はじめに:なぜ今、従事者向け支援金が必要なのか
医療・介護・福祉の現場では、長年にわたって「人手不足」と「賃金水準の低さ」が深刻な課題として指摘されてきました。2026年現在、少子高齢化はさらに加速し、高齢者人口の増加に伴うサービス需要の拡大と、現場を支える人材の不足という二重苦に直面しています。
厚生労働省の調査によれば、介護分野だけでも2040年には約69万人の人材が不足すると試算されており、このままでは必要なサービスを提供し続けることが困難になります。医療・福祉分野においても同様の傾向が見られ、人材の確保・定着は国家的な喫緊の課題です。
こうした背景を受け、政府は2026年度より「医療・介護・福祉従事者向け支援金制度」を本格始動しました。本制度は、現場で働く従事者への直接的な経済的支援と、事業者による職場環境改善の取り組みを一体的に促進することを目的としています。
本記事では、この新しい支援金制度について、対象となる職種・事業所、支給額の目安、申請手続きの流れ、注意すべきポイントまでを実務担当者の目線でわかりやすく解説します。申請期限を逃さないよう、早めの準備にお役立てください。
第1章:制度の背景と概要
1-1. 制度創設の経緯
医療・介護・福祉分野における処遇改善の取り組みは、これまでも「介護職員等特定処遇改善加算」や「看護職員等処遇改善評価料」など、診療報酬・介護報酬を通じた加算制度として実施されてきました。しかし、これらの制度は事業者側の加算算定を前提とするため、実際に従事者の手元に届くまでのプロセスが複雑で、小規模事業者では対応しきれないケースも少なくありませんでした。
2025年末に閣議決定された「医療・介護・福祉人材確保総合対策パッケージ」を受け、2026年4月より新たな支援金制度が設けられました。本制度の特徴は、従事者個人への直接給付と、事業所を経由した間接給付の両面から支援を行う点にあります。
1-2. 制度の全体像
本制度は大きく3つの柱で構成されています。
① 従事者個人への直接支援金
一定の要件を満たす医療・介護・福祉従事者に対し、年1回、個人の口座へ直接振り込まれる支援金です。
② 事業所向け職場環境改善補助金
職場環境の改善(ICT導入、休憩室整備、資格取得支援など)に取り組む事業所に対する補助金で、支援金制度と一体的に活用することが推奨されています。
③ 定着促進・キャリアアップ支援
資格取得・研修受講費用の一部補助や、育児・介護との両立支援に係る費用補助など、人材の定着を促す施策群です。
本記事では、特に実務での問い合わせが多い「① 従事者個人への直接支援金」を中心に解説しますが、②③についても概要を紹介します。
第2章:支援金の対象者
2-1. 対象職種(従事者)
本制度の対象となる職種は以下のとおりです。なお、常勤・非常勤・パートタイムを問わず、一定の勤務要件を満たせば対象となります。
【医療分野】
– 医師・歯科医師
– 看護師・准看護師
– 保健師・助産師
– 薬剤師
– 診療放射線技師・臨床検査技師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・視能訓練士
– 救急救命士
– 管理栄養士・栄養士(医療機関に勤務する者)
– 医療事務・診療情報管理士(一定要件あり)
【介護分野】
– 介護福祉士
– 介護支援専門員(ケアマネジャー)
– ホームヘルパー(訪問介護員)
– 介護職員(無資格者含む、ただし一定の研修修了等の要件あり)
– 看護職員(介護施設等に勤務する者)
– 機能訓練指導員・生活相談員・栄養士等
【福祉分野】
– 社会福祉士・精神保健福祉士
– 保育士・幼稚園教諭(認定こども園等に勤務する者)
– 障害福祉サービス従事者(生活支援員、世話人、職業指導員等)
– 相談支援専門員
– 児童発達支援管理責任者・サービス管理責任者
【専門家コメント】
対象職種は、各分野の根拠法令(医療法・介護保険法・社会福祉法・障害者総合支援法等)に基づく指定事業所または届出施設等に勤務する者が前提となります。たとえば「介護職員」として対象になるためには、単に介護業務に従事しているだけでなく、介護保険法上の指定を受けた事業所(訪問介護、通所介護、特別養護老人ホーム等)に雇用されていることが必要です。雇用形態や勤務先の法的根拠を事前に確認しておきましょう。
2-2. 勤務要件(個人)
支援金を受給するためには、以下の勤務要件をすべて満たす必要があります。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 雇用形態 | 雇用保険被保険者(週20時間以上の勤務が目安)または雇用保険の適用除外となる短時間労働者でも週10時間以上の勤務実績がある者 |
| 勤続期間 | 申請基準日(2026年3月31日)時点で、同一事業所に6か月以上継続勤務している者 |
| 勤務実態 | 申請基準日の属する月の前月において、実際に業務に従事していること |
| 国籍・在留資格 | 在留資格に「就労」が認められている外国人も対象(技能実習生は対象外) |
2-3. 対象事業所の要件
支援金は原則として事業所を通じて申請・受給する仕組みのため、事業所側の要件も重要です。
- 医療法・介護保険法・社会福祉法等に基づき、都道府県または市区町村から適正に指定・許可・届出を受けていること
- 労働関係法令(労働基準法・最低賃金法等)に重大な違反がないこと
- 暴力団等反社会的勢力との関係がないこと
- 支援金を確実に従事者本人に支給することを誓約できること(事業所経由で支給する場合)
【チェックリスト】対象者確認のポイント
– [ ] 勤務先は介護保険・医療保険・障害福祉サービス等の指定を受けた事業所か
– [ ] 申請基準日(2026年3月31日)時点で6か月以上継続勤務しているか
– [ ] 週の勤務時間が10時間以上(雇用保険非加入の場合)または雇用保険被保険者か
– [ ] 職種・業務内容が対象職種の定義に合致しているか
– [ ] 在留資格に問題はないか(外国人従業員の場合)
第3章:支援金の支給額
3-1. 基本支給額
支援金の支給額は、職種区分・資格保有状況・勤務形態(常勤換算)によって異なります。以下は2026年度の基本支給額の目安です(金額は参考値であり、予算状況等により変動する場合があります)。
6万円
5万円
4万円
+5万円
【職種別支給額(年額・常勤の場合)】
| 職種区分 | 基本支給額 |
|---|---|
| 医師・歯科医師 | 40,000円 |
| 看護師・助産師・保健師 | 60,000円 |
| 准看護師 | 50,000円 |
| 介護福祉士(資格保有者) | 60,000円 |
| 介護職員(資格なし・研修修了者含む) | 40,000円 |
| 理学療法士・作業療法士・言語聴覚士等のリハ職 | 50,000円 |
| 薬剤師 | 40,000円 |
| 社会福祉士・精神保健福祉士 | 50,000円 |
| 保育士・幼稚園教諭 | 50,000円 |
| 障害福祉サービス従事者 | 40,000円 |
| ケアマネジャー | 50,000円 |
| その他対象職種(医療事務等) | 20,000円 |
【勤務形態による加減算】
– 常勤換算0.5以上1.0未満(週20〜39時間相当):基本額×0.5
– 常勤換算1.0以上(週40時間相当以上):基本額×1.0
– 夜勤・宿直業務に月4回以上従事する者:基本額に10,000円加算
3-2. 特別加算
以下の要件に該当する場合、特別加算が上乗せされます。
| 加算要件 | 加算額 |
|---|---|
| 勤続10年以上の者 | 10,000円 |
| 管理職・主任等の職責がある者 | 10,000円 |
| 地方(過疎地域・離島等)勤務の者 | 20,000円 |
| 認知症専門研修修了者・認知症ケア専門士等 | 10,000円 |
| 感染症対策に関する研修修了者 | 5,000円 |
※ 特別加算は複数要件が重複する場合も合算されます(上限50,000円)。
第4章:申請手続きの流れ
4-1. 申請の方式
本制度の申請は、「事業所一括申請方式」を基本としています。これは、各従事者が個別に申請するのではなく、事業所(雇用主)が在籍する対象従事者の情報をとりまとめて一括申請する方式です。
ただし、以下の場合は従事者本人による個人申請も認められます。
– 事業所が申請を行わない・行えない場合(事業所の廃業・倒産等)
– 複数の事業所を掛け持ち勤務している場合(主たる勤務先以外の事業所分)
4-2. 申請スケジュール(2026年度)
| スケジュール | 時期 |
|---|---|
| 申請受付開始 | 2026年4月1日 |
| 申請締め切り | 2026年6月30日(必着) |
| 支給決定通知発送 | 2026年8月末頃 |
| 支援金振込(第1回) | 2026年9月下旬〜10月上旬 |
※ 申請は電子申請(専用ポータルサイト)または書面郵送のいずれかで行います。電子申請を推奨しており、電子申請者には処理が優先されます。
4-3. 申請の具体的なステップ(事業所一括申請の場合)
STEP 1:対象従事者のリストアップ
まず、事業所内で対象となる従事者を洗い出します。勤務形態・職種・勤続期間・保有資格等を確認し、支給額の試算表を作成しましょう。
STEP 2:従事者への同意取得
支援金の申請・受給には従事者本人の同意が必要です。「個人情報の提供に関する同意書」(様式第2号)を全対象者から取得してください。同意書には、氏名・住所・振込先口座情報が必要です。
STEP 3:必要書類の収集・作成
以下の書類を準備します。
【事業所が作成する書類】
– 支援金申請書(様式第1号)
– 対象従事者名簿(様式第3号)
– 事業所の指定通知書または許可証の写し
– 労働保険概算・確定保険料申告書(直近年度分)の写し、またはそれに代わる書類
– 誓約書(様式第4号):不正受給をしない旨、支援金を確実に従事者へ支給する旨
【従事者から収集する書類】
– 個人情報提供同意書(様式第2号)
– 資格証明書の写し(対象職種の資格を有する場合)
– 振込先口座情報(通帳の写しまたはキャッシュカードの写し)
– 在留カード写し(外国人の場合)
STEP 4:電子申請または郵送
専用ポータルサイト(厚生労働省「福祉・医療人材支援ポータル」)から申請データを入力・アップロードします。書面申請の場合は、都道府県の担当窓口宛に書類一式を郵送します(簡易書留推奨)。
STEP 5:支給決定後の処理
支給決定通知を受け取ったら、対象従事者への支援金の支給手続きを速やかに行います。事業所口座への入金後、原則として2週間以内に従事者本人の口座へ振り込む必要があります。支給完了後は「支給完了報告書」を提出してください。
4-4. 個人申請の場合(参考)
事業所を通じた申請ができない場合、従事者本人が都道府県の窓口(または電子申請)で個人申請を行えます。
必要書類:
– 支援金申請書(個人用:様式第5号)
– 在職証明書(事業所の記名・押印が必要)
– 資格証明書の写し
– 振込先口座情報
– 本人確認書類(運転免許証・マイナンバーカード等)
【チェックリスト】申請前の確認事項
– [ ] 申請締め切り(2026年6月30日)を社内カレンダーに登録したか
– [ ] 対象従事者全員から同意書・口座情報を収集したか
– [ ] 事業所の指定通知書の有効期限を確認したか
– [ ] 複数事業所を掛け持ちする従事者の情報を漏れなく把握しているか
– [ ] 電子申請用のGビズIDまたは事業所番号の確認は済んでいるか
– [ ] 様式の最新版(ポータルサイトからダウンロード)を使用しているか
第5章:事業所向け職場環境改善補助金(概要)
5-1. 制度の概要
本支援金制度と並行して実施される「事業所向け職場環境改善補助金」は、医療・介護・福祉事業所が職場環境の改善に取り組む費用の一部を補助するものです。
補助対象となる取り組み例:
– 介護ロボット・ICT機器の導入(見守りシステム、記録システム等)
– 休憩室・更衣室等の福利厚生施設の整備・改修
– 資格取得支援(受験費用・研修費用の補助)
– 育児・介護との両立を支援する柔軟な勤務体制整備
– メンタルヘルス対策(EAP導入、カウンセリング費用等)
補助率・補助上限:
| 事業所規模 | 補助率 | 上限額 |
|---|---|---|
| 小規模(定員29名以下、または職員30名未満) | 3/4 | 150万円 |
| 中規模(定員30〜99名、または職員30〜99名) | 2/3 | 300万円 |
| 大規模(定員100名以上、または職員100名以上) | 1/2 | 500万円 |
5-2. 支援金との連動要件
職場環境改善補助金を申請するためには、従事者向け支援金の申請を行っていることが原則として要件となります(または申請予定の誓約書を提出することで代替可能)。両制度を組み合わせて活用することが推奨されています。
【専門家コメント】
職場環境改善補助金は、交付決定前に取り組みを開始した費用は原則として対象外となります。必ず交付決定通知を受け取った後に発注・契約・工事等を開始してください。「先に工事してしまったから補助金で賄おう」とするケースが後を絶ちませんが、これは補助金の不適切受給に該当する可能性があり、返還を求められるリスクがあります。
第6章:税務・社会保険上の留意点
6-1. 従事者が受け取る支援金の課税関係
給与として支給される場合:
事業所が支援金を一旦受け取り、給与・賞与として従事者に支給する場合は「給与所得」となります。源泉徴収の対象となるため、給与明細への記載と源泉徴収票への反映が必要です。
直接振込・個人申請の場合:
従事者の口座に直接振り込まれる支援金(個人申請方式含む)は「一時所得」として扱われます。一時所得は50万円の特別控除があるため、他の一時所得との合算で50万円以下であれば課税されません。ただし、確定申告が必要になる場合もありますので、従事者への周知が必要です。
6-2. 社会保険への影響
支援金は定期的・継続的に支払われるものではなく、臨時・一時的な給付であるため、原則として社会保険(健康保険・厚生年金保険)の標準報酬月額の算定対象外となります。ただし、給与明細に「支援金」として記載した場合に保険者からの問い合わせが来ることがあるため、給与明細の記載方法や支給時期については社会保険労務士に相談することをお勧めします。
第7章:注意点・よくあるトラブル
7-1. 不正受給の厳正な取り締まり
本制度では、不正受給に対して厳格な対応が取られます。
- 虚偽申請や架空従事者の申請が発覚した場合:支給額の全額返還 + 加算金(支給額の20%)
- 悪質な不正と認定された場合:刑事告発の対象となる可能性あり
- 不正を行った事業所名は公表される場合あり
7-2. 申請漏れ・記載ミスへの対応
申請書の記載ミスや書類不足は、審査期間の延長や支給遅延の原因となります。提出前に以下を必ず確認してください。
- 事業所番号・指定番号の正確な記載
- 従事者の氏名(戸籍上の氏名と一致しているか)
- 振込先口座情報の正確性(名義・口座番号の誤りは最も多いミス)
- 押印箇所の漏れ(書面申請の場合)
- 様式のバージョン(古い様式では受け付けられない場合あり)
7-3. 掛け持ち勤務者の取り扱い
複数の事業所に勤務する従事者については、主たる勤務先(勤務時間が最も長い事業所)のみで申請が可能です。複数の事業所から重複して申請することはできません。掛け持ち従事者については、事前に本人に確認の上、どの事業所で申請するかを明確にしておく必要があります。
7-4. 育児休業・病気休業中の取り扱い
申請基準日(2026年3月31日)時点で育児休業中・病気休業中の従事者については、以下の取り扱いとなります。
- 育児休業中: 育児・介護休業法に基づく正規の育児休業であれば対象。ただし育児休業給付金との調整は不要
- 傷病休業中: 申請基準日の属する月の前月(2026年2月)において1日以上勤務実績があれば対象
- 産前産後休業中: 育児休業と同様に対象
FAQ:よくある質問
はい、受給可能です。週10時間以上(雇用保険の適用を受けない場合)または雇用保険被保険者であれば、雇用形態は問いません。ただし、支給額は常勤換算値に基づいて按分されるため、フルタイムより少なくなります。派遣労働者の場合は、派遣先ではなく派遣元(派遣会社)が申請主体となる点にご注意ください。
いいえ、重複受給はできません。主たる勤務先(週の勤務時間が長い事業所)での一申請が原則です。勤務時間が同じ場合は、本人が選択した一方の事業所でのみ申請できます。二重申請は不正受給に該当しますので、必ず事前に調整してください。
事業所が申請を行わない場合でも、従事者本人が個人申請(様式第5号)を行うことができます。ただし、個人申請には事業所が発行する「在職証明書」が必要です。事業所が在職証明書の発行を拒否するなど、申請に協力しない場合は、都道府県の担当窓口または労働局に相談することをお勧めします。
支援金が給与として支給された場合は年末調整で処理されるため、確定申告は通常不要です。個人申請等で「一時所得」として受け取った場合、他の一時所得と合算して50万円を超えると確定申告が必要になります。一般的には50万円の特別控除の範囲内に収まるケースが多いですが、ふるさと納税や保険満期金などの一時所得がある場合は注意が必要です。税務署または税理士にご相談ください。
申請基準日(2026年3月31日)時点で同一事業所に6か月以上継続勤務していることが要件です。2025年10月1日以降に入職した方は本年度の支援金対象外となります(次年度以降の申請を検討してください)。ただし、転職・転籍の場合は、前職での勤務期間を通算できる場合もあるため、都道府県の担当窓口に確認することをお勧めします。
まとめ
医療・介護・福祉従事者向け支援金制度は、長年の課題であった処遇改善と人材確保を直接的・具体的に後押しする重要な制度です。2026年度は申請受付が4月1日から始まり、締め切りは6月30日と定められています。
実務担当者としては、以下の3点を最優先で取り組むことをお勧めします。
- 今すぐ対象従事者の洗い出しと確認 — 雇用形態・勤務時間・資格・勤続期間をリスト化する
- 同意書・口座情報の早期収集 — 書類の収集に時間がかかることが多いため、余裕を持って動く
- 電子申請環境の準備 — GビズIDの取得や専用ポータルへの事前登録を済ませておく
制度は法令改正や予算措置により変更が生じる場合があります。最新情報は厚生労働省の公式ウェブサイト(福祉・医療人材支援ポータル)および各都道府県の担当窓口でご確認ください。申請に関する個別の相談は、最寄りの社会保険労務士や行政書士に相談することも有効です。
現場の皆さんの処遇改善と職場環境の向上のために、ぜひ本制度を有効に活用してください。
本記事は2026年4月1日時点の情報をもとに作成しています。制度の詳細・最新情報は必ず公式窓口にてご確認ください。



