最終更新日: 2026年5月1日
退職金の手取りは「いくら税金が引かれるか」で大きく変わります。 退職所得は給与所得に比べて優遇されているとよく言われますが、その正体は「退職所得控除」「1/2課税」「分離課税」の3点セットです。一方で、役員等として勤続5年以下の「特定役員退職手当等」(所得税法第30条第4項)や、令和4年1月1日以後の「短期退職手当等」(所得税法第30条第5項)は1/2課税が制限されるため、勤続年数が短い方は要注意です。本記事では、退職所得控除の計算式、1/2課税のロジック、累進税率と速算控除の使い方、申告書未提出時の20.42%源泉徴収、同年複数退職の合算ルール、障害退職の控除割増100万円までを、勤続15・20・25・30・35年×退職金1,500万・2,000万・3,000万円のシミュレーション10パターン付きで解説します。
- 退職所得控除:勤続20年以下は40万円×年数(最低80万円)、20年超は800万円+70万円×(年数−20年)。1年未満の端数は切り上げ
- 1/2課税:(退職金 − 控除額)× 1/2 = 課税退職所得金額。ただし特定役員退職手当等は1/2不適用、短期退職手当等は控除後300万円超部分が1/2不適用
- 分離課税の累進税率:他の所得と合算せず、課税退職所得金額に独立して累進税率(5〜45%)を適用。住民税は一律10%、復興特別所得税は所得税×2.1%
【出典】 所得税法第30条/所得税法施行令第69条・第70条/国税庁タックスアンサーNo.1420「退職金を受け取ったとき」、No.2725「退職所得となるもの」、No.2735「同じ年に2か所以上から退職手当等が支払われるとき」、No.2732「退職手当等に対する源泉徴収」/国税庁「退職所得の受給に関する申告書」記載要領/総務省「個人住民税の所得割(退職所得に係る分離課税)」。
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本記事は、ハブ記事「退職金税制改正2026」のサブ記事①「税額計算」として、改正の影響を受けるかどうかを問わず、すべての退職金受給者に共通する計算ロジックを一次ソース整合で詳述します。改正論点(5年→10年ルール)はハブ記事を、年代別の戦略はハブ記事§4「年代別シミュレーション」を併せてご参照ください。
1. 退職所得とは——なぜ退職金は税負担が軽いのか
退職所得の範囲
退職所得とは、退職により勤務先から受ける退職手当・一時恩給などのほか、社会保険制度等に基づく一時金で長年の勤労に対する報酬の後払い的性格を持つものを指します(所得税法第30条第1項、国税庁タックスアンサーNo.2725)。具体的には、以下のような一時金がすべて「退職所得」として課税されます。
| 種類 | 内容 |
|---|---|
| 退職手当・退職一時金 | 会社の就業規則・退職金規程等に基づき支給される退職金 |
| 確定拠出年金(iDeCo・企業型DC)の老齢一時金 | 60歳以降に一時金として受給する場合 |
| 確定給付企業年金(DB)の一時金 | 退職時に一時金で受給する場合 |
| 厚生年金基金・適格退職年金の一時金 | 解散・移換時を含む |
| 小規模企業共済の共済金(一時金) | 共済金A・B・準共済金の一括受取(共済事由に応じて退職所得扱い) |
| 中小企業退職金共済(中退共) | 退職時の一時払退職金 |
給与所得との3つの違い
退職所得が給与所得より大幅に優遇されている理由は、以下の3点です。
- 退職所得控除:勤続年数に応じた高額の所得控除が認められる
- 1/2課税:控除後の残額をさらに2分の1にして課税対象とする(一定の例外あり)
- 分離課税:他の所得(給与・事業・年金等)と合算せず、退職所得単独で累進税率を適用する
これは「退職金は長年の勤労の対価が一度に支払われる性格を持つため、単年で他の所得と合算すると累進税率で過大な税負担になる」という政策的配慮によるものです。
2. 退職所得控除の計算式と早見表
計算式(所得税法第30条第3項、所得税法施行令第69条)
退職所得控除額は、勤続年数(または加入期間)に応じて以下の式で計算されます。
| 勤続年数(A) | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円 × A(最低80万円) |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 ×(A − 20年) |
端数処理の3ルール
- 1年未満の端数は切り上げ(例:20年1か月→21年、20年と1日でも21年扱い)
- 勤続2年以下で計算式の結果が80万円未満となる場合は最低保証80万円
- 障害者となったことが直接の原因で退職した場合は100万円を加算(所得税法第30条第3項第3号)
退職所得控除額 早見表
| 勤続年数 | 控除額 | 勤続年数 | 控除額 |
|---|---|---|---|
| 1年(最低保証適用) | 80万円 | 22年 | 940万円 |
| 5年 | 200万円 | 25年 | 1,150万円 |
| 10年 | 400万円 | 30年 | 1,500万円 |
| 15年 | 600万円 | 35年 | 1,850万円 |
| 20年 | 800万円 | 38年 | 2,060万円 |
| 21年 | 870万円 | 40年 | 2,200万円 |
※ 端数切り上げ・障害退職100万円加算・最低保証80万円の各ルールが優先されます。
計算チェック例
- 勤続15年4か月:端数切り上げで16年扱い → 40万円 × 16年 = 640万円
- 勤続22年8か月:23年扱い → 800万円 + 70万円 ×(23 − 20)= 1,010万円
- 勤続35年6か月:36年扱い → 800万円 + 70万円 ×(36 − 20)= 1,920万円
- 勤続35年6か月かつ障害退職:1,920万円 + 100万円 = 2,020万円
3. 1/2課税のロジックと2つの例外
課税退職所得金額の計算式
退職金本体から退職所得控除額を差し引き、残額を2分の1にしたものが課税退職所得金額です。これに分離課税の累進税率を適用して所得税を計算します。
課税退職所得金額 =(退職金 − 退職所得控除額)× 1/2
ただし、以下の2類型については1/2課税が制限されます。
例外①:特定役員退職手当等(所得税法第30条第4項)
役員等としての勤続年数が5年以下である者が、その役員等勤続期間に対応する退職手当として受け取るものを「特定役員退職手当等」といいます。具体的には以下が該当します(国税庁タックスアンサーNo.2737)。
- 法人税法上の役員(取締役・執行役・会計参与・監査役・理事・監事・清算人)
- 国会議員・地方議会議員
- 国家公務員・地方公務員(特別職を含む)
特定役員退職手当等の計算式:
課税退職所得金額(特定役員分)= 退職金 − 退職所得控除額
(1/2課税は不適用)
例外②:短期退職手当等(所得税法第30条第5項、令和4年1月1日以後適用)
役員等以外の者で、勤続年数が5年以下である方が受ける退職手当を「短期退職手当等」といいます。令和3年度税制改正で創設され、令和4年1月1日以後に支払を受けるべき退職手当等から適用されています(国税庁タックスアンサーNo.2738)。
短期退職手当等の計算式:
| 区分 | 計算式 |
|---|---|
| 退職金 − 控除額 ≦ 300万円 | (退職金 − 控除額)× 1/2 |
| 退職金 − 控除額 > 300万円 | 150万円(=300万円×1/2)+(退職金 − 控除額 − 300万円) |
つまり、控除後の残額のうち300万円までは1/2課税、300万円を超える部分は1/2なしでそのまま課税対象となります。
計算例:勤続5年・退職金1,000万円(短期退職手当等該当)
- 控除:40万円 × 5年 = 200万円
- 控除後残額:1,000万 − 200万 = 800万円
- 300万円超過部分:800万 − 300万 = 500万円
- 課税退職所得金額:(300万 × 1/2)+ 500万 = 150万 + 500万 = 650万円
- 同条件で従来通り1/2課税が適用された場合の課税退職所得:800万 × 1/2 = 400万円
- 差額:250万円分の課税ベースが増加
一般退職手当等との重複適用
役員勤続期間と一般従業員期間が重なる方が複数の退職手当を別々に受け取った場合は、特定役員部分・短期部分・一般部分で計算を分け、それぞれの課税退職所得金額を合算します。実務では会社が源泉徴収段階で計算を行いますが、複数会社からの退職手当を同一年内に受ける場合(§6参照)は、自分でも計算を確認することを強くおすすめします。
4. 税額計算ステップ——所得税・復興特別所得税・住民税
分離課税の累進税率と速算控除
課税退職所得金額が確定したら、以下の速算表で所得税額を計算します(所得税法第89条、給与所得等の総合課税と同じ税率テーブル)。
| 課税退職所得金額(A) | 税率 | 速算控除額 |
|---|---|---|
| 195万円以下 | 5% | 0円 |
| 195万円超 330万円以下 | 10% | 9万7,500円 |
| 330万円超 695万円以下 | 20% | 42万7,500円 |
| 695万円超 900万円以下 | 23% | 63万6,000円 |
| 900万円超 1,800万円以下 | 33% | 153万6,000円 |
| 1,800万円超 4,000万円以下 | 40% | 279万6,000円 |
| 4,000万円超 | 45% | 479万6,000円 |
※速算表内の表記(「42万7,500円」など)で統一。本文中も同様に万円+千円表記に修正。
所得税額 = A × 税率 − 速算控除額
復興特別所得税
2037年(令和19年)12月31日までは、所得税額 × 2.1% が復興特別所得税として加算されます(東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法第13条)。
復興特別所得税 = 所得税額 × 2.1%
所得税及び復興特別所得税合計 = 所得税額 × 1.021
住民税(地方税法第50条の2、第328条)
退職所得に対する住民税も分離課税で、以下の通り一律10%(道府県民税4%+市町村民税6%)が適用されます。
住民税額 = 課税退職所得金額 × 10%
住民税は支払時に特別徴収されるのが原則で、退職金から源泉徴収(特別徴収)された段階で課税関係は完了します。後日、市町村から追加で住民税が請求されることはありません(同年に確定申告が必要なケースを除く)。
4ステップの計算フロー
Step 1:退職所得控除額を計算
例:勤続30年 → 800万円 + 70万円 × 10年 = 1,500万円
Step 2:(退職金 − 退職所得控除額)÷ 2 = 課税退職所得金額
例:退職金2,500万円、控除1,500万円
→ (2,500 − 1,500) ÷ 2 = 500万円
Step 3:課税退職所得金額に所得税率を適用(速算控除を引く)
500万円 × 20% − 42万7,500円 = 57万2,500円(所得税)
Step 4:復興特別所得税(所得税×2.1%)+ 住民税(10%)を加算
復興特別所得税:57万2,500円 × 2.1% ≒ 1万2,022円
所得税+復興税:57万2,500円 + 1万2,022円 = 58万4,522円
住民税:500万円 × 10% = 50万円
税額合計:約108万4,522円
手取り:2,500万円 − 約108.5万円 = 約2,391.5万円
【誤解しやすいポイント】 速算控除額を引き忘れると、所得税が大幅に過大計算されます。たとえば課税退職所得500万円を「単純に20%」で計算すると100万円になってしまいますが、正しくは速算控除42万7,500円を差し引いた57.25万円が所得税額です。
5. 勤続年数×退職金額シミュレーション10パターン
以下は、すべて一般従業員(特定役員・短期退職手当等に非該当)・障害退職以外・同年複数退職なしを前提とした標準的な計算です。所得税には復興特別所得税(2.1%)を含めた金額を表示しています。
サマリー早見表(勤続15・20・25・30・35年 × 退職金1,500万・2,000万・3,000万円)
| 勤続年数 | 退職所得控除 | 退職金1,500万円 税額合計 / 手取り |
退職金2,000万円 税額合計 / 手取り |
退職金3,000万円 税額合計 / 手取り |
|---|---|---|---|---|
| 15年 | 600万円 | 約93.2万円 / 約1,406.8万円 | 約169.5万円 / 約1,830.5万円 | 約367.5万円 / 約2,632.5万円 |
| 20年 | 800万円 | 約62.8万円 / 約1,437.2万円 | 約138.9万円 / 約1,861.1万円 | 約323.8万円 / 約2,676.2万円 |
| 25年 | 1,150万円 | 約26.4万円 / 約1,473.6万円 | 約85.6万円 / 約1,914.4万円 | 約247.3万円 / 約2,752.7万円 |
| 30年 | 1,500万円 | 0円 / 1,500万円(=退職金が控除以下) | 約40.6万円 / 約1,959.4万円 | 約186.2万円 / 約2,813.8万円 |
| 35年 | 1,850万円 | 0円 / 1,500万円(=退職金が控除以下) | 約11.3万円 / 約1,988.7万円 | 約131.3万円 / 約2,868.7万円 |
※ 復興特別所得税(所得税×2.1%)・住民税10%を含めた合計額。万円未満の端数は四捨五入のため、内訳と総額に若干のズレが生じる場合があります。詳細計算は次の各パターンを参照してください。なお下記10パターンは表の太字セル(10ケース)に対応する代表値です。
パターン1:勤続15年・退職金1,500万円
- 控除:40万円 × 15 = 600万円
- 課税退職所得:(1,500 − 600) ÷ 2 = 450万円
- 所得税:450万 × 20% − 42万7,500 = 47.25万円
- 復興税:47.25万 × 2.1% ≒ 0.99万円
- 住民税:450万 × 10% = 45万円
- 税額合計:約93.24万円 → 手取り約1,406.76万円
パターン2:勤続15年・退職金2,000万円
- 控除:600万円
- 課税退職所得:(2,000 − 600) ÷ 2 = 700万円
- 所得税:700万 × 23% − 63万6,000 = 97.4万円
- 復興税:97.4万 × 2.1% ≒ 2.05万円
- 住民税:70万円
- 税額合計:約169.45万円 → 手取り約1,830.55万円
パターン3:勤続15年・退職金3,000万円
- 控除:600万円
- 課税退職所得:(3,000 − 600) ÷ 2 = 1,200万円
- 所得税:1,200万 × 33% − 153万6,000 = 242.4万円
- 復興税:242.4万 × 2.1% ≒ 5.09万円
- 住民税:120万円
- 税額合計:約367.49万円 → 手取り約2,632.51万円
パターン4:勤続20年・退職金1,500万円
- 控除:40万円 × 20 = 800万円
- 課税退職所得:(1,500 − 800) ÷ 2 = 350万円
- 所得税:350万 × 20% − 42万7,500 = 27.25万円
- 復興税:27.25万 × 2.1% ≒ 0.57万円
- 住民税:35万円
- 税額合計:約62.82万円 → 手取り約1,437.18万円
パターン5:勤続20年・退職金2,000万円
- 控除:800万円
- 課税退職所得:(2,000 − 800) ÷ 2 = 600万円
- 所得税:600万 × 20% − 42万7,500 = 77.25万円
- 復興税:77.25万 × 2.1% ≒ 1.62万円
- 住民税:60万円
- 税額合計:約138.87万円 → 手取り約1,861.13万円
パターン6:勤続25年・退職金2,000万円
- 控除:800万 + 70万 × 5 = 1,150万円
- 課税退職所得:(2,000 − 1,150) ÷ 2 = 425万円
- 所得税:425万 × 20% − 42万7,500 = 42.25万円
- 復興税:42.25万 × 2.1% ≒ 0.89万円
- 住民税:42.5万円
- 税額合計:約85.64万円 → 手取り約1,914.36万円
パターン7:勤続25年・退職金3,000万円
- 控除:1,150万円
- 課税退職所得:(3,000 − 1,150) ÷ 2 = 925万円
- 所得税:925万 × 33% − 153万6,000 = 151.65万円
- 復興税:151.65万 × 2.1% ≒ 3.18万円
- 住民税:92.5万円
- 税額合計:約247.33万円 → 手取り約2,752.67万円
パターン8:勤続30年・退職金2,000万円
- 控除:800万 + 70万 × 10 = 1,500万円
- 課税退職所得:(2,000 − 1,500) ÷ 2 = 250万円
- 所得税:250万 × 10% − 9万7,500 = 15.25万円
- 復興税:15.25万 × 2.1% ≒ 0.32万円
- 住民税:25万円
- 税額合計:約40.57万円 → 手取り約1,959.43万円
パターン9:勤続30年・退職金3,000万円
- 控除:1,500万円
- 課税退職所得:(3,000 − 1,500) ÷ 2 = 750万円
- 所得税:750万 × 23% − 63万6,000 = 108.9万円
- 復興税:108.9万 × 2.1% ≒ 2.29万円
- 住民税:75万円
- 税額合計:約186.19万円 → 手取り約2,813.81万円
パターン10:勤続35年・退職金3,000万円
- 控除:800万 + 70万 × 15 = 1,850万円
- 課税退職所得:(3,000 − 1,850) ÷ 2 = 575万円
- 所得税:575万 × 20% − 42万7,500 = 72.25万円
- 復興税:72.25万 × 2.1% ≒ 1.52万円
- 住民税:57.5万円
- 税額合計:約131.27万円 → 手取り約2,868.73万円
6. 同年複数退職と「退職所得の受給に関する申告書」
同年複数退職の合算ルール(所得税法施行令第69条第1項第1号)
同じ年に2か所以上から退職手当等の支払を受ける場合、退職所得控除は合算した退職金全体に対して、最も長い勤続期間(または加入期間)を基準に1回だけ計算されます(国税庁タックスアンサーNo.2735)。
計算ステップ:
- すべての退職手当等の合計額を算出
- 各支給元の勤続期間(または加入期間)のうち最も長い期間を選び、退職所得控除額を計算
- ただし、勤続期間の重複部分があれば調整(重複期間に対応する控除額をカット)
「退職所得の受給に関する申告書」の役割
退職金支払時、勤務先に「退職所得の受給に関する申告書」(所得税法第203条)を提出すれば、勤務先が正規の退職所得課税で源泉徴収を行うため、原則として確定申告不要です。
申告書を提出しない場合のペナルティ:
退職金の支払金額に対して一律20.42%(所得税20%+復興特別所得税0.42%)の源泉徴収が行われます(所得税法第201条第3項)。住民税は別途特別徴収。退職所得控除も1/2課税もいったん無視して、退職金額の20.42%が天引きされる仕組みです。
例:退職金2,000万円・申告書未提出
源泉徴収額:2,000万円 × 20.42% = 408.4万円
(住民税は別途特別徴収)
このうち過大に源泉徴収された分は、翌年の確定申告で還付を受けられます。ただし、「申告書を出し忘れたから申告すれば自動で戻る」というほど単純ではなく、退職所得の源泉徴収票を保管し、確定申告書の第三表(分離課税用)に正しく記載する必要があります。
確定申告が必要なケース
申告書を提出済みでも、以下に該当する場合は確定申告で精算が必要です。
- 同年中に複数の退職手当等を受給し、各支給元が他社受給を把握していなかった場合
- 医療費控除・寄附金控除等の所得控除を退職所得から差し引きたい場合(給与所得等で引ききれない控除を退職所得に振り替え可能)
- 退職金から源泉徴収された所得税の還付を受ける場合(退職後の年内に給与所得等が大きく減り、年末調整で精算しきれないケース等)
- 退職金の課税誤り(特定役員区分の誤適用・控除額の計算誤り等)が判明した場合
7. よくある質問(FAQ)
A. ケースバイケースですが、以下が判断軸です。
- 一時金で受け取る場合:退職所得として課税。退職所得控除+1/2課税+分離課税の3点優遇が受けられる。控除内に収まれば非課税
- 年金で受け取る場合:公的年金等の雑所得として課税。公的年金等控除(年110万円〜、年齢・他年金額で変動)が適用される一方、運用益が継続的に上乗せされるメリットあり
判断のポイント:
- 退職金額が退職所得控除の枠に収まるか/大きく超過するか
- 退職後の他の所得(公的年金・不動産所得等)がいくら見込まれるか
- 受給中に大きな出費(住宅ローン完済・子の教育費等)が予定されているか
一般的には、「退職所得控除内なら一時金、控除を大きく超過するなら一部年金で平準化」が定番の戦略です。詳細はハブ記事「退職金税制改正2026」§4「年代別シミュレーション」を参照してください。
A. 翌年の2月16日〜3月15日に確定申告を行えば、過大に源泉徴収された所得税が還付されます。手順は以下の通りです。
- 勤務先から「退職所得の源泉徴収票・特別徴収票」を受領(退職後1か月以内に交付義務)
- 確定申告書の第三表(分離課税用)に退職所得を記載
- 第一表で正規の退職所得控除・1/2課税を反映した税額を計算
- 源泉徴収された20.42%との差額を還付申告として提出
確定申告期限を過ぎた場合でも、還付申告は5年間(翌年1月1日〜5年)遡って行えます(所得税法第122条)。
A. 役員勤続期間と従業員勤続期間に分けて計算します(所得税法施行令第71条の2)。
- 役員勤続5年以下:その期間に対応する退職金は「特定役員退職手当等」で1/2不適用
- 従業員勤続部分:通常の退職所得計算(控除+1/2課税)
実務では会社が源泉徴収段階で計算を分けますが、退職所得の源泉徴収票には特定役員部分と一般部分が分けて記載されますので、必ず確認してください。役員就任時期を退職日から逆算して5年超になるよう調整できれば、特定役員退職手当等の適用を回避できます(取締役会・株主総会の議事録で就任日を確認)。
A. 退職所得控除額に100万円が加算されます(所得税法第30条第3項第3号)。「障害者となったことが直接の原因で退職した場合」が要件で、退職後に障害者となった場合は対象外です。
例:勤続20年・退職金1,000万円・障害退職
- 通常控除:800万円
- 障害加算:+100万円
- 控除合計:900万円
- 課税退職所得:(1,000 − 900) ÷ 2 = 50万円
- 所得税:50万 × 5% = 2.5万円(+復興税)
- 住民税:5万円
退職時に身体障害者手帳・精神障害者保健福祉手帳・療育手帳等の交付申請を進めている場合は、退職金支払前に申告書に「障害退職に該当」する旨を記載できれば源泉徴収段階で適用されます。間に合わない場合は確定申告で精算します。
A. 役員等以外の者で、勤続年数が5年以下の者が支給を受ける退職手当等が対象です(所得税法第30条第5項)。具体的には以下が該当します。
- 早期退職一時金(勤続5年以下)
- 中途採用社員の早期退職金(勤続5年以下)
- 転職5年以内の希望退職金
重要:1/2課税が完全に不適用になるわけではなく、「控除後残額のうち300万円超部分」だけが1/2不適用です。控除後残額が300万円以下なら通常通り1/2課税が適用されますので、勤続5年以下でも退職金が小規模なら影響は限定的です。
A. 本人の死亡後3年以内に支給が確定した死亡退職金は、所得税ではなく相続税の課税対象になります(相続税法第3条第1項第2号)。所得税法上の退職所得には該当しません。
- 法定相続人 × 500万円の非課税枠あり(相続税法第12条第1項第6号)
- 残額は相続財産として相続税の総合課税
死亡後3年経過後に支給される退職金は、受取人の一時所得として所得税課税となります(国税庁タックスアンサーNo.1421)。実務では稀なケースですが、退職金規程上の支給時期と本人死亡時期の関係を確認してください。
A. 使えますが、注意が必要です。退職所得は分離課税のため、給与所得・事業所得等と切り離して税額計算されます。ふるさと納税のワンストップ特例制度(年5自治体以内・確定申告不要)では、退職所得は控除の母体に含まれないのが原則です。
退職金が大きく、所得税額が高い年は、確定申告でふるさと納税の寄附金控除を申告すれば、退職所得の所得税からも住民税からも控除を受けられます(地方税法第37条の2)。
例:退職金2,500万円・課税退職所得500万円
退職所得の所得税:57.25万円、住民税:50万円
ふるさと納税限度額の目安(給与所得・年収500万円との合算で計算)
ただし、ふるさと納税の控除上限額は所得・所得税率・住民税課税所得に応じて変動します。退職金がある年は、シミュレーションサイト(さとふる・ふるなび等の公式計算ツール)または税理士への相談で限度額を確認してから寄附することを強くおすすめします。
8. まとめ——3つの基本式と4つの注意点
暗記すべき3つの基本式
- 退職所得控除:勤続20年以下=40万円×年数(最低80万円)/勤続20年超=800万円+70万円×(年数−20年)
- 1/2課税:(退職金 − 控除額)× 1/2 = 課税退職所得金額
- 税額:課税退職所得金額 ×(5〜45%累進)− 速算控除 +(所得税×2.1%)+(課税退職所得金額×10%)
4つの実務的注意点
- 役員勤続5年以下の特定役員退職手当等は1/2課税不適用——役員就任時期と退職日の関係を必ず確認
- 役員以外の勤続5年以下の短期退職手当等は控除後300万円超部分が1/2不適用——令和4年1月1日以後適用
- 「退職所得の受給に関する申告書」未提出は20.42%源泉徴収——支給日までに必ず提出
- 同年複数退職は最長勤続期間で控除を1回計算(重複期間調整あり)——同年内併給予定の方は事前に税理士相談
改正論点(DC一時金・5年→10年ルール)はハブ記事へ
本記事は退職金「単独受給」の税額計算を完全網羅しました。退職金とiDeCo・企業型DC一時金を別の年に受給する場合、令和8年(2026年)1月1日施行の「5年→10年ルール」改正の影響を受けます。受取順序設計・年代別戦略・経過措置は、ハブ記事「退職金税制改正2026|DC一時金「5年→10年ルール」施行の実務ガイド」をご参照ください。
退職金の手取りは、設計の有無で数百万円〜1,000万円単位で変わります。控除内に収まる方は非課税で全額受給できますが、超過する方ほど早めの設計が手取り額に直結します。退職予定の3〜5年前から税理士・FPと総合シミュレーションを行うことを強くおすすめします。
参考文献・出典:
- 所得税法第30条(退職所得)、第89条(税率)、第201条(源泉徴収)、第203条(退職所得の受給に関する申告書)
- 所得税法施行令第69条(退職所得控除額)、第70条(重複期間の調整)、第71条の2(特定役員退職手当等)
- 国税庁タックスアンサーNo.1420「退職金を受け取ったとき」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1420.htm
- 国税庁タックスアンサーNo.2725「退職所得となるもの」、No.2732「退職手当等に対する源泉徴収」、No.2735「同じ年に2か所以上から退職手当等が支払われるとき」、No.2737「役員等の勤続年数が5年以下の者に対する退職手当等」、No.2738「短期退職手当等」
- 総務省「個人住民税の概要(退職所得に係る分離課税)」https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/individual-inhabitant-tax.html
- 地方税法第50条の2(道府県民税)、第328条(市町村民税)
【免責事項】 本記事は2026年5月1日時点の情報に基づいて作成されています。税制は毎年改正されるため、実際の税額計算・申告にあたっては、最新の国税庁タックスアンサー・税法および顧問税理士の助言をご確認ください。記載のシミュレーション数値はモデルケースであり、個別の所得状況・控除適用・地方自治体の税率調整等により実際の税額と異なる場合があります。



