区分所有法改正による管理規約改定の実務ポイント―改正内容と対応期限

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区分所有法改正による管理規約改定の実務ポイント―改正内容と対応期限
目次

区分所有法改正による管理規約改定の実務ポイント―改正内容と対応期限


はじめに:「古い規約のまま」では管理組合が動けなくなる

マンションの管理組合を運営していると、「規約は一度作ったら変えなくて良い」と思われがちです。しかし2024年(令和6年)に成立した建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)の大幅改正により、この認識は今や大きなリスクになりました。

改正法の多くの条項は段階的に施行されており、2026年(令和8年)中に全面施行が予定されています。この改正では、従来の総会決議に求められてきた「頭数要件」の廃止・緩和、オンライン総会の制度化、所在不明区分所有者への対処手続きの整備など、管理実務の根幹に関わる変更が行われています。

既存の管理規約が旧法の文言をそのまま踏襲している場合、改正後の法律と矛盾・抵触する条文が生じる可能性があります。最悪のケースでは「規約に書いてある手続きに従ったつもりが、実は無効」という事態も起こりえます。

本記事では、改正の主要内容・管理規約のどこを改定すべきか・対応スケジュールについて、管理組合の役員や担当者が実務で使えるレベルで解説します。


背景:なぜ今、区分所有法が大改正されたのか

老朽マンション問題の深刻化

日本の分譲マンションは2024年時点で約700万戸に達し、うち築40年超の物件が約125万戸を占めます。今後10年でこの数はさらに倍増する見込みです。老朽化が進む一方で、管理組合の機能不全・区分所有者の所在不明・修繕積立金の不足といった「管理不全マンション」の問題が社会的課題となっていました。

旧法の限界

旧法は昭和37年(1962年)の制定当初から基本構造が大きく変わらず、現代の管理実態に対応できていない部分が多々ありました。特に問題となっていたのが以下の点です。

  • 二重の多数決要件(頭数+議決権):区分所有者の数と議決権の双方を満たす必要があり、相続未登記・連絡不通の所有者がいると意思決定が事実上不可能になる
  • 所在不明区分所有者への法的手当の欠如:行方不明の所有者がいても、その議決権を除外する仕組みがなかった
  • テクノロジー対応の遅れ:オンライン参加・電子投票に関する明文規定がなく、コロナ禍でも総会開催に混乱が生じた

こうした課題を解消するため、法制審議会での数年にわたる審議を経て、2024年(令和6年)6月に改正区分所有法が公布されました。


改正の主要ポイント

改正前後の主な決議要件比較
改正後:普通決議

議決権過半数

頭数要件が廃止。議決権の過半数のみで可決
改正前:普通決議

頭数+議決権各過半数

区分所有者の数・議決権の数、両方の過半数が必要
改正後:特別多数決議

議決権3/4以上

規約変更等。頭数要件廃止、議決権3/4以上のみ
改正前:特別多数決議

頭数+議決権各3/4以上

区分所有者・議決権、双方の3/4以上が必要
建替え決議

4/5以上(維持)

建替え決議の要件は4/5以上で変更なし
全面施行目標

2026年令和8年

規約未改定の場合、抵触リスクが発生

① 頭数要件の廃止(決議要件の合理化)

旧法では、普通決議・特別多数決議のいずれも「区分所有者の頭数」と「議決権の数」の両方について一定の多数を要求していました。改正後はこの「頭数要件」が廃止され、議決権ベースのみで決議の成否を判断します。

この変更により、相続未登記で実態が不明な区分所有者が多数いるマンションでも、意思決定がしやすくなります。

専門家コメント
頭数要件は「1住戸1票」の民主的原則を反映したものでしたが、権利関係が複雑化した現代では足かせになるケースが増えていました。廃止により意思決定が迅速化される一方、管理規約で「頭数要件を維持する」旨の加重規定を設けることは引き続き可能です(区分所有法は特約による加重を認めています)。ただし規約の文言が旧法を前提とした書きぶりになっている場合は、条文の整合性確認が必須です。

② 所在不明・連絡不能な区分所有者への対応手続き

改正により、一定期間連絡が取れない区分所有者の議決権を集会での計算から除外できる仕組みが整備されました。具体的には、管理組合が公示送達等の手続きを経て裁判所の関与のもとで当該区分所有者の議決権を一時的に不算入とできます。

従来は「行方不明者がいると定足数を満たせない」という深刻な問題がありましたが、この手続きにより管理組合の意思決定機能が回復しやすくなります。

③ 集会の電磁的方法(オンライン総会)の制度化

書面・電磁的方法による議決権行使や、テレビ会議等を利用した集会への参加が明文で制度化されました。改正前は解釈に委ねられていた部分が多く、実務上の混乱がありましたが、今後は根拠規定が明確になります。

管理規約でオンライン参加・電子投票を正式に認める条文を設けることで、より柔軟な総会運営が可能になります。

④ 管理不全マンションへの対応(裁判所関与の新設)

管理が著しく不全な区分所有建物について、裁判所が管理者を選任・変更できる制度が新設されました。また「管理不全建物管理人」制度により、所有者不明土地法の考え方を区分所有建物にも取り込んでいます。

⑤ 団地管理への対応強化

棟別に権利関係が複雑な団地型マンションについても、意思決定要件の見直しや管理一体化に関する規定が整備されました。団地の管理規約は個別マンション以上に見直し箇所が多い可能性があります。


管理規約のどこを改定すべきか―実務的チェックポイント

管理規約の主な改定必要箇所
優先度:高

決議要件条文

頭数要件の記載がある全条項を確認・修正
優先度:高

総会招集手続き

電磁的通知・オンライン参加の規定を追加
優先度:中

議決権行使方法

電子投票・書面投票の手順を明文化
優先度:中

所在不明対応手順

連絡不能区分所有者への対処方法を規定
優先度:低〜中

管理計画認定制度

マンション管理適正化法との整合確認

チェック1:「区分所有者及び議決権の各〇分の〇以上」という文言

旧法に準拠して「区分所有者の数及び議決権の各過半数」「区分所有者及び議決権の各4分の3以上」といった表現が残っている規約は非常に多いです。

改正後の区分所有法では頭数要件が廃止されているため、この記載は改正法と整合しない状態になります。管理組合が実際に総会決議を行う際に旧規約の文言に引きずられて「頭数も満たさなければならない」と誤解すると、本来可決できる議案が否決扱いになるリスクがあります。

実務ポイント
規約全文を検索して「区分所有者の数」「頭数」「各〇分の〇以上」という文言を洗い出してください。管理費等の額の変更(普通決議)、規約変更(特別多数決議)、共用部分の変更など、決議要件が関係する条項は複数箇所にわたるケースが多いです。

チェック2:電磁的方法・オンライン参加に関する条文の有無

規約にオンライン総会や電子投票を許容する規定がない場合、たとえ改正法上は認められていても「規約に定めがないからできない」という解釈をとる管理組合が出てきます。改正の機会に電磁的方法による参加・議決権行使の規定を追加することを強く推奨します。

チェックリスト
– [ ] 「書面又は電磁的方法による議決権行使」を認める条文があるか
– [ ] テレビ会議・ウェブ会議による出席を認める規定があるか
– [ ] 招集通知の電子化(メール送付等)を認める規定があるか
– [ ] 電磁的方法を利用するための事前の承諾手続きが定められているか

チェック3:委任状・議決権行使書の取り扱い

委任状による出席・書面投票の扱いが明確でない規約もあります。この機会に代理権授与の方式・議決権行使書の様式・集計方法を明確化しておくと、総会運営が円滑になります。

チェック4:管理者の権限と責務

改正により管理者の責任範囲が拡充された面があります。既存規約で管理者(理事長)の職務権限が限定的・曖昧な記載になっている場合は、この機会に整理することが望ましいです。


改定の具体的な手順と対応スケジュール

STEP 1:現行規約の棚卸し(2026年4〜5月を目処に)

まず現行の管理規約・使用細則の全文を確認し、上記チェックポイントに照らして「要改定条項」をリストアップします。自主管理の場合は管理組合役員が、委託管理の場合は管理会社に依頼して一次スクリーニングを行います。

実務ポイント
国土交通省が定期的に改訂している「マンション標準管理規約」(最新版)と現行規約を比較する方法が効率的です。標準管理規約は国交省のウェブサイトで入手できますが、2024年改正に対応した改訂版の公表を確認したうえで参照してください。

STEP 2:改定案の作成(弁護士・マンション管理士への相談を含む)

改定案の作成は、マンション管理士または弁護士(不動産法務に詳しい方)に相談することを推奨します。特に以下の点は法律判断が伴うため、専門家の関与が不可欠です。

  • 頭数要件の廃止に伴い、加重規定(旧要件を維持する特約)を設けるかどうかの判断
  • 区分所有者間の利害調整が必要な条項の変更
  • 既存の使用細則・別表との整合性確認

費用の目安として、専門家への規約改定コンサルティングは10万〜30万円程度(規模・複雑さによる)が多いようです。管理費から支出できる場合は早めに予算化しておきましょう。

STEP 3:改定案の周知と意見聴取

規約変更は区分所有者の議決権の3/4以上(改正後の要件)の賛成が必要です。突然総会に諮るのではなく、事前に改定案を全区分所有者に配布し、意見を募る期間を設けることが円滑な進行につながります。

理事会・臨時理事会で改定案を確定し、総会の少なくとも2週間前(規約に長い期間の定めがある場合はそれに従う)には全区分所有者に改定案全文を添付した招集通知を発送します。

STEP 4:臨時総会または定期総会での決議

規約変更は原則として集会(総会)の特別多数決議によって行います。委任状・議決権行使書の回収を十分に行い、定足数・決議要件を確実に満たすよう準備します。

専門家コメント
改正区分所有法の下では「議決権の3/4以上」が規約変更の要件です。ただし定足数(集会が成立するための最低出席数)については、旧法・新法ともに特段の最低出席数の法定はなく、規約で定めている場合はそちらが適用されます。定足数を満たせない場合は書面・電磁的議決権行使を活用することで事実上の参加者を増やすことができます。

STEP 5:改定後の対応・登記・周知

管理組合法人の場合は規約変更登記(変更後3か月以内)が必要です。また改定後の規約は全区分所有者に配布し、管理組合の重要書類として保管します。電子データでの共有(ポータルサイト・メール等)も活用しましょう。

管理規約改定の対応スケジュール目安
1
2026年4〜5月
棚卸し・着手
現行規約の条項確認・要改定リスト作成
2
2026年5〜6月
改定案作成
専門家相談・改定案ドラフト・理事会承認
3
2026年6〜7月
意見聴取・周知
全区分所有者への案内・意見集約期間
4
2026年7〜9月
総会決議
臨時総会または定期総会での規約変更決議
5
決議後速やかに
登記・周知
法人の場合は変更登記、全区分所有者へ配布

注意点:よくある落とし穴

注意1:「標準管理規約に準拠しているから大丈夫」は危険

国交省の標準管理規約を採用・参考にしているマンションでも、何年も前のバージョンを元にしている場合は最新の改正に対応していない可能性があります。「標準規約採用」だから安心、とはなりません。施行年度を確認し、改正対応版かどうかを確認してください。

注意2:使用細則・別表との整合性確認を忘れずに

管理規約本体を改定しても、使用細則・別表・細則の内容が旧法の考え方に基づいたままになっていると、実務上の齟齬が生じます。特に総会運営細則(議長の権限、採決の方法等)は管理規約と一体で見直すことが重要です。

注意3:一部区分所有者の「反対」と「無効」は別問題

規約改定に反対する区分所有者がいること自体は問題ありません。決議要件(議決権の3/4以上)を満たせば、反対者がいても規約変更は有効です。ただし、「決議手続きに瑕疵があった」「招集通知が届いていない」などの手続き上の問題は決議無効の原因になります。手続きの適正さには細心の注意を払ってください。

チェックリスト(総会決議の手続き確認)
– [ ] 招集通知を規約所定の期間前に発送したか(少なくとも2週間前)
– [ ] 招集通知に議案書・規約改定案全文を添付したか
– [ ] 委任状・議決権行使書の受付・集計方法に不備はないか
– [ ] 議事録に決議内容・賛否数を正確に記録したか
– [ ] 議事録を区分所有者が閲覧できる場所に保管・共有したか

注意4:区分所有法の施行状況を随時確認する

本記事執筆時点(2026年4月)における施行状況を前提としていますが、政令・省令による施行期日の変更や、政府・国交省からのガイドラインの追加発出があり得ます。最新情報は国土交通省のウェブサイトまたはマンション管理センターの公報等で随時確認してください。

専門家コメント
区分所有法は民法の特別法ですが、実際の管理運営ではマンション管理適正化法(適正化法)や長期修繕計画ガイドライン等との関係も考慮する必要があります。適正化法に基づく「管理計画認定制度」を活用しているマンションは、認定基準との整合性も規約改定の際に確認しておくことが望ましいです。


よくある質問(FAQ)

A

改正区分所有法の施行後に行った総会決議が問題になります。法の施行前に旧規約・旧法に従って適正に行った決議はその時点では有効ですが、施行後は新法の基準が適用されます。施行後に旧来の二重要件(頭数+議決権)を適用して否決した議案が、実は改正法の下では可決できたとなれば、管理組合運営に支障をきたします。早急な規約改定が重要です。

A

管理会社が「規約改定のサポート」を行うことはありますが、規約変更の発議・決議はあくまで管理組合(区分所有者の集会)の権限です。管理会社はサポート役にすぎず、改定の最終責任は管理組合にあります。管理会社に改定の着手を促すとともに、管理組合として主体的に取り組む姿勢が必要です。

A

規模にかかわらず、区分所有建物であれば区分所有法の適用を受けます。戸数が少ないマンションほど区分所有者全員の合意が得やすいため、むしろ規約改定は進めやすい環境にあります。費用・手間を惜しんで対応を先延ばしにするメリットはありません。

A

はい、必要です。法人格の有無は関係なく、区分所有法は建物の区分所有関係に広く適用されます。管理組合法人の場合のみ変更登記が追加で必要になりますが、規約改定自体は法人格の有無を問わず求められます。

A

まず否決の原因を分析することが重要です。「改定内容への反対」なのか「手続き上の不備で棄権が多かった」のかによって対応が異なります。改定内容に異議があれば区分所有者間で改めて議論を深め、書面投票の活用や次回総会での再上程を検討します。専門家(弁護士・マンション管理士)を交えた説明会の開催も有効です。決議要件を満たせない場合でも、施行日後は新法が直接適用されますので、規約整備は急ぐ必要があります。


まとめ:2026年中に規約改定を完了させることが急務

2024年の区分所有法改正は、マンション管理の根幹に関わる大きな変更です。特に「頭数要件の廃止」「オンライン総会の制度化」「所在不明区分所有者への対応」は、既存の管理規約の文言と直接衝突する可能性があります。

対応が遅れると、総会決議の有効性に疑義が生じたり、本来できるはずの意思決定ができなかったりするリスクが高まります。2026年の全面施行を見据え、今年中に規約改定を完了させることを強く推奨します

対応のポイントをまとめると:

  1. 現行規約の棚卸しを速やかに実施し、要改定条項を洗い出す
  2. マンション管理士・弁護士への相談を早めに行い、改定案を作成する
  3. 区分所有者への丁寧な説明と十分な意見聴取期間を設ける
  4. 臨時総会または定期総会で議決権の3/4以上の賛成を得て変更決議を行う
  5. 法人の場合は変更登記、全区分所有者への周知を行う

管理規約はマンション管理の憲法ともいえる存在です。法改正に合わせた適時の見直しが、マンションの資産価値と住民の生活環境の維持・向上につながります。今こそ管理組合が主体的に動くタイミングです。


本記事は2026年4月時点の情報に基づいています。区分所有法改正の施行状況・政省令・国土交通省ガイドラインは随時更新されますので、最新情報を必ずご確認ください。個別の法律判断については弁護士・マンション管理士等の専門家にご相談ください。

JG

実務ガイド編集部

AI執筆 + 編集部レビュー済み

本記事はAIが初稿を作成し、編集部が法令原文・官公庁通知・審議会資料等の一次情報と照合のうえ、内容を確認・編集しています。行政手続き・法改正・制度改正の実務情報を専門に扱う編集チームが、企業実務担当者・士業専門家向けに正確性の高いコンテンツを提供します。