最終更新日: 2026年5月
【結論】 労災保険の年金系給付は、①療養開始から1年6か月が経過しても治らない場合の「傷病補償年金」、②治癒後も後遺障害が残った場合の「障害補償年金(1〜7級)」、③死亡時の「遺族補償年金」の3種類がある。いずれも 給付基礎日額に一定の日数を乗じた年金額 が、毎年2月・4月・6月・8月・10月・12月の年6回に分けて支給される(労災保険法第9条・第15条・第16条)。厚生年金(障害厚生年金・遺族厚生年金)と並行して受給できるが、労災側が満額・厚生年金側が一定率で減額される仕組みになっている。本記事では3つの年金系給付を体系的に整理し、実務で即役立つ計算例・手続き・FAQ を網羅する。
1. 年金系給付と一時金給付の違い:なぜ「年金」が重要か
労災保険の給付は、「一時金(単発払い)」と「年金(毎年継続払い)」に大別される。
| 区分 | 給付名 | 対象状態 |
|---|---|---|
| 一時金 | 休業補償給付 | 治療中・休業中(最長1年6か月) |
| 年金 | 傷病補償年金 | 1年6か月後も治癒せず・重度状態 |
| 年金 or 一時金 | 障害補償(年金:1〜7級 / 一時金:8〜14級) | 治癒後に後遺障害が残った |
| 年金 or 一時金 | 遺族補償(年金 or 一時金) | 死亡時 |
休業補償給付の計算方法はこちらの記事で詳しく解説している。本記事は「治らない」「後遺障害が残る」「死亡」という長期化・重度化シナリオに特化した解説だ。
年金系給付の共通仕組み
3つの年金給付に共通する基本ルールを先に整理する。
- 給付基礎日額:労災発生前3か月の賃金合計 ÷ 暦日数で算出(労災保険法第8条)
- 算定基礎日額:ボーナス等の特別給与を加味した日額(特別支給金の計算に使用)
- 支払い回数:年6回(2月・4月・6月・8月・10月・12月)、各回は当月分と前月分の計2か月分
- 非課税:年金も所得税・住民税の対象外(所得税法第9条第1項第17号)
- 時効:障害補償年金・遺族補償年金は 5年(傷病補償年金は職権による切替のため時効不適用)
2. 傷病補償年金:1年6か月が分岐点
2-1. 支給要件と等級体系
療養開始から1年6か月が経過した時点で次の2条件を満たす場合、休業補償給付から傷病補償年金に切り替わる(労災保険法第12条の8第3項。年金額の算定は第18条)。
- 傷病が治癒していない(症状固定でない)
- 傷病等級1〜3級に該当する重度の状態である
| 傷病等級 | 状態の目安 | 年金日数 |
|---|---|---|
| 1級 | 常時介護を要する状態(両眼失明、脊髄損傷で常時臥床など) | 313日分/年 |
| 2級 | 随時介護を要する状態(一上肢を手関節以上で失うなど) | 277日分/年 |
| 3級 | 就労が困難な状態(一眼失明かつ他眼の視力が0.06以下など) | 245日分/年 |
【重要】傷病等級は傷病補償年金固有の分類であり、後述する障害等級(1〜14級)とは別体系。傷病が治癒・症状固定した段階で障害等級の審査が行われる。
2-2. 職権切替の仕組み(請求書類は不要)
傷病補償年金への切替は、労働基準監督署長の職権で行われる(労災保険法第12条の8第3項に基づく支給決定)。被災労働者・事業主が申請書を提出する必要はない。ただし、所轄の労働基準監督署から「傷病の状態に関する届」の提出を求められるため、これには正確に対応する必要がある。
- 切替タイミング:療養開始1年6か月後(ただし、その時点で傷病等級に該当すると労基署が判断した場合)
- 切替後:休業補償給付は自動停止。事業主への報告義務(平均賃金算定のための資料提供)あり
- 時効の問題なし:職権切替のため請求権の時効(5年)は傷病補償年金には適用されない
2-3. 傷病特別年金・傷病特別支給金
傷病補償年金に加え、算定基礎日額(ボーナス等を加味した日額) を基にした上乗せ給付がある。
| 給付名 | 計算式 | 内容 |
|---|---|---|
| 傷病特別年金 | 算定基礎日額 × 等級別日数 | 毎年受け取る年金(特別給与分) |
| 傷病特別支給金 | 一定額(等級別一時金) | 1級:114万円 / 2級:107万円 / 3級:100万円 |
傷病特別支給金は切替時に1回限り支給される一時金。今後の生活費・医療費の確保に充てることが多い。
2-4. 年収別シミュレーション①(傷病1級・1年6か月時点切替)
前提条件
– 年収500万円(月給約41.7万円・ボーナスなし)
– 給付基礎日額:500万円 ÷ 365日 = 約13,699円
– 算定基礎日額:ボーナスなし(給付基礎日額と同額と仮定)
– 傷病等級1級認定・常時介護が必要な状態
| 給付の種類 | 計算式 | 年間支給額 |
|---|---|---|
| 傷病補償年金 | 13,699円 × 313日 | 約428万9,000円 |
| 傷病特別年金 | 13,699円 × 313日 | 約428万9,000円(追加) |
| 傷病特別支給金 | 1級一時金 | 114万円(切替時1回限り) |
3. 障害補償年金:「症状固定」が分岐点
3-1. 障害等級の体系(1〜14級)
傷病が「治癒(症状固定)」した後、残存する後遺障害の程度に応じて障害等級が認定される。障害等級1〜14級のうち、1〜7級は年金、8〜14級は一時金で給付される(労災保険法第15条・第15条の2)。
| 障害等級 | 給付種別 | 年金日数(or 一時金日数) | 状態例 |
|---|---|---|---|
| 第1級 | 年金 | 313日分/年 | 両眼失明、両上肢を手関節以上で失う等 |
| 第2級 | 年金 | 277日分/年 | 一眼失明かつ一上肢を手関節以上で失う等 |
| 第3級 | 年金 | 245日分/年 | 一眼失明かつ他眼の視力が0.06以下等 |
| 第4級 | 年金 | 213日分/年 | 両眼の視力が0.06以下等 |
| 第5級 | 年金 | 184日分/年 | 一上肢を肘関節以上で失う等 |
| 第6級 | 年金 | 156日分/年 | 一上肢の3大関節すべての機能廃止等 |
| 第7級 | 年金 | 131日分/年 | 一耳の聴力を全廃かつ他耳が40cm以上では聞こえない等 |
| 第8〜14級 | 一時金 | 503〜56日分(一時金) | 指の欠損・関節の機能障害等 |
根拠:労働者災害補償保険法施行規則別表第1(障害等級表)
3-2. 「治癒(症状固定)」の重要性
障害補償の審査開始には、主治医が「症状固定」と判断することが前提となる。症状固定とは「これ以上治療を続けても症状が改善しない状態」を意味し、治った(完治)という意味ではない。
- 主治医が症状固定と判断 → 傷病補償年金・休業補償給付の受給終了 → 障害等級審査へ
- 症状固定日以降の医療費は原則として労災の療養補償給付対象外(ただし、症状固定後も継続する一部の診療は認められる場合がある)
- 症状固定の時期について主治医と意見が合わない場合は、労働基準監督署に相談するか、専門家(弁護士・社労士)への相談を検討すること
3-3. 障害補償年金前払一時金
障害補償年金の受給者は、将来分の年金を一括前払いで受け取ることができる(労災保険法第59条)。
| 請求額 | 前払日数 | 内容 |
|---|---|---|
| 最大1,340日分 | 200〜1,340日分(200日単位で選択。労災保険法施行規則第31条等で規定) | 年金の受給開始後、残り年金から差し引く形で調整 |
前払一時金を使う典型的なケース
– 義肢・補聴器・車椅子等の高額補助器具の購入
– 住宅のバリアフリー改修費用
– 医療費の一括支払い
3-4. 障害特別年金・障害特別支給金
| 給付名 | 計算式 | 特徴 |
|---|---|---|
| 障害特別年金 | 算定基礎日額 × 等級別日数 | 毎年継続(算定基礎日額が低ければ低くなる) |
| 障害特別支給金 | 等級別一定額 | 1回限りの一時金。1級342万円〜7級159万円 |
障害特別支給金の具体額(1〜7級):
| 等級 | 特別支給金 |
|---|---|
| 1級 | 342万円 |
| 2級 | 320万円 |
| 3級 | 300万円 |
| 4級 | 264万円 |
| 5級 | 225万円 |
| 6級 | 192万円 |
| 7級 | 159万円 |
3-5. 年収別シミュレーション②(障害3級・症状固定後)
前提条件
– 年収600万円(月給50万円・ボーナスなし)
– 給付基礎日額:600万円 ÷ 365日 = 約16,438円
– 算定基礎日額:16,438円(ボーナスなし)
– 障害等級3級認定・症状固定(症状固定日に受給権が発生)
| 給付の種類 | 計算式 | 金額 |
|---|---|---|
| 障害補償年金(年額) | 16,438円 × 245日 | 約402万7,000円 |
| 障害特別年金(年額) | 16,438円 × 245日 | 約402万7,000円(追加) |
| 障害特別支給金(一時金) | 3級固定額 | 300万円(認定時1回限り) |
4. 遺族補償年金:死亡時の支給制度
4-1. 受給資格と優先順位
労働者が業務上または通勤途上で死亡した場合、遺族に対して遺族補償年金が支給される(労災保険法第16条)。受給権者の範囲と優先順位は以下のとおり。
| 順位 | 受給権者 | 年齢等要件 |
|---|---|---|
| 第1位 | 妻 | 年齢要件なし(内縁関係含む) |
| 第1位 | 60歳以上の夫、または一定の障害状態の夫 | 死亡当時60歳以上または障害状態 |
| 第2位 | 子 | 18歳に達する日以後の最初の3月31日まで、または一定の障害状態 |
| 第3位 | 60歳以上の父母 | 死亡当時60歳以上または障害状態 |
| 第4位 | 孫 | 子と同じ年齢要件 |
| 第5位 | 60歳以上の祖父母 | 死亡当時60歳以上または障害状態 |
| 第6位 | 兄弟姉妹 | 18歳未満、または60歳以上、または一定の障害状態 |
根拠:労働者災害補償保険法第16条の2・第16条の3。「内縁関係」も法律婚と同等に扱われる。
重要ポイント:妻・夫等の扱いの違い
– 妻:年齢要件なし。年齢にかかわらず受給権者となり、給付も継続する(「若年停止」は妻には適用されない)
– 夫・父母・祖父母・兄弟姉妹:死亡当時に55歳以上であることが受給権の要件。ただし受給開始は60歳から(55〜59歳は受給権があっても支給停止=「若年停止」。労災保険法附則第43条第3項)
4-2. 遺族数に応じた給付日数
遺族補償年金の年金額は、受給権者(最先順位者)に加え、その者と生計を同じくする遺族の数に応じて異なる(労災保険法第16条の3)。
| 受給権者+生計同一の遺族数 | 年金日数 |
|---|---|
| 1人(妻のみ等) | 153日分/年 |
| 2人 | 201日分/年 |
| 3人 | 223日分/年 |
| 4人以上 | 245日分/年 |
【計算例メモ】 妻+子2人の3人の場合は223日分/年。妻のみの場合は153日分/年。子どもが成人するとその分の遺族数が減り、年金額が段階的に下がる。
4-3. 転給制度
受給権者が以下の事由で失権した場合、次の順位の遺族が受給権を取得する「転給」制度がある(労災保険法第16条の4)。
失権となる主な事由
– 死亡
– 再婚(届け出だけでなく事実婚も含む)
– 受給権者の子・孫・兄弟姉妹については年齢超過(18歳の年度末等)
– 労働者との親族関係の消滅(離縁等)
転給が発生した場合、年金額の計算は新たな受給権者を基準に再計算される。ただし、失権した受給権者の人数分の遺族数から差し引いた人数で再計算されるため、年金額が変動する。
4-4. 遺族補償一時金との関係
次のいずれかに該当する場合、遺族補償年金ではなく「遺族補償一時金」が支給される(労災保険法第16条の6)。
- 受給資格のある遺族がいない場合(年齢要件を満たす者がいない等)
- 年金の受給権者全員が失権し、受給総額が1,000日分に達していない場合(差額一時金として支給)
| 区分 | 支給額 |
|---|---|
| 受給資格者なし | 給付基礎日額 × 1,000日分(一時金) |
| 差額一時金 | 給付基礎日額 × 1,000日分 − 既払年金額 |
4-5. 遺族特別年金・遺族特別支給金
| 給付名 | 計算式 | 特徴 |
|---|---|---|
| 遺族特別年金 | 算定基礎日額 × 遺族数別日数(153〜245日) | 遺族補償年金に上乗せ |
| 遺族特別支給金 | 総額300万円 | 死亡確認後に遺族全体へ1回支給 |
遺族特別支給金の300万円は、遺族補償年金の受給権者がいる場合もいない場合(遺族補償一時金受給の場合)も支給される。受給権者が複数いる場合は人数で等分される(労働者災害補償保険特別支給金支給規則第5条第3項)。例えば遺族3人の場合は1人あたり100万円。
4-6. 葬祭料
業務上の死亡では、葬祭を行う者(通常は遺族) に対して葬祭料が支給される(労災保険法第17条)。
葬祭料 = 330,000円 + 給付基礎日額 × 30日
※ 給付基礎日額 × 60日が上記金額を超える場合は、60日分が支給額
根拠:労働者災害補償保険法第17条・労働者災害補償保険法施行規則第17条。定額部分330,000円(三十三万円)は施行規則本文に直接規定されている金額。将来の規則改正の可能性に備え、最新情報は所轄労働基準監督署で確認すること。
4-7. 年収別シミュレーション③(死亡・遺族妻+子2人)
前提条件
– 年収700万円(月給約58.3万円・ボーナスなし)
– 給付基礎日額:700万円 ÷ 365日 = 約19,178円
– 算定基礎日額:19,178円(ボーナスなし)
– 遺族構成:妻(45歳)+子2人(10歳・8歳)= 受給権者+生計同一遺族3人 → 223日分/年
| 給付の種類 | 計算式 | 金額 |
|---|---|---|
| 遺族補償年金(年額) | 19,178円 × 223日 | 約427万7,000円 |
| 遺族特別年金(年額) | 19,178円 × 223日 | 約427万7,000円(追加) |
| 遺族特別支給金(一時金) | 一律 | 300万円(1回限り) |
| 葬祭料 | 330,000円 + 19,178円 × 30日 | 約90万5,000円 |
5. 厚生年金(障害・遺族)との併給調整
5-1. 原則「労災満額、厚生年金減額」
労災補償年金と厚生年金は両方受給できるが、完全な二重取りは認められない。調整の基本原則は「労災給付を優先(満額支給)し、厚生年金を一定率で減額」だ(労災保険法別表第一に基づく政令調整。具体的な調整率は厚生年金保険法施行令第3条の7等で規定)。
| 組み合わせ | 調整方法 |
|---|---|
| 障害補償年金 + 障害厚生年金 + 障害基礎年金(両方受給) | 労災側を 0.73倍 に調整 |
| 障害補償年金 + 障害厚生年金のみ | 労災側を 0.83倍 に調整 |
| 障害補償年金 + 障害基礎年金のみ | 労災側を 0.88倍 に調整 |
| 遺族補償年金 + 遺族厚生年金 + 遺族基礎年金(両方受給) | 労災側を 0.80倍 に調整 |
| 遺族補償年金 + 遺族厚生年金のみ | 労災側を 0.84倍 に調整 |
【根拠】:労働者災害補償保険法施行令第2条・第4条・第6条(法別表第一の第1号〜第3号)。調整率は障害等級ではなく「同時に受給する公的年金の組み合わせ」で決まる点に注意。最新の率は日本年金機構・所轄労働基準監督署で確認すること。
5-2. 調整率の整理(受給する公的年金の組み合わせで決まる)
労災年金との併給調整率は 障害等級では決まらない。被災労働者・遺族が「障害厚生年金のみ」「障害基礎年金のみ」「両方」のいずれを受給するかで以下のように区分される(労災保険法施行令第2条・第4条)。
障害補償年金の調整率(労災側に乗じる係数)
| 同時に受給する公的年金 | 調整率 |
|---|---|
| 障害厚生年金 + 障害基礎年金(両方) | 0.73 |
| 障害厚生年金のみ | 0.83 |
| 障害基礎年金のみ | 0.88 |
遺族補償年金の調整率(労災側に乗じる係数)
| 同時に受給する公的年金 | 調整率 |
|---|---|
| 遺族厚生年金 + 遺族基礎年金(両方) | 0.80 |
| 遺族厚生年金のみ | 0.84 |
| 遺族基礎年金のみ | 0.88 |
5-3. 計算例(障害3級の場合)
前述のシミュレーション②(年収600万円・障害3級)で、被災者が障害厚生年金(基礎年金なし)も受給するケース:
- 障害補償年金(満額):約402万7,000円
- 調整率(障害厚生年金のみ):0.83
- 調整後の障害補償年金:402万7,000円 × 0.83 ≒ 約334万2,000円/年
- 障害厚生年金(仮に年間150万円):満額150万円
- 合計:約334万2,000円 + 150万円 = 約484万2,000円/年
重要:労災給付が減額される仕組みであり、厚生年金が減額される仕組みではない点に注意。個別の年金額は日本年金機構・労働基準監督署に確認すること。職歴・加入月数・標準報酬月額・基礎年金の有無によって大きく変動する。
6. 申請手続き・請求様式と時効
6-1. 各給付の請求様式(書式番号)
| 給付名 | 書式番号 | 提出先 |
|---|---|---|
| 傷病補償年金 | 職権切替(申請書不要) 「傷病の状態等に関する届(様式第16号の2)」の提出のみ | 所轄労働基準監督署 |
| 障害補償年金請求書 | 様式第10号 | 所轄労働基準監督署 |
| 障害補償年金前払一時金請求書 | 様式第10号の2 | 所轄労働基準監督署 |
| 遺族補償年金支給請求書 | 様式第12号 | 所轄労働基準監督署 |
| 遺族補償一時金支給請求書 | 様式第15号 | 所轄労働基準監督署 |
| 葬祭料請求書 | 様式第16号 | 所轄労働基準監督署 |
入手先:各都道府県労働局・所轄労働基準監督署の窓口、または厚生労働省公式サイトからダウンロード可能。各様式は労災保険法施行規則第54条に基づき厚生労働大臣告示で定められているため、改正による様式番号・記載項目の変更がある場合は最新版を入手のうえ使用すること。
6-2. 申請の流れ(障害補償年金を例に)
Step 1:症状固定の確認
– 主治医に現在の症状について確認し、「症状固定」(これ以上の改善が見込めない状態)と判断されているか確認する
– 症状固定日が不明確な場合は、主治医と相談して確認する
Step 2:請求書類の準備
– 様式第10号(障害補償年金請求書)を入手
– 主治医に「障害補償給付支給請求書 医師または歯科医師の診断書」(書式後半部分)を記載してもらう
– その他添付書類(戸籍謄本、労働関係書類等)を準備
Step 3:労働基準監督署への提出
– 事業所を管轄する労働基準監督署(本人または委任状があれば代理人)に提出
– 審査期間の目安:提出から数か月(障害等級の認定には医療記録の精査が必要なため)
Step 4:支給決定の通知受領
– 労働基準監督署から「支給決定通知書」が送付される
– 異議がある場合は通知から3か月以内に審査請求が可能
6-3. 時効の整理
| 給付の種類 | 時効期間 | 起算点 |
|---|---|---|
| 傷病補償年金 | 時効なし(職権切替のため) | — |
| 障害補償年金 | 5年 | 症状固定翌日から |
| 遺族補償年金 | 5年 | 労働者死亡翌日から |
| 葬祭料 | 2年 | 葬祭を行った日の翌日から |
根拠:労働者災害補償保険法第42条
7. 注意点・実務の落とし穴
落とし穴①「症状固定」を急かされた場合
症状が固定していないのに、会社や保険会社(交通事故が絡む場合)から「そろそろ症状固定にしてほしい」と圧力をかけられるケースがある。症状固定のタイミングは医師が医学的に判断するものであり、周囲からの圧力で早期に固定するとその後の治療費が自己負担になりかねない。主治医と十分に相談し、納得できない場合は医療機関の変更や専門家への相談を検討すること。
落とし穴②「若年停止」の対象を誤解しない
「若年停止」は 死亡当時55歳以上60歳未満の夫・父母・祖父母・兄弟姉妹 が受給権者となった場合に、60歳になるまでの間年金が支給停止される制度(労災保険法附則第43条第3項)。妻には適用されない(妻は年齢要件なしで継続受給可能)ため、混同に注意。若年停止期間中は無収入になるリスクがあるため、遺族補償一時金(差額一時金)・特別支給金・葬祭料の活用や、遺族厚生年金(ストレスチェック義務化等でメンタル労災対策と併せて生前から押さえておきたい論点)の確認が重要。60歳到達時の再開には別途届出が必要な場合があるため、所轄労働基準監督署に確認する。
落とし穴③ 等級認定に納得できない場合
障害等級の認定結果に不服がある場合、次の3段階で不服申立が可能(労働保険審査官及び労働保険審査会法)。
- 審査請求:支給決定通知を受けた日から3か月以内に、都道府県労働局の労働保険審査官へ
- 再審査請求:審査官の決定に不服がある場合、労働保険審査会へ
- 行政訴訟:再審査の結果にも不服がある場合、裁判所へ
等級認定の争いは専門的な医学的判断が求められるため、社会保険労務士または弁護士のサポートが実務上有効だ。特に精神疾患(うつ病・適応障害等)の労災認定はカスタマーハラスメント・パワーハラスメント等の職場ストレスとの因果関係が争点になるケースが多く、カスタマーハラスメント対策義務化2026年10月の解説記事で背景を押さえておくと申立準備がしやすい。
落とし穴④ 複数の障害が残った場合の等級計算
業務上の負傷・疾病で複数箇所に後遺障害が生じた場合、等級は単純に合計されるのではなく、「準用等級」の計算ルール(併合の方式)で総合的に判断される(労働者災害補償保険法施行規則第14条)。最も重い障害の等級を基準に、他の障害を考慮して等級を加重する計算が行われる。
落とし穴⑤ 海外赴任中の死亡・傷病
日本の事業主に雇用されている労働者が海外赴任中に業務上の事由で死亡・傷病した場合、原則として日本の労災保険が適用される(「海外派遣の特別加入」が別途あるが、通常の被保険者として海外赴任する場合は通常の労災保険が適用)。ただし、現地採用の場合や現地事業主との直接雇用関係がある場合は適用外となることがある。詳細は所轄労働基準監督署に確認が必要。
8. FAQ
症状固定の時期は、医師が医学的な見地から判断するものだ。主治医の判断に納得できない場合は、以下の対応が考えられる。
- 主治医に改めて説明を求める:現在の症状の状態、今後の改善見込みについて詳しく説明してもらう
- セカンドオピニオンを取得する:別の専門医(同一診療科)に意見を求める
- 労働基準監督署に相談する:症状固定の時期について、監督署の担当官に相談・確認する
- 社会保険労務士・弁護士に相談する:労災事案に詳しい専門家のサポートを受ける
症状固定を早めると、その後の治療費が自己負担になりかねないため、焦らず対応することが重要だ。
前払一時金は主に以下の用途で活用されることが多い。
- 義肢・補聴器・車椅子・特殊寝台等の高額補助器具の購入(労災の補装具費給付制度と併用する場合も)
- 住宅のバリアフリー改修(スロープ設置・手すり設置・浴室改修等)
- 治療に付随する医療費・交通費の一括支払い
- 職業訓練・再就職支援に関する費用
なお、前払いを受けた日数分は以後の年金から差し引かれるため、前払いが本当に有利かどうかは収支計算が必要。社会保険労務士への相談を推奨する。
遺族補償年金の受給権者(妻・夫)が再婚(婚姻届の提出または事実婚の開始)した場合、受給権を失権する(労災保険法第16条の4)。失権後は転給制度により、次の順位の遺族(子など)が受給権を引き継ぐ。なお、再婚の事実は速やかに所轄の労働基準監督署に届け出る義務がある。届け出が遅れると過払いが発生し、返還を求められる可能性がある。
両方を受給できる。ただし、完全な二重受給は認められず、労災側の年金が一定率に減額される(公的年金側が満額のまま、労災側が調整される仕組み)。調整率は「同時に受給する公的年金の組み合わせ」で決まり、障害補償の場合は0.73(厚生+基礎の両方)/0.83(厚生のみ)/0.88(基礎のみ)、遺族補償の場合は0.80(両方)/0.84(厚生のみ)/0.88(基礎のみ)。実際の調整後支給額は日本年金機構と労働基準監督署に確認すること。
変わる場合がある。障害補償年金の受給中に障害の程度が変化した場合、定期的な診断(「定期報告」)の結果を踏まえて等級の変更審査が行われる。症状が悪化した場合は等級が上がり(年金額増加)、症状が軽快した場合は等級が下がる(年金額減少)可能性がある。審査は労働基準監督署長が行う。
葬祭料の計算式は以下のとおり(労災保険法第17条・施行規則第17条)。
葬祭料 = 330,000円 + 給付基礎日額 × 30日
(給付基礎日額 × 60日が上記を上回る場合は60日分)
年収700万円(給付基礎日額約19,178円)の場合:330,000円 + 19,178円 × 30日 ≒ 90万5,000円
葬祭料は葬祭を執り行った者(通常は配偶者や家族)が請求する。
日本の事業主(法人・個人事業主)に直接雇用されている従業員が海外で業務に従事している場合、通常の労災保険が適用される(「海外出張者」扱い)。この場合は別途「特別加入」をしていなくても補償対象となる。
一方、海外の現地法人に出向・転籍している場合や、現地採用の場合は日本の労災保険が適用されない可能性がある。海外赴任者の労災保険の適用区分については、事前に会社・所轄労働基準監督署に確認しておくことが重要だ。
9. まとめ:年金系給付3種の比較早見表
| 項目 | 傷病補償年金 | 障害補償年金 | 遺族補償年金 |
|---|---|---|---|
| 発生時期 | 療養開始1年6か月後 | 症状固定後 | 死亡時 |
| 申請方式 | 職権(申請不要) | 様式第10号 | 様式第12号 |
| 等級・区分 | 傷病1〜3級 | 障害1〜14級(年金は1〜7) | 遺族数で日数変動 |
| 年金日数(最大) | 313日/年 | 313日/年 | 245日/年(4人以上) |
| 一時金(特別支給金) | 100〜114万円 | 159〜342万円 | 300万円(一律) |
| 厚生年金との調整 | なし(未治癒のため) | 労災側を0.73〜0.88倍に減額 | 労災側を0.80〜0.88倍に減額 |
| 時効 | なし(職権切替) | 5年 | 5年 |
労災の年金系給付は、一時金給付よりも複雑な制度体系を持つ。適切な給付を受けるためには、①等級認定の適切な申請、②厚生年金との調整の理解、③申請時効の管理、④転給・失権の把握、という4点の実務的な管理が重要だ。
複雑な事案や等級認定に不服がある場合は、社会保険労務士または弁護士(労災専門) への早期相談を強く推奨する。
参考・関連情報
- 労災保険の休業補償給付の計算方法(当サイト・記事88)
- カスタマーハラスメントと精神労災の関係(当サイト)
- ストレスチェック義務化とメンタル労災の予防(当サイト)
- 厚生労働省「労災保険給付の概要」:https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken06/rousai.html
- 厚生労働省「障害補償給付・障害特別支給金」(公式)
- 厚生労働省「遺族補償給付・遺族特別支給金」(公式)
- e-Gov法令データベース「労働者災害補償保険法」:https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000050
【免責事項】 本記事は一般的な制度説明を目的としており、個別の給付可否・金額を保証するものではありません。実際の給付額・受給要件は個人の状況(年収・家族構成・障害の程度・加入状況等)により大きく異なります。正確な情報は所轄の労働基準監督署にご確認いただくか、社会保険労務士・弁護士にご相談ください。本記事の情報に基づく判断・行動について、当サイトは一切の責任を負いません。



