の目的と基本構造

公益通報者保護法は、事業者による違法行為を労働者等が通報した場合に、通報者を解雇その他の不利益取扱いから保護することで、国民の生命・身体・財産等の利益の保護に資する通報を促進することを目的とする法律である。

項目 内容
法律名 公益通報者保護法(平成16年法律第122号)
制定 2004年6月18日(2006年4月1日施行)
目的 公益通報者の保護を通じた国民の利益の保護(第1条)
保護の内容 解雇の無効、不利益取扱いの禁止
通報先 事業者内部(1号通報)、行政機関(2号通報)、報道機関等(3号通報)
所管 消費者庁

2004年制定から2026年改正までの経緯

公益通報者保護法は、企業不祥事の内部告発がきっかけで社会問題が明るみに出た事例を背景に制定されたが、実効性の不足が繰り返し指摘されてきた。

年 事項 内容
2004年 法律制定 公益通報者保護法の制定(2006年4月施行)
2020年 令和2年改正 事業者の内部通報体制整備義務の新設(300人超は義務、300人以下は努力義務)、退職者・役員の保護追加、行政機関通報の保護要件緩和
2022年6月 令和2年改正法施行 内部通報体制整備義務・公益通報対応業務従事者の守秘義務の施行
2024年5月~12月 検討会での検討 消費者庁「公益通報者保護制度検討会」が全9回開催され、報告書を取りまとめた
2025年3月4日 改正法案を国会に提出 同年4月24日に衆議院で修正議決
2025年6月4日 令和7年改正法成立 参議院で可決・成立
2025年6月11日 改正法公布 令和7年法律第62号として公布
2025年11月10日 指針改正案の意見募集を開始 改正法に対応した指針改正案について意見募集を実施
2026年3月31日 改正指針の確定・公表 令和8年内閣府告示第15号により令和3年内閣府告示第118号(法定指針)を一部改正。意見募集の結果も同日に公示
2026年12月1日 改正法施行 改正法・改正指針の適用開始

2022年改正と2026年改正の比較

2022年施行の令和2年改正法と、2026年12月施行の令和7年改正法の主な相違点を整理する。

項目 2022年改正(令和2年) 2026年改正(令和7年)
報復行為への制裁 解雇の無効・不利益取扱いの禁止(民事) 解雇・懲戒について刑事罰の新設(拘禁刑・罰金)
立証責任 通報者が報復であることを立証 解雇・懲戒について立証責任の転換(通報後1年以内は報復と推定)
保護対象者 労働者・退職者(1年以内)・役員 フリーランス(特定受託業務従事者)を追加
通報妨害 明文規定なし 通報妨害の禁止と、通報をしない旨の合意等の無効(第11条の2)
通報者探索 従事者の守秘義務のみ 通報者を特定することを目的とする行為の禁止(第11条の3)
体制整備の周知 体制整備義務のみ 労働者等への周知を体制整備義務の例示として明示(第11条第2項)
行政の執行手段 報告徴収・助言・指導・勧告・公表 従事者指定義務違反に対し立入検査・命令・罰金を追加
300人以下の企業 体制整備は努力義務 体制整備は努力義務(変更なし)。ただし解雇・懲戒の刑事罰・通報妨害の禁止・通報者探索の禁止は全事業者に適用


改正の4つの柱

第1の柱:体制整備の徹底と実効性の向上

2022年改正で導入された体制整備義務について、実効性を確保するための規定が拡充された。

改正事項 条文 内容
周知義務の明示 第11条第2項 体制整備義務の例示として、労働者等に対する公益通報対応体制の周知を明示
立入検査権限 第16条 従事者指定義務(第11条第1項)に違反する事業者(300人超)に対する立入検査権限を新設
命令権限 第15条の2 従事者指定義務違反について、勧告に従わない場合の命令権限を新設
罰則 第21条 命令違反、報告懈怠・虚偽報告、検査拒否に30万円以下の罰金(両罰規定)

第2の柱:保護対象者の拡大

従来の労働者・退職者・役員に加え、フリーランス(特定受託業務従事者)が保護対象に追加された。

保護対象者 2022年改正 2026年改正
現役の労働者 保護対象 保護対象
退職者(退職後1年以内) 保護対象 保護対象
役員 保護対象 保護対象
派遣労働者 保護対象 保護対象
フリーランス(特定受託業務従事者) 対象外 保護対象(新設)
元フリーランス(通報の日前1年以内に業務委託をしていた者) 対象外 保護対象(新設)

第3の柱:通報妨害行為の禁止

通報を抑止する行為を明示的に禁止する規定が新設された。

改正事項 条文 内容
通報妨害の禁止と合意の無効 第11条の2 事業者は、正当な理由なく、公益通報をしない旨の合意を求めること等によって公益通報を妨げてはならず、これに違反してされた合意等の法律行為は無効
通報者探索の禁止 第11条の3 事業者は、正当な理由なく、公益通報者である旨を明らかにすることを要求することその他の公益通報者を特定することを目的とする行為をしてはならない

第4の柱:不利益な取扱いの抑止・救済の強化

改正法の核心となる規定である。刑事罰と立証責任の転換の対象は、不利益な取扱いのうち解雇と懲戒に限られる点に注意が必要である。

改正事項 内容
刑事罰の新設 公益通報を理由とする解雇・懲戒に対し、個人:6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金、法人:3,000万円以下の罰金(第21条第1項・第23条)
立証責任の転換 通報後1年以内の解雇・懲戒は、公益通報を理由としてされたものと推定(民事訴訟上の立証責任転換。第3条第3項)
法人重科 法人に対する罰金額を3,000万円以下とし、個人の30万円の100倍に引上げ

刑事罰の詳細

解雇・懲戒に対する刑事罰

2026年改正法の最大の特徴は、公益通報を理由とする解雇・懲戒に対する刑事罰の導入である。従来、不利益取扱いの禁止は民事上の規定にとどまり、違反しても解雇無効や損害賠償の問題にしかならなかったが、改正法では解雇・懲戒について刑事罰の対象となる。

項目 内容
対象行為 公益通報を理由とする解雇、及び懲戒(就業規則に定めた制裁又は労働契約に定めた制裁)として行われた不利益な取扱い(第3条第2項の「解雇等特定不利益取扱い」)
個人に対する罰則 6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金(第21条第1項)
法人に対する罰則 3,000万円以下の罰金(両罰規定)
適用範囲 企業規模を問わず全事業者に適用
施行日 2026年12月1日

刑事罰・推定の対象となる範囲

刑事罰と推定の対象は「解雇等特定不利益取扱い」(解雇、及び懲戒としてされた不利益な取扱い)に限られる。懲戒処分として行う減給・降格などは対象に含まれる。一方、懲戒としてではなく人事上の措置として行う降格・配置転換などは、第3条第1項で引き続き禁止されるが、刑事罰も推定もない。

不利益取扱いの類型 具体例 刑事罰(第21条第1項) 推定(第3条第3項)
解雇 通報を理由とする普通解雇・懲戒解雇 対象 対象
懲戒 通報を理由とする、就業規則等に基づく制裁としての処分(けん責・懲戒としての減給・降格等) 対象 対象
人事上の取扱い(懲戒以外) 降格、不利益な配置の変更・出向・転籍等の命令、不利益な評価(指針の例示) 対象外 対象外
経済待遇上の取扱い(懲戒以外) 減給、賞与・退職金等での不利益な算定(指針の例示) 対象外 対象外
地位の得喪に関すること 退職の強要、契約の更新をしないこと(指針の例示) 対象外 対象外
精神上・生活上の取扱い 事実上の嫌がらせ等(指針の例示) 対象外 対象外
フリーランスへの不利益取扱い 業務委託契約の解除、取引の数量の削減、取引の停止、報酬の減額(第5条) 対象外 対象外

刑事罰の対象外であっても、これらの行為は法律上禁止されており、指針は事業者に対し、不利益な取扱いを防ぐ措置・把握する措置・救済回復の措置・行為者への懲戒処分その他適切な措置を求めている(指針第4の2(1))。

従来の制裁と改正後の制裁の比較

制裁の種類 2022年改正まで 2026年改正後
解雇の無効 あり(第3条) あり(継続。解雇以外は懲戒として行われたものに限る)
不利益取扱いの禁止 あり(第3条・第5条) あり(継続)
損害賠償請求 民法に基づき可能 民法に基づき可能(継続)
刑事罰(個人) なし 解雇・懲戒について 6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金
刑事罰(法人) なし 解雇・懲戒について 3,000万円以下の罰金
行政上の命令 なし(勧告・公表のみ) 従事者指定義務違反(300人超)について命令権限を新設
命令違反の罰則 なし 30万円以下の罰金(両罰規定)

立証責任の転換

従来の立証構造と問題点

従来の公益通報者保護法では、通報者が不利益取扱いを受けた場合、通報者自身が「当該不利益取扱いは通報を理由とするものである」ことを立証する必要があった。しかし、企業側が処分の真の理由を把握しており、通報者側には立証のための証拠へのアクセスが極めて限定されるため、事実上の立証困難が通報者保護の最大の障壁となっていた。

項目 従来 改正後
立証責任 通報者が「報復である」ことを立証 解雇・懲戒について、推定規定により事業者側が「報復でない」ことを立証する構造に転換(民事訴訟上の立証責任転換)
推定の有無 推定なし 通報後1年以内の解雇・懲戒は公益通報を理由としてされたものと推定(第3条第3項)
推定の起算点 ― 公益通報をした日。外部通報(2号・3号通報)で、事業者が通報されたことを知って解雇・懲戒をした場合は、事業者が通報を知った日
推定期間 ― 1年間
推定の対象 ― 解雇と懲戒に限る(懲戒としてではない降格・配置転換等は対象外)

推定の具体的な仕組み

改正法における立証責任転換の仕組みは以下のとおりである。

ステップ 内容 立証責任
1 通報者が公益通報を行ったことを主張 通報者
2 通報後1年以内(起算点は上記)に解雇又は懲戒を受けたことを主張 通報者
3 上記1・2が認められた場合、当該解雇・懲戒は通報を理由とするものと推定 ―
4 事業者が「当該解雇・懲戒は通報を理由とするものではない」ことを反証 事業者

事業者が反証するための実務的対応

立証責任の転換に対応するため、事業者は以下の実務対応が求められる。

対応項目 具体的内容
人事評価記録の整備 通報の有無にかかわらず、全従業員について定期的な人事評価を文書化し保存
異動・配置転換の理由文書化 異動命令の発令前に、事業上の合理的理由を文書で記録
懲戒処分の手続記録 懲戒事由の調査記録、弁明の機会の付与記録、処分決定の議事録を保存
同時期の他従業員との比較 同様の事案で通報者以外の従業員にも同等の処分が行われていることの記録
処分のタイミングの説明 通報時期と処分時期が近接する場合、処分が通報以前から検討されていたことの記録

保護対象者の拡大:フリーランスへの保護

フリーランス(特定受託業務従事者)の追加

改正法では、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和5年法律第25号。フリーランス・事業者間取引適正化等法)に規定する「特定受託業務従事者」が新たに保護対象に加えられた。

項目 内容
追加される保護対象 特定受託業務従事者(フリーランス)
定義 特定受託事業者(業務委託の相手方である事業者で、従業員を使用しない個人、又は一の代表者以外に役員がなく従業員を使用しない法人)である個人、及び特定受託事業者である法人の代表者(フリーランス法第2条第2項)
保護の内容 公益通報を理由とする業務委託に係る契約の解除、取引の数量の削減、取引の停止、報酬の減額その他不利益な取扱いの禁止(第5条)
元フリーランスの保護 通報の日前1年以内に業務委託をしていた特定受託事業者に係る特定受託業務従事者も保護対象
刑事罰・推定の適用 なし。 第21条第1項の刑事罰と第3条第3項の推定は、労働者に対する解雇・懲戒が対象であり、第5条の禁止には及ばない

フリーランスに対する不利益取扱いの具体例

第5条が明示する行為は次のとおりである。指針も、不利益な取扱いの例として業務委託に係る契約の解除、取引の数量の削減、取引の停止、報酬の減額を挙げている。

不利益取扱いの類型 具体例
契約の解除 通報を理由とする業務委託契約の解除
取引の数量の削減 通報者への発注量を減少させる行為
取引の停止 通報を理由として取引を停止する行為
報酬の減額 通報を理由として委託報酬を減額する行為

通報妨害行為の禁止

通報妨害の禁止と、通報をしない旨の合意の無効(第11条の2)

改正法第11条の2は、事業者が労働者等に対し、正当な理由なく、公益通報をしない旨の合意をすることを求めること等によって公益通報を妨げることを禁止し、これに違反してされた合意等の法律行為を無効とする規定である。

項目 内容
対象となる行為 公益通報をしない旨の合意を求めること、公益通報をした場合に不利益な取扱いをすることを告げることその他の行為による、公益通報の妨害
合意の効力 無効(第11条の2第2項)
具体例 秘密保持契約(NDA)の中に「違法行為を知っても外部通報しない」旨の条項を設ける行為
退職時の合意 退職時の合意書に「在職中に知った情報について一切の通報を行わない」旨を記載する行為
和解条項 紛争解決時の和解契約に「今後一切の通報を行わない」旨を含める行為

通報者探索の禁止(第11条の3)

項目 内容
禁止の主体 第2条第1項各号に定める事業者
禁止行為 正当な理由がなく、公益通報者である旨を明らかにすることを要求することその他の公益通報者を特定することを目的とする行為
従事者の守秘義務との違い 公益通報対応業務従事者が通報者を特定させる事項を漏らすことの禁止は第12条の守秘義務(違反には第22条の罰則)。第11条の3は、事業者が通報者を探し出す行為を禁じるもの
関連する法令 通報者の個人情報の管理は個人情報保護法2026年改正の規律強化(課徴金制度の新設等)とも密接に関連する

行政の執行体制の強化

新たな行政権限

改正法では、消費者庁の執行手段が拡充された。ただし、命令・立入検査の対象は、公益通報対応業務従事者の指定義務(第11条第1項)に違反する事業者(常時使用する労働者が300人超)に限られる。

執行手段 2022年改正まで 2026年改正後
報告徴収 あり あり(継続)
助言 あり あり(継続)
指導 あり あり(継続)
勧告 あり あり(継続)
公表 あり(勧告に従わない場合) あり(継続。従事者指定義務違反では、命令をした場合の公表も可能)
立入検査 なし 新設(従事者指定義務違反・300人超が対象)
命令 なし 新設(従事者指定義務違反・300人超が対象)
罰則 なし 新設(命令違反・報告懈怠・虚偽報告・検査拒否に30万円以下の罰金、両罰規定)

立入検査の概要

項目 内容
対象 公益通報対応業務従事者の指定義務を負う事業者(常時使用する労働者の数が300人超)。300人以下の事業者は対象外
根拠 第16条第1項(第11条第1項の規定の施行に必要な限度で、報告をさせ、又は職員に事業場に立ち入り帳簿書類その他の物件を検査させる)
拒否・妨害の罰則 報告をせず・虚偽の報告をし、又は検査を拒み・妨げ・忌避した場合、30万円以下の罰金(第21条第2項。両罰規定)
実施主体 内閣総理大臣(その職員が立入検査を行う)

段階的なエンフォースメントの流れ

従事者指定義務(第11条第1項)と、それ以外の体制整備(第11条第2項)とで、行政措置の流れは異なる。

類型 流れ
従事者指定義務違反(300人超) 報告徴収・立入検査 → 助言・指導 → 勧告 → 勧告に従わない場合の命令(法的拘束力あり) → 命令をした旨の公表 → 命令違反には30万円以下の罰金
従事者指定義務以外の体制整備 報告徴収 → 助言・指導 → 勧告 → 勧告に従わない場合の公表(命令はない)

企業規模別の義務と適用範囲

300人超の企業(体制整備義務の対象)

義務・規律 適用
内部通報体制の整備義務(周知を含む) 義務(第11条第2項)
公益通報対応業務従事者の指定 義務(第11条第1項)
従事者の守秘義務 義務(第12条)
解雇・懲戒の刑事罰 適用
解雇・懲戒の立証責任の転換(推定) 適用
通報妨害の禁止・合意の無効 適用
通報者探索の禁止 適用
立入検査・命令の対象 従事者指定義務違反について対象

300人以下の企業(努力義務の対象)

義務・規律 適用
内部通報体制の整備義務 努力義務(第11条第3項。変更なし)
公益通報対応業務従事者の指定 努力義務(第11条第3項)
従事者の守秘義務 従事者を指定した場合は義務
解雇・懲戒の刑事罰 適用(全企業対象)
解雇・懲戒の立証責任の転換(推定) 適用(全企業対象)
通報妨害の禁止・合意の無効 適用(全企業対象)
通報者探索の禁止 適用(全企業対象)
立入検査・命令の対象 対象外(第16条第1項で300人以下は除外)

改正指針の概要

指針改正の経緯とスケジュール

時期 事項
2025年11月10日 改正指針案の意見募集を開始
2026年3月31日 改正指針の確定・公表(令和8年内閣府告示第15号による令和3年内閣府告示第118号の一部改正)。意見募集の結果も同日に公示
2026年12月1日 改正法と同時に施行(消費者庁サイトに「令和8年12月1日から施行」と明記)

指針の解説(令和3年内閣府告示第118号の解説)も2026年3月31日付の改正版が消費者庁のサイトに掲載されている。

確定した改正指針が事業者に求める主な措置

確定版の指針(第4)は、事業者に次の措置をとることを求めている。

事項 内容(指針の条項)
従事者の定め 公益通報対応業務を行い、通報者を特定させる事項を伝達される者を従事者として定める。書面による指定など、従事者となる者自身に明らかとなる方法による(第3)
受付窓口の設置等 窓口を設置し、通報を受け・調査し・是正に必要な措置をとる部署及び責任者を明確に定める(第4の1(1))
幹部からの独立性 組織の長その他幹部に関係する事案について、これらの者からの独立性を確保する措置をとる(第4の1(2))
調査・是正 正当な理由がある場合を除き必要な調査を実施し、法令違反が明らかなら速やかに是正措置をとり、措置が適切に機能しているかを確認する(第4の1(3))
利益相反の排除 事案に関係する者を公益通報対応業務に関与させない(第4の1(4))
不利益な取扱いの防止 防止措置、把握する措置、救済・回復の措置、行為者への懲戒処分その他適切な措置(第4の2(1))
範囲外共有・通報妨害・通報者探索の防止 それぞれを防ぐ措置と、行われた場合の救済・回復、行為者への懲戒処分その他適切な措置(第4の2(2))
是正措置等の通知 書面による通報について、是正措置をとったこと又は通報対象事実がないことを、支障のない範囲で通報者に速やかに通知する(第4の3(1))
記録・評価点検・運用実績の開示 対応記録を作成し適切な期間保管する。体制を定期的に評価・点検し改善する。運用実績の概要を、支障のない範囲で労働者等、特定受託業務従事者及び役員に開示する(第4の3(2))
周知・啓発 労働者等、役員、退職者、特定受託業務従事者及び特定受託業務従事者であった者に対し、法及び窓口等に関する事項を周知・啓発する(第4の3(3))
質問・相談への対応、従事者の教育、内部規程 体制や不利益取扱いに関する質問・相談への対応、従事者に対する教育、これらを定めた内部規程の策定と運用(第4の3(4)~(6))

指針は、通知・保管期間・調査期間について「速やかに」「適切な期間」と定めるにとどまり、数値の期限は定めていない。

見直し規定

改正法の附則第9条には、施行後3年を目途とする見直しの規定が置かれている。


内部通報の対応フロー

通報を受けてから対応完了までのプロセスを、4つのフェーズに分けて整理する。以下は法定指針の定めではなく、指針の求める措置を運用に落とし込むための実務上の流れの一例である。指針は数値の期限を定めていないため、各フェーズの期限は自社の内部規程で定める。改正法では解雇・懲戒に刑事罰が科され、通報後1年以内の解雇・懲戒は報復と推定されるため、各フェーズの対応を適正かつ迅速に行うことが不可欠である。

Phase 1: 受付

  • 通報受付の記録・台帳登録(受付日時・通報内容の概要を記録)
  • 通報者への受領通知(通報を受け付けたこと、今後の対応の流れを通知)
  • 利益相反の確認:通報対象者が調査担当者の上司・同僚でないかを確認し、調査担当者を選定(指針第4の1(4))
  • 通報者の秘密保持:通報者を特定させる情報の管理を開始(従事者の守秘義務(第12条)と、指針が求める範囲外共有の防止に対応)
  • 公益通報対応業務従事者の指定確認(従事者以外が通報者情報に接触しない体制の確認)

Phase 2: 調査

  • 事実関係の調査開始(関係者ヒアリング・関係書類の確認・現地調査等)
  • 通報者の秘密保持の徹底:調査の過程で通報者が特定されないよう、ヒアリング対象者の選定・質問内容に配慮
  • 中間報告(通報者への進捗連絡):調査が長期化する場合は、あらかじめ定めた間隔で状況を通知
  • 調査記録の文書化:調査の経緯・結果を文書で記録し保管(指針第4の3(2)イ)
  • 必要に応じて外部専門家(弁護士等)への調査委託を検討

Phase 3: 判定・措置

  • 調査結果に基づく事実認定と判定(通報内容の真偽・法令違反の有無の確認)
  • 是正措置の実施:法令違反が認められた場合、速やかに是正措置を実行(指針第4の1(3))
  • 再発防止策の策定:原因分析を行い、業務プロセス・社内規程の改善策を策定
  • 通報者への結果通知:書面による通報については、是正措置をとったこと又は通報対象事実がないことを、支障のない範囲で速やかに通知(指針第4の3(1))
  • 是正措置の内容を社内(必要に応じて社外)に公表(通報者が特定されない形で)

Phase 4: フォローアップ

  • 通報者への不利益取扱いがないか監視:人事評価・異動・懲戒等の状況を定期的に確認し、不利益な取扱いを把握した場合は救済・回復の措置をとる(指針第4の2(1))
  • ※ 改正法では通報後1年以内の解雇・懲戒は報復と推定されるため、少なくともこの期間の監視が特に重要
  • 是正措置の実施状況の確認:策定した再発防止策が計画どおりに実行されているかフォロー(指針第4の1(3))
  • 記録の保管:通報台帳・調査記録・是正措置報告書・フォローアップ記録を、自社で定めた適切な期間保管(指針第4の3(2)イ)
  • 制度の改善:対応プロセスの定期的な評価・点検を行い、内部通報規程やマニュアルに反映(指針第4の3(2)ロ)

今すぐやること:公益通報者保護法改正 対応チェックリスト

2026年10月時点で、施行日(2026年12月1日)まで約2か月である。以下は施行日から逆算した進め方の例である。

10月中:現状把握と確定指針の確認

  • 自社の内部通報体制の現状を棚卸しする(法務/コンプライアンス部門):確定した改正指針(第3・第4)の各措置について、充足状況を確認
  • 既存のNDA・退職合意書・和解条項を点検する(法務部門):公益通報をしない旨の合意に該当する条項の有無を確認し、留保条項の追記を検討
  • フリーランスとの取引契約を洗い出す(調達/購買部門):公益通報者保護の対象となるフリーランスの取引先を一覧化

11月中:規程・体制の改訂と研修

  • 内部通報規程を改正法・改正指針に対応した内容に改訂する(法務/コンプライアンス部門):フリーランスへの窓口の周知、通報妨害・通報者探索の防止措置、不利益な取扱いの防止措置を追加
  • 解雇・懲戒の記録ルールを策定する(人事部門):通報者に対する解雇・懲戒の正当性を文書で説明できる体制を構築
  • 公益通報対応業務従事者の指定と研修を実施する(コンプライアンス部門):書面による指定を行い、改正法の内容、特に刑事罰・立証責任転換・通報者探索の禁止について重点的に研修
  • 周知資料を整備する(広報/コンプライアンス部門):窓口の連絡先、独立性確保・利益相反排除・不利益取扱い防止の各措置の内容などを労働者等・フリーランスへ周知する資料を準備

12月1日の施行まで:運用開始準備

  • 改正後の内部規程を施行日付で適用できる状態にする(法務/コンプライアンス部門)
  • 全従業員向けの周知・研修を実施する(人事/コンプライアンス部門):通報者保護の趣旨、解雇・懲戒の刑事罰化、通報の方法と窓口の周知
  • 従事者の指定書・規程・対応記録など、検査で求められ得る書類の整備・ファイリングを完了する(法務/コンプライアンス部門)

業種別の最優先事項

  • 従業員300人超の企業 → 従事者指定義務(違反には立入検査・命令・罰金)と、体制整備・周知の再点検
  • 中小企業(300人以下) → 最低限の通報者保護の仕組み整備(解雇・懲戒の刑事罰は全企業に適用)
  • フリーランス活用企業(IT・コンサル等) → フリーランスへの窓口の周知、業務委託契約書の改訂
  • グループ企業 → グループ共通通報窓口の設置、子会社への改正内容の周知

FAQ(よくある質問)

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改正法(令和7年法律第62号)は2026年12月1日に施行される。2025年6月4日に国会で成立し、同年6月11日に公布されている。2026年10月時点で施行まで約2か月となっている。改正法に対応した指針(令和3年内閣府告示第118号の一部改正、令和8年内閣府告示第15号)は2026年3月31日に確定・公表されており、同じ2026年12月1日から施行される。

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公益通報を理由とする解雇又は懲戒を行った場合、行為者個人に対しては6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金が科される(第21条第1項)。また、両罰規定により法人に対しても3,000万円以下の罰金が科される。この刑事罰は企業規模を問わず全事業者に適用される。懲戒としてではなく人事上の措置として行う降格・配置転換等は、法律上禁止されているが、この刑事罰の対象ではない。

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従来は、通報者が「自分が受けた不利益取扱いは通報を理由とする報復だ」と立証する必要があった。改正法では、公益通報後1年以内に解雇又は懲戒が行われた場合、当該取扱いは通報を理由とするものと推定される(第3条第3項)。事業者側が「当該取扱いは通報とは無関係の正当な理由に基づくもの」であることを立証(反証)しなければ、報復と認定される。この推定は民事訴訟上の立証責任の転換であり、降格・減給・配置転換等には及ばない。

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2026年改正により、フリーランス・事業者間取引適正化等法に規定する「特定受託業務従事者」(従業員を使用しない特定受託事業者である個人、及び特定受託事業者である法人の代表者)が新たに保護対象に追加される。公益通報を理由とする業務委託契約の解除、取引の数量の削減、取引の停止、報酬の減額その他不利益な取扱いは禁止される(第5条)。ただし、この第5条の禁止には刑事罰や推定はない。また、通報の日前1年以内に業務委託をしていた元フリーランスも保護対象となる。

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内部通報体制の整備義務は従業員300人以下の企業には引き続き努力義務にとどまる。しかし、公益通報を理由とする解雇・懲戒への刑事罰、通報妨害の禁止と合意の無効、通報者探索の禁止は企業規模にかかわらず全事業者に適用される。中小企業であっても、公益通報を理由とする解雇・懲戒が行われれば、行為者個人に拘禁刑又は罰金、法人に3,000万円以下の罰金が科され得る。

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改正法第11条の2により、事業者が正当な理由なく公益通報をしない旨の合意を求めること等によって公益通報を妨げることは禁止され、これに違反してされた合意等の法律行為は無効とされる。NDAの秘密保持条項が公益通報を制限する趣旨を含む場合、当該部分は無効となるおそれがある。既存のNDAや退職合意書に通報を制限する条項が含まれていないか確認し、「公益通報者保護法に基づく通報を妨げるものではない」旨の留保条項を追記することが望ましい。

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改正法の附則第9条に、施行後3年を目途とする見直しの規定が置かれている。


免責事項

本記事は、2026年10月4日時点で公表されている公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和7年法律第62号)、改正後の法定指針(令和3年内閣府告示第118号、令和8年内閣府告示第15号による一部改正)およびその他の公開情報に基づいて作成したものである。今後の運用の詳細は、消費者庁が公表する指針の解説等を確認されたい。本記事の内容は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的助言を構成するものではない。具体的な内部通報体制の整備や法的対応については、弁護士等の専門家にご相談いただきたい。


参考文献・法令等

法令

  • 公益通報者保護法(平成16年法律第122号)
  • 公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和7年法律第62号)
  • 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和5年法律第25号)

消費者庁資料

  • 消費者庁「公益通報者保護法の概要」(令和8年12月1日施行)、「公益通報者保護法の一部を改正する法律の概要」(令和7年法律第62号)
  • 消費者庁「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」(令和3年内閣府告示第118号、令和8年3月31日一部改正内閣府告示第15号)
  • 消費者庁「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説」
  • 消費者庁「民間事業者の内部通報対応―実態調査結果概要―」(令和6年4月26日修正)

検討会資料

  • 消費者庁「公益通報者保護制度検討会 報告書」(第1回2024年5月7日~第9回2024年12月24日)
JG

実務ガイド編集部

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