「競馬で大きく当たったけれど、税金はかかるの?」「外れ馬券の購入代金は経費として引けるの?」「そもそも確定申告は必要?」——払戻金を手にしたあとで、こうした疑問にぶつかる人は少なくありません。
結論を先に言います。競馬・競輪・競艇・オートレースの払戻金は、原則として「一時所得」です。そして一時所得では、当たった馬券(車券・舟券)の購入費しか控除できず、外れ馬券の代金は控除できません。「外れた分も買ったお金だから経費になるはず」という直感は、税法上は通りません。
一方で、ごく例外的に「雑所得」と扱われ、外れ馬券も経費にできるケースがありますが、これは一般の競馬愛好家には基本的に当てはまりません。
本記事では、原則の一時所得の計算(特別控除50万円・1/2課税)、外れ馬券が控除できない法的な理由、例外として雑所得になる条件と判例、そして確定申告が必要・不要なケースを、2026年時点の最新ルールで順に整理します。
本記事の対象: 競馬・競輪・競艇・オートレースなど、特別法に基づき合法に行われる公営競技の払戻金にかかる税務を対象としています。
免責事項: 本記事は一般的な税務情報の提供を目的としており、個別の税務アドバイスではありません。所得区分の判定や実際の申告にあたっては、税理士または所轄の税務署にご相談ください。
結論:原則は一時所得・外れ馬券は控除できない(雑所得は例外)
まず全体像を3点で押さえてください。
- 公営競技の払戻金は、原則として「一時所得」(所得税法第34条)。年間の払戻金合計から、当たった馬券の購入費と特別控除(最高50万円)を差し引き、その残額の 2分の1 を他の所得と合算して課税されます。
- 一時所得では、外れ馬券の購入代金は控除できません。控除できるのは「当たり馬券の購入費」だけです(理由は後述)。
- 「雑所得」として外れ馬券も経費にできるのは、極めて例外的なケースだけです。自動購入ソフトなどを使い、年間を通じてほぼ全レースを買い続け、収支で利益を上げていることが客観的に明らかな場合などに限られ、一般の愛好家は従来どおり一時所得になります。
この記事では、この原則と例外を、計算例・条文・判例とともに正確に整理します。なお、公営競技がそもそもなぜ合法なのか(賭博罪との関係)については、賭博罪・刑法185条をわかりやすく解説で別途まとめています。
一時所得の計算:特別控除50万円・1/2課税・当たり馬券のみ控除
一時所得の計算式
競馬などの払戻金が一時所得になる場合、計算は次の式に従います(所得税法第34条)。
一時所得の金額 = 総収入金額(払戻金の合計)
− 収入を得るために支出した金額
− 特別控除(最高50万円)
そして、この一時所得の金額の2分の1を、給与所得など他の所得と合算して総所得金額を計算します(いわゆる「1/2課税」)。特別控除50万円があり、さらに課税対象が半分になるため、所得区分としては比較的有利です。
ここで最大のポイントが、控除できる「支出した金額」は当たり馬券の購入費に限られるという点です。外れ馬券の代金は含められません。
具体的な計算例
イメージをつかむために、ひとつ計算例を示します。以下の数値はすべて説明のために設定した仮の例であり、実際のレース結果や特定の人物の収支を示すものではありません。
前提(仮の設定)
– 1年間の払戻金の合計:120万円
– そのうち、当たった馬券の購入費:20万円
– 外れ馬券の購入費:40万円(※一時所得では控除不可)
– ほかに一時所得(生命保険の満期金など)はないものとする
Step 1:控除できる支出を確認する
控除できるのは「当たり馬券の購入費」の20万円だけです。外れ馬券の40万円は引けません。
Step 2:一時所得の金額を計算する
一時所得の金額 = 120万円(払戻金)− 20万円(当たり馬券の購入費)− 50万円(特別控除)
= 50万円
Step 3:課税される金額を計算する
課税対象(総所得に算入される額) = 50万円 × 1/2 = 25万円
この25万円が、給与所得などと合算されて課税されます。
ポイント: もし外れ馬券40万円も引けると勘違いして計算すると「120万円−60万円−50万円=10万円」となり、本来より所得を小さく見積もってしまいます。外れ馬券を引かないのが正しい計算です。
なお、当たり馬券の購入費を控除した後の払戻益が小さく、特別控除50万円の枠内に収まれば、一時所得の金額はゼロとなり、その分の所得税はかかりません(ほかに一時所得がない場合)。
なぜ外れ馬券は控除できないのか(所得税法34条2項)
「払戻金を得るために、外れ馬券にもお金を使っているのに、なぜ引けないのか」——これは多くの人が抱く疑問です。
理由は、一時所得で控除できる支出の範囲が、所得税法第34条2項で「その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額」に限られているからです。
一時所得では、「収入(払戻金)を直接生じさせた行為」に対応する支出しか控除できません。払戻金を生んだのは当たった馬券であり、その購入費は「直接要した金額」に当たります。一方、外れ馬券は払戻金を生んでいないため、「直接要した金額」には当たらない、という整理です。
国税庁のタックスアンサー No.1490(一時所得)でも、競馬・競輪などの払戻金は一時所得の代表例として挙げられており、同時に注記として「営利を目的とする継続的行為から生じたものを除く」とされています。この「除く」とされる部分が、次に説明する雑所得の例外につながります。
例外:雑所得になる場合(外れ馬券も経費にできる)
どんな場合に雑所得になるのか
払戻金が「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」と評価される場合は、一時所得ではなく雑所得に該当します。雑所得になると、所得税法第37条1項の必要経費として、外れ馬券の購入代金も控除できます。
雑所得になる条件は、所得税基本通達34-1の注書き(現行=平成30年6月29日改正後)に示されています。その要旨は次のとおりです。
馬券を自動的に購入するソフトウエアを使用して定めた独自の条件設定と計算式に基づき、又は予想の確度の高低と予想が的中した際の配当率の大小の組合せにより定めた購入パターンに従って、偶然性の影響を減殺するために、年間を通じてほぼ全てのレースで馬券を購入するなど、年間を通じての収支で利益が得られるように工夫しながら多数の馬券を購入し続けることにより、年間を通じての収支で多額の利益を上げ、回収率が馬券購入行為の期間総体として100%を超えるように馬券を購入し続けてきたことが客観的に明らかな場合の払戻金は、営利を目的とする継続的行為から生じた所得として雑所得に該当する。
要するに、ほぼ全レースを網羅的に・継続的に買い続け、収支で多額の利益を出し、回収率が期間全体で100%を超えていることが客観的に明らか——という、かなり特殊な購入態様が求められます。
一般の愛好家には当てはまらない
ここは強調しておきたい点です。上記に該当しない一般の競馬愛好家は、従来どおり一時所得であり、外れ馬券は控除できません。
雑所得と認定されるのは事実認定の問題であり、実際の認定は極めて稀です。後述の最高裁判決の後も、訴訟になった事案で雑所得が認められたケースはごく限られています。「外れ馬券を経費にしたい」という理由だけで安易に雑所得として申告するのは適切ではなく、購入態様が通達の要件に該当するかどうかは、税理士・税務署への確認が不可欠です。
関連する最高裁判例(事実認定で結論が分かれる)
雑所得への該当性は、過去に最高裁まで争われています。いずれも特殊な購入態様の事案である点に注意してください。
- 最高裁 平成27年3月10日 判決(大阪の刑事事件):自動購入ソフトを使い、インターネット経由で長期間・多数回・網羅的に馬券を購入していた事案。当たり馬券の払戻金を雑所得とし、外れ馬券を所得税法第37条1項の必要経費と認めました。判決は、一時所得か雑所得かの区分を、行為の期間・回数・頻度・態様、利益発生の規模・期間などを総合考慮して判断するという基準を示しました。
- 最高裁 平成29年12月15日 判決(札幌の課税処分取消訴訟):自動ソフトを使っていなくても、予想の確度と配当率の組合せに基づく購入パターンで、長年・大規模に馬券を購入し、回収率が期間全体で100%を超えていた事案について、雑所得・外れ馬券は必要経費と認めました。
- 対比:最高裁 平成29年12月20日 判決:豊富な情報を駆使していても、購入方法が一般の愛好家と変わらない事案については、一時所得(外れ馬券の控除不可)としました。
これらの判決を踏まえ、所得税基本通達34-1は平成27年5月29日に「営利を目的とする継続的行為を除く」旨が追記され、その後平成30年6月29日に再改正されて現行の文言になりました。
ここから読み取れるのは、同じ「競馬で利益を得た」事案でも、購入の規模・態様によって一時所得か雑所得かの結論が分かれるということです。自分のケースがどちらに当たるかは、個別の事実認定によります。
確定申告が必要なケース・不要なケース
ここは断定を避けつつ、目安として整理します。実際の判定は他の所得の状況にもよるため、必ず税務署または税理士に確認してください。
一時所得の場合の目安
一時所得には特別控除50万円があります。そのため、当たり馬券の購入費を差し引いた払戻益が年間50万円以下で、ほかに一時所得がない場合は、一時所得の金額がゼロとなり、その分の課税は生じません。
払戻益が大きく一時所得の金額が出る場合は、確定申告が必要になります。生命保険の満期返戻金など、ほかの一時所得がある場合はそれらと合算して計算する点にも注意してください。
給与所得者の「20万円ルール」に注意
給与所得者で、給与以外の所得が年間20万円以下であれば、所得税の確定申告が不要とされる取り扱いがあります(いわゆる20万円ルール)。
ただし、一時所得を20万円判定に使うときは段階に注意が必要です。判定に用いるのは、「払戻金 − 支出 − 特別控除50万円」にさらに2分の1をかけた後の金額(=総所得に算入される金額)です。したがって、当たり馬券の購入費以外に経費がない場合、払戻益(払戻金から当たり馬券購入費を引いた額)が年間90万円までであれば「(90万円 − 50万円)×1/2 = 20万円」となり、この目安の範囲に収まります。ただし副業など給与以外のほかの所得がある場合は、それらと合算して20万円を超えるかどうかで判定します。判定が微妙な場合は税務署・税理士に確認することをおすすめします(国税庁タックスアンサー No.1490・No.1903)。
住民税の申告は別枠
所得税の確定申告が不要な場合でも、住民税の申告は別途必要になることがあります。「所得税の申告をしないから住民税も不要」とは限りません。お住まいの市区町村に確認してください。
一時所得・雑所得の確定申告書への記載方法や、e-Taxでの具体的な申告手順については、ポーカー収入の確定申告2026:一時所得・雑所得の判定から申告手順までで、同じ所得区分の手続きとして詳しく解説しています。
無申告のリスク
高額の払戻については、主催者の記録などを通じて、申告漏れが税務調査で把握されることがあります。申告漏れが発覚した場合、本来の税額に加えて無申告加算税や延滞税が課されることがあり、後からの負担の方が大きくなりがちです。「バレないだろう」という前提で判断するのは避け、必要な場合は適切に申告することをおすすめします。
競輪・競艇・オートレースへの準用と、宝くじ・totoの非課税
競輪・競艇・オートレースも同じ枠組み
ここまで競馬を中心に説明してきましたが、競輪・競艇(ボートレース)・オートレースの払戻金も、基本的に同じ枠組みで扱われます。
国税庁は、競輪の車券の払戻金等に係る所得についても、競馬の馬券の払戻金に準じて取り扱うと明示しています。競艇・オートレースも同様に、原則は一時所得(外れ車券・外れ舟券は控除不可)、例外的に雑所得、という整理になります。
| 公営競技 | 根拠となる特別法 | 払戻金の所得区分 |
|---|---|---|
| 競馬 | 競馬法 | 原則:一時所得 / 例外:雑所得 |
| 競輪 | 自転車競技法 | 原則:一時所得 / 例外:雑所得 |
| 競艇(ボートレース) | モーターボート競走法 | 原則:一時所得 / 例外:雑所得 |
| オートレース | 小型自動車競走法 | 原則:一時所得 / 例外:雑所得 |
宝くじ・toto(スポーツ振興くじ)は非課税という別枠
公営競技とよく混同されますが、宝くじとスポーツ振興くじ(toto・BIG)の当せん金は非課税です。これらは公営競技の払戻金とは扱いが異なります。
宝くじの当せん金は、当せん金付証票法第13条により非課税とされており、所得税・住民税の対象になりません。「宝くじが当たったら確定申告が必要では?」と心配する人がいますが、宝くじについては申告は不要です。スポーツ振興くじ(toto・BIG)の当せん金も、一般に非課税として扱われるとされています。取り扱いで不明な点があれば、所管(スポーツ振興センター等)や税務署で確認すると確実です。
ここは公営競技の払戻金(一時所得)とは別枠の取り扱いである、と覚えておくと整理しやすいでしょう。
公営競技が賭博罪の対象外な理由
「お金を賭けているのに、なぜ競馬は逮捕されないのか」——これも素朴な疑問です。
競馬・競輪・競艇・オートレースは、それぞれ競馬法・自転車競技法・モーターボート競走法・小型自動車競走法という特別法によって認められています。これらの特別法があることで、刑法第185条の賭博罪の対象から外れ、合法に行えるという整理です。
つまり、公営競技は「賭博ではないから合法」なのではなく、「特別法の根拠があるからこそ適法に行える」と理解するのが正確です。この違法性阻却の仕組みや、賭博罪そのものの構成要件については、賭博罪・刑法185条をわかりやすく解説で詳しく扱っています。
なお、特別法の根拠がないオンラインカジノなどは、これとはまったく事情が異なります。法的リスクについてはオンラインカジノは違法?日本からプレイする法的リスクを参照してください。
よくある質問(FAQ)
原則としてできません。払戻金が一時所得になる一般の愛好家の場合、控除できるのは「当たった馬券の購入費」だけで、外れ馬券の代金は控除できません。これは、一時所得で控除できる支出が、収入を生じた行為に「直接要した金額」に限られている(所得税法第34条2項)ためです。例外として、自動購入ソフトの利用などで継続的・網羅的に購入し収支で利益を上げていることが客観的に明らかな場合などに雑所得と認められれば、外れ馬券も必要経費にできますが、これは極めて稀なケースです。
一時所得には特別控除50万円があるため、当たり馬券の購入費を引いた払戻益が年間50万円以下で、ほかに一時所得がなければ、一時所得の金額はゼロとなり、その分の課税は生じません。これを超えて一時所得の金額が出る場合は申告が必要になります。また、給与所得者には「給与以外の所得が年20万円以下なら所得税の確定申告不要」という目安もあります。一時所得の場合は「(払戻金 − 支出 − 特別控除50万円)×1/2」の金額で判定するため、当たり馬券購入費以外に経費がなければ払戻益90万円程度までがこの目安の範囲ですが、ほかの所得との合算で結論が変わります。微妙な場合は税務署・税理士に確認してください。
高額の払戻については、主催者の記録や税務調査を通じて申告漏れが把握されることがあります。申告漏れが発覚すると、本来の税額に加えて無申告加算税や延滞税が課されることがあり、後からの負担が大きくなりがちです。「発覚しないだろう」という前提ではなく、必要な場合は適切に申告することをおすすめします。
はい、基本的に同じ枠組みです。国税庁は、競輪の車券の払戻金等についても競馬の馬券の払戻金に準じて取り扱うと明示しており、競艇(ボートレース)・オートレースも同様です。いずれも原則は一時所得(外れ車券・外れ舟券は控除不可)で、例外的に雑所得になり得る、という整理になります。
宝くじの当せん金は当せん金付証票法第13条により非課税とされ、所得税・住民税の対象になりません。スポーツ振興くじ(toto・BIG)の当せん金も、一般に非課税として扱われるとされています。いずれも公営競技の払戻金(一時所得)とは別枠の取り扱いです。totoの取り扱いで不明な点は、所管や税務署で確認することをおすすめします。
まとめ
| チェック項目 | 内容 |
|---|---|
| 原則の所得区分 | 一時所得(所得税法第34条) |
| 控除できる支出 | 当たり馬券の購入費のみ(外れ馬券は控除不可) |
| 特別控除 | 最高50万円 |
| 課税の仕組み | (払戻金 − 当たり馬券購入費 − 特別控除50万円)の2分の1を合算 |
| 雑所得になる例外 | 自動ソフト等で網羅的・継続的に購入し収支で利益が客観的に明らかな場合のみ(極めて稀) |
| 競輪・競艇・オート | 競馬に準じて同じ枠組み |
| 宝くじ・toto | 非課税(別枠・申告不要) |
競馬・公営競技の払戻金の税務は、「原則は一時所得・外れ馬券は控除できない」という出発点を押さえることが最も重要です。雑所得として外れ馬券を経費にできるのはごく例外的なケースに限られ、一般の愛好家には当てはまりません。
自分のケースがどちらに該当するか、また確定申告が必要かどうかの判定に迷う場合は、自己判断で済ませず、所轄の税務署または税理士に相談することを強くおすすめします。
免責事項
本記事は一般的な税務情報の提供を目的としており、特定の事案に関する個別の税務・法的助言ではありません。所得区分の判定(一時所得か雑所得か)は個別の事実認定によって結論が変わり得ます。具体的な申告にあたっては、税理士または所轄の税務署にご相談ください。税法・通達・判例は改正・変更される場合があります。本記事の情報は2026年6月時点のものです。



