3省2ガイドライン対応実務|医療情報システムの安全管理を体系的に解説

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3省2ガイドライン対応実務|医療情報システムの安全管理を体系的に解説
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最終更新日: 2026年10月4日

医療分野におけるデジタル化の進展に伴い、医療情報システムの安全管理は医療機関の経営上の最重要課題の一つとなっている。令和5年厚生労働省令第20号による医療法施行規則の改正(令和5年4月1日施行)でサイバーセキュリティ確保の措置が管理者の義務として規定され、全ての病院・診療所・助産所が安全管理体制の整備を求められている。

本記事では、厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」(第7.0版、令和8年6月) および 経済産業省・総務省「医療情報を取り扱う情報システム・サービスの提供事業者における安全管理ガイドライン」(第2.0版、令和7年3月改定) の2本からなる「3省2ガイドライン」を基軸に、医療機関および情報システム事業者が対応すべき安全管理の実務を体系的に解説する。


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3省2ガイドラインの全体像と統合の経緯

3省3ガイドラインから3省2ガイドラインへ

医療情報システムに関する国のガイドラインは、かつて厚生労働省・経済産業省・総務省がそれぞれ1本ずつ策定する「3省3ガイドライン」体制であった。しかし、事業者から見て参照すべきガイドラインが複数に分かれ、内容の重複や整合性の課題が指摘されていたことから、経済産業省と総務省のガイドラインが統合され、現在の「3省2ガイドライン」体制に移行した。

時期 体制 ガイドライン構成 備考
〜2020年 3省3ガイドライン ①厚労省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」(平成17年3月に第1版)②経産省「医療情報を受託管理する情報処理事業者における安全管理ガイドライン」(平成20年7月に策定)③総務省「クラウドサービス事業者が医療情報を取り扱う際の安全管理に関するガイドライン」(平成30年7月に策定) 各省が個別に策定・改定
2020年8月 3省2ガイドラインへ移行 ①厚労省ガイドライン(従来どおり)②経産省・総務省の統合ガイドライン「医療情報を取り扱う情報システム・サービスの提供事業者における安全管理ガイドライン」(第1.0版、令和2年8月) 経産省・総務省のガイドラインを統合
2023年5月〜7月 — ①厚労省ガイドライン 第6.0版(令和5年5月)②経産省・総務省ガイドライン 第1.1版(令和5年7月7日改定) 両ガイドラインがそれぞれ改定
2025年3月 — 経産省・総務省ガイドライン 第2.0版(令和7年3月28日改定) サイバー攻撃の多様化・巧妙化、医療機関等と事業者間の取決めの重要性の高まりを踏まえた改定
2026年6月 現行 ①厚労省ガイドライン 第7.0版(令和8年6月。産情発0629第1号、令和8年6月29日)②経産省・総務省ガイドライン 第2.0版 保守委託機関編を追加して5編構成に。経産省・総務省ガイドライン第2.0版への改定などを受けた見直し

出典: 厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第7.0版」(令和8年6月)、産情発0629第1号「「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第7.0版」の策定について」(令和8年6月29日)

2本のガイドラインの対象と関係性

3省2ガイドラインは、医療情報の安全管理を 「医療機関等」側 と 「情報システム・サービス提供事業者」側 の双方から規律するものである。

項目 厚労省ガイドライン(第7.0版) 経産省・総務省ガイドライン(第2.0版)
正式名称 医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 医療情報を取り扱う情報システム・サービスの提供事業者における安全管理ガイドライン
対象者 医療機関等(病院、一般診療所、歯科診療所、助産所、薬局、訪問看護ステーション、介護事業者、医療情報連携ネットワーク運営事業者等) 医療情報を取り扱う情報システム・サービスの提供事業者
目的 医療機関等が医療情報を適切に管理するための指針 事業者が医療情報の安全管理に必要な対策を講じるための指針
最新版 第7.0版(令和8年6月) 第2.0版(令和7年3月)
主な根拠法令 医療法、個人情報保護法、e-文書法(第7.0版からサイバーセキュリティ基本法を追加) 個人情報保護法、不正アクセス禁止法
構成 概説編、経営管理編、企画管理編、システム運用編、保守委託機関編の5編 本編+別紙(別紙1 サービス仕様適合開示書及びSLAの参考例、別紙2 統合前ガイドラインにおける対策項目一覧と医療情報安全管理ガイドライン6.0版の対応表)

実務上のポイント: 医療機関が情報システムを外部委託・クラウド利用する場合、厚労省ガイドラインと経産省・総務省ガイドラインの 双方 の要件を満たす必要がある。委託先の事業者が経産省・総務省ガイドラインに準拠していることを、契約締結前に確認すべきである。


厚労省ガイドライン第7.0版の構成と要点

5編構成と各編の対象読者

厚労省ガイドライン第7.0版は、共通事項を整理した概説編と、読者類型ごとの4編(経営管理編、企画管理編、システム運用編、保守委託機関編)の 5編構成 である。第6.0版で導入された概説編・経営管理編・企画管理編・システム運用編の4編構成に、第7.0版で保守委託機関編が加わった。各読者(経営者、企画管理者、システム運用者、保守委託を活用する医療機関)が自身に関係する編を効率的に参照できる。

編名 対象読者 主な内容
概説編 全ての関係者 ガイドラインの目的・対象範囲・全体構成、各編を理解する上で前提となる考え方
経営管理編 医療機関等の経営層(組織の経営方針を策定し、意思決定を担う者) 経営層として遵守・判断すべき事項、企画管理やシステム運営の担当部署・担当者に対して指示・管理すべき事項とその考え方
企画管理編 医療情報システムの安全管理(企画管理、システム運営)の実務を担う担当者(企画管理者) 組織体制や情報セキュリティ対策に係る規程の整備等の統制、システム運用担当者に対する指示・管理に当たって遵守すべき事項とその考え方
システム運用編 医療情報システムの実装・運用の実務を担う担当者 医療情報システムを構成する情報機器、ソフトウェア等に関する技術的な対応(認証、通信の暗号化、ログ管理、バックアップ等)
保守委託機関編 医療機関管理者・担当者のうち、クラウドサービスの利用やオンプレミスサーバの保守委託等により、セキュリティアップデートを含む保守業務を委託できている機関 専門人材が不足している小規模医療機関を想定した編

出典: 厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第7.0版」概説編(令和8年6月)

保守委託機関編の「みなし遵守」: 概説編は、すべてのサーバのセキュリティアップデートを事業者に委託している医療機関等(クラウドサービスの利用を含む)については、「概説編」と「保守委託機関編」に対応することで、本ガイドラインを遵守しているものとみなすと定めている。この場合の「サーバ」は、医療情報の保存や主要な処理を担う機器を指し、原則としてPCやタブレット等のクライアント端末は含まない。ただし、電子カルテアプリ等を端末にインストールし、当該機器上で処理が完結する場合は、PC等の端末も「サーバ」に含まれる。

第7.0版の主要な改定ポイント

厚生労働省は、第6.0版(令和5年5月)の公表以降も医療機関等を対象としたサイバー攻撃事案の発生が継続していることなどを背景に、第7.0版への見直しを行った。主な改定内容は以下のとおりである。

改定項目 第7.0版での内容
全体構成 保守委託機関編を追加し、5編構成に
関連法令 根拠法令にサイバーセキュリティ基本法を追加し、サプライチェーンリスクを追記
事業者との役割分担 経産省・総務省ガイドライン第2.0版への改定による影響を確認し、医療機関等と事業者との役割分担や、医療機関とのリスクコミュニケーション等を追記
クラウドサービス クラウドサービスの積極的な活用を推進する旨を追記
パスワード 使い回しの禁止、アカウントロックの導入を追記する一方、セキュリティ面の強化につながらないとされる「定期的な変更」の要件を削除
二要素認証 クライアント端末及びサーバで対応することを明確化。令和9年4月1日時点での対応が困難な医療機関等には、次期システム改修での対応を許容する緩和措置を設定
小規模医療機関への対応 すべてのサーバのセキュリティアップデートを委託している医療機関等は、保守委託機関編を遵守することで他の編の項目も遵守できているものとみなす

出典: 産情発0629第1号(令和8年6月29日)「第1 改定の概要」


安全管理措置の4分類と要求事項

組織的安全管理措置

組織的安全管理措置は、医療情報の安全管理に関する組織体制と規程を整備するための措置である。個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)第23条に基づく安全管理措置義務の根幹をなす。なお、課徴金制度の導入を含む個人情報保護法の改正法は、令和8年7月10日に国会で可決・成立し、7月17日に公布された。施行は公布から2年以内で、医療機関への影響も大きい(詳細は「個人情報保護法 令和8年改正の実務対応」を参照)。

要求事項 具体的内容 対応の優先度
安全管理責任者の設置 医療情報システムの安全管理に関する責任者を組織内に設置する。経営管理編において、経営層が責任者を任命することを要求 必須
安全管理に関する規程の整備 情報セキュリティポリシー(基本方針・対策基準・実施手順)を策定する 必須
リスクアセスメントの実施 医療情報資産の洗い出し、脅威・脆弱性の分析、リスク評価と対応策の決定 必須
インシデント対応計画の策定 セキュリティインシデント発生時の報告体制、初動対応手順、関係機関への通知手順を定める 必須
監査の実施 定期的な内部監査・外部監査を実施し、安全管理措置の実効性を確認する 推奨
業務委託先の管理 委託先の安全管理体制を契約で担保し、定期的に監督する 必須(委託時)

物理的安全管理措置

物理的安全管理措置は、医療情報を取り扱う施設・機器に対する物理的なセキュリティ対策である。

要求事項 具体的内容 対応例
入退室管理 サーバ室等の重要区域への入退室を管理する ICカード、生体認証、入退室記録の保管
機器の盗難・紛失防止 医療情報を格納する機器の物理的保護 セキュリティワイヤー、施錠可能なキャビネット
記録媒体の管理 USBメモリ、外付けHDD等の可搬記録媒体の管理 台帳管理、暗号化、使用制限ポリシー
機器の廃棄 不要となった機器内の情報を復元不可能な状態にする データ消去ソフトの利用、物理破壊、廃棄証明の取得
災害対策 自然災害等に備えたサーバ室の環境整備 免震・耐震対策、無停電電源装置(UPS)、温湿度管理

技術的安全管理措置

技術的安全管理措置は、情報システム上でのアクセス制御、暗号化、監視等の技術的対策である。システム運用編において詳細な実装要件が示されている。

要求事項 具体的内容 第7.0版システム運用編・チェックリストの要求
利用者認証 システムへのアクセスを正当な利用者に限定する 二要素認証を採用している場合、パスワードは8桁以上(PINであれば4桁以上)で英数字の混在。二要素認証を採用していない場合は13桁以上。いずれの場合もパスワードの定期的な変更は不要。パスワードの使い回しは禁止
二要素認証 クライアント端末ではアプリケーションのログイン時、サーバではOSのログイン時に二要素認証を実装する 令和9年4月1日時点で稼働が想定される医療情報システムを新規導入・更改する際に採用する(詳細は後述)
アクセス制御 利用者の職種・担当業務別の情報区分ごとのアクセス利用権限を設定する 管理者権限対象者の明確化。退職者や使用していないアカウントの削除・無効化
アクセスログの管理 システムへのアクセス履歴を記録・保管する 少なくとも利用者のログイン時刻、アクセス時間、ログイン中に操作した医療情報が特定できるように記録する
通信の暗号化 ネットワーク経由のデータ送受信を暗号化する 医療機関等が管理するシステムと接続する通信経路の暗号化は、原則として専用線、IP-VPN、IPsec+IKEv2(PSK認証を除く)による。プロトコルを限定したTLS接続の場合はTLS1.3以上に限定する(対応が困難な場合はTLS1.2の設定も可能)
不正ソフトウェア対策 マルウェア等の不正プログラムへの対策 ウイルス対策ソフトの導入、定義ファイルの自動更新
ネットワーク監視 不正アクセスや異常通信の検知 IDS/IPS、ファイアウォール、SOCの活用
脆弱性管理 OSやソフトウェアの脆弱性への対応 定期的な脆弱性スキャン、パッチ適用の迅速化

人的安全管理措置

人的安全管理措置は、医療情報を取り扱う従業者に対する教育・監督に関する措置である。

要求事項 具体的内容 実施頻度・方法
教育研修の実施 情報セキュリティに関する研修を全従業者に対して実施する 定期的に実施。新規採用時にも実施
守秘義務の明確化 雇用契約・委託契約において守秘義務を明示する 入職時に誓約書の取得。退職後の義務も明記
従業者の監督 管理者が従業者の情報取扱いを適切に監督する 定期的な遵守状況の確認
違反時の対応 セキュリティポリシー違反時の処分基準を定める 就業規則への規定、懲戒処分の手続き明確化
標的型攻撃への対応訓練 フィッシングメール等への対処訓練 定期的な訓練を実施

電子カルテの3原則と法的要件

真正性・見読性・保存性の要件

電子カルテをはじめとする診療録等の電子保存にあたっては、e-文書法(民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律、平成16年法律第149号) および 医療法施行規則(昭和23年厚生省令第50号)第20条 等に基づき、以下の3原則を満たす必要がある。

原則 定義 具体的要件 技術的対策例
真正性 正当な権限において作成された記録に対し、虚偽入力、書き換え、消去及び混同が防止されており、かつ、第三者から見て作成の責任の所在が明確であること ①作成者の識別・認証 ②記録の確定手順の明確化 ③更新履歴の保存 ④代行入力時の承認手順 電子署名、タイムスタンプ、操作ログの記録、アクセス制御
見読性 電子媒体に保存された内容を、権限保有者からの要求に基づき必要に応じて肉眼で見読可能な状態にできること ①速やかな書面への表示・印刷 ②災害等の緊急時にも情報へのアクセスが可能であること ③関連する情報の一覧性の確保 表示装置・印刷装置の整備、冗長構成、バックアップシステム
保存性 記録された情報が法令等で定められた期間にわたって真正性を保ち、見読可能にできる状態で保存されること ①保存期間中のデータの完全性確保 ②記録媒体の劣化対策 ③ソフトウェア・機器の更新時のデータ移行 ④ウイルス・不正ソフトウェアからの保護 RAID構成、バックアップの世代管理、媒体の定期交換、マイグレーション計画

法定保存期間と対象文書

医療関係文書には法令で定められた保存期間があり、電子保存システムはこれを充足する設計が必要である。

文書種類 保存期間 根拠法令
診療録(カルテ) 5年間 医師法第24条第2項
保険診療に係る診療録 完結の日から5年間 保険医療機関及び保険医療養担当規則第9条ただし書
保険診療の帳簿及び書類その他の記録(診療録を除く) 完結の日から3年間 保険医療機関及び保険医療養担当規則第9条
病院の診療に関する諸記録(病院日誌、各科診療日誌、処方せん、手術記録、看護記録、検査所見記録、エックス線写真、入院患者及び外来患者の数を明らかにする帳簿並びに入院診療計画書) 過去2年間 医療法施行規則第20条第10号
助産録 5年間 保健師助産師看護師法第42条
調剤録 3年間 薬剤師法第28条第3項
処方箋 3年間 薬剤師法第27条
特定生物由来製品に関する記録 使用した日から起算して少なくとも20年間 薬機法第68条の22第3項(記録義務)、薬機法施行規則第240条第2項(保存期間)

注意: 診療録の保存期間5年の根拠は医師法第24条第2項であり、保険診療か自由診療かを問わない。保険診療に係る診療録は、保険医療機関及び保険医療養担当規則第9条ただし書によっても完結の日から5年間の保存が求められる。医療法施行規則第20条第10号が定めるのは、病院の「診療に関する諸記録」(過去2年間)であり、診療録そのものの保存期間ではない。

電子署名とタイムスタンプの要件

真正性を確保するための技術的措置として、電子署名およびタイムスタンプに関する要件が定められている。

要件項目 ガイドラインの要求 補足
電子署名の種類 厚生労働省の定める準拠性監査基準を満たす認証局が発行する電子証明書に基づくもの、またはこれに相当する措置 HPKI(保健医療福祉分野の公開鍵基盤)に基づく電子署名が推奨される
タイムスタンプ 総務省認定のタイムスタンプ局(時刻認証業務認定事業者)が発行するタイムスタンプを推奨 記録の確定時刻の証明に使用
署名の有効期間 電子署名の有効期間が満了する前に、長期署名(PAdES-LTV等)の措置を講じること 保存期間が署名の有効期間を超える文書に必須

クラウドサービス利用時の安全管理

クラウド利用の増加と責任分界

医療機関のクラウドサービス利用は急速に拡大しており、電子カルテやPACS(医用画像管理システム)、オンライン診療システム等のクラウド化が進んでいる。ガイドライン第7.0版では、クラウドサービスの積極的な活用を推進する旨が追記され、クラウドサービスの利用等によりセキュリティアップデートを含む保守業務を委託できている医療機関向けに保守委託機関編が新設された。

サービスモデル 医療機関の責任範囲 事業者の責任範囲 留意点
SaaS(Software as a Service) データ入力の正確性、利用者の管理、アクセス権限の設定 アプリケーション、ミドルウェア、OS、ネットワーク、物理インフラの安全管理 最も事業者側の責任範囲が広い。カスタマイズの余地は限定的
PaaS(Platform as a Service) アプリケーションの開発・運用、データ管理 ミドルウェア、OS、ネットワーク、物理インフラの安全管理 アプリケーション層のセキュリティは医療機関側の責任
IaaS(Infrastructure as a Service) OS以上の全レイヤー(OS設定、ミドルウェア、アプリケーション、データ管理) ネットワーク、物理インフラの安全管理 医療機関側に高度な技術力が必要

クラウドサービス事業者選定のチェック項目

医療機関がクラウドサービスを選定する際に確認すべき事項を以下に整理する。

チェック項目 確認内容 ガイドラインの参照箇所
サービス仕様適合開示書の提出 経産省・総務省ガイドラインに基づくサービス仕様適合開示書(SLA等を含む)を事業者が提出可能か 経産省・総務省GL 別紙1
データの保存場所 医療情報が保存されるデータセンターの所在地(国内であることを確認) 企画管理編
第三者認証の取得状況 ISMS(ISO/IEC 27001)、ISMS-PIMS(ISO/IEC 27701)、ISMAP等の認証取得の有無 企画管理編
データポータビリティ サービス終了時や事業者変更時のデータ移行手順・フォーマットが明確か 企画管理編
バックアップ体制 データのバックアップ頻度、保存世代数、復旧手順が明確か システム運用編
インシデント対応 セキュリティインシデント発生時の事業者側の対応手順・通知体制が明確か 企画管理編
SLA(サービスレベル合意) 可用性(稼働率)、レスポンスタイム、障害時の復旧目標時間(RTO)等が明記されているか 企画管理編
暗号化対応 通信経路および保存データの暗号化方式・鍵管理方法 システム運用編
アクセスログの提供 事業者側のアクセスログを医療機関に提供する体制があるか システム運用編
委託先の再委託管理 事業者が再委託を行う場合の管理体制・通知義務 企画管理編

ISMAPとの関係

ISMAP(政府情報システムのためのセキュリティ評価制度) は、政府がクラウドサービスのセキュリティを評価・登録する制度である。医療分野においても、ISMAPへの登録は事業者の安全管理体制の信頼性を示す重要な指標となる。

項目 ISMAP ISMAP-LIU
正式名称 Information system Security Management and Assessment Program ISMAP for Low-Impact Use
対象 政府機関が利用するクラウドサービス全般 リスクの小さな業務・情報を扱うクラウドサービス
医療分野との関係 経産省・総務省ガイドライン第2.0版が、事業者の適切な運用管理能力を確認するための認証等の一つとして挙げている 同ガイドラインは「ISMAP-LIUは含まない」と明記している
登録リスト ISMAP公式サイトで公開 ISMAP公式サイトで公開

実務上の注意: ISMAPへの登録は医療情報を取り扱うクラウドサービスの必須要件ではないが、事業者選定における安全管理体制の客観的な評価指標として活用できる。ISMAPを確認する場合は、ISMAP-LIUではなくISMAPの登録であることを確認する。


サイバーセキュリティ対策と法的義務

医療法施行規則改正(2023年4月)によるサイバーセキュリティ確保の義務化

令和5年厚生労働省令第20号による医療法施行規則の改正(令和5年3月10日付け通知産情発0310第2号で周知、令和5年4月1日施行)により、全ての病院、診療所、助産所の管理者に対してサイバーセキュリティ確保のための措置が義務付けられた。同通知は、規則第14条第2項に規定する「必要な措置」として、最新の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」を参照の上、サイバー攻撃に対する対策を含めセキュリティ対策全般について適切な対応を行うことを求めている。なお、令和8年度診療報酬改定で新設された電子的診療情報連携体制整備加算の施設基準(電子カルテの要件)にも、安全管理ガイドラインに準拠した体制であることが含まれており、診療報酬とも関係する。

根拠条文: 医療法施行規則(昭和23年厚生省令第50号)第14条第2項

「病院、診療所又は助産所の管理者は、医療の提供に著しい支障を及ぼすおそれがないように、サイバーセキュリティを確保するために必要な措置を講じなければならない。」

この規定は、医療法第17条(病院、診療所又は助産所の管理者が遵守すべき事項は厚生労働省令で定める)の委任に基づく。医療法第25条第1項に基づく立入検査においても、令和8年度のサイバーセキュリティ対策チェックリストが立入検査時に確認される。

サイバーセキュリティ対策の必須項目

ガイドライン第7.0版および厚生労働省の通知・チェックリストに基づき、医療機関が講じるべきサイバーセキュリティ対策の必須項目を以下に整理する。

対策項目 具体的内容 優先度
医療情報システムの全体構成の把握 ネットワーク構成図の作成・更新、接続機器の台帳管理 必須(最優先)
バックアップの実施 重要なファイルは数世代のバックアップを複数の方式で確保し、その一部はマルウェアの影響が及ばない手段で管理する。一定規模以上の病院や地域で重要な機能を果たす医療機関等では、ネットワークから切り離した保管が強く求められる 必須(最優先)
不正ソフトウェア対策 ウイルス対策ソフトの導入・更新、不審なメール・添付ファイルへの対処 必須
アクセス制御の実施 利用者ごとのID管理、不要なアカウントの削除、パスワードポリシーの適用 必須
ネットワークの脆弱性対策 VPN装置やファイアウォール等のファームウェア更新、不要なポートの閉鎖 必須
インシデント対応計画の策定 セキュリティインシデント発生時の初動対応手順、連絡体制の整備 必須
BCP(事業継続計画)の策定 システム障害・サイバー攻撃発生時の診療継続計画 必須
関係機関への報告体制 厚生労働省、所管自治体、警察等への報告手順の整備 必須
ペネトレーションテスト 外部からの侵入テストによる脆弱性の検出 推奨
SOC/CSIRT体制の構築 セキュリティ監視センター(SOC)またはインシデント対応チーム(CSIRT)の設置・外部委託 推奨(大規模施設は必須)

近年の医療機関へのサイバー攻撃事例と教訓

近年、日本国内の医療機関がランサムウェア攻撃を受け、診療業務に深刻な影響が生じた事例が相次いでいる。以下は、いずれも公表された調査報告書に基づく。

時期 対象施設 攻撃の種類 被害・影響 復旧までの期間
2021年10月(令和3年10月31日発生) 徳島県の病院 ランサムウェア(LockBit 2.0)。侵入経路はVPN装置の脆弱性(CVE-2018-13379) 院内システムのデータが暗号化され、利用できなくなった 令和4年1月4日に通常診療を再開(約2か月強)
2022年10月(令和4年10月31日発生) 大阪急性期・総合医療センター ランサムウェア「Elbie」(攻撃者グループは「Phobos」の可能性が高いとされる)。リモート保守に用いられていたファイアウォールの脆弱性、または漏洩・公開されていたID・パスワードの悪用 電子カルテを含む基幹システムが停止し、紙ベースのカルテ運用を開始 基幹システムの再開は障害発生後43日目、全体の診療システム復旧は73日目(令和5年1月11日)

教訓: 2事例とも、侵入の起点は外部との接続口(VPN装置、リモート保守用の機器)の脆弱性であった。復旧の面では、徳島県の病院では2018年までにオフラインで保管していたバックアップデータがLockBit 2.0の影響を受けず、復旧に使うことができた。大阪急性期・総合医療センターでは、オフラインで保存されていた患者のデータを用いて端末・サーバーをすべて初期化する方針を立て、復旧を行った。一方、大阪では、BCP(事業継続計画)が自然災害に主眼を置いた内容で、サイバー攻撃を想定したBCPは整備されていなかった。ガイドラインがバックアップ、VPN装置等の脆弱性対策、サイバー攻撃を想定したBCPを重視する背景には、こうした実例がある。

BCP(事業継続計画)の策定要件

サイバー攻撃や大規模システム障害発生時に診療を継続するためのBCP策定が、ガイドライン第7.0版でも求められている。第7.0版は、サイバー攻撃の場合、バックアップデータには既にマルウェアの影響が及んでいる可能性があるため、復旧するための手順をあらかじめ検討してBCPとして定めておくこと、およびBCPが機能することを訓練等で確認することを求めている。令和8年度チェックリストにも「サイバー攻撃の想定を含む事業継続計画(BCP)を策定している」の項目がある。

BCP策定項目 内容 具体例
リスクシナリオの想定 想定すべき脅威の特定 ランサムウェア感染、大規模災害、長期停電、通信回線途絶
RTO(目標復旧時間)の設定 システムごとの復旧優先度と目標時間 システムごとに医療機関が目標時間を決める
RPO(目標復旧時点)の設定 許容できるデータ損失の範囲 システムごとに医療機関が許容範囲を決める
代替手段の整備 システム停止時の紙運用手順 紙カルテ・紙伝票の様式準備、手書き処方箋の発行手順
バックアップ方針 オンライン・オフライン双方のバックアップ計画 日次バックアップ+オフライン媒体での週次バックアップ
訓練の実施 BCP発動を想定した訓練 サイバー攻撃を想定した訓練を定期的に実施
連絡体制 内部・外部の連絡先一覧と連絡手順 厚生労働省、保健所、警察、システムベンダー

経産省・総務省ガイドラインとリスクマネジメント

事業者向けガイドラインの概要

経済産業省・総務省「医療情報を取り扱う情報システム・サービスの提供事業者における安全管理ガイドライン」(第2.0版、令和7年3月改定)は、医療機関にシステム・サービスを提供する事業者が遵守すべきリスクマネジメントの枠組みを定めている。第2.0版では、サイバー攻撃の多様化・巧妙化を踏まえ、対象事業者の範囲の明確化、医療機関等と事業者間の取決め内容の明確化、リスクコミュニケーションの実効性向上が図られた。

章 タイトル 主な内容
第1章 策定の経緯・目的・方針 ガイドラインの策定の経緯や目的、策定方針
第2章 対象事業者・提供形態 対象とする事業者、および想定される主要な医療情報システム等の提供形態
第3章 義務・責任 医療情報の安全管理に関して事業者に求められる義務と責任の考え方(医療情報システム等のライフサイクルを整理)
第4章 医療機関等への情報提供と合意形成 事業者が自らのリスク分析結果に基づく対応策を医療機関等に情報提供した上で合意形成を行う際の考え方
第5章 リスクマネジメントプロセス リスクマネジメントの実践による対策決定の手順、提供形態に応じたリスクアセスメントとリスク対応の実施例
第6章 制度上の要求事項 法令等の制度上の要求事項への遵守の観点から、事業者に一律の対応を求める事項
別紙1 サービス仕様適合開示書及びSLAの参考例 医療機関等との情報提供と合意形成にあたって活用する様式
別紙2 統合前ガイドラインにおける対策項目一覧と医療情報安全管理ガイドライン6.0版の対応表 リスクマネジメントの実践において事業者が確認する内容

リスクマネジメントプロセスの全体像

事業者向けガイドラインが求めるリスクマネジメントプロセスは、ISO 31000(リスクマネジメントの国際規格)をベースとしている。

プロセス 内容 成果物
①リスク特定 医療情報を取り扱う業務・サービスにおけるリスク要因の洗い出し リスク一覧表
②リスク分析 特定されたリスクの発生可能性と影響度の評価 リスク分析シート
③リスク評価 リスクの優先順位づけ、受容可否の判定 リスク評価マトリクス
④リスク対応 リスクに対する対策の選択(回避、低減、移転、受容) リスク対応計画
⑤モニタリング・レビュー 対策の有効性評価、環境変化に応じた見直し 定期レビュー報告書
⑥コミュニケーション 医療機関への情報開示、リスク情報の共有 サービス仕様適合開示書

サービス仕様適合開示書の意義

経産省・総務省ガイドラインの特徴的な仕組みとして、サービス仕様適合開示書 がある。これは、事業者が自社サービスのセキュリティ対策状況をガイドラインの各項目に対応させて開示する文書である。

開示項目の例 内容
組織的対策 情報セキュリティマネジメント体制、責任者の設置状況
物理的対策 データセンターの物理セキュリティ、入退室管理
技術的対策 暗号化方式、アクセス制御方式、脆弱性管理
人的対策 従業者教育、守秘義務契約
データ管理 データの保存場所、バックアップ方式、データ削除手順
インシデント対応 検知・通知・対応の手順、報告体制
SLA 可用性、性能、復旧目標

実務上のポイント: 医療機関は、クラウドサービス事業者やシステムベンダーに対してサービス仕様適合開示書の提出を求めることにより、ガイドラインへの準拠状況を体系的に確認できる。これは事業者選定時の比較評価にも有用である。


ガイドライン対応の実務チェックリスト

認証・認定制度の比較

ガイドライン対応の一環として、第三者認証の取得を検討する医療機関・事業者が増えている。主要な認証・認定制度の比較は以下のとおりである。

認証・認定制度 運営主体 対象 主な評価項目 医療分野との関係
ISMS(ISO/IEC 27001) ISO/各認定機関 あらゆる組織 情報セキュリティマネジメントシステム全般 ガイドラインで取得を推奨
プライバシーマーク(Pマーク) JIPDEC 日本国内の事業者 個人情報保護マネジメントシステム(JIS Q 15001) 個人情報保護の観点で有効だが、技術的対策の評価は限定的
ISMAP 政府 クラウドサービス事業者 政府が求めるセキュリティ基準 事業者選定の客観指標として有効
ISMS-PIMS(ISO/IEC 27701) ISO/各認定機関 あらゆる組織 プライバシー情報マネジメントシステム ISMS+プライバシー管理の統合的評価
SOC2報告書 各監査法人 サービス提供事業者 セキュリティ、可用性、処理のインテグリティ等 グローバルなクラウド事業者が取得するケースが多い
JAHIS標準 保健医療福祉情報システム工業会 医療情報システムベンダー 医療情報の交換・共有に関する標準規格 医療システムの相互運用性に直接関係

医療情報の分類と取扱いレベル

ガイドラインでは、取り扱う情報の機微性に応じた管理レベルの設定を求めている。

情報分類 具体例 機微性レベル 必要な管理措置の例
要配慮個人情報(医療情報) 診療録、検査結果、処方情報、画像データ 最高 アクセス制御(最小権限)、暗号化、操作ログ記録、二要素認証
患者の識別情報 氏名、生年月日、住所、保険者番号 高 アクセス制御、暗号化、取扱者の限定
医療機関の運営情報 経営データ、職員情報、契約情報 中 アクセス制御、取扱規程の整備
公開情報 診療時間、所在地、施設基準の届出情報 低 改ざん防止措置

ガイドライン対応の5ステップ

医療機関がガイドライン対応を進める際の実務的なステップを以下に示す。

[STEP1] 現状把握
    ↓ 情報資産の洗い出し、システム構成の把握、現行の安全管理措置の棚卸し
[STEP2] ギャップ分析
    ↓ ガイドラインの要求事項と現状との差異を特定
[STEP3] 対応計画の策定
    ↓ 優先順位の決定、スケジュール・予算・体制の計画
[STEP4] 措置の実施
    ↓ 技術的対策の導入、規程の整備、教育研修の実施
[STEP5] 監査・継続的改善
    ↓ 内部監査の実施、改善措置のフォロー、定期的な見直し
ステップ 主な作業内容 担当者 期間の目安
STEP1: 現状把握 情報資産台帳の作成、ネットワーク構成図の更新、既存規程の収集 システム管理者、企画管理者 1〜2か月
STEP2: ギャップ分析 ガイドラインのチェックシートに基づく自己点検、不足項目の洗い出し 企画管理者、外部コンサルタント 1〜2か月
STEP3: 対応計画の策定 対応ロードマップの作成、必要な投資額の算定、経営層への報告・承認取得 企画管理者、経営層 1か月
STEP4: 措置の実施 技術的対策の導入(VPN更新、バックアップ整備等)、規程類の策定・改定、全職員への教育研修 システム管理者、各部門長 3〜6か月
STEP5: 監査・継続的改善 内部監査の実施、監査結果に基づく是正、次年度計画への反映 内部監査担当、経営層 継続的

実務上のアドバイス: 中小規模の医療機関では、全てのガイドライン要求事項に一度に対応することは困難な場合が多い。まずはSTEP1の現状把握と、サイバーセキュリティ対策の最優先事項(バックアップ、VPN脆弱性対策、インシデント対応計画)から着手し、段階的に対応範囲を拡大することが現実的である。すべてのサーバのセキュリティアップデートを事業者に委託できる場合は、保守委託機関編の利用も選択肢になる。

MDS/SDS(医療情報セキュリティ開示書)の活用

「製造業者/サービス事業者による医療情報セキュリティ開示書」(MDS/SDS) は、医療情報システムの提供事業者が自社製品・サービスのセキュリティ対策状況を医療機関に開示するための様式である。令和8年度版のサイバーセキュリティ対策チェックリストでは、医療機関側の項目として「事業者からMDS/SDSを提出してもらう」が、事業者側の項目として「医療機関等にMDS/SDSを提出した」が置かれている。サービス仕様適合開示書と併せて、事業者選定の重要な判断材料となる。

実務上のポイント: 医療機関は、システム導入・更新時にベンダーに対してMDS/SDSの提出を求め、ガイドラインの各項目への対応状況を確認することが推奨される。あわせて、リモートメンテナンス(保守)を利用している機器の有無を事業者に確認する。

令和8年度版サイバーセキュリティ対策チェックリストの主な項目

厚生労働省は、令和8年6月に「医療機関・薬局におけるサイバーセキュリティ対策チェックリスト」(令和8年度版)を公表した。令和7年度版までは「医療機関用」と「薬局用」でフォームが分かれていたが、チェック項目が医療機関と薬局で同一であることから、令和8年度版から統合されている。チェックリストには、医療機関・薬局の確認用と、事業者確認用がある。

区分 主なチェック項目
体制構築 医療情報システム安全管理責任者の設置
システムの管理・運用(全般) サーバ・端末・ネットワーク機器の台帳管理、リモートメンテナンス利用機器の有無の事業者への確認、事業者からのMDS/SDSの提出、職種・担当業務別のアクセス権限設定、不要アカウントの削除・無効化、セキュリティパッチの適用
パスワード 英数字の混在した8桁以上(二要素認証を採用するまでの期間は13桁以上)、パスワードの使い回しの禁止
外部記録媒体 USBストレージ等の外部記録媒体や情報機器に対する接続の制限
二要素認証 端末のアプリケーションログイン時、サーバのOSログイン時の二要素認証を実装している、または令和9年度以降の初回のシステム更改時に実装予定である
ログ・ネットワーク アクセスログの管理、ネットワーク機器の接続元制限
インシデント発生に備えた対応 連絡体制図、診療継続に必要な情報の検討とバックアップの確保・復旧手順の確認、サイバー攻撃の想定を含むBCPの策定
規程類の整備 上記すべての項目について、具体的な実施方法を運用管理規程等に定める

注意: チェックリストは立入検査時に確認される。「令和8年度中にすべての項目で「はい」にマルが付くよう取り組んでください」とされており、「いいえ」の項目には令和8年度中の対応目標日を記入する。全ての医療機関において各項目への対応状況を点検し、不足があれば速やかに対策を講じる必要がある。


今すぐやること:3省2ガイドライン対応チェックリスト

最優先:まず着手

  • ネットワーク構成図の作成・更新(情報システム部門/外部ベンダー):接続機器の台帳(メーカー・型番・ファームウェアバージョン・IPアドレス)を整備し、VPN装置・ルーター等のファームウェアが最新か確認する
  • バックアップの確保(情報システム部門):電子カルテデータのバックアップが、物理的にネットワークから切り離された媒体(外付けHDD・磁気テープ等)にも保存されているか確認する。未実施の場合は直ちに導入する
  • インシデント対応計画の策定・見直し(安全管理責任者):サイバー攻撃発生時の初動対応手順、連絡先一覧(厚労省・保健所・警察・ベンダー)を文書化する

重要:3か月以内に

  • 経営管理編の経営層への共有(安全管理責任者):厚労省ガイドライン第7.0版「経営管理編」(約20ページ)を院長・理事長に読んでもらい、安全管理に関する経営層の責任を認識してもらう
  • サービス仕様適合開示書・MDS/SDSの取得(企画管理者):電子カルテベンダー・クラウドサービス事業者に、経産省・総務省ガイドライン第2.0版に基づくサービス仕様適合開示書とMDS/SDSの提出を依頼する
  • 全職員向けセキュリティ研修の実施(人事・総務部門):フィッシングメール対応、パスワード管理、USB機器の取扱いを含む基礎研修を定期的に実施する

中期:年度内に完了

  • BCP(事業継続計画)のサイバー攻撃版策定(経営層・安全管理責任者):ランサムウェア被害を想定した紙カルテ運用手順、RTO・RPOの設定、訓練計画を策定する
  • ギャップ分析と対応ロードマップの作成(企画管理者・外部コンサルタント):令和8年度版チェックリストに基づく自己点検を実施し、未対応項目の洗い出しと対応計画を策定する

よくある質問(FAQ)

A

: ガイドライン自体は法律ではなく、直接の罰則規定はない。しかし、医療法第17条の委任に基づく医療法施行規則第14条第2項は、病院・診療所・助産所の管理者にサイバーセキュリティを確保するために必要な措置を講じることを義務付けており、厚生労働省の通知(産情発0310第2号)は、この「必要な措置」として最新の安全管理ガイドラインを参照の上で適切な対応を行うよう求めている。また、令和8年度診療報酬改定で新設された電子的診療情報連携体制整備加算の施設基準(電子カルテの要件)には、安全管理ガイドラインに準拠した体制であることが含まれる。個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)第23条が求める安全管理措置を講じる際にも、医療情報については、このガイドラインが具体的な基準として参照される。なお、医療法第6条の12は医療安全確保措置(指針の策定・研修等)に関する規定であり、サイバーセキュリティ確保義務の根拠ではない。

A

: 必要である。医療法施行規則第14条第2項のサイバーセキュリティ確保義務は、病院の規模によらず全ての病院・診療所・助産所に適用される。ただし、第7.0版は、すべてのサーバのセキュリティアップデートを事業者に委託している医療機関等(クラウドサービスの利用を含む)について、概説編と保守委託機関編に対応することでガイドラインを遵守しているものとみなすと定めている。委託の範囲が契約書等で明確かどうかは、必ず契約事業者に確認すること。まずはバックアップの確実な実施、VPN装置等のネットワーク機器のファームウェア更新、職員への基本的なセキュリティ教育から始め、段階的に対策を拡充することが推奨される。厚生労働省が公表している「医療機関・薬局におけるサイバーセキュリティ対策チェックリスト」(令和8年度版)を活用するのが効率的である。

A

: ガイドラインは医療情報の保存場所について「国内法の適用が及ぶ場所」での保存を原則としている。海外のデータセンターに保存する場合、当該国の法制度により日本の法律が及ばず、データへのアクセス制限や差押え等のリスクが生じる可能性がある。特に、個人情報の保護に関する法律(令和2年改正)における外国にある第三者への提供規制(第28条)との関係で、患者本人の同意取得や基準適合体制の整備が必要となる場合がある。実務上は、国内にデータセンターを有するクラウドサービスを選定することが最も確実な対応である。

A

: サイバーセキュリティインシデントが発生した場合の報告先は以下のとおりである。①厚生労働省医政局(医療機関向けサイバーセキュリティ対策の窓口)、②所管の都道府県(医療法に基づく報告)、③警察(不正アクセス行為の禁止等に関する法律に基づく被害届の提出)、④個人情報保護委員会(個人情報の漏えい等が発生した場合、個人情報保護法第26条に基づく報告義務)。また、厚生労働省が設置する医療機関向けサイバーセキュリティ相談窓口への連絡も推奨される。インシデント対応計画において、これらの報告先の連絡先と報告手順を事前に整理しておくことが重要である。

A

: サービス仕様適合開示書の提出は法的義務ではなく、ガイドラインにおける推奨事項である。しかし、医療機関が事業者を選定する際に、ガイドラインへの準拠状況を客観的に確認するための重要なツールとなる。実務上は、契約交渉の段階でサービス仕様適合開示書の提出を求め、その内容を評価した上で事業者を選定することが望ましい。開示書の提出に応じない事業者については、安全管理体制の透明性に疑義があるものとして慎重に判断すべきである。なお、厚生労働省の「医療機関・薬局におけるサイバーセキュリティ対策チェックリスト」(令和8年度版)においても、リモートメンテナンスを利用している機器の有無の事業者への確認や、事業者からのMDS/SDSの提出といった、委託先に関する項目が置かれている。

A

: オンライン診療を実施する場合、3省2ガイドラインに加え、厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(令和8年4月改訂。医政発0402第3号、令和8年4月2日)を遵守する必要がある。同指針では、オンライン診療に使用する情報通信機器のセキュリティ要件(通信の暗号化、本人確認、なりすまし防止等)が定められている。また、医師法第20条の解釈(対面診療との関係)、療養担当規則に基づく診療報酬上の要件、医薬品医療機器等法に基づくプログラム医療機器の該当性等、複数の法令・指針を横断的に確認する必要がある。

A

: 医療機関のサイバーセキュリティ対策に関連する主な支援制度として、以下のものがある。①厚生労働省の「医療施設等設備整備費補助金」(IT基盤整備に係る補助)、②各都道府県の地域医療介護総合確保基金を活用した支援事業、③独立行政法人情報処理推進機構(IPA)によるセキュリティ対策の技術的支援。補助金の公募状況や対象要件は年度ごとに異なるため、厚生労働省および所管の都道府県のホームページを定期的に確認されたい。また、日本医師会や各地域の医師会が主催するサイバーセキュリティ研修会も活用可能である。


令和8年度の最新動向(2026年10月時点)

令和8年度診療報酬改定とガイドライン対応の連動

令和8年度診療報酬改定で電子的診療情報連携体制整備加算が新設され、2026年6月1日から適用されている(2026年3月5日付け保医発0305第7号、告示第69号・第70号)。この加算の施設基準のうち、電子カルテの要件(加算1の(10))には、「厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」に準拠した体制であること」が含まれる。通知は版を指定せず「安全管理ガイドライン」と記載している。なお、加算3の施設基準は、加算1の(1)から(8)までの基準を満たすこととされている。

加算名 ガイドライン対応の要件内容
電子的診療情報連携体制整備加算(加算1) 施設基準(10)の電子カルテ要件(アからウの全て、又はエ)のうち、アで「安全管理ガイドライン」に準拠した体制であることが求められる

二要素認証の令和9年度(2027年度)対応に向けた準備

厚労省ガイドライン第7.0版システム運用編は、令和9年度(令和9年4月1日時点)で稼働していることが想定される医療情報システムを、今後、新規導入または機器の入替等を伴うシステム更改をする際には、二要素認証を採用する、またはこれに相当する対応を行うことを求めている。技術的な理由等により令和9年度までの対応が困難な場合は、令和9年度以降、直近の次期の医療情報システムの更新までを期限とする。クライアント端末ではアプリケーションのログイン時、サーバではOSでの二要素認証の実装が必要である。

令和8年度版のサイバーセキュリティ対策チェックリストでも、端末(アプリケーションログイン時)とサーバ(OSログイン時)のそれぞれについて、「二要素認証を実装している。または令和9年度以降初回のシステム更改時に実装予定である」ことが確認項目になっている。

令和8年度中の対応が必要な事項

項目 対応内容 期限の目安
二要素認証への対応整理 対象システムの洗い出し、実装済みか、令和9年度以降の初回のシステム更改時に実装予定かの整理 令和8年度中
パスワードルールの見直し 英数字混在の8桁以上(二要素認証を採用するまでの期間は13桁以上)、使い回しの禁止の確認 令和8年度中
令和8年度版チェックリストによる自己点検 全項目で「はい」となるよう点検し、「いいえ」の項目には対応目標日を記入 令和8年度中(立入検査時に確認)
サービス仕様適合開示書・MDS/SDSの取得 電子カルテベンダー・クラウドサービス事業者から、経産省・総務省ガイドライン第2.0版に対応した開示書を取得 令和8年度中

まとめ

3省2ガイドラインへの対応は、医療機関の経営層から現場のシステム運用担当者まで、組織全体で取り組むべき課題である。特に以下の3点は、全ての医療機関が直ちに対応すべき最優先事項として認識されたい。

  1. サイバーセキュリティ対策の最低限の実施: バックアップの確保(ネットワークから切り離した保管を含む)、ネットワーク機器の脆弱性対策、インシデント対応計画の策定は、医療法施行規則第14条第2項に基づく措置を講じる上で不可欠である
  2. 責任体制の明確化: 安全管理に関する責任者の設置と、経営層が主体的に関与する体制の構築が、ガイドライン第7.0版の経営管理編で求められている
  3. 外部委託・クラウド利用の適切な管理: 事業者選定時のサービス仕様適合開示書・MDS/SDSの確認、SLAの締結、責任分界の明確化を通じ、委託先を含めた安全管理体制を確保する

参考法令・出典一覧

法令・資料名 URL
医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第7.0版(厚生労働省、令和8年6月) 厚生労働省
医療情報を取り扱う情報システム・サービスの提供事業者における安全管理ガイドライン 第2.0版(経済産業省・総務省、令和7年3月) 経済産業省
個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号) e-Gov法令検索
医療法(昭和23年法律第205号) e-Gov法令検索
医療法施行規則(昭和23年厚生省令第50号) e-Gov法令検索
e-文書法(民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律) e-Gov法令検索
不正アクセス行為の禁止等に関する法律 e-Gov法令検索
サイバーセキュリティ基本法(平成26年法律第104号) e-Gov法令検索
オンライン診療の適切な実施に関する指針(厚生労働省、令和8年4月改訂) 厚生労働省
ISMAP(政府情報システムのためのセキュリティ評価制度) ISMAP公式
医療機関・薬局におけるサイバーセキュリティ対策チェックリスト(厚生労働省、令和8年度版) 厚生労働省

免責事項: 本記事は2026年10月時点の法令・ガイドラインに基づき、一般的な情報提供を目的として作成したものである。各ガイドラインの解釈や具体的な対応方法は、医療機関の規模・特性・システム構成により異なるため、個別の判断にあたっては所管省庁の最新の通知やガイドラインの原文を必ず確認されたい。本記事の内容に基づく判断・行動により生じたいかなる損害についても、筆者は責任を負わない。具体的な法的判断が必要な場合は、医療情報セキュリティに精通した専門家への相談を推奨する。

JG

実務ガイド編集部

AI執筆 + 編集部レビュー済み

本記事はAIが初稿を作成し、編集部が法令原文・官公庁通知・審議会資料等の一次情報と照合のうえ、内容を確認・編集しています。行政手続き・法改正・制度改正の実務情報を専門に扱う編集チームが、企業実務担当者・士業専門家向けに正確性の高いコンテンツを提供します。