最終更新日: 2026-07-02
遺言の書き方を大きく変える「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)が2026年6月17日に成立、同月24日に公布されました。ポイントは3つ。①自筆証書遺言などの「押印要件の廃止」(公布から1年以内に施行)、②法務局が保管し口述で確認する「保管証書遺言」の新設(公布から3年以内に施行)、③証人の口授を録音・録画で記録する特別方式の追加です。ただし施行日は政令で決まるため、2026年7月現在はまだ現行ルール(押印が必要)です。「今すぐ書くなら押印が必要、1年以内に押印が不要になり、3年以内に法務局で保管する新しい方式ができる」という時間軸で整理します。
免責事項: 本記事は一般的な制度解説であり、個別案件の法的判断を提供するものではありません。遺言の作成・有効性の判断については、弁護士・司法書士・公証人にご相談ください。
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【早わかり表】遺言制度の主な変更点と施行時期
| 変更点 | 現行ルール(2026年7月時点) | 改正後 | 施行時期の目安 |
|---|---|---|---|
| 押印 | 自筆証書遺言・秘密証書遺言・特別方式で押印が必要 | 押印要件を廃止(署名=自書は引き続き必要) | 公布から1年以内(2027年6月24日まで見込み) |
| 保管証書遺言 | 制度なし | 全文を記載・記録した証書を法務局で保管し、遺言書保管官の前で口述する新方式 | 公布から3年以内(2029年6月24日まで見込み) |
| 特別方式遺言 | 死亡危急時遺言・船舶遭難者遺言(書面中心) | 証人の口授を録音・録画で同時記録する方式を追加 | 公布から1年以内(2027年6月24日まで見込み) |
| 保管の申請 | 自筆証書遺言書保管制度は原則出頭が必要 | 出頭・書類提出なしでも保管申請できる(オンライン化) | 公布から3年以内(2029年6月24日まで見込み) |
根拠: 民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)、2026年6月24日公布。法律案要綱に基づく。施行日は「公布の日から○年以内において政令で定める日」のため、下記の「いつから変わるか」で幅を持って整理します。確定日は政令公布後に更新します。
1. 何が変わるのか|遺言制度改正の全体像
今回の改正は、遺言を「もっと書きやすく」「もっと守られるように」する方向の見直しです。押印という形式のハードルを下げ、法務局で確実に保管される新しい方式を用意し、緊急時の遺言に録音・録画という現代的な手段を認めます。
1-1. 改正法の位置づけ
2026年6月17日に成立、同月24日に公布された「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)は、遺言制度だけでなく成年後見制度の抜本改正も同じ法律に含む複合的な改正です。本記事は、このうち遺言に関する部分に絞って解説します。
成年後見制度の改正(後見・保佐・補助の3類型を「補助」に一本化する等)については、成年後見制度の抜本改正2026で詳しく解説しています。
1-2. なぜ遺言制度が見直されるのか
現行の自筆証書遺言は、遺言者が全文・日付・氏名を自書し、印を押すことが要件とされています(民法968条)。この「押印」という形式要件は、押し忘れや押印の不備によって遺言全体が無効になるリスクをはらんできました。また、自宅で保管された自筆証書遺言は紛失・改ざん・発見遅れといった問題も指摘されてきました。
こうした課題に対応するため、今回の改正では次の3つの方向で見直しが行われます。
- 形式要件の緩和 — 押印要件の廃止
- 保管の確実化 — 法務局が関与する保管証書遺言の新設
- 緊急時への対応 — 特別方式の遺言に録音・録画による記録方式を追加
2. 押印要件の廃止|署名は引き続き必要
改正後は、自筆証書遺言・秘密証書遺言・特別方式の遺言における遺言者・証人・立会人の押印要件が「廃止」されます。ただし「押印がなくてもよい」ようになるだけで、署名(自書)は引き続き必要です。自筆証書遺言の全文を自書する要件も変わりません。
2-1. 廃止されるのは「押印」だけ
要綱の文言は「押印要件を廃止する」です。関係する条文は民法968条(自筆証書遺言)、970条1項(秘密証書遺言)、976条1項・979条3項・980条・981条・984条(特別方式)などとされています。
ここで誤解しやすいのが、「署名や自書も不要になるのか」という点です。署名(自書)は引き続き必要であり、自筆証書遺言について全文を自分の手で書く要件も、要綱に変更の記載はありません。つまり、変わるのは「印を押す」という一点です。
| 要件 | 現行 | 改正後 |
|---|---|---|
| 全文の自書(自筆証書遺言) | 必要 | 必要(変更なし) |
| 日付・氏名の自書 | 必要 | 必要(変更なし) |
| 署名 | 必要 | 必要(変更なし) |
| 押印 | 必要 | 廃止 |
2-2. 証人・立会人の欠格事由が追加される
特別方式の遺言などで求められる証人・立会人については、現行民法974条に欠格事由(証人・立会人になれない人)が定められています。今回の改正では、このリストに受遺者(遺言で財産を受け取る者。ただし推定相続人である者を除く)の被用者等が追加されます(974条3号関係)。
利害関係のある人が証人として関与することによる遺言の信頼性低下を防ぐための整理と考えられます。
注意: 押印要件の廃止は改正法で定められた方向ですが、施行日は「公布から1年以内において政令で定める日」です。2026年7月時点ではまだ施行されていないため、今、自筆証書遺言を書くなら押印が必要です。
3. 保管証書遺言の新設|法務局で口述して残す新しい方式
改正で新設される「保管証書遺言」は、遺言の全文を記載または記録した証書に遺言者が署名し、遺言書保管官の前で遺言の全文を口述するなどして、法務局で保管しなければ効力が生じない、普通の方式の新しい遺言です。作成から保管までを法務局が関与する点が最大の特徴です。
3-1. 保管証書遺言とは
要綱(第1の5、967条・968条の二・968条の三関係)によると、保管証書遺言は次のような方式の遺言として新設されます。
- 遺言の全文が「記載又は記録された」証書に、遺言者が署名または署名に代わる措置を講じる
- 遺言書保管官の前で、遺言の全文を口述するなどする
- 法務局における遺言書の保管等に関する法律(遺言書保管法)の定めに基づき、その証書を保管する
- 保管しなければ効力を生じない
つまり、書いた(または記録した)遺言を法務局に持ち込み、保管官の面前で内容を口述し、法務局が保管して初めて有効になる、という流れが想定されています。
3-2. 「記載又は記録された」という文言のポイント
要綱では「記載又は記録された証書」という表現が使われています。「記録」という文言は電磁的記録(データ)も想定していると読めますが、パソコンで作成できるのか、どの範囲でデータが認められるのかといった運用の詳細は、要綱の段階では確定していません。手数料や具体的な手続きの流れも同様です。断定は避け、政令・省令や法務局の運用が示された段階で確認する必要があります。
3-3. 現行の「自筆証書遺言書保管制度」との違い
すでに法務局には、自筆証書遺言を預かる「自筆証書遺言書保管制度」(2020年開始)があります。新設される保管証書遺言とは別の制度です。混同しやすいので、現時点で分かる範囲の違いを整理します。
| 項目 | 現行の自筆証書遺言書保管制度 | 新設の保管証書遺言 |
|---|---|---|
| 対象 | 自筆で書いた自筆証書遺言を預ける | 全文を記載・記録した証書を保管する新しい方式の遺言 |
| 作成方法 | 遺言自体は自書で作成 | 全文を記載または記録(詳細は今後確定) |
| 法務局での確認 | 形式のチェック中心 | 遺言書保管官の前で全文を口述するなど |
| 保管との関係 | 保管は任意(保管しなくても遺言は有効) | 保管しなければ効力を生じない |
大きな違いは、現行制度が「すでに有効な自筆証書遺言を、任意で法務局に預けておく」仕組みなのに対し、保管証書遺言は「法務局での保管そのものが有効要件」である点です。あわせて、遺言書保管法の改正で、自筆証書遺言書についても出頭または書類の提出を要することなく保管の申請等ができる(オンライン申請化)方向が示されています。
注意: 保管証書遺言と遺言書保管法の改正は「公布から3年以内において政令で定める日」に施行されます。2026年7月時点ではまだ利用できません。
4. 特別方式の遺言|緊急時に録音・録画で残せるように
病気で死期が迫った場合や船舶が遭難した場合などの「特別方式の遺言」に、証人への口授を録音・録画で同時に記録する方式が追加されます。書面に書き残す余裕がない緊急時でも遺言を残せるようにする見直しです。
4-1. 死亡危急時の遺言
要綱(第1の6、976条の二関係)によると、死亡危急時遺言について、遺言者が証人1人に遺言の趣旨を口授し、証人がその内容を書面または電磁的記録に記載・記録するとともに、その状況を録音・録画によって同時に記録する方式が追加されます。
4-2. 船舶遭難者の遺言
船舶遭難者の遺言(979条関係)についても、適用範囲が見直され、証人1人以上の立会いのもとで口頭で遺言する状況を録音・録画する方式や、電子計算機(コンピュータ)を用いて記録を特定の者に送信する方式などが追加されます。
これらは、極限状況で「書いて署名する」ことが難しい場面を想定した現代的な手段の追加です。特別方式は、あくまで普通の方式(自筆証書・公正証書等)で遺言できない緊急時に限られる例外的な方式である点は、現行と同じ考え方です。
5. いつから変わるのか|施行時期の3段階整理
施行日は改正内容ごとに異なり、政令で定められます。2026年7月時点では「まだ何も施行されていない(=現行ルール)」段階です。それぞれの上限日を押さえておきましょう。
5-1. 施行時期のタイムライン
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2026年4月3日 | 内閣が「民法等の一部を改正する法律案」を国会提出 |
| 2026年6月17日 | 成立(令和8年法律第45号) |
| 2026年6月24日 | 公布 |
| 2027年6月24日まで(見込み) | 押印要件の廃止・特別方式の録音録画方式の追加が施行(公布から1年以内の政令確定後) |
| 2029年6月24日まで(見込み) | 保管証書遺言の新設・遺言書保管法改正(オンライン申請化)が施行(公布から3年以内の政令確定後) |
注意: 上記の日付は「公布から1年/3年」の計算上の上限日です。政令でこれより早い日が定められる可能性があります。確定した施行日は政令公布後に法務省サイト等で確認してください。
5-2. なぜ施行日がまだ決まっていないのか
改正法には「公布の日から○年以内において政令で定める日から施行する」という形の規定が置かれています。実際の施行日は、システム整備や運用準備の進み具合を見ながら、後日出される政令で確定します。そのため、本記事執筆時点(2026年7月)では具体的な施行日はまだ決まっていません。
なお、改正法には施行後3年を目途とした検討条項(附則)も設けられており、施行後の状況を踏まえた見直しが予定されています。
6. 今書くべきか、待つべきか|判断フロー
「押印が不要になるなら待ったほうがいいのか」と迷う方もいるでしょう。結論から言えば、遺言の必要性が今あるなら待たずに書くべきです。改正はまだ施行されておらず、いつ施行されるか(政令)も確定していないためです。
6-1. 判断の考え方
遺言は「書いておくべき事情が今あるかどうか」で判断するものであり、制度改正のタイミングに合わせるものではありません。以下の流れで考えてみてください。
ステップ1: 今すぐ遺言が必要な事情があるか
– 相続で揉めそうな事情がある(相続人が多い、疎遠な相続人がいる等)
– 特定の人に確実に財産を残したい
– 健康状態に不安がある
→ 必要があるなら、今の現行ルール(押印が必要)で書く。 施行日が未確定な改正を待って遺言を先送りするのはリスクがあります。
ステップ2: 急ぎではないが、いずれ書きたい
– 押印廃止(公布から1年以内の見込み)や保管証書遺言(公布から3年以内の見込み)を待つ選択肢もありますが、施行日は政令次第です。まずは下書き・財産の棚卸しを始めておくとよいでしょう。
ステップ3: 確実性を重視したい
– 形式不備のリスクを避けたいなら、現行制度でも公正証書遺言という選択肢があります。公証人が関与するため、押印廃止を待たなくても方式不備の心配が小さい方式です。
6-2. 今、自筆証書遺言を書くときの現行ルール
改正が施行されるまでは、自筆証書遺言は現行の要件で作成します。
- 全文を自書する(パソコン作成は不可。ただし財産目録は自書以外も可)
- 日付を自書する(「〇年〇月吉日」のような特定できない日付は不可)
- 氏名を自書する
- 押印する(改正で廃止される予定だが、施行前は必要)
作成した自筆証書遺言は、法務局の自筆証書遺言書保管制度を使えば紛失・改ざんのリスクを下げられます。相続税がかかりそうな規模かどうかは、相続税シミュレーター2026で概算を把握しておくと、遺し方の検討に役立ちます。
7. 経過措置|施行前に書いた遺言はどうなるか
施行前に作成した遺言の扱いは、改正法の経過措置によって定められます。要綱では「所要の経過措置を定める」とされるにとどまり、詳細は確定していません。一般論として、遺言はその作成時点の方式要件で有効性が判断されると考えられますが、断定は避け、政令・附則の確定を待つ必要があります。
法律改正では通常、施行前に成立した法律関係を急に無効にしないよう、経過措置が設けられます。今回の改正でも「所要の経過措置を定める」とされています。
施行前に現行ルールで有効に作成した自筆証書遺言の扱いは、経過措置(附則)の詳細が確定するまで断言できません。法改正では一般的に、既存の有効な法律行為を遡及的に無効にしない配慮がとられますが、今回の経過措置の具体的な内容(どの時点の遺言にどの規定が適用されるか)は、政令・附則等の公布を待って確認する必要があります。
本記事は経過措置の詳細を断定せず、政令・省令等が公表された段階で更新します。遺言の有効性に不安がある場合は、弁護士・司法書士にご相談ください。
8. よくある質問(FAQ)
押印要件の廃止は「公布(2026年6月24日)から1年以内において政令で定める日」に施行されます。2026年7月時点ではまだ施行されておらず、今、自筆証書遺言を書くなら押印は必要です。施行日の確定は政令公布後になります。
いいえ。今回の改正で廃止されるのは「押印」であり、署名(自書)は引き続き必要です。自筆証書遺言の全文を自書する要件も、要綱に変更の記載はありません。パソコン作成が広く認められるようになるわけではない点に注意してください。なお新設される「保管証書遺言」は「記載又は記録された証書」という文言ですが、パソコン作成の可否など運用の詳細は未確定です。
別の制度です。現行の「自筆証書遺言書保管制度」(2020年開始)は、自書で作った自筆証書遺言を任意で法務局に預ける仕組みで、預けなくても遺言自体は有効です。新設の「保管証書遺言」は、法務局での保管そのものが効力の要件で、遺言書保管官の前で全文を口述するなどの手続きが想定されています。保管証書遺言の施行は公布から3年以内の見込みです。
はい。今回の改正は自筆証書遺言・秘密証書遺言・特別方式などが中心で、公正証書遺言はこれまでどおり利用できます。公証人が関与するため方式不備の心配が小さく、確実性を重視する方には有力な選択肢です。改正の施行を待つ必要はありません。
改正法の経過措置により定められますが、要綱では「所要の経過措置を定める」とされるにとどまり、詳細は確定していません。施行前に作成した遺言への影響は、政令・附則の公布を待って確認することをお勧めします。遺言の有効性に不安がある場合は、弁護士・司法書士にご相談ください。
はい。今回の遺言制度改正は「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)に含まれ、同じ法律に成年後見制度の抜本改正も同梱されています。ただし施行日は改正内容ごとに異なります。成年後見制度の改正内容は成年後見制度の抜本改正2026で解説しています。
9. まとめ|遺言制度改正2026の要点
遺言制度改正(令和8年法律第45号)のポイントを整理します。
確定した事実(一次情報確認済み)
– 2026年4月3日 国会提出 / 6月17日 成立 / 6月24日 公布
– 自筆証書遺言などの押印要件を廃止(署名=自書は引き続き必要)
– 法務局が保管する「保管証書遺言」を新設
– 特別方式の遺言に録音・録画による記録方式を追加
– 遺言書保管法を改正し、自筆証書遺言書も含めて出頭・書類提出なしで保管申請できるように
施行時期(政令で確定)
– 押印廃止・特別方式追加:公布から1年以内(2027年6月24日まで)の見込み
– 保管証書遺言・保管法改正:公布から3年以内(2029年6月24日まで)の見込み
今からできること
1. 遺言が必要な事情が今あるなら、現行ルール(押印が必要)で書く。施行を待って先送りしない
2. 確実性を重視するなら公正証書遺言も検討する
3. 財産の棚卸しをして、相続税がかかる規模か相続税シミュレーター2026で概算を把握する
4. 判断に迷うときは、弁護士・司法書士・公証人に早めに相談する
制度が変わっても、遺言を残すべき事情が今ある方がすべきことは「先送りにせず、現行ルールで確実に書く」ことです。施行日・運用の詳細は政令公布後に更新します。
参考資料
– 法務省「民法等の一部を改正する法律案について」: https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00389.html
– 法務省「民法等の一部を改正する法律案要綱」: https://www.moj.go.jp/content/001459923.pdf
– 令和8年法律第45号(2026年6月24日公布)
当記事は2026年7月2日時点の情報に基づきます。施行日・運用の詳細(保管証書遺言の手数料・手続き、経過措置の詳細等)は政令・省令公布後に更新します。遺言の作成・有効性の判断には個別の事情が大きく影響するため、弁護士・司法書士・公証人へのご相談を強くお勧めします。



