廃業を決めたとき、何から手をつけるべきか分からない——そんな個人事業主のために、必要な手続きを手順と期限つきで整理した。
廃業手続きは税務署・都道府県・市区町村・社会保険と複数の窓口にまたがる。見落とすと余計な税金の請求や給付の空白が生じることがあるため、このリストを使って漏れなく対処しよう。窓口が分散する構造は開業時と同じで、出す書類がちょうど裏返しになる。開業側の一覧は開業時の届出チェックリスト2026年版|税務署・都道府県・社会保険の手続き一覧にある。
廃業手続きの全体像
① 廃業日を決める
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② 税務署への届出(廃業した年分の確定申告期限まで)
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③ 都道府県・市区町村への届出
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④ 社会保険・年金の変更手続き
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⑤ インボイス登録の取り消し(必要な場合)
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⑥ 最終確定申告(翌年2〜3月)
STEP1:税務署への届出
個人事業の廃業届出書
提出先: 納税地を管轄する税務署
期限: 廃業した年分の所得税の確定申告期限まで(例:2026年中に廃業→2027年3月15日まで)。2026年1月1日施行の所得税法改正(令和7年法律第13号)で、従来の「廃業日から1ヶ月以内」から変わった(所得税法第229条、国税庁タックスアンサーNo.2090)
方法: 窓口持参・郵送・e-Tax
記載事項:
– 廃業日(実際に事業を終了した日)
– 廃業の事由(自己都合・転業・その他等)
– 廃業する事業の内容
注意点:
– 廃業届を出しても、廃業年分の確定申告義務は残る
– 期限は確定申告期限までに延びたが、消費税やインボイスの手続きは廃業届(事業廃止届出書)の提出と連動するものがあるため、早めに提出することが望ましい。なお、従業員を雇っていた場合の「給与支払事務所等の廃止届出書」は、従来どおり廃止の日から1ヶ月以内
青色申告の取りやめ届出書
提出期限: 取りやめようとする年の翌年3月15日まで
青色申告を利用していた場合、廃業に合わせて提出することが多い。廃業後も翌年3月に確定申告が必要なため、廃業届と同時に提出するか、確定申告のタイミングで提出する。廃業年分でも要件を満たせば65万円控除は使える。条件は青色申告65万円控除2026|「e-Taxで申告するだけ」で年13万円トクする条件と手順を参照してほしい。
給与支払事務所等の廃止届出書
提出先: 税務署
提出期限: 廃止の日から1ヶ月以内
対象: 従業員・専従者に給与を支払っていた場合
従業員がいた場合、退職に伴う退職所得の源泉徴収・年末調整(または源泉徴収票の交付)も必要になる。
源泉所得税関連の最終処理
- 最後の給与・報酬に対する源泉所得税を廃業後も翌月10日に納付(給与支払人数が常時10人未満で「納期の特例」を申請・適用中の場合は、7〜12月分をまとめて翌年1月20日に納付)
- 源泉徴収票を従業員・専従者・外注先(士業等)に交付
消費税の届出
| 状況 | 届出 | 期限 |
|---|---|---|
| 課税事業者だった | 消費税の廃業の旨の届出(事業廃止届出書) | 速やかに |
| 課税事業者選択をしていた | 課税事業者選択不適用届出書 | 事業を廃止したとき(消費税法第9条第5項) |
STEP2:インボイス登録番号の取り消し
適格請求書発行事業者(インボイス登録)をしていた場合、廃業に合わせて登録を失効させる手続きが必要だ。廃業するときは、次のとおり事業廃止届出書の提出で足りる。
提出先: 税務署(e-Taxも可能)
書類: 適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書
取り消しの効力: 届出が受理された日の属する課税期間の翌課税期間から
廃業する場合、別途インボイス取消届出書を提出しなくても、事業廃止届出書を提出すれば、事業を廃止した日の翌日にインボイス登録の効力が失われる(消費税法第57条の2第10項第2号)。逆に、事業廃止届出書を出さない限り登録は失効しない。取消届出書の期限(12月17日等)を別途気にする必要はない。
なお、廃業せずにインボイス登録のみを取り消す場合は、翌課税期間から効力を発生させるために翌課税期間開始日の15日前(個人事業主は12月17日)までに届出が必要。事業を続けながら登録を外すかどうかは、経過措置の残り年数と取引先の負担で判断が変わる。判断材料はインボイス制度2026年10月改正|経過措置縮小・2割特例終了の実務対応にまとめた。
STEP3:都道府県・市区町村への届出
| 届出 | 提出先 | 期限 |
|---|---|---|
| 事業廃止申告書(事業税) | 都道府県税事務所 | 廃業後1ヶ月以内(自治体により異なる) |
| 廃業届出書 | 市区町村(商工課等) | 自治体に確認 |
個人事業税は事業所得から事業主控除290万円を差し引いた額に課税される。ただし事業を行った期間が1年に満たない廃業年は、控除額が290万円×事業を行った月数÷12の月割になる(地方税法第72条の49の14第2項)。年の中途で廃業した場合は、前年の所得に加えて、その年1月1日から廃業日までの所得も課税の対象になり、その申告は廃業日から1ヶ月以内に行う(同法第72条の49の11第2項・第72条の55)。廃業後に事業税の納付が生じるため、資金を確保しておく。
STEP4:社会保険・年金の手続き
健康保険の切り替え
個人事業主は通常すでに国民健康保険に加入しているため、廃業しただけでは切り替えは生じない。就職して勤務先の健康保険に入る場合や、家族の被扶養者になる場合に手続きが必要になる。
| 選択肢 | 条件 | 手続き先 |
|---|---|---|
| 国民健康保険 | 全員選択可 | 市区町村 |
| 家族の健康保険の被扶養者 | 年収130万円未満見込みの場合 | 家族の勤務先を通じて |
手続き期限: 国民健康保険を続けるなら、廃業による手続きは不要。勤務先の健康保険に加入した場合や家族の被扶養者になった場合は、その資格を得た日から14日以内に、市区町村へ国民健康保険の資格喪失を届け出る。副業で開業していて本業の勤務先の健康保険に入っている人は、廃業しても健康保険の手続きは生じない
国民健康保険を選ぶ場合、保険料は前年所得で決まるため、廃業した年の翌年度がいちばん高くなりやすい。年収別の目安は国民健康保険料2026年度はいくら?上限113万円・年収別の目安で確認できる。
国民年金
会社員から独立した場合はすでに国民年金(第1号被保険者)のはず。廃業後も引き続き国民年金。
ただし、配偶者が会社員の被扶養者(第3号被保険者)だった場合、廃業後の配偶者の状況によって種別変更手続きが必要になる場合がある。
従業員がいた場合の社会保険
| 手続き | 提出先 | 期限 |
|---|---|---|
| 雇用保険適用事業所廃止届 | ハローワーク | 廃止の翌日から10日以内 |
| 雇用保険被保険者資格喪失届(全従業員分) | ハローワーク | 退職日翌日から10日以内 |
| 労働保険の確定保険料申告書 | 労働基準監督署 | 廃止から50日以内 |
社会保険(健康保険・厚生年金)に加入していた場合も、年金事務所への届出が必要。
STEP5:最終確定申告(廃業翌年2〜3月)
廃業年分の確定申告は通常の期限(翌年2月16日〜3月15日。土日祝日の場合は翌平日に繰り越し)に行う。
廃業年の確定申告のポイント:
– 廃業日以前の事業所得を計算
– 棚卸資産の評価(期末在庫がない場合は0)
– 事業用資産の残存簿価の処理(廃業時に家事転用・売却した場合)
– 廃業に際して発生した費用(片付け・解約費用等)の経費計上
消費税の確定申告:
課税事業者だった場合、廃業年分の消費税申告も必要。消費税の申告期限は原則として課税期間の末日の翌日から2ヶ月以内(消費税法第45条)だが、個人事業者の12月31日を含む課税期間は特例で翌年3月31日(租税特別措置法第86条の4)。
廃業後に残る義務・保管が必要なもの
| 書類等 | 保存期間 | 理由 |
|---|---|---|
| 帳簿(収入・必要経費を記載した帳簿) | 7年間(青色・白色とも) | 税務調査対応 |
| 決算書類(棚卸表等) | 7年間(青色)/5年間(白色) | 同上 |
| 領収書等の現金・預金取引の書類 | 7年間(青色。前々年の所得が一定額以下の小規模事業者は5年間)/5年間(白色) | 同上 |
| 請求書・見積書・納品書等 | 5年間 | 同上 |
| インボイス(電子取引データ) | 7年間 | 電子帳簿保存法 |
| 従業員の賃金台帳 | 3年間(当面5年間保存を推奨) | 労働基準法 |
見落としやすいポイントまとめ
- [ ] インボイス登録の取り消し申請(登録したままにしてもよいが、不要であれば取り消す)
- [ ] 事業用銀行口座・クレジットカードの解約は確定申告後に(廃業年分の経費計上に必要)
- [ ] 小規模企業共済に加入していた場合:廃業による解約手続き(廃業届のコピーが必要。受取額と税の扱いは小規模企業共済2026完全ガイドを参照)
- [ ] 従業員の「雇用保険被保険者証」の返却・手続き
- [ ] 顧客・取引先への廃業通知
まとめ
個人事業主の廃業手続きは複数の窓口に分散している。税務署への廃業届→都道府県・市区町村への届出→社会保険の切り替え→翌年の確定申告という流れが基本だ。インボイス登録をしている場合は取り消し手続きも必要になる。
帳簿・書類の保管期間(帳簿は7年、書類は5〜7年)は廃業後も続くため、書類はすぐに処分せず適切に保管しておこう。
本記事は2026年10月時点の情報に基づいています。届出の書式・期限は改正により変わる場合があります。個別の廃業手続きについては税務署・税理士・社会保険労務士にご相談ください。


