AI法(AI推進法)完全ガイド2026|罰則なしでも効く第13条のAI指針と事業者の実務

本記事は法令・通達・官公庁資料に基づき編集部が作成・検証しています。個別の法的・税務判断ではありません。最新の法令はe-Gov法令検索でご確認ください。
AI法(AI推進法)完全ガイド2026|罰則なしでも効く第13条のAI指針と事業者の実務
目次▼

「AI推進法」として知られる法律の正式名称は「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(令和7年法律第53号)で、2025年9月1日に全面施行されました。政府はこれを「AI法」と呼んでいます(e-Gov法令検索の略称も内閣府のページ名も「AI法」)。本記事でも以下「AI法」と表記します。

この法律に罰則はありません。しかし「だから何も起きない」と読むのは誤りです。 AI法第13条は国に指針の整備を求めており、それを受けて「人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針」(AI指針)が2025年12月19日に人工知能戦略本部で決定されています。この指針は活用事業者が取り組むべき事項を名指しで挙げています。さらに第16条は、権利利益の侵害が生じた事案の分析にもとづいて、国が活用事業者へ指導・助言を行う根拠になっています。

「AIを使わないと乗り遅れる」という焦りと、「法的リスクが怖い」という不安——この両方を抱えたまま動けない企業は少なくありません。AI法はそのどちらにも関わる法律ですが、制度の構造を知れば「今すぐ動けるかどうか」が判断できます。

本記事は、条文・施行経緯・事業者責務・罰則の有無を一次ソース(e-Gov法令検索・内閣府)で確認したうえで、現場が取り組める実務チェックリストまでを整理したものです。制度は「AI法 → AI指針 → 各府省庁のガイドライン」の3層になっており、よく引用されるAI事業者ガイドラインはいちばん外側の1つにすぎません。この構造から説明します。

現場でAIを使う立場の実務ルールは現場で働く人のための生成AI業務利用ルール|実務チェックリスト2026で整理している。


AI推進法とは——正式名称・法律番号・公布日を一次ソースで確認

AI推進法の基本情報は以下の通りです。

項目 内容 一次ソース
正式名称 人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律 e-Gov法令検索・内閣府公式
政府が使う略称 AI法 e-Gov法令検索の略称欄/内閣府ページ名
世間での通称 AI推進法 / AI新法 —
法律番号 令和7年法律第53号(e-Gov識別子: 507AC0000000053) e-Gov法令検索
成立日 2025年5月28日(第217回国会) 衆議院法案データベース
公布日 2025年6月4日 内閣府・官報
施行日(一部) 2025年6月4日(公布日と同日・第1章 総則/第2章 基本的施策) 附則第1条
施行日(全面) 2025年9月1日(第3章 人工知能基本計画/第4章 人工知能戦略本部) 附則第1条ただし書・内閣府
章の構成 第1章 総則(1〜10条)/第2章 基本的施策(11〜17条)/第3章 人工知能基本計画(18条)/第4章 人工知能戦略本部(19〜28条) e-Gov法令検索
罰則章 なし(全28条に罰則規定なし) e-Gov法令検索
所管 内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局 人工知能政策推進室 内閣府公式

💡 検索のコツ
政府資料を探すときは「AI推進法」ではなく「AI法」で検索してください。内閣府のページ名も、閣議決定された基本計画の本文も「AI法」を使っています。「AI推進法」は報道や民間解説で定着した呼び方で、政府文書にはほとんど出てきません。

e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/507AC0000000053)では条文の全文が参照できます。内閣府の公式ページ(https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_act/ai_act.html)には概要資料と、衆参両院の附帯決議が公開されています。

なぜ「AI推進法」が制定されたのか

AI推進法が成立した2025年は、生成AIの普及が急加速した一方で、「どこまでAIを使ってよいか分からない」「ハルシネーションや情報漏洩のリスクが不安」という声が社会全体に広がっていた時期です。

政府には二つの課題がありました。一つは、AIの研究開発・活用を国家として積極的に推進すること。もう一つは、AIの不適切利用による個人・社会への悪影響を防ぐこと。AI推進法はこの両面を「推進と安全のバランス」として法定化した基本法です。

EU(欧州連合)が2024年8月に発効させた「EU AI規則(EU AI Act)」が規制型の法律(リスクレベルに応じて義務・禁止事項を課す)であるのに対し、日本のAI法は推進型の基本法として設計されています。罰則を設けず、事業者の自主的な取り組みを原則としているのは、このためです。

なおEU AI規則は発効と同時に全面適用されたわけではなく、義務規定は段階的に適用されています。「2024年施行」という表現を見かけますが、どの義務がいつから効くかは区分ごとに異なります。


AI推進法の施行スケジュール——一部施行と全面施行(2025年9月)の違い

AI推進法は2段階で施行されました。

附則第1条は「この法律は、公布の日から施行する。ただし、第三章及び第四章並びに附則第三条及び第四条の規定は、公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する」と定めています。つまり原則は公布日施行で、後ろの2章だけが遅れたという構造です。

一部施行(2025年6月4日)

公布日と同日に第1章(総則)と第2章(基本的施策)が施行されました。

  • 第1章 総則(第1条〜第10条) — 目的・定義・基本理念に加え、国(第4条)・地方公共団体(第5条)・研究開発機関(第6条)・活用事業者(第7条)・国民(第8条)それぞれの責務を定めます。事業者が読むべき第7条はここにあります
  • 第2章 基本的施策(第11条〜第17条) — 国が講じる施策の列挙です。第13条(適正性の確保)と第16条(調査研究等)がここに含まれます。後述のとおり、この2条が事業者にとって実質的な意味を持ちます

⚠️ 注意
「第2章は責務の章」と説明している解説がありますが、誤りです。責務はすべて第1章にあり、第2章は国の施策を定める章です。

全面施行(2025年9月1日)

2025年9月1日に第3章(人工知能基本計画)と第4章(人工知能戦略本部)が施行され、法律全体が運用状態に入りました。この日に合わせて人工知能戦略本部が設置されています。

内閣府は「9月1日にはAI戦略本部の設置に係る規定等も含め、全面施行されました」と説明しています。法律上の正式名称は「人工知能戦略本部」で、内閣府が略して「AI戦略本部」と呼んでいるものと同じ組織です。

戦略本部の構成は以下の通りです。
– 本部長: 内閣総理大臣
– 構成員: 全国務大臣

国のAI政策の最高意思決定機関であり、人工知能基本計画の策定・進捗管理に加え、後述のAI指針もこの本部が決定しています。

段階施行の意味

2段階施行が採用されたのは、「基本理念と責務・施策を先に動かし、組織整備(戦略本部)と計画策定を並行して進める」という段取りです。現場にとっては「2025年9月1日以降、法律全体が動いている」と理解しておけば実務上は支障ありません。

AI推進法の施行で何が変わったか(施行前→施行後)

新法の制定によって、国のAI政策の枠組みは次のように変わりました。

項目 施行前(2025年9月以前) 施行後(2025年9月1日〜)
国のAI政策の司令塔 法的根拠のない任意の会議体 人工知能戦略本部(法定・本部長=内閣総理大臣)
人工知能基本計画 なし 法定計画として策定(当面毎年改訂)
事業者の位置づけ 明文規定なし 第7条でAI活用の努力義務・施策への協力義務を明記
政策の性格 個別ガイドライン中心 基本法に基づく体系的推進(推進型・罰則なし)

いずれも「推進の枠組みが法律で裏づけられた」変化であり、事業者に新たな罰則や許認可義務が生じたわけではありません。この点が、規制型のEU AI規則との最大の違いです。


AI推進法 第7条——「活用事業者の責務」を条文で読む

AI推進法の中で、一般の企業・事業者に最も直接関係するのが第7条(活用事業者の責務)です。

第7条の内容

第7条は「活用事業者」(AIを業務で活用する事業者)に対して、以下の2つを定めています。

① AI積極活用の努力義務
業務・サービスにAIを積極的に活用するよう努めること。

② 国・地方公共団体の施策への協力義務
国および地方公共団体が実施するAI推進施策に協力しなければならないこと。

「努力義務」と「協力義務」の法的性格の差

この2つは性質が異なります。整理すると以下の通りです。

規定の種類 具体的内容 法的性格 違反時の制裁
努力義務 AI積極活用に努める 条文「…事業活動の効率化及び高度化並びに新産業の創出に努めるとともに」 なし
協力義務 国・自治体の施策に協力 条文「…施策に協力しなければならない」 本法に罰則規定なし(詳細は次節)

「〜しなければならない」という文言は一般に法的義務(強制規定)に使われますが、AI推進法第7条の協力義務については、違反した場合の具体的制裁(罰則・課徴金・行政処分等)が本法に規定されていません。

どんな事業者が「活用事業者」に該当するか

条文上の「活用事業者」は、AIを業務に活用している全ての事業者(中小企業・個人事業主を含む)と解されています。ChatGPTや生成AIツールを業務で使っている企業であれば、実質的に対象となります。

外資系企業・外国法人については、日本国内での事業活動がある場合に本法の対象となりうると考えられます(「日本の事業者・国民に活動する者」が対象という解釈)が、適用範囲については内閣府説明資料等での公式確認が必要です。


AI推進法に罰則はあるのか——ソフトロー型の法律の実効性

結論:罰則なし

AI法に罰則規定はありません。 全28条を通じて罰則章が存在せず、違反した場合の罰金・拘禁刑・課徴金・行政処分等は定められていません。許認可も届出も要りません。

これは意図的な設計です。AI法は「罰則で規制する」のではなく、「推進・促進のための基本法として理念・方針を示す」ソフトロー型の法律です。

ただし「指導・助言」の根拠条文はある

「行政からの働きかけが一切ない」と書いている解説がありますが、これは誤りです。 第16条(調査研究等)に明文があります。

国は、国内外の人工知能関連技術の研究開発及び活用の動向に関する情報の収集、不正な目的又は不適切な方法による人工知能関連技術の研究開発又は活用に伴って国民の権利利益の侵害が生じた事案の分析及びそれに基づく対策の検討その他の人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に資する調査及び研究を行い、その結果に基づいて、研究開発機関、活用事業者その他の者に対する指導、助言、情報の提供その他の必要な措置を講ずるものとする。
(AI法第16条)

つまり国は、AIの不適切な使われ方で誰かの権利利益が侵害された事案を分析し、その結果にもとづいて事業者を指導・助言できます。罰金や業務停止のような強制力はありませんが、「何も起きない」わけではありません。

整理すると次のようになります。

手段 AI法上の有無 根拠
罰金・拘禁刑 なし 罰則章が存在しない
課徴金 なし 同上
業務停止命令・是正命令 なし 命令規定が存在しない
許認可・届出義務 なし 該当規定なし
企業名の公表 なし 公表規定が存在しない
指導・助言 あり 第16条
指針による取り組みの要請 あり(法的強制力はなし) 第13条 → AI指針

ただし、他の法律による責任は別途生じる

「罰則がない=何をしてもよい」ではありません。AIの業務利用において実際にリスクとなるのは、AI推進法ではなく以下の既存法です。

リスク領域 関連法令 主な問題行為の例
個人情報漏洩 個人情報保護法 生成AIに個人情報を無断入力し、目的外利用に当たる場合
著作権侵害 著作権法 AI生成物が既存著作物に類似している場合
不正競争・秘密漏洩 不正競争防止法 競合他社の情報収集・営業秘密の漏洩
虚偽の事実の流布 民法・各種特別法 フェイクコンテンツの生成・拡散
個人への名誉棄損 民法・刑法 AI生成した虚偽情報による名誉棄損

AI推進法の「罰則なし」は、これらの他法による責任には影響しません。 業務でAIを使う場合は、個人情報保護法・著作権法等の遵守が引き続き求められます。

現場でAIを使う際の入力禁止情報・著作権・個人情報リスクの具体的な対処法については、現場で働く人のための生成AI業務利用ルールで、AI事業者ガイドラインを根拠に詳しく解説しています。

ソフトロー型の実効性——なぜ罰則なしで機能するか

罰則がないにもかかわらずAI法が意味を持つ理由は、以下の通りです。

① 第13条に基づくAI指針
最も直接的なのがこれです。次章で詳しく扱いますが、活用事業者が取り組むべき事項が名指しで書かれています。

② 第16条に基づく指導・助言
前述のとおり、権利利益の侵害が生じた事案の分析にもとづく指導・助言の根拠があります。

③ 基本計画を通じた政策の方向性の明示
AI法第18条に基づき、内閣府は人工知能基本計画を策定・改訂します。この計画は政府のAI政策の羅針盤となり、補助金・規制・調達方針に影響を与えます。

④ 各府省庁のガイドラインとの連動
AI事業者ガイドライン(総務省・経済産業省)をはじめ、分野別のガイドラインが整備されています。罰則ではなく「業界標準」として機能し、取引先・顧客・投資家からの評価基準になりつつあります。


AI法第13条とAI指針——事業者に最も近い政府文書

AI法を読むうえで、事業者が第7条の次に見るべきなのが第13条です。 ここが、実際に手を動かす内容につながっています。

第13条(適正性の確保)の条文

国は、人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正な実施を図るため、国際的な規範の趣旨に即した指針の整備その他の必要な施策を講ずるものとする。
(AI法第13条)

この「指針の整備」を受けて策定されたのが、「人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針」(通称:AI指針)です。2025年12月19日に人工知能戦略本部が決定しました(案は2025年12月5日〜11日にパブリックコメントに付されています)。

AI指針の位置づけ

内閣府が公表している指針の概要には、こう書かれています。

AI法第13条に基づき、信頼できるAIの実現に向けて、国際的な規範の趣旨に即して策定。
全ての主体におけるAIの研究開発及び活用の適正な実施に係る自主的かつ能動的な取組を促す。

対象は、国・地方公共団体・研究開発機関・活用事業者・国民の全ての主体です。罰則を伴うものではなく、自主的な取り組みを促す性格の文書です。

適正性確保に必要となる10の要素

指針は、適正性を確保するために必要な要素として次の10項目を挙げています。

人間中心/公平性/安全性/透明性/アカウンタビリティ/セキュリティ/プライバシー・個人情報/公正競争/AIリテラシー/イノベーション

適正性確保のための4つの基本方針

  1. リスクベースでのアプローチ — 一律ではなく、リスクの大きさに応じて対応の濃淡をつける
  2. ステークホルダーの積極的な関与
  3. 一気通貫でのAIガバナンスの構築
  4. アジャイル(柔軟かつ迅速)な対応

活用事業者が「特に取り組むべき事項」5点

ここが本記事で最も実務に近い部分です。 指針は主体ごとに取り組むべき事項を分けており、活用事業者(と研究開発機関)については次の5点を挙げています。

# 取り組むべき事項 具体的に求められること
1 AIガバナンスによる俯瞰的な適正性の確保 設計・開発・提供・実装のライフサイクル全体で、リスクの特定・評価・対処をする組織的なプロセス(経営層が関与するモニタリングと評価の仕組み、情報の適切な開示、教育・研修の実施等)を構築・運用・継続改善する
2 ステークホルダーとの信頼関係の構築に向けた透明性の確保 学習データの出所と出力される生成物について、知的財産・プライバシー等の保護を含め、合理的な範囲で説明可能性を確保する。AIを提供する際は、仕組み・限界・禁止事項・データ収集ポリシー・出力の信頼性に関する注意喚起を利用者に提供する
3 十分な安全性の確保 サイバー攻撃・詐欺等への悪用リスクを特定・評価して対策する。ハルシネーション、偏見・差別の助長、偽・誤情報の拡散につながる不適切な出力を抑制する。AIの生成物であることが判断できる技術(電子透かし、来歴管理、API等)の開発に努め、必要に応じて実装する
4 事業継続性確保による安全な環境の維持 AIを用いたシステムの運用者・サービス提供者は、障害が生じた場合に備え、損害を最小限にとどめ早期復旧するための事業継続計画(BCP)をあらかじめ策定する
5 データの重要性を踏まえたステークホルダーへの配慮 知的財産等のデータ保有者等と、データの適正な活用の在り方について継続的にコミュニケーションを図る。特に社会的影響力の大きいAIを開発・提供する事業者は、データ保有者への利益還元のエコシステム構築に努める

⚠️ 注意:4点と書かれた解説に注意
指針の概要版(1ページのポンチ絵)は4項目に圧縮されており、「(4) 事業継続性確保」が省かれています。概要版だけを見て「4点」としている解説(本記事も改稿前はそうでした)がありますが、本文は5項目です。AIシステムが止まったときのBCPという、実務でいちばん具体的な項目が落ちてしまうので、本文で確認してください。

💡 国際規格との関係
指針は脚注で、参照すべき国際的な規範として広島プロセス国際行動規範・広島プロセス国際指針を、国際規格としてISO/IEC 42001(AIマネジメントシステム)を挙げています。AIガバナンスの構築にあたっては、ゼロから作らず既存のITシステムのガバナンスプロセスを活用してよいとも書かれています。

参考までに、他の主体については次のように整理されています。

  • 国・地方公共団体: AIを積極的かつ先導的に活用する/各主体がAIを責任をもって利用できるようリテラシー向上を図る/AIガバナンスの在り方を検討する/行政の信頼性確保のためアカウンタビリティを果たす
  • 国民: 人間中心の原則に基づき、倫理・法令・人権等の課題を理解し、責任ある利用者としての自覚をもって行動する/AIリテラシーを能動的に身に付け、AIを適切に利用する

🎯 プロの目
「AI事業者ガイドラインを読めばよい」という理解は、層をひとつ飛ばしています。AI指針が上位にあり、各府省庁のガイドラインはその趣旨と整合するように整備された下位文書です。内閣府は指針のページで各府省庁等のガイドライン等の一覧(17本)を公開しており、AI事業者ガイドラインはそのうちの1本(分野横断の①)という位置づけです。自社の業種に対応した個別分野のガイドライン(医療、プラント保安、コンテンツ制作、行政など)がある場合は、そちらも確認してください。


中小企業がすべきこと——実務チェックリスト6点

法的義務がなくても、AI法とAI指針が示す方向性は実務上の指針として機能します。中小企業が今すぐ取り組める6点を整理します。

各項目が、AI指針の「活用事業者が特に取り組むべき事項」のどれに対応するかを示しました。 出発点を政府文書に置くことで、取引先や金融機関への説明がしやすくなります。

チェックリスト 対応するAI指針の項目
1. 社内AI利用方針の策定 (1) AIガバナンスによる俯瞰的な適正性の確保
2. 人間による最終確認体制 (3) 十分な安全性の確保
3. AI利用状況の記録 (1) AIガバナンス/(2) 透明性の確保
4. 個人情報保護法・著作権法への対応確認 (5) データの重要性を踏まえたステークホルダーへの配慮
5. ガイドラインの定期確認 (1) AIガバナンス(継続改善)
6. AI障害時のBCPを決めておく (4) 事業継続性確保による安全な環境の維持

⚠️ 6番目を見落としがちです
指針の(4)は「AIを用いたシステムの運用者やサービスの提供者は、これらに障害が生じた場合に備え、損害を最小限にとどめ、早期復旧するために、平常時に行うべき活動や緊急時の事業継続のための方法、手段等を定めた事業継続計画をあらかじめ策定する」と求めています。
中小企業でいきなり本格的なBCPを作る必要はありませんが、「使っているAIサービスが止まったら、その業務をどうするか」を決めて書き残しておくだけでも指針の趣旨に沿います。生成AIで見積書のたたき台を作っているなら「止まったら従来のテンプレートで手作業」、問い合わせ一次対応に使っているなら「止まったら人が直接受ける」——この程度の記述から始めてください。チェックリスト1の方針書に1行足すのが現実的です。

チェックリスト1:社内AI利用方針の策定(1枚ペーパーでよい)

AI推進法第7条は「活用事業者の責務」として、AIの積極活用を促します。これを受けて、「何のためにAIを使うか」「何を入力してはいけないか」を明文化した1枚の方針書を作成することが最初のステップです。

最低限記載すべき内容:
– 利用可能なAIツールの一覧(社名・用途)
– 入力禁止情報のリスト(個人情報・機密情報・未発表経営情報)
– 著作権リスクへの対応方針
– 人間による出力確認ルール

チェックリスト2:AI出力の人間による最終確認体制の整備

AI事業者ガイドライン第1.2版(2026年3月)はAIシステムにおける「Human in the Loop(HITL)」要件を重視しています。自社でAIを活用する場合、重要な判断(顧客対応・契約・数値確認)にはAI出力を鵜呑みにせず、人間が最終判断するフローを定めてください。

HITL(Human in the Loop)の実務的な解釈:

AI出力 → 担当者による内容確認(事実・数値の一次ソース照合)→ 承認 → 実行

ルーティン業務にAIを使い速度を上げながら、重要判断には人間を介在させるという設計です。

チェックリスト3:AI利用状況の記録

AI戦略本部が主導する基本計画では、今後AI活用の実態把握・効果検証が進む見込みです(基本計画は毎年改訂)。自社のAI活用ツール・用途・実績を記録しておくことで、補助金申請・行政調査・取引先への説明に備えられます。

記録すべき項目(簡易版):
– 導入AIツール名と導入時期
– 主な用途と担当部門
– 利用規約の確認・同意の記録
– セキュリティ設定(学習利用の拒否設定等)

チェックリスト4:個人情報保護法・著作権法への対応確認

「AI推進法に罰則がない」という事実は、既存法による責任を免除しません。以下の確認が必要です。

確認項目 担当部門の目安 参照先
生成AIへの個人情報入力の可否 総務・法務 個人情報保護委員会(PPC)2023年6月注意喚起
AI生成コンテンツの著作権リスク確認 企画・マーケ 文化庁「AIと著作権に関する考え方」(2024年3月)
利用AIサービスの学習利用拒否設定 IT管理者 各サービスの利用規約・設定メニュー
社内NDA・情報管理規程との整合 法務・経営 社内規程

チェックリスト5:AI事業者ガイドラインの定期確認

AI事業者ガイドライン(総務省・経産省)はおおむね年1回、各年の3月前後に改訂されています(第1.0版 2024年4月 → 第1.1版 2025年3月28日 → 第1.2版 2026年3月)。次の改訂はAIエージェント対応・フィジカルAI規律のさらなる具体化が見込まれます。

改訂時に「自社の実務に影響する変更がないか」を確認するだけでよく、毎回全文を読む必要はありません。経産省のメルマガ(meti.go.jp)に登録しておくと改訂通知が届きます。

あわせて、内閣府のAI指針のページに掲載されている「各府省庁等のガイドライン等一覧」で、自社の業種に対応する個別分野のガイドラインがないかを一度確認してください。 医療、プラント保安、コンテンツ制作、行政調達など、分野別に17本が整備されています。分野別のものがあれば、そちらのほうが自社の実務に近い記述になっています。


AI事業者ガイドライン第1.2版とAI推進法の関係

3段階の制度設計

よく「法律とガイドラインの2層」と説明されますが、実際には間にAI指針が入る3層です。

層 文書 決定主体・時期 性格 法的拘束力
1 AI法(令和7年法律第53号) 国会・2025年6月4日公布 基本法(推進型) あり(但し罰則なし)
2 AI指針(適正性確保に関する指針) 人工知能戦略本部決定・2025年12月19日 AI法第13条に基づく法定の指針 なし(自主的取組を促す)
3 各府省庁等のガイドライン等(17本) 各省庁・随時 分野別・横断別の実務指針 なし

AI事業者ガイドラインは層3の1本(分野横断の筆頭)です。内閣府はAI指針のページで、このガイドライン群の一覧を公開しています。

AI事業者ガイドラインの改訂履歴

版 公表日 所管
第1.0版 2024年4月 総務省・経済産業省
第1.1版 2025年3月28日 総務省・経済産業省
第1.2版 2026年3月 総務省・経済産業省

⚠️ 注意
第1.1版を「2025年9月公表」としている解説がありますが、誤りです。第1.1版の表紙には「令和 7 年 3 月 28 日」と明記されています。改訂のペースはおおむね年1回(各年の3月前後)と考えておくのが実務的です。

第1.2版(2026年3月)の主な追加内容

総務省・経済産業省が2026年3月に公表した第1.2版では、AIの社会実装が進む中で以下が追加・強化されました。

① AIエージェント対応
単一の指示で複数のタスクを自律実行する「AIエージェント」に関する指針が追加されました。エージェントAIは従来の生成AIより誤動作・権限逸脱のリスクが高いため、HITL(人間の監督)要件が特に強調されています。

② Human in the Loop(HITL)要件の明確化
重要な判断(個人への影響が大きい決定・法的効果を持つ行為)にAIが関与する場合、人間が最終判断する体制を設けることが推奨されています。

③ EU AI規則との整合
EU AI規則(2024年8月発効)が義務付けているリスク分類・透明性開示・記録保持の考え方が、日本のガイドラインにも取り込まれています。日本からEUへの輸出・EU企業との取引がある事業者は、両方の基準を意識する必要があります。

④ フィジカルAI(ロボット・自動制御)への対応
製造現場・物流でのAI活用が進む中、物理的危害を生じさせうるシステムに関する安全要件が追加されました。


人工知能基本計画とは——閣議決定された国家ロードマップの要点

現行は「第Ⅱ期人工知能基本計画」(2026年7月14日閣議決定)

AI法第18条に基づき、内閣府は「人工知能基本計画」を策定します。

版 閣議決定日 サブタイトル
初版 2025年12月23日 〜「信頼できるAI」による「日本再起」〜
第Ⅱ期(現行) 2026年7月14日 〜日本AX、より強く、より豊かに〜

内閣府のWebページ(https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_plan/ai_plan.html)で両方の全文が公開されています。現在の政策方針は第Ⅱ期のほうです。初版の内容を現行として紹介している解説が残っているので、日付を確認してから読んでください。

第Ⅱ期の基本構想

初版は「世界で最もAIを開発・活用しやすい国」を掲げていましたが、第Ⅱ期では力点が移りました。

  • 急伸するエージェント型AIに適応し、計算資源や電力から制度・政策まで、日本のAI実装能力を抜本強化する
  • AIを前提として意思決定や業務の進め方を根底から見直す「AIトランスフォーメーション」(AX)を推進する
  • 人が人として創造すべき価値を探求し、「人間力」を増進しながら、「人とAIが協働する社会」を率先して実現する
  • 「信頼できるAI」で社会全体を駆動し、課題解決と国力強化を探求、日本独自の価値を創出する

4つの原則

第Ⅱ期の原則は次の4つです。

  1. イノベーション促進とリスク対応の両立
  2. 挑戦と学習
  3. アジャイル(柔軟かつ迅速)な対応
  4. 内外一体での政策推進

💡 初版からの変更点
初版の原則は「イノベーション促進とリスク対応の両立」「アジャイルな対応」「内外一体での政策推進」の3つでした。第Ⅱ期で「挑戦と学習」が追加され4つになっています。「原則は3つ」と書かれた解説は初版のものです。

4つの基本的な方針

# 方針 キーフレーズ 内容
1 AI利活用の加速的推進 AIを使う エージェント型AI等の積極適用、政府における率先導入、地域AX、データ連携基盤構築
2 AI開発力の戦略的強化 AIを創る 計算資源・データ・電力の確保、国内開発力強化、信頼できる基盤モデル開発、バーティカルAI/フィジカルAI
3 AIガバナンスの主導 AIの信頼性を高める 責任あるアジャイル・ガバナンス、AI法を含む制度の不断の見直し、ASEAN等を含む国際協調、AIサミットの早期日本開催
4 AI社会に向けた継続的変革 AIと協働する 産業構造・雇用環境の構築、制度・枠組みの検討・実証、人材の育成・確保、人間力の向上

⚠️ 注意
方針4を「国際標準化・G7広島AIプロセスとの連携」と説明している解説がありますが、国際協調は方針3(AIガバナンスの主導)に属します。方針4は産業構造・雇用・人材育成・人間力という国内の社会変革がテーマです。

毎年変更される仕組み

人工知能基本計画は「当面毎年変更」することが明記されており、AI技術の急速な変化に対応する設計です。第Ⅱ期では「適切なベンチマーク(KPI等)を設定しモニタリング」することも書き加えられました。初版(2025年12月)から第Ⅱ期(2026年7月)まで約7か月で、実際に短い周期で見直されています。


2026年以降の見通し——毎年改訂される制度と企業が備えること

制度改訂のペース

AI推進法が施行された2025年以降の制度改訂は、以下のサイクルで進む見込みです。

制度 改訂頻度 根拠
人工知能基本計画 当面毎年変更 AI法第18条・基本計画の明文規定。初版2025年12月→第Ⅱ期2026年7月
AI指針 随時(本部決定) AI法第13条。初版2025年12月19日決定
AI事業者ガイドライン おおむね年1回(3月前後) 第1.0版2024年4月→第1.1版2025年3月28日→第1.2版2026年3月の実績
人工知能戦略本部の方針 随時 全国務大臣が参加する最高意思決定体制

第Ⅱ期基本計画は「AI法を含めた制度等の能動的かつ不断の見直し」を掲げており、法律そのものの改正も視野に入っています。

注目すべき3つの動向

① EU AI規則との相互承認・整合動向
EU AI規則(2024年8月発効)は義務規定が段階的に適用されており、適用時期の一部が延期されたとの報道もあります。本記事ではEUR-Lexから条文を取得できず、区分ごとの適用時期を一次ソースで確定できませんでした。日本でEU企業と取引がある事業者は、EU側が求めるリスク評価・文書化・透明性開示について、EUR-Lexの原文か法律専門家に直接確認してください。日本のAI法・ガイドラインとEU AI規則の整合については、広島AIプロセス(G7主導)での議論が継続しています。

② AIエージェントへの規律強化
AIエージェント(自律的タスク実行AI)はガイドライン第1.2版で言及されましたが、詳細な義務化はまだ検討段階です。次期基本計画・ガイドライン改訂でさらに具体化される可能性が高いです。特に「AIが人間の代わりに契約・決定を行う」ケースへの法的整理が注目点です。

③ 国内外でのAI利用開示義務化の動向
「AIで生成されたコンテンツ」であることの開示義務は、EU AI規則で一部義務化されています。日本でも将来的に同様の規律が導入される可能性があり、現時点から「AI生成の開示」を習慣化しておくことが無難です。

企業が今から備えること

「規制がないから何もしない」ではなく「規制が来る前に準備する」姿勢が重要です。現時点で特にお勧めするのは以下の2点です。

  1. AI活用の記録を残す習慣: どのツールを、どの目的で、いつから使っているかを記録することで、将来の行政調査・開示要請・補助金申請に対応しやすくなります。
  2. AI人材の育成: 補助金でのAI導入だけでなく、担当者がAIリテラシーを高めることが、持続的な活用の前提です。省力化投資補助金(AI関連設備)の活用については、中小企業省力化投資補助金でAI・自動化を導入する完全ガイドで詳説しています。

広島AIプロセスとG7国際連携——AI推進法の国際的位置づけ

AI推進法は日本国内法ですが、G7が主導する「広島AIプロセス」を通じた国際枠組みとも連動しています。

広島AIプロセスとは

2023年のG7広島サミットで立ち上げられた、AI政策の国際協調の枠組みです。以下の機関が連携しています。

  • G7各国政府(日・米・英・独・仏・伊・加)
  • OECD(AIガバナンスの国際標準化)
  • GPAI(Global Partnership on AI)
  • UNESCO(教育・人権側面でのAI倫理)

2025年からは「AI報告枠組みの導入」が進み、各国がAI政策の実施状況を相互報告する体制が整備されつつあります。

日本AI推進法の位置づけ

EU AI規則(義務・罰則型)に対し、日本のAI推進法(推進・ソフトロー型)は「協調しつつ独自路線を歩む」というポジションです。この対比を理解することで、日本法の「なぜ罰則がないのか」という問いへの答えが明確になります。

比較項目 日本 AI法 EU AI規則
基本方針 推進型(ソフトロー) 規制型(ハードロー)
罰則 なし(指導・助言は第16条にあり) あり(違反類型ごとに上限額と全世界売上比率が定められている)
事業者への義務 努力義務・協力義務 リスククラス別の強制義務
リスク分類 なし(AI指針が「リスクベースでのアプローチ」を基本方針に掲げる) 4段階(容認不可/高リスク/透明性/最小)
施行時期 2025年9月1日(全面) 2024年発効・義務は段階的適用

⚠️ EUの制裁金の具体額について
本記事ではEU AI規則の制裁金の具体的な金額・比率を記載していません。執筆時点でEUR-Lexおよび欧州委員会のサイトから条文を直接取得できず、一次ソースでの確認ができなかったためです。「最大3,500万ユーロまたは全世界売上の6%」といった数字が流通していますが、違反類型によって上限が3段階に分かれており、二次情報では区分が混同されていることがあります。EU域内で事業を行う企業は、EUR-Lexで規則(EU)2024/1689 第99条の原文を直接確認してください。 また、欧州委員会は「AI Omnibus Regulation」に言及しており、制度が動いている可能性があります。

日本・EU双方でビジネスを行う企業は、両方の基準を参照する必要があります。


FAQ

A

現行のAI法には罰則規定がありません。第7条(活用事業者の責務)で求められる努力義務・協力義務に違反した場合でも、本法上の罰金・行政処分・課徴金等はありません。

ただし「行政から何も言われない」わけではありません。 第16条は、AIの不適切な活用で国民の権利利益の侵害が生じた事案を国が分析し、その結果にもとづいて活用事業者に指導・助言を行うことを定めています。強制力はありませんが、根拠条文は存在します。

また、AIの利用に伴って個人情報保護法・著作権法・不正競争防止法等に違反した場合は、それらの法律に基づく責任(是正命令・課徴金・損害賠償等)が別途生じます。「AI法に罰則がない」という事実は、既存法による責任を免除しません。

A

条文上「活用事業者」の定義に規模要件はありません。AIを業務に活用している全ての事業者(中小企業・零細企業・個人事業主を含む)が対象となりうると解されます。ただし、努力義務の性格上、小規模事業者に対する実質的な強制力はありません。

自社の規模・業種に応じて対応できる範囲から取り組むことが現実的です。

A

2つの法律は別々に機能します。AI推進法はAIの推進・基本理念を定めるもの、個人情報保護法は個人情報の収集・利用・管理について厳格な規律(罰則あり)を設けるものです。

生成AIに顧客情報を入力する行為は、個人情報保護法上の問題(利用目的外利用・安全管理措置不備・第三者提供等)となりうるため、AI推進法の「罰則なし」とは独立して注意が必要です。個人情報保護委員会(PPC)は2023年6月2日に生成AI利用に関する注意喚起を公表しています。

A

AI法の施行を契機に、政府のAI支援策が体系化されました。第Ⅱ期人工知能基本計画(2026年7月14日閣議決定)は、計算資源・電力の確保、国内開発力の強化、中小企業・地方を含むAX推進などを掲げており、補助金・税制優遇・人材育成プログラムがこの枠組みの下で展開されています。

なお第Ⅱ期計画の脚注は、バーティカルAI・フィジカルAI・半導体に係る官民投資額として2040年度までにそれぞれ23.1兆円・10.5兆円・68.0兆円を想定と記しています。これは官民合計の長期見通しであり、単年度の政府予算ではありません。 「基本計画で政府が1兆円を投資すると決まった」といった説明を見かけますが、初版・第Ⅱ期のいずれの計画本文にもその記載はありません。

中小企業が活用できる直近の補助金については、AI・DX導入補助金2026まとめを参照してください。省力化投資補助金によるAI・自動化設備の導入支援(最大1億円)については、中小企業省力化投資補助金でAI・自動化を導入する完全ガイドで詳説しています。

A

第7条の協力義務は、条文上「第四条の規定に基づき国が実施する施策及び第五条の規定に基づき地方公共団体が実施する施策に協力しなければならない」と、協力先の条文まで特定されています。具体的には、行政が実施するアンケート・実証実験・ガイドライン策定への意見提出等への参加が想定されます。

実例として、AI指針は策定前の2025年12月5日〜11日にパブリックコメントに付されました。こうした意見募集に応じることが、ここでいう協力にあたります。

ただし、本法には協力しない場合の制裁が定められていないため、実態としては「積極的に応じることが望ましい」という行動原則に近い性格です。「事業を停止しろ」「罰金を払え」といった行政強制は現行法上ありません。

A

含まれます。AI指針の脚注が明記しています。

指針は「活用事業者」に注を付けて、こう定義しています。

AI法第7条に規定する活用事業者をいう。海外事業者も含む。
(人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針 脚注10)

つまり、AI法第7条の活用事業者には海外事業者が含まれるというのが政府の立場です。日本国内に事業拠点を持ち、日本の顧客向けにAIサービスを提供している企業は、指針が示す5点の取り組みの対象になります。

なお、この指針は罰則を伴うものではなく「自主的かつ能動的な取組を促す」性格のものです。海外事業者が従わなかった場合の強制手段がAI法にあるわけではありません。

A

現時点でAI法の改正スケジュールは公表されていません。ただし、第Ⅱ期人工知能基本計画(2026年7月14日閣議決定)は「AI法を含めた制度等の能動的かつ不断の見直し」を明記しており、改正の可能性は計画レベルで織り込まれています。

同計画は、エージェント型AIの登場によって「不具合の連鎖による大規模障害といった技術的リスク、責任の所在の曖昧化、雇用への影響といった社会的リスク、自律型のサイバー攻撃といった安全保障上のリスク」が複雑化・深刻化しているとの認識を示しています。基本計画は当面毎年変更されるため、この認識の変化が制度改正につながる可能性があります。

内閣府のAI戦略サイト(https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/index.html)で最新情報を確認してください。


誤解されやすい6つのポイント

一次ソースに当たったところ、解説記事のあいだで食い違っていた点がありました。実務に響くものを挙げます。

誤解1:法律とガイドラインの2層構造だ
→ 間にAI指針(AI法第13条に基づき人工知能戦略本部が2025年12月19日に決定)が入る3層です。指針は活用事業者が取り組むべき5点を名指しで挙げており、AI事業者ガイドラインより法律に近い位置にあります。

誤解1-2:AI指針が活用事業者に求めるのは4点
→ 5点です。指針の概要版(1ページ)が4項目に圧縮しているため4点とする解説が出回っていますが、本文には「(4) 事業継続性確保による安全な環境の維持」があります。AIシステムの障害に備えた事業継続計画(BCP)の事前策定を求めるもので、実務でいちばん具体的な項目です。

誤解2:罰則がないので行政からの働きかけも一切ない
→ 罰則・命令・企業名公表はありませんが、第16条に「指導、助言」の明文があります。権利利益の侵害が生じた事案の分析にもとづくものです。

誤解3:基本計画の原則は3つ
→ 初版(2025年12月)は3つでしたが、現行の第Ⅱ期(2026年7月)は「挑戦と学習」が加わって4つです。

誤解4:基本計画で政府が1兆円超を投資すると決まった
→ 初版・第Ⅱ期のどちらの計画本文にもその記載はありません。第Ⅱ期の脚注にあるのは、2040年度までの官民投資額の想定(バーティカルAI 23.1兆円/フィジカルAI 10.5兆円/半導体 68.0兆円)です。

誤解5:AI事業者ガイドライン第1.1版は2025年9月公表
→ 表紙に「令和7年3月28日」と明記されています。改訂はおおむね年1回、各年3月前後です。


まとめ:AI法が示す「今すぐ動ける方向性」

AI法(令和7年法律第53号)について、今日押さえておくべき5つの核心事実を整理します。

核心5点:

  1. 施行日は2025年9月1日(全面施行) — 人工知能戦略本部の設置を含む全条文が既に動いています。政府が使う略称は「AI法」です
  2. 罰則はない。ただし指導・助言の根拠はある — 罰金・命令・企業名公表はありません(第16条に指導・助言の明文あり)。個人情報保護法・著作権法の責任は別途生じます
  3. 事業者が読むべきは第7条と第13条 — 第7条がAI積極活用の努力義務と施策への協力義務、第13条がAI指針の根拠です
  4. AI指針が実務の出発点 — 活用事業者が取り組むべき5点(AIガバナンスによる俯瞰的な適正性の確保/透明性の確保/十分な安全性の確保/事業継続性確保(BCP策定)/データの重要性を踏まえたステークホルダーへの配慮)が明示されています。概要版は4項目に圧縮されているので、本文で確認してください
  5. 現行計画は第Ⅱ期(2026年7月14日閣議決定) — 初版ではありません。当面毎年変更されるため、読むときは日付を確認してください

企業が今すぐできること:

「法的義務がないから対応不要」という判断は、ビジネスリスクの観点からは誤りです。取引先・顧客・金融機関がAI活用の体制を評価する時代が来つつあります。今できることは「方針を1枚にまとめる」「AI利用を記録する」「自社の業種に対応した分野別ガイドラインがないか内閣府の一覧で確認する」「ガイドラインを年1回チェックする」の4点から始めることです。

現場のAI利用ルール整備については、現場で働く人のための生成AI業務利用ルールでAI事業者ガイドラインを根拠にした実務チェックリストを詳解しています。あわせて参照してください。


一次ソース・参考資料

本記事の記述は、以下の一次資料で確認しています。

資料名 所管 公表日・決定日 URL
人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(AI法・令和7年法律第53号)第2条・第7条・第13条・第16条・第18条・附則第1条 e-Gov法令検索 2025年6月4日公布 https://laws.e-gov.go.jp/law/507AC0000000053
AI法解説ページ 内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局 人工知能政策推進室 2025年〜 https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_act/ai_act.html
人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針(AI指針)とその概要 人工知能戦略本部決定 2025年12月19日 https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_guideline/ai_guideline.html
各府省庁等のガイドライン等の一覧(概要) 内閣府 — 上記ページ内
第Ⅱ期人工知能基本計画(本文・概要) 内閣府(閣議決定) 2026年7月14日 https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_plan/ai_plan.html
人工知能基本計画 初版(本文・概要) 内閣府(閣議決定) 2025年12月23日 上記ページ内
AI事業者ガイドライン(第1.1版) 総務省・経済産業省 2025年3月28日 https://www.soumu.go.jp/main_content/001002576.pdf
AI事業者ガイドライン(第1.2版) 総務省・経済産業省 2026年3月 https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/ai_network/02ryutsu20_04000019.html (経産省版は https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/ai_shakai_jisso/20260331_report.html )
広島AIプロセス(G7) 総務省 2023年〜継続 https://www.soumu.go.jp/hiroshimaaiprocess/
生成AIサービスの利用に関する注意喚起 個人情報保護委員会 2023年6月2日 https://www.ppc.go.jp/news/careful_information/230602_AI_utilize_alert/
衆議院 法律案データベース(第217回国会) 衆議院 2025年〜 https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g21709029.htm

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