廃業を決めたとき、何から手をつけるべきか分からない——そんな個人事業主のために、必要な手続きを手順と期限つきで整理した。
廃業手続きは税務署・都道府県・市区町村・社会保険と複数の窓口にまたがる。見落とすと余計な税金の請求や給付の空白が生じることがあるため、このリストを使って漏れなく対処しよう。
廃業手続きの全体像
① 廃業日を決める
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② 税務署への届出(廃業日から1ヶ月以内)
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③ 都道府県・市区町村への届出
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④ 社会保険・年金の変更手続き
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⑤ インボイス登録の取り消し(必要な場合)
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⑥ 最終確定申告(翌年2〜3月)
STEP1:税務署への届出
個人事業の廃業届出書
提出先: 納税地を管轄する税務署
期限: 廃業日から1ヶ月以内
方法: 窓口持参・郵送・e-Tax
記載事項:
– 廃業日(実際に事業を終了した日)
– 廃業の事由(自己都合・転業・その他等)
– 廃業する事業の内容
注意点:
– 廃業届を出しても、廃業年分の確定申告義務は残る
– 廃業届の提出期限は「1ヶ月以内」だが、遅れても直ちに不利益はない。ただし早めに提出することが望ましい
青色申告の取りやめ届出書
提出期限: 取りやめようとする年の翌年3月15日まで
青色申告を利用していた場合、廃業に合わせて提出することが多い。廃業後も翌年3月に確定申告が必要なため、廃業届と同時に提出するか、確定申告のタイミングで提出する。
給与支払事務所等の廃止届出書
提出先: 税務署
提出期限: 廃止の日から1ヶ月以内
対象: 従業員・専従者に給与を支払っていた場合
従業員がいた場合、退職に伴う退職所得の源泉徴収・年末調整(または源泉徴収票の交付)も必要になる。
源泉所得税関連の最終処理
- 最後の給与・報酬に対する源泉所得税を廃業後も翌月10日に納付(給与支払人数が常時10人未満で「納期の特例」を申請・適用中の場合は、7〜12月分をまとめて翌年1月20日に納付)
- 源泉徴収票を従業員・専従者・外注先(士業等)に交付
消費税の届出
| 状況 | 届出 | 期限 |
|---|---|---|
| 課税事業者だった | 消費税の廃業の旨の届出(事業廃止届出書) | 速やかに |
| 課税事業者選択をしていた | 課税事業者選択不適用届出書 | 廃業年の翌年からの場合は12月31日まで |
STEP2:インボイス登録番号の取り消し
適格請求書発行事業者(インボイス登録)をしていた場合、廃業に合わせて登録の取り消し申請が必要だ。
提出先: 税務署(e-Taxも可能)
書類: 適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書
取り消しの効力: 届出が受理された日の属する課税期間の翌課税期間から
廃業する場合、別途インボイス取消届出書を提出しなくても、事業廃止届出書を税務署に提出した時点で廃業日の翌日にインボイス登録の効力も自動的に失効する。取消届出書の期限(12月17日等)を別途気にする必要はない。
なお、廃業せずにインボイス登録のみを取り消す場合は、翌課税期間から効力を発生させるために翌課税期間開始日の15日前(個人事業主は12月17日)までに届出が必要。
STEP3:都道府県・市区町村への届出
| 届出 | 提出先 | 期限 |
|---|---|---|
| 事業廃止申告書(事業税) | 都道府県税事務所 | 廃業後1ヶ月以内(自治体により異なる) |
| 廃業届出書 | 市区町村(商工課等) | 自治体に確認 |
個人事業税は事業所得から事業主控除290万円を差し引いた額(290万円を超える部分のみ)に課税される。廃業年の事業税は翌年8月に納付書が届くため、廃業後も資金を確保しておく。
STEP4:社会保険・年金の手続き
健康保険の切り替え
廃業後は国民健康保険または家族の被扶養者への切り替えが必要。
| 選択肢 | 条件 | 手続き先 |
|---|---|---|
| 国民健康保険 | 全員選択可 | 市区町村 |
| 家族の健康保険の被扶養者 | 年収130万円未満見込みの場合 | 家族の勤務先を通じて |
| 任意継続(元会社員の場合) | 廃業前に被用者保険に加入していた場合のみ | 健保組合等(退職後20日以内) |
手続き期限: 廃業(またはそれに伴う資格喪失)から14日以内に市区町村へ届出
国民年金
会社員から独立した場合はすでに国民年金(第1号被保険者)のはず。廃業後も引き続き国民年金。
ただし、配偶者が会社員の被扶養者(第3号被保険者)だった場合、廃業後の配偶者の状況によって種別変更手続きが必要になる場合がある。
従業員がいた場合の社会保険
| 手続き | 提出先 | 期限 |
|---|---|---|
| 雇用保険適用事業所廃止届 | ハローワーク | 廃止の翌日から10日以内 |
| 雇用保険被保険者資格喪失届(全従業員分) | ハローワーク | 退職日翌日から10日以内 |
| 労働保険の確定保険料申告書 | 労働基準監督署 | 廃止から50日以内 |
社会保険(健康保険・厚生年金)に加入していた場合も、年金事務所への届出が必要。
STEP5:最終確定申告(廃業翌年2〜3月)
廃業年分の確定申告は通常の期限(翌年2月16日〜3月15日。土日祝日の場合は翌平日に繰り越し)に行う。
廃業年の確定申告のポイント:
– 廃業日以前の事業所得を計算
– 棚卸資産の評価(期末在庫がない場合は0)
– 事業用資産の残存簿価の処理(廃業時に家事転用・売却した場合)
– 廃業に際して発生した費用(片付け・解約費用等)の経費計上
消費税の確定申告:
課税事業者だった場合、廃業年分の消費税申告も必要。個人事業主の消費税申告期限は翌年3月31日(所得税の3月15日より15日遅い)。「廃業後2ヶ月以内」は法人の規定であり、個人事業主には適用されない。
廃業後に残る義務・保管が必要なもの
| 書類等 | 保存期間 | 理由 |
|---|---|---|
| 帳簿・決算書 | 7年間(青色申告)/ 5年間(白色) | 税務調査対応 |
| 請求書・領収書等の証拠書類 | 7年間 | 同上 |
| インボイス(電子取引データ) | 7年間 | 電子帳簿保存法 |
| 従業員の賃金台帳 | 3年間(当面5年間保存を推奨) | 労働基準法 |
見落としやすいポイントまとめ
- [ ] インボイス登録の取り消し申請(登録したままにしてもよいが、不要であれば取り消す)
- [ ] 事業用銀行口座・クレジットカードの解約は確定申告後に(廃業年分の経費計上に必要)
- [ ] 小規模企業共済に加入していた場合:廃業による解約手続き(廃業届のコピーが必要)
- [ ] 従業員の「雇用保険被保険者証」の返却・手続き
- [ ] 顧客・取引先への廃業通知
まとめ
個人事業主の廃業手続きは複数の窓口に分散している。税務署への廃業届→都道府県・市区町村への届出→社会保険の切り替え→翌年の確定申告という流れが基本だ。インボイス登録をしている場合は取り消し手続きも必要になる。
帳簿・証拠書類の保管期間(最低7年)は廃業後も続くため、書類はすぐに処分せず適切に保管しておこう。
本記事は2026年4月時点の情報に基づいています。届出の書式・期限は改正により変わる場合があります。個別の廃業手続きについては税務署・税理士・社会保険労務士にご相談ください。


