最終更新日: 2026年2月
医療法人の設立は、医療法(昭和23年法律第205号)に基づく都道府県知事の認可を要する手続きであり、一般的な法人設立(登記のみで成立する株式会社等)とは大きく異なる。本記事では、社団医療法人・財団医療法人の制度的な違い、持分あり・持分なしの区分、設立認可の実務フロー、必要書類、定款変更認可申請、合併・分割・解散の手続き、社会医療法人・特定医療法人の要件までを体系的に解説する。行政書士、医療経営コンサルタント、医療機関の事務担当者など、医療法人の設立・運営に関わる実務者を対象とした内容である。
医療法人制度の概要と法的根拠
医療法人とは
医療法人とは、医療法第39条に基づき、病院、医師もしくは歯科医師が常時勤務する診療所、介護老人保健施設または介護医療院の開設を目的として設立される法人である。医療法人制度は、医業の非営利性を確保しつつ、医療機関の経営基盤の安定化と医療の継続性を図ることを目的として1950年(昭和25年)の医療法改正により創設された。
医療法人は、その組織形態により社団医療法人と財団医療法人に大別される(医療法第39条第1項)。
医療法人制度の主要な法的根拠
| 法令・通知 | 規定内容 |
|---|---|
| 医療法第39条 | 医療法人の定義・設立目的 |
| 医療法第40条 | 医療法人の名称使用制限 |
| 医療法第44条 | 社団医療法人の設立認可 |
| 医療法第45条 | 財団医療法人の設立認可 |
| 医療法第46条の2〜第46条の7 | 機関(社員総会、理事会、監事等)の設置義務 |
| 医療法第50条〜第50条の2 | 定款・寄附行為の変更 |
| 医療法第54条 | 剰余金の配当禁止 |
| 医療法第56条〜第56条の7 | 合併の手続き |
| 医療法第57条〜第58条 | 分割の手続き |
| 医療法第55条 | 解散事由 |
| 医療法施行規則 | 認可申請の手続き的詳細 |
| 「医療法人の機関について」(平成28年3月25日医政発0325第3号) | 機関設計の運用指針 |
| 「医療法人運営管理指導要綱」 | 都道府県による指導の基準 |
医療法人の非営利性
医療法人は、医療法第54条により剰余金の配当が禁止されている。この非営利性の原則は、医療法人制度の根幹をなすものであり、医療法人の事業により生じた剰余金は、施設の整備、医療従事者の待遇改善、医療の質向上などに再投資されなければならない。
医療法人化の判断フローチャート
個人で医療機関を開設している医師・歯科医師が、医療法人化すべきかどうかを判断するためのフローチャートである。法人化にはメリットとコスト・管理負担の増加があり、個別の事情に応じた検討が必要である。
Q1: 個人事業の年間収入(売上)はどの程度か?
- 5,000万円以上 → 法人化の税制メリットが大きい(所得税の累進課税 vs 法人税の定率課税) → Q2へ
- 3,000万〜5,000万円 → メリットはあるが、コスト増との比較が必要 → Q2へ
- 3,000万円未満 → 法人化のコスト(設立費用・運営管理負担)がメリットを上回る可能性 → 慎重に検討(まずは税理士に税額シミュレーションを依頼)
Q2: 分院の開設予定はあるか?
- あり → 法人化を強く推奨(個人開設では管理者の常勤義務により原則1か所のみ。法人であれば複数開設が可能) → Q4へ
- なし → Q3へ
Q3: 事業承継の予定はあるか?
- あり(子息への承継、第三者への譲渡等) → 法人化を推奨(個人開設では開設者の死亡で廃止。法人であれば理事長交代で継続可能) → Q4へ
- なし → Q4へ
Q4: 退職金制度を整備したいか?
- はい → 法人化を推奨(法人化すると役員退職金を経費計上可能。個人事業主には退職金制度がない) → Q5へ
- いいえ → Q5へ
Q5: 法人化のコスト・管理負担を許容できるか?
- 許容できる → 法人化を進める(下記の設立費用概算と設立認可手続きを参照)
- 許容できない → 当面は個人事業を継続し、事業規模の拡大に合わせて再検討
設立費用の概算表
医療法人の設立に要する費用の概算は以下のとおりである。都道府県や法人の規模により大きく変動するため、目安として参照されたい。
| 費目 | 概算額 | 備考 |
|---|---|---|
| 都道府県への認可申請 | 0円 | 法定手数料なし |
| 法務局への登記(登録免許税) | 60,000円 | 非課税法人のため定額 |
| 定款認証 | 0円 | 医療法人は公証人認証不要 |
| 行政書士報酬 | 30万〜80万円 | 都道府県・法人種別・書類作成の複雑さで変動 |
| 司法書士報酬(登記) | 5万〜10万円 | 設立登記の代行費用 |
| 運転資金(2か月分) | 法人により大きく変動 | 認可申請時に残高証明書の提出が必要 |
| 合計目安 | 約40万〜100万円+運転資金 | 運転資金は数百万〜数千万円規模 |
社団医療法人と財団医療法人の違い
医療法人は、その組織構成の基礎が「人の集合(社団)」であるか「財産の集合(財団)」であるかにより、大きく2類型に分かれる。
組織形態の比較
| 比較項目 | 社団医療法人 | 財団医療法人 |
|---|---|---|
| 法的根拠 | 医療法第44条 | 医療法第45条 |
| 設立の基礎 | 社員(人)の集合 | 寄附財産の集合 |
| 構成員 | 社員(3名以上が目安) | 構成員なし(評議員を置く) |
| 基本規則 | 定款 | 寄附行為 |
| 最高意思決定機関 | 社員総会 | 理事会(評議員会が諮問機関) |
| 設立時の拠出 | 社員の出資または拠出 | 設立者の財産寄附 |
| 設立数(全国) | 約58,000法人(全体の99%以上) | 約360法人(全体の1%未満) |
| 設立の難易度 | 比較的容易 | 相当額の財産寄附が必要で高難度 |
社団医療法人の特徴
社団医療法人は、社員の集合体として組織される医療法人である。社員は法人の最高意思決定機関である社員総会を構成し、各社員は出資の額にかかわらず各1個の議決権を有する(医療法第46条の3の3第1項)。これは株式会社における出資額に応じた議決権とは根本的に異なる点である。
社員総会の決議事項には以下が含まれる。
| 決議事項 | 決議要件 |
|---|---|
| 定款の変更 | 総社員の3分の2以上の同意(医療法第46条の3の3第3項により別段の定め可) |
| 理事・監事の選任・解任 | 社員総会の決議 |
| 事業報告書等の承認 | 社員総会の決議 |
| 合併・分割の承認 | 総社員の4分の3以上の同意(医療法第56条の3、第57条の3) |
| 解散 | 総社員の4分の3以上の同意(医療法第55条第1項第2号) |
| 残余財産の処分 | 総社員の4分の3以上の同意(定款の定めが必要) |
財団医療法人の特徴
財団医療法人は、個人または法人が医療事業のために財産を寄附することにより設立される(医療法第45条)。社員総会は存在せず、評議員会が重要事項の諮問機関として機能する。
財団医療法人では、理事会が業務執行の意思決定を行い、評議員会は法令及び寄附行為で定められた事項について意見を述べる(医療法第46条の4の4)。
持分あり医療法人と持分なし医療法人
第5次医療法改正による転換
2007年(平成19年)4月1日施行の第5次医療法改正により、新たに設立する医療法人はすべて持分なしとされた。これは、医療法人の非営利性を徹底する趣旨に基づく改正である。改正前に設立された持分あり医療法人は「経過措置型医療法人」として存続が認められている(医療法附則第10条の2)。
持分あり・持分なしの比較
| 比較項目 | 持分あり(経過措置型) | 持分なし |
|---|---|---|
| 新規設立 | 不可(2007年4月1日以降) | 可能 |
| 出資者の財産権 | 退社時に出資持分の払戻請求権あり | 財産権なし |
| 解散時の残余財産 | 出資額に応じて分配可能 | 国、地方公共団体、他の医療法人等に帰属 |
| 相続税・贈与税 | 持分評価額に対し課税される可能性あり | 持分がないため原則非課税 |
| 事業承継のリスク | 持分の評価額高騰による税負担が大きい | 税負担が軽減される |
| 根拠規定 | 医療法附則第10条の2 | 医療法第44条第5項 |
| 法人数(概数) | 約37,000法人(全体の約63%) | 約22,000法人(増加傾向) |
持分なし医療法人への移行促進
厚生労働省は、持分あり医療法人から持分なし医療法人への移行を促進するため、以下の施策を実施している。
| 施策 | 内容 |
|---|---|
| 認定医療法人制度(良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律附則第1条の2の2) | 移行計画の認定を受けた医療法人について、移行に伴う贈与税を非課税とする措置 |
| 移行計画認定の期限 | 当初2020年9月30日まで→令和5年度税制改正で2026年(令和8年)12月31日まで延長→令和8年度税制改正大綱で2029年(令和11年)9月30日まで再延長 |
| 税制上の優遇 | 認定を受けた法人は相続人が出資持分を放棄した場合の贈与税を猶予・免除 |
設立認可手続きの実務フロー
設立認可の全体像
医療法人の設立は、都道府県知事(2以上の都道府県にまたがる場合は厚生労働大臣)の認可を要する(医療法第44条第1項)。認可後、主たる事務所の所在地において設立登記を行うことにより法人として成立する(医療法第46条)。
設立認可手続きのフロー
以下は社団医療法人(持分なし)の標準的な設立手続きフローである。都道府県により若干の差異がある。
| 段階 | 手続き | 主な内容 | 所要期間(目安) |
|---|---|---|---|
| 第1段階 | 事前相談 | 都道府県医務主管課への事前相談、設立要件の確認 | 随時 |
| 第2段階 | 設立総会の開催 | 設立者による設立総会の開催、定款の決定、役員の選任 | — |
| 第3段階 | 仮申請 | 申請書類一式の仮提出・審査(多くの都道府県で実施) | 1〜3か月 |
| 第4段階 | 書類修正・補正 | 仮審査での指摘事項への対応 | 1〜2か月 |
| 第5段階 | 本申請 | 正式な認可申請書の提出(年2回の受付期間を設定する都道府県が多い) | — |
| 第6段階 | 医療審議会への諮問 | 都道府県医療審議会での審議(医療法第44条第3項) | 1〜2か月 |
| 第7段階 | 認可 | 都道府県知事による認可書の交付 | — |
| 第8段階 | 設立登記 | 認可後2週間以内に主たる事務所の所在地で登記(組合等登記令第2条) | 2週間以内 |
| 第9段階 | 届出 | 登記完了届の都道府県への提出、保健所・厚生局等への届出 | 登記後速やかに |
| 第10段階 | 開設届等 | 診療所・病院の開設届(医療法第7条)、保険医療機関指定申請 | — |
施設基準の届出: 保険医療機関の指定を受けた後は、算定を予定する診療報酬の施設基準に係る届出を地方厚生局に行う必要がある。令和8年度診療報酬改定(改定率+3.09%、2026年6月施行)の施設基準の全体像については「令和8年度診療報酬改定の全体像と施設基準の基礎」を参照されたい。
【専門家の視点】 行政書士の立場から:設立認可の事前相談は「形式的な手続き」ではなく実質的な審査の第一関門。都道府県によっては事前相談の段階で資産要件・管理者要件・事業計画の実現可能性について踏み込んだ質問を受ける。特に東京都・大阪府は審査が厳格で、運転資金2か月分の根拠となる収支計画の精度が低いと仮申請に進めないケースがある。事前相談前に収支シミュレーションを完成させておくことを強く推奨する。
実務上の注意: 多くの都道府県では、認可申請の受付を年2回(例:4月・10月、6月・11月等)に限定している。スケジュールは都道府県ごとに異なるため、事前に管轄の医務主管課に確認する必要がある。設立認可から開設届提出までの全体所要期間は、概ね6か月〜1年程度が標準的である。
設立認可の主要要件
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 社員数 | 原則3名以上(都道府県の運用基準による) |
| 役員 | 理事3名以上、監事1名以上(医療法第46条の2第1項) |
| 理事長 | 医師または歯科医師であること(医療法第46条の6第1項)。ただし都道府県知事の認可を受けた場合は例外あり(同条但書) |
| 資産要件 | 開設する医療機関の運営に必要な施設・設備・運転資金を有すること |
| 運転資金 | 2か月分以上の運転資金を法人名義で確保(通知基準) |
| 負債 | 設立時の総資産が総負債を上回ること |
| 管理者 | 法人が開設する医療機関の管理者は医師または歯科医師(医療法第10条) |
| 非営利性 | 剰余金の配当を行わないこと(医療法第54条) |
設立認可に必要な書類
| No. | 書類名 | 根拠・備考 |
|---|---|---|
| 1 | 設立認可申請書 | 医療法施行規則第31条の様式 |
| 2 | 定款(社団)または寄附行為(財団) | モデル定款(厚生労働省通知)に準拠して作成 |
| 3 | 設立総会議事録 | 定款の承認、役員の選任等の決議内容を記載 |
| 4 | 設立時の財産目録 | 設立時点の資産・負債の一覧 |
| 5 | 財産についての権利の所属を証明する書類 | 不動産登記事項証明書、預金残高証明書等 |
| 6 | 事業計画書(設立後2年間) | 診療科目、患者見込数、収支計画等 |
| 7 | 予算書(設立後2年間の収支予算) | 事業計画書に基づく資金計画 |
| 8 | 役員就任承諾書 | 理事・監事全員分 |
| 9 | 役員の履歴書 | 理事・監事全員分 |
| 10 | 管理者就任承諾書 | 開設する医療機関の管理者 |
| 11 | 開設する施設の概要 | 施設の名称、所在地、診療科目、病床数等 |
| 12 | 敷地・建物の図面 | 平面図、配置図等 |
| 13 | 不動産の賃貸借契約書(写し) | 施設が賃借の場合 |
| 14 | 社員名簿 | 社団医療法人の場合 |
| 15 | 設立代表者の印鑑証明書 | — |
| 16 | 登記されていないことの証明書 | 成年被後見人等に該当しないことの証明 |
| 17 | 出資(拠出)についての申込書 | 現物出資がある場合はその評価額も |
定款変更の認可申請と届出
定款変更の分類
医療法人の定款(財団医療法人の場合は寄附行為)を変更する場合、その変更内容によって都道府県知事の認可が必要な場合と届出で足りる場合とがある(医療法第50条、第54条の9)。
認可が必要な定款変更事項
| 変更事項 | 根拠条文 | 具体例 |
|---|---|---|
| 目的の変更 | 医療法第50条第1項 | 診療所の開設目的に病院開設を追加 |
| 開設する医療機関の名称・所在地の変更 | 同上 | 新たな診療所の開設、移転 |
| 開設する医療機関の病床数・病床種別の変更 | 同上 | 一般病床の増床、療養病床への転換 |
| 資産に関する事項の変更 | 同上 | 基本財産の処分・担保提供 |
| 会計年度の変更 | 同上 | 決算期の変更 |
| 残余財産の帰属先の変更 | 同上 | 解散時の財産帰属先の変更 |
| 合併・分割に関する事項 | 医療法第56条以下 | — |
届出で足りる定款変更事項
| 変更事項 | 根拠条文 | 具体例 |
|---|---|---|
| 名称の変更 | 医療法第50条第3項 | 法人名の変更 |
| 事務所の所在地の変更 | 同上 | 主たる事務所の移転 |
| 役員に関する事項の変更 | 同上 | 理事・監事の定数変更 |
| 社員の資格の得喪に関する事項の変更 | 同上 | 入社・退社要件の変更 |
| 公告方法の変更 | 同上 | 官報公告から電子公告への変更 |
実務上の注意: 認可が必要な変更と届出で足りる変更の区分は、医療法及び各都道府県の運用指針に基づく。判断に迷う場合は、管轄の都道府県医務主管課に事前確認を行うべきである。
定款変更認可申請の手続き
| 段階 | 手続き内容 |
|---|---|
| 1. 社員総会の決議 | 定款変更について総社員の3分の2以上の同意(医療法第46条の3の3第3項。定款で別段の定めが可能) |
| 2. 認可申請書の作成 | 変更後の定款案、議事録、変更の理由書等を準備 |
| 3. 都道府県への申請 | 管轄の都道府県医務主管課に認可申請書を提出 |
| 4. 審査・認可 | 都道府県の審査を経て認可書が交付される |
| 5. 変更登記 | 登記事項に変更がある場合は2週間以内に変更登記(組合等登記令第3条) |
| 6. 届出 | 登記完了後、変更登記の届出を都道府県に提出 |
合併・分割の手続き
合併の種類と法的根拠
医療法人の合併は、2007年(平成19年)の第5次医療法改正により整備された制度であり、吸収合併と新設合併の2種類がある(医療法第56条〜第56条の7)。
| 比較項目 | 吸収合併 | 新設合併 |
|---|---|---|
| 定義 | 合併により消滅する法人の権利義務の全部を、合併後存続する法人に承継させる(医療法第56条第1項) | 合併により消滅する法人の権利義務の全部を、合併により設立する法人に承継させる(医療法第56条第2項) |
| 存続法人 | あり(合併後存続する法人) | なし(新たに法人を設立) |
| 消滅法人 | 合併により消滅する法人 | 合併する全法人が消滅 |
| 認可 | 都道府県知事の認可が必要(医療法第56条の2) | 都道府県知事の認可が必要(同上) |
| 登記 | 存続法人は変更登記、消滅法人は解散登記 | 新設法人は設立登記、消滅法人は解散登記 |
合併手続きのフロー
| 段階 | 手続き | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 1 | 合併契約の締結 | 医療法第56条の2 |
| 2 | 社員総会の特別決議(総社員の4分の3以上の同意) | 医療法第56条の3 |
| 3 | 債権者保護手続き(官報公告+個別催告、異議申述期間2か月以上) | 医療法第56条の4 |
| 4 | 合併認可申請 | 医療法第56条の2 |
| 5 | 都道府県知事の認可 | 同上 |
| 6 | 登記手続き(認可後2週間以内) | 医療法第56条の7、組合等登記令 |
| 7 | 届出(登記完了届等) | — |
分割の種類と法的根拠
医療法人の分割も第5次医療法改正で整備され、吸収分割と新設分割の2種類がある(医療法第57条〜第58条の2)。
| 比較項目 | 吸収分割 | 新設分割 |
|---|---|---|
| 定義 | 事業に関する権利義務の全部または一部を、分割後他の医療法人に承継させる(医療法第57条) | 事業に関する権利義務の全部または一部を、分割により設立する法人に承継させる(医療法第58条) |
| 承継先 | 既存の医療法人 | 新設の医療法人 |
| 社員総会決議 | 総社員の4分の3以上の同意(医療法第57条の3) | 総社員の4分の3以上の同意(医療法第58条の2準用) |
| 債権者保護手続き | 必要(異議申述期間2か月以上) | 必要(同上) |
| 認可 | 都道府県知事の認可 | 都道府県知事の認可 |
解散と残余財産の帰属
解散事由
医療法第55条第1項は、医療法人の解散事由を以下のとおり列挙している。
| 解散事由 | 条文 | 手続き |
|---|---|---|
| 定款または寄附行為で定めた解散事由の発生 | 第55条第1項第1号 | 届出 |
| 社員総会の決議(総社員の4分の3以上の同意) | 第55条第1項第2号 | 都道府県知事の認可 |
| 目的たる業務の成功の不能 | 第55条第1項第3号 | 都道府県知事の認可 |
| 社員の欠亡 | 第55条第1項第4号 | 届出 |
| 合併 | 第55条第1項第5号 | 合併認可による |
| 破産手続開始の決定 | 第55条第1項第6号 | 裁判所の決定 |
| 設立認可の取消し | 第55条第2項 | 都道府県知事の処分 |
残余財産の帰属
持分なし医療法人の残余財産の帰属先は、定款または寄附行為において定める必要がある。医療法第44条第5項は、定款で残余財産の帰属すべき者を定める場合、以下のいずれかから選定しなければならないと規定している。解散時の残余財産は、定款等の定めに従いその帰属すべき者に帰属する(医療法第56条)。
| 帰属先 | 根拠 |
|---|---|
| 国 | 医療法第44条第5項 |
| 地方公共団体 | 同上 |
| 医療法人その他の医療を提供する者であって厚生労働省令で定めるもの | 同上 |
| 都道府県知事が定める者 | 定款等に定めがない場合(医療法第56条第3項) |
経過措置型(持分あり)医療法人の場合、退社した社員は出資額に応じた払戻しを請求でき(定款の定めによる)、解散時の残余財産も出資額に応じて分配される。この点が、現在新設が認められている持分なし医療法人との最大の相違点である。
社会医療法人・特定医療法人の要件
医療法人のうち、一定の公益性の高い要件を満たす法人は、社会医療法人または特定医療法人の認定を受けることができる。
社会医療法人の要件
社会医療法人は、医療法第42条の2に基づき、救急医療等確保事業を実施し、一定の要件を満たす医療法人として都道府県知事が認定するものである。
| 要件項目 | 内容 |
|---|---|
| 救急医療等確保事業の実施 | 救急医療、災害時における医療、へき地の医療、周産期医療、小児医療(小児救急医療を含む)のいずれかを実施(医療法第42条の2第1項第4号、医療法施行規則第30条の35の2) |
| 持分なし | 持分なし医療法人であること |
| 役員要件 | 理事6名以上、監事2名以上。親族等の同一の関係者が理事の3分の1以下(医療法施行規則第30条の35の3第1項第1号) |
| 社員要件(社団の場合) | 社員のうち親族等の関係者が3分の1以下 |
| 運営の適正性 | 法人関係者に対する特別の利益供与の禁止、遊休財産額が事業費用の額を超えないこと等 |
| 公告義務 | 財務諸表の公告(医療法第51条の2) |
| 税制優遇 | 収益業務から生じた所得を本来業務に充てる場合、法人税が非課税(租税特別措置法第67条の2) |
| 収益業務 | 社会医療法人は直接収益業務(医療法第42条の2第1項)を実施可能 |
| 社会医療法人債 | 医療法第54条の2以下に基づき社会医療法人債の発行が可能 |
特定医療法人の要件
特定医療法人は、租税特別措置法第67条の2に基づく税制上の制度であり、医療法上の類型ではない。国税庁長官の承認を受けた医療法人が対象となる。
| 要件項目 | 内容 |
|---|---|
| 持分なし | 持分なし医療法人であること |
| 差額ベッド比率 | 特別の療養環境の提供に係る病床数が全病床数の30%以下 |
| 役員報酬 | 役員に対する報酬が不当に高額でないこと(年間3,600万円が目安) |
| 役員の親族要件 | 理事のうち親族等の同一の関係者が3分の1以下 |
| 医療計画上の位置づけ | 地域医療に重要な役割を果たしていること |
| 税率 | 法人税の軽減税率(普通法人の税率より低い19%の税率を適用) |
社会医療法人と特定医療法人の比較
| 比較項目 | 社会医療法人 | 特定医療法人 |
|---|---|---|
| 根拠法 | 医療法第42条の2 | 租税特別措置法第67条の2 |
| 認定機関 | 都道府県知事 | 国税庁長官 |
| 収益業務 | 実施可能 | 原則不可 |
| 社債発行 | 可能(社会医療法人債) | 不可 |
| 税制上の効果 | 収益業務に係る所得の非課税 | 法人税の軽減税率(19%) |
| 救急医療等の実施 | 必須 | 必須ではないが地域医療への貢献が求められる |
| 解散時の残余財産 | 国等に帰属 | 国等に帰属 |
医療法人のガバナンス体制
2016年(平成28年)9月施行の医療法改正(第6次改正)により、医療法人のガバナンス強化が図られた。特に、一定規模以上の医療法人に対する会計基準の適用や外部監査の義務化が重要な改正点である。
機関設計の比較
| 機関 | 一般の医療法人 | 社会医療法人 | 特定医療法人 |
|---|---|---|---|
| 理事 | 3名以上(医療法第46条の2第1項) | 6名以上 | 3名以上 |
| 理事長 | 医師または歯科医師(原則) | 医師または歯科医師(原則) | 医師または歯科医師(原則) |
| 監事 | 1名以上(医療法第46条の2第1項) | 2名以上 | 1名以上 |
| 社員総会(社団) | 必置 | 必置 | 必置 |
| 評議員会(財団) | 必置 | 必置 | 必置 |
| 外部監査 | 負債50億円以上または収益70億円以上の法人は公認会計士等の監査が必要(医療法第51条第2項) | 必要 | 必要 |
事業報告等の作成義務
| 書類 | 対象法人 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 事業報告書 | 全医療法人 | 医療法第51条第1項 |
| 財産目録 | 全医療法人 | 同上 |
| 貸借対照表 | 全医療法人 | 同上 |
| 損益計算書 | 全医療法人 | 同上 |
| 関係事業者との取引状況に関する報告書 | 全医療法人 | 医療法第51条第1項 |
| 監事の監査報告書 | 全医療法人 | 医療法第46条の8第1項 |
| 公認会計士等の監査報告書 | 負債50億円以上or収益70億円以上の法人 | 医療法第51条第2項 |
2026年の制度改正と最新動向
MCDB(医療法人経営情報データベース)の第三者提供開始
2023年(令和5年)8月に施行された改正医療法により、医療法人は毎会計年度終了後に経営情報(損益計算書等)を都道府県知事に報告する義務を負うこととなった(医療法第52条の2)。報告されたデータはMCDB(Medical Corporation Database:医療法人経営情報データベース)に蓄積される。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 報告義務の根拠 | 医療法第52条の2(2023年8月施行) |
| 報告主体 | 全医療法人(病院・診療所を開設するもの) |
| 報告内容 | 損益計算書の項目、職種別給与費(医師・看護師・薬剤師等)、病床機能別の収益・費用 |
| 報告時期 | 毎会計年度終了後3か月以内(多くの法人は6月末が期限) |
| 第三者提供開始 | 2026年4月(予定):匿名化されたデータを研究者・政策立案者等に提供開始 |
| データの活用目的 | 地域医療構想の実効性確認、診療報酬改定の基礎資料、医療法人の経営分析 |
2026年4月からの第三者提供開始により、医療法人の経営情報が外部から分析可能になる。これにより、地域医療構想の進捗評価や診療報酬改定の議論において、実データに基づく政策判断が可能となることが期待されている。
認定医療法人制度の期限延長
持分あり医療法人から持分なし医療法人への移行を支援する認定医療法人制度(良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律附則第10条の3)について、以下の改正が行われた。
| 項目 | 改正の経緯 | 現行 |
|---|---|---|
| 認定申請期限 | 当初2020年9月末→令和2年度改正で2023年9月末→令和5年度税制改正で2026年12月末 | 令和8年度税制改正大綱で2029年(令和11年)9月30日まで延長 |
| 移行完了期限 | 当初は認定日から3年以内 | 令和5年度税制改正(2023年)で認定日から5年以内に緩和済み |
| 相続税・贈与税の猶予 | 認定期間中は持分に係る相続税・贈与税を猶予 | 猶予制度は維持(認定申請期限の延長に伴い適用期間も延長) |
注記: 移行完了期限の緩和(3年→5年)は令和5年度税制改正(2023年)で既に実施されている。一方、認定申請期限の延長(2026年12月末→2029年9月末)は令和8年度税制改正大綱による措置であり、異なる時期の改正である点に注意が必要である。
この改正により、持分あり医療法人(全医療法人の約63%、約37,000法人)が持分なし医療法人への移行を検討する時間的余裕が確保された。特に、事業承継を控えた医療法人にとっては、相続税・贈与税の猶予措置を活用しながら計画的に移行を進められるメリットがある。
なお、持分ありの出資評価は財産評価基本通達を準用する側面があり、国税庁は2026年4月に非上場株式の評価ルールを見直す専門委員会を設置した。持分評価の今後を見据える際は、非上場株式の相続税評価 2027年度改正議論も併せて確認しておきたい。
地域医療連携推進法人の拡大
地域医療連携推進法人制度(医療法第70条)は、地域の医療機関が法人格を持つ連携組織を設立し、病床の融通や医師の派遣等を共同で行う仕組みである。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 法的根拠 | 医療法第70条~第70条の21(2017年4月施行) |
| 認定数 | 58法人(2025年12月時点、制度開始時の7法人から大幅に拡大) |
| 認定要件 | 2以上の医療機関を開設する法人等が参加、地域医療構想区域内、統一的な連携推進方針の策定 |
| 2023年成立・2024年4月施行の改正 | 「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律」(令和5年法律第31号、2023年5月19日公布)に基づき、個人立の診療所の参加を容認、出資を伴う連携を可能とする「出資型」を創設(2024年4月1日施行) |
| 実務上の効果 | 医師・看護師の共同研修、医薬品の共同購入、病床の再編・融通 |
2023年成立の改正法に基づき2024年4月に施行された「出資型地域医療連携推進法人」は、参加法人間で出資による資金移動を可能とするものであり、地域の医療提供体制の再編を資金面から支援する新たな枠組みとして注目されている。出資を行うには、出資を受ける事業者が医療連携推進区域において医療連携推進業務と関連する事業を行うこと、出資に係る収益を医療連携推進業務に充てること等の要件を満たす必要がある。
今すぐやること:医療法人制度対応チェックリスト
最優先:すぐに対応
- MCDB経営情報報告の準備(経理部門):2026年4月から第三者提供が開始されるため、G-MIS経由での報告が未了の場合は直ちに対応する。3月決算法人は6月末が報告期限
- 認定医療法人の移行検討開始(理事長・顧問税理士):持分あり医療法人は、出資持分の評価額と相続税負担の試算を税理士に依頼し、持分なしへの移行要否を判断する
重要:2027年中までに
- 認定医療法人の移行計画策定(顧問税理士・弁護士):認定申請期限は2029年9月だが、申請から認定まで6か月〜1年かかるため、2027年中に移行スケジュールと出資持分放棄の合意形成プロセスを設計する
- 地域医療連携推進法人への参加検討(理事会):連携推進法人の連携推進方針・参加法人の義務内容を確認し、自法人の経営方針との整合性を評価する
中期:年度内
- ガバナンス体制の再点検(事務局長):社員総会・理事会の運営が医療法及び「医療法人の機関について」通知に適合しているか確認し、議事録の作成・保管体制を整備する
- 定款の見直し(顧問行政書士):残余財産の帰属先の具体化、役員定数の適正化など、現行定款の内容を最新の法改正・運用基準に照らして点検する
よくある質問(FAQ)
主なメリットは以下のとおりである。(1)事業の継続性の確保(個人の場合、開設者の死亡により廃止となるが、法人であれば継続可能)、(2)社会保険診療報酬の所得計算における概算経費の活用等の税制メリット、(3)分院の開設が可能になる(個人開設では管理者の常勤義務により原則1か所のみ)、(4)資金調達の多様化。ただし、法人化により社員総会の運営、事業報告書の作成・届出、役員変更届出等の管理コストが増加する点にも留意が必要である。
医療法第46条の6第1項は、理事長は「医師又は歯科医師である理事のうちから選出する」と定めている。ただし、同条但書により、都道府県知事の認可を受けた場合には医師・歯科医師以外の理事を理事長に選出することが認められている。認可の基準としては、候補者が医療法人の経営に関する識見を有し、かつ医療法人の適正な運営が確保できると認められることが求められる(「医療法人の機関について」平成28年3月25日医政発0325第3号通知)。
多くの都道府県では、設立認可申請の受付を年2回の期間に限定している(例:東京都は年2回、大阪府は年2回)。ただし、受付の頻度や時期は都道府県ごとに異なり、年1回のみの県もある。また、仮申請の受付期間はそれより前に設定されるのが通常である。具体的な日程は、管轄の都道府県医務主管課のウェブサイトまたは窓口で確認する必要がある。
移行の手続きは以下のとおりである。(1)定款変更(出資持分に関する規定の削除)について社員総会の特別決議を得る、(2)都道府県知事に定款変更認可申請を行う、(3)認可後に変更登記を行う。税制上の負担軽減を図るためには、認定医療法人制度(良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律附則第1条の2の2)に基づき、移行計画の認定を受けることが有効である。認定を受けた法人は、移行に伴う贈与税の非課税措置を受けることができる。認定申請期限は令和8年度税制改正大綱により2029年(令和11年)9月30日まで延長されている。また、移行完了期限は令和5年度税制改正により認定日から5年以内に緩和されている(改正前は3年以内)。
医療法人が開設できる主たる施設は、病院、診療所、介護老人保健施設、介護医療院である(医療法第39条第1項)。これに加え、医療法第42条は附帯業務として、看護師養成所、疾病予防施設(医療法第42条第1号〜第9号の2)等の開設を認めている。さらに、社会医療法人に限り、定款に定めることで収益業務(医療法第42条の2第1項)を行うことも可能である。ただし、附帯業務はあくまで本来業務に支障のない範囲で行うべきものとされている。
医療法第56条の4は、合併にあたり債権者保護手続き(官報公告+知れたる債権者への個別催告、2か月以上の異議申述期間の設定)を義務づけている。この手続きを怠った場合、合併の認可が得られない可能性がある。仮に手続きの瑕疵があるまま合併が行われた場合、債権者は合併の無効の訴え(医療法第56条の6準用による一般法人法の準用)を提起できる可能性がある。実務上、債権者保護手続きは合併認可申請の前に完了していることが求められるため、スケジュール管理が重要である。
2007年(平成19年)4月1日以降に設立された持分なし医療法人の場合、残余財産は国、地方公共団体、医療法人その他厚生労働省令で定める医療提供者に帰属し、出資者への分配はできない(医療法第44条第5項に基づく定款の定めに従い帰属。解散時の残余財産の帰属については医療法第56条)。一方、経過措置型(持分あり)医療法人の場合は、定款の定めに従い出資額に応じた残余財産の分配が可能である。ただし、持分あり医療法人が持分なし医療法人へ移行した場合は、移行後の残余財産の帰属先は持分なし医療法人の規定に従う。
免責事項
本記事の内容は、2026年2月時点で施行されている医療法その他関係法令・通知に基づき、一般的な情報提供を目的として作成したものである。個別の医療法人の設立・定款変更・合併等の手続きにおいては、管轄の都道府県医務主管課の運用基準、地域の医療計画との整合性、個別の事実関係等により、本記事に記載した内容と異なる取扱いとなる場合がある。
具体的な案件の遂行にあたっては、必ず管轄の都道府県担当課への事前相談を行うとともに、医療法に精通した弁護士、行政書士、税理士等の専門家に助言を求めることを推奨する。
本記事の情報に基づいて行った行為により生じた損害について、筆者及び運営者は一切の責任を負わない。
参考文献・法令等
法令
- 医療法(昭和23年法律第205号)第39条〜第58条の2、附則第10条の2
- 医療法施行令(昭和23年政令第326号)
- 医療法施行規則(昭和23年厚生省令第50号)第30条の35の2〜第30条の35の3、第31条
- 組合等登記令(昭和39年政令第29号)第2条、第3条
- 租税特別措置法(昭和32年法律第26号)第67条の2
- 良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律(平成18年法律第84号)附則第10条の2、附則第1条の2の2
厚生労働省通知・ガイドライン
- 「医療法人の機関について」(平成28年3月25日医政発0325第3号厚生労働省医政局長通知)
- 「医療法人運営管理指導要綱」(最終改正:令和2年4月1日医政発0401第27号)
- 「医療法人の設立認可等について」(平成19年3月30日医政発第0330049号)
- 「持分の定めのない医療法人への移行に関する計画の認定制度について」(令和2年10月1日医政発1001第14号)
- 厚生労働省「医療法人制度について」ウェブページ(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/igyou/index.html)
参考資料
- 厚生労働省「医療施設動態調査」(医療法人数の統計データ)
- 厚生労働省「モデル定款・モデル寄附行為」
- 各都道府県医療法人設立認可の手引き(東京都福祉保健局、大阪府健康医療部等)
