カスタマーハラスメント対策義務化2026年10月|企業が整備すべき体制と就業規則対応

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カスタマーハラスメント対策義務化2026年10月|企業が整備すべき体制と就業規則対応
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最終更新日: 2026年10月

2026年10月1日に施行済み。 カスタマーハラスメント(以下「カスハラ」)対策は、2026年10月1日からすべての事業主の法的義務になった。根拠は改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号。2025年6月4日成立・6月11日公布)の新設第33条で、具体的に何をすればよいかは2026年2月26日に公布された指針(令和8年厚生労働省告示第51号)が定めている。事業主が講じなければならないのは(1)方針の明確化・周知啓発、(2)相談体制の整備、(3)事後の迅速かつ適切な対応、(4)悪質な顧客等への抑止のための措置の4つ。これに加えて、(1)〜(4)のすべてに横断してかかる併せて講ずべき措置として、相談者等のプライバシー保護と、相談等を理由とする不利益取扱いの禁止がある。さらに、他社から協力を求められたときに応じる努力義務(同条第3項)も新設された。違反に直接の罰則はないが、助言・指導・勧告・企業名公表という段階的な行政措置が定められ、安全配慮義務違反(労働契約法第5条)による民事賠償責任のリスクも高まる。本記事では、法改正の全体像から就業規則の改定例、相談窓口の設計、業種別の対応ポイント、東京都条例との関係までを体系的に解説する。


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カスタマーハラスメントとは|法的定義と該当基準

改正法における定義

改正労働施策総合推進法第33条第1項(新設)は、事業主が防止すべき言動を以下の3要素で定めている。指針は、この3つを「全て満たすもの」がカスハラであるとしている。

要素 条文の文言
① 行為主体 顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者(「顧客等」)
② 行為の態様 その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えた言動
③ 結果 当該労働者の就業環境が害されること

「顧客等」は思っているより広い。 指針は、まだ買っていない潜在的な顧客、これから取引する可能性のある相手、駅・空港・病院・学校・福祉施設・公共施設などの利用者とその家族、そして施設の近隣住民まで含まれるとしている。「うちの客ではない」は理由にならない。

「職場」も広い。 取引先の事務所、打合せに使った飲食店、顧客の自宅など、その労働者が業務を遂行する場所であれば「職場」に当たる。

派遣社員も対象。 派遣先は、労働者派遣法第47条の4により、指揮命令下で働かせる派遣労働者を「雇用する事業主」とみなされる。派遣元だけでなく派遣先も、派遣労働者に対して同じ措置を講じる必要がある。

なお、顧客等からの苦情のすべてがカスハラになるわけではない。指針は「客観的にみて、社会通念上許容される範囲で行われたものは、いわば正当な申入れであり、職場におけるカスタマーハラスメントには当たらない」と明記している。

「社会通念上許容される範囲を超えた」の判断基準

指針(令和8年厚生労働省告示第51号)は、「言動の内容」と「手段や態様」の2点に着目して総合的に判断するとしている。

判断要素 具体的な考慮事項
言動の内容 顧客等の言動の内容が契約内容からして相当性を欠くものか(要求に理由がない、契約で想定するサービスを著しく超える、対応が著しく困難、不当な損害賠償要求など)
手段や態様 要求を実現するための手段・態様が相当でないものか(身体的攻撃、脅迫・侮辱・土下座の強要、威圧的言動など)

【注意】ここが最も誤解されている点。 指針は「『言動の内容』、『手段や態様』の一方のみが社会通念上許容される範囲を超える場合でもこれに該当し得る」と明記している。つまり、要求そのものは正当でも、怒鳴り続ける・長時間拘束するといった手段が不相当なら、それだけでカスハラになり得る。逆に、口調は穏やかでも要求内容が契約と無関係な不当なものなら該当し得る。「両方そろわないとカスハラではない」は誤りである。

判断にあたっては、言動の目的、その言動が行われた経緯や状況(自社側・労働者側の不適切な対応が原因や背景になっていないかを含む)、業種・業態、業務の内容・性質、言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性などを総合的に考慮する、とされている。

【障害のある方への対応は別枠で考える】 指針は、障害者から「障害を理由とする不当な差別的取扱いをしないでほしい」と求められることや、「社会的障壁を取り除いてほしい」と意思表明されること自体は、カスハラには当たらないと明記している。障害者差別解消法により、負担が過重でないときは合理的配慮を提供する義務がある。カスハラ対策を理由に合理的配慮の提供を断ることのないよう、社内の判断基準では明確に切り分けること。

カスハラに該当する行為類型

指針が例示する行為類型は以下のとおり。限定列挙ではない点に注意(指針が明示している)。

イ:言動の「内容」が範囲を超えるもの

類型 指針が挙げる例
① そもそも要求に理由がない、または商品・サービス等と全く関係のない要求 性的な要求、労働者のプライバシーに関わる要求をすること
② 契約等により想定しているサービスを著しく超える要求 契約内容を著しく超えたサービスの提供を要求すること
③ 対応が著しく困難な、または対応が不可能な要求 契約金額の著しい減額の要求をすること
④ 不当な損害賠償要求 商品やサービス等の内容と無関係である不当な損害賠償要求をすること

ロ:「手段や態様」が範囲を超えるもの

類型 指針が挙げる例
① 身体的な攻撃(暴行、傷害等) 殴る・蹴る・叩く等の暴行、物を投げつける、わざとぶつかる、つばを吐きかける
② 精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の強要等) 店舗の物を壊すことをほのめかす、SNS等へ悪評を投稿するとほのめかして脅す、SNS等へ労働者のプライバシーに係る情報を投稿する、人格を否定する言動(性的指向・ジェンダーアイデンティティに関する侮辱を含む)、土下座の強要、盗撮・無断撮影、労働者の性的指向・ジェンダーアイデンティティ等の機微な個人情報を本人の了解なく暴露する/開示を強要または禁止する
③ 威圧的な言動 大きな声をあげて労働者や周囲を威圧する、反社会的な言動を行う
④ 継続的、執拗な言動 同様の質問を執拗に繰り返す、当初の話からのすり替え・揚げ足取り・執拗な責め立て、同様のメール等を執拗に繰り返し送りつける
⑤ 拘束的な言動(不退去、居座り、監禁) 長時間にわたる居座りや電話で労働者を拘束する

カスハラは対面だけの話ではない。 指針は「店舗及び施設等において対面で行われるもののみならず、電話やSNS等のインターネット上において行われるものも含まれる」と明記している。

「就業環境が害される」とはどの程度か

3つ目の要素である「就業環境が害される」について、指針は次の基準を置いている。ここを誤解すると、判定が甘くなったり厳しくなったりする。

論点 指針の内容
程度 身体的または精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等、就業する上で看過できない程度の支障が生じること
誰の感じ方で判断するか 「平均的な労働者の感じ方」を基準とする。同様の状況で言動を受けた場合に、社会一般の労働者が看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動か
1回でも該当するか 頻度や継続性は考慮するが、強い身体的・精神的苦痛を与える態様の言動なら1回でも該当し得る

カスハラに該当しないケースとの線引き

区分 具体例 カスハラ該当性
正当なクレーム 商品の不具合に対する交換・返金要求 該当しない
合理的な苦情 サービスの遅延に対する改善要求 該当しない
厳しいが正当な指摘 取引先への納期遅延に対する厳格な是正要求 原則該当しない
手段の不相当 正当な苦情だが大声で怒鳴り続ける 該当し得る
要求の過大性 軽微な不備に対する過度な賠償要求 該当し得る
要求・手段の双方が不当 不備がないにもかかわらず土下座を要求 該当する


事業主の4つの措置義務|指針の具体的内容

措置義務の全体構造

改正法第33条および指針(令和8年厚生労働省告示第51号)に基づき、事業主が講じなければならない措置は以下の4つに大別される。このうち(4)はカスハラ独自のもので、セクハラ・パワハラの措置義務にはない。

措置義務 概要 セクハラ・パワハラとの対比
(1) 方針等の明確化・周知啓発 カスハラには毅然と対応し労働者を保護する方針の明確化、対処の内容の周知 同様の構造
(2) 相談に応じ適切に対応するために必要な体制の整備 相談窓口の設置・周知、相談対応者が適切に対応できるようにすること 同様の構造
(3) 事後の迅速かつ適切な対応 事実確認、被害者への配慮措置、再発防止策の実施 同様の構造(ただし行為者が社外のため対応が異なる)
(4) 対応の実効性を確保するために必要な抑止のための措置 特に悪質と考えられる顧客等への対処の方針をあらかじめ定めて周知し、その対処を実行できる体制を整備すること カスハラ固有。対応する措置がない

さらに、(1)〜(4)のすべてに横断してかかる「併せて講ずべき措置」がある(指針4⑸)。これは4本柱と並ぶ5つ目ではなく、4本柱を実施する際に必ず一緒に講じなければならない要件である。

併せて講ずべき措置 内容
イ 相談者等のプライバシーの保護 相談・事後対応にあたり相談者等のプライバシーを保護する措置を講じ、その旨を労働者に周知する。性的指向・ジェンダーアイデンティティ等の機微な個人情報も含む
ロ 不利益取扱いの禁止 相談したこと、事実確認に協力したこと、労働局への相談・援助の求め・調停の申請を行ったこと等を理由に解雇その他不利益な取扱いをしない旨を定め、労働者に周知・啓発する

【要注意】この(4)を落としている解説が多い。 「4つの措置義務」を「方針・相談窓口・事後対応・プライバシー保護」と説明している資料を見かけたら、それは指針の構造と違う。指針が独立の柱として要求しているのは抑止のための措置であり、プライバシー保護と不利益取扱いの禁止は「併せて講ずべき措置」である。実務上の差は大きい — (4)は「悪質な顧客への対処方針を事前に決めて体制を作っておく」という予防的・制度的な義務であって、事案が起きてから対応する(3)とは別物だからである。

措置(1):方針の明確化と周知啓発

具体的な措置内容 実施のポイント
カスハラに対する事業主の方針を明確化する トップメッセージとして「カスハラを許容しない」旨を表明
就業規則等にカスハラ対応方針を規定する 定義・禁止事項・対応手順・相談窓口を明記
従業員に対して周知・啓発する 研修の実施、社内報・イントラネットでの掲載
顧客等に対しても方針を周知する 店頭掲示、Webサイト掲載、契約書・約款への記載

措置(2):相談体制の整備

具体的な措置内容 実施のポイント
相談窓口を設置する 社内窓口(人事部等)+外部窓口(EAP=従業員支援プログラム。カウンセラーや相談員を外部委託するサービス)
相談対応者を選任し教育する カスハラ対応に関する研修の実施
相談しやすい環境を整備する 匿名相談の受付、複数のアクセス手段(対面・電話・メール)
セクハラ・パワハラの相談窓口と一体的に運用する 既存のハラスメント相談窓口にカスハラを追加

措置(3):事後の迅速かつ適切な対応

対応ステップ 具体的な措置内容
事実確認 相談者・目撃者・記録(防犯カメラ・通話録音等)から事実を確認
被害者への配慮 配置転換、担当者変更、メンタルヘルスケアの実施、休暇の付与
顧客等への対応 対応の中止・拒否、出入り禁止、警告書の送付、警察への通報
再発防止策 対応マニュアルの見直し、事例共有、研修内容の更新

措置(4):抑止のための措置(カスハラ固有・最も見落とされやすい)

指針は次のように定めている。

「事業主は、職場におけるカスタマーハラスメントの抑止のための措置として、労働者に対し過度な要求を繰り返すなど特に悪質と考えられるものへの対処の方針をあらかじめ定め、管理監督者を含む労働者に周知するとともに、当該方針において定めた対処を行うことができる体制を整備しなければならない。」

つまり求められているのは「悪質な顧客が来たら考える」ではなく、来る前に方針と体制を用意しておくことである。指針が挙げる対処の例は以下のとおり。

対処の例(指針) 実務上の備え
暴行・傷害・脅迫などの犯罪に該当し得る言動は警察へ通報する 誰が通報を判断するかを決めておく。現場判断で通報してよい範囲を明示する
行為者に対して警告文を発出する 警告文のひな形を用意し、発出の決裁者を決めておく
法令の制限内において商品の販売・サービスの提供等をしない 「法令の制限内において」が付いている点に注意。応招義務・供給義務のある業種は自社の業法を先に確認する
店舗・施設等への出入りを禁止する 誰が決定し、どう通知し、どう現場に共有するかの手順
民事保全法に基づく仮処分命令を申し立てる 顧問弁護士との連絡経路を平時から確保しておく

指針は「措置を講じていると認められる例」として、措置(1)ロ(対処の内容の周知)を実施する際に併せて悪質事案への対処方針を定めて周知し、加えて関係部門間の連携等の体制を整備することを挙げている。方針を紙に書くだけでは足りず、法務・本社・現場が連携して動ける状態にしておく必要がある。

なお指針は、この対処方針を検討するにあたって「各業法等による定めがある場合等、業種・業態等により必要な対応が異なる場合があることに留意」するよう求めている。他社のひな形をそのまま使うのは危うい。

措置とは別にある「他社への協力」の努力義務(第33条第3項)

見落とされやすいが、改正法第33条第3項は次のように定めている。

「事業主は、他の事業主から当該他の事業主が講ずる第一項の措置の実施に関し必要な協力を求められた場合には、これに応ずるように努めなければならない。」

これは努力義務であり、措置義務とは性質が異なる。実務上効いてくるのは、自社の従業員が取引先の従業員にカスハラを行った疑いがある場面である。取引先から事実確認への協力を求められたとき、「社外のことなので」と断るのは、この条文の想定に反する。

指針は、この協力についてさらに次の3点を「望ましい」ものとして挙げている。

指針が求める内容 位置づけ
他の事業主からの協力の求めに応ずるよう努める 努力義務(法第33条第3項)
協力を求められたことを理由に、求めてきた相手との契約を解除する等の不利益な取扱いを行わない 望ましくない、と明記
協力に応じて自社の労働者に事実確認を行う際、協力した労働者を解雇その他不利益に取り扱わない旨を定めて周知する 望ましい
事実確認でカスハラが生じた事実が確認できた場合、就業規則等に基づき行為者に懲戒その他必要な措置を講ずる 望ましい

対応としては、(1)他社から協力要請があったときの社内の受付窓口と判断者を決めておく、(2)自社従業員が行為者側になった場合の調査手順と、調査に協力した従業員を守る旨を定めておく、の2点で足りる。


就業規則の改定|規定例と記載ポイント

カスハラ対策と就業規則の改定を行う際は、同じ令和7年法律第63号による女性活躍推進法の情報公表の必須項目追加(2026年4月施行)への対応とまとめて進めることで、就業規則改定の作業を一本化できる。パート・アルバイトを雇用している場合は、同じ2026年10月1日に施行されるパート・有期雇用2026年10月ルール改正|労働条件明示1項目追加・同一労働同一賃金ガイドライン改正の実務対応(雇い入れ時の労働条件明示に1項目追加)もあわせて確認したい。

就業規則に盛り込むべき事項

改正法および指針に基づき、就業規則(またはハラスメント防止規程)に盛り込むべき事項は以下のとおりである。

項目 記載内容
カスハラの定義 法律上の定義に基づく、自社としての定義を明記
事業主の方針 カスハラを許容しないこと、従業員を守る姿勢を明記
カスハラに該当する行為の例示 暴力、脅迫、暴言、過度な要求、長時間拘束等の具体例
相談窓口 窓口の名称、連絡先、受付時間、対応者
相談から解決までのフロー 相談受付→事実確認→対応決定→フォローアップの手順
秘密保持 相談内容の守秘義務、個人情報の適切な管理
不利益取扱いの禁止 相談・申告を理由とする解雇・配置転換等の禁止
顧客等への対応方針 対応中止・出入り禁止・法的措置を含む対応方針
従業員の責務 カスハラを受けた場合の報告義務、単独対応の禁止

就業規則の規定例

以下は、カスハラ対応に関する就業規則の規定例である。

第○条(カスタマーハラスメントの定義)

項 内容
第1項 カスタマーハラスメントとは、顧客、取引の相手方、施設の利用者その他会社の行う事業に関係を有する者(以下「顧客等」という。)の言動であって、従業員が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、当該従業員の就業環境が害されるものをいう
第2項 前項の「社会通念上許容される範囲を超えた」言動とは、言動の内容が契約内容からして相当性を欠くもの、または手段や態様が相当でないものをいい、そのいずれか一方のみが該当する場合を含む
第3項 前項の言動には、暴力・傷害、脅迫・威嚇、暴言・侮辱、土下座の強要、不当な損害賠償要求、長時間の拘束、つきまとい、性的言動、SNS等インターネット上への投稿その他これらに類する行為を含むものとする

第○条(事業主の方針)

項 内容
第1項 会社は、カスタマーハラスメントを許容せず、従業員が安全かつ安心して就業できる環境の確保に努める
第2項 会社は、カスタマーハラスメントが確認された場合、顧客等に対し対応の中止、来店・架電の拒否、取引の停止その他必要な措置を講ずることがある

第○条(相談窓口と秘密保持)

項 内容
第1項 会社は、カスタマーハラスメントに関する相談窓口を設置し、従業員に周知する
第2項 相談窓口に寄せられた相談の内容および相談者・関係者に関する情報は、秘密として取り扱い、正当な理由なく第三者に開示してはならない
第3項 従業員が相談窓口に相談したこと、または事実確認に協力したことを理由として、解雇、配置転換、降格その他の不利益な取扱いを行ってはならない

相談窓口の設計と運用

相談窓口の設置パターン

パターン 設置方法 メリット デメリット
社内窓口(単独) 人事部・コンプライアンス部門に設置 コスト低、情報集約しやすい 相談者が特定されやすく利用されにくい
外部窓口(単独) 外部EAP・弁護士事務所に委託 匿名性が高い、専門的対応 コスト高、社内連携に時間がかかる
社内+外部(併設) 社内窓口と外部窓口を併設 選択肢が広い、相談率が向上 窓口間の情報共有ルールが必要
統合窓口 セクハラ・パワハラ・カスハラの相談を一本化 効率的、ワンストップ対応 対応者のスキルの幅が求められる

なお、同じ令和7年法律第63号による改正で、2026年10月1日から就活生・インターン生等への求職者等セクハラ防止措置も全事業主の義務になる。こちらは相談窓口を「求職者等も利用できること」まで求めており、カスハラ用の窓口を整備する際に併せて設計しておくと二度手間にならない。

相談対応フロー

ステップ 対応内容 担当者 目標期間
1. 受付 相談内容の傾聴・記録、緊急性の判断 相談窓口担当者 当日
2. 一次対応 緊急度に応じた被害者の安全確保(担当変更・離席指示等) 管理者・現場責任者 当日〜翌日
3. 事実確認 相談者・目撃者・記録(録音・録画等)による事実の確認 相談窓口担当者・管理者 1週間以内
4. 対応方針決定 カスハラ該当性の判定、顧客等への対応方針の決定 ハラスメント対策委員会 2週間以内
5. 措置実施 顧客等への対応(警告・取引停止等)、被害者へのケア 管理者・法務部門 速やかに
6. フォローアップ 被害者の状況確認、再発防止策の検討・実施 相談窓口担当者 1〜3か月後

相談記録の管理

管理項目 内容
記録すべき事項 相談日時、相談者氏名、事案の概要、対応経過、結果
保存期間 最低3年(労働関係法令の消滅時効を考慮して5年を推奨)
アクセス制限 相談窓口担当者および管理者に限定し、パスワード保護等を実施
統計化 個人が特定されない形で件数・類型を集計し、傾向分析に活用

行政措置と法的リスク

段階的な行政措置

改正法に基づく行政措置は、以下のとおりである。直接の罰則(罰金・拘禁刑)は設けられていないが、企業名公表は実質的に大きな制裁となる。

措置内容 根拠条文 条文の内容
助言・指導・勧告 改正法第42条第1項 「厚生労働大臣は、この法律の施行に関し必要があると認めるときは、事業主に対して、助言、指導又は勧告をすることができる」
企業名の公表 改正法第42条第2項 「厚生労働大臣は、第31条第1項及び第2項、第33条第1項及び第2項、第36条第2項並びに第37条第2項の規定に違反している事業主に対し、前項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかつたときは、その旨を公表することができる」

カスハラの措置義務は第33条第1項、不利益取扱いの禁止は同条第2項に規定されており、第42条第2項はこれらの違反を公表の対象として明示的に掲げている。

民事上の法的リスク

行政措置とは別に、カスハラ対策を怠った場合の民事上の法的リスクは以下のとおりである。

リスク類型 法的根拠 賠償額の目安
安全配慮義務違反 労働契約法第5条 数百万円〜数千万円(精神的損害・逸失利益)
使用者責任 民法第715条 自社の従業員が加害者側になった場合。 取引先の担当者や他社の従業員に対して自社の従業員がカスハラを行い、相手に損害が生じたとき、会社が使用者として賠償責任を負う
不法行為責任 民法第709条 カスハラを放置し従業員が精神疾患を発症した場合

労災認定との関係

カスタマーハラスメントは、精神障害の労災認定基準(基発0901第2号・令和5年9月1日)の別表1「業務による心理的負荷評価表」に、項目27「顧客や取引先、施設利用者等から、著しい迷惑行為を受けた」として掲げられている。以下は同表の逐語である。

同表の注記により、「著しい迷惑行為」とは暴行、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求等をいう。

強度 認定基準が挙げる具体例(逐語)
「強」になる例 ・顧客等から治療を要する程度の暴行等を受けた
・顧客等から、暴行等を反復・継続するなどして執拗に受けた
・顧客等から、人格や人間性を否定するような言動を反復・継続するなどして執拗に受けた
・顧客等から、威圧的な言動などその態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える著しい迷惑行為を、反復・継続するなどして執拗に受けた
・心理的負荷としては「中」程度の迷惑行為を受けた場合であって、会社に相談しても又は会社が迷惑行為を把握していても適切な対応がなく、改善がなされなかった
「中」である例 ・顧客等から治療を要さない程度の暴行を受け、行為が反復・継続していない
・顧客等から、人格や人間性を否定するような言動を受け、行為が反復・継続していない
・顧客等から、威圧的な言動など許容される範囲を超える著しい迷惑行為を受け、行為が反復・継続していない
「弱」になる例 ・顧客等から、「中」に至らない程度の言動を受けた

企業にとって決定的なのは「強」の最後の行である。 1回きりで治療を要さない程度の行為(=それ自体は「中」)であっても、従業員が会社に相談したのに適切な対応がなく改善されなければ、心理的負荷は「強」に引き上げられる。労災認定に至るかどうかを分けるのは、顧客の行為の重さだけではなく、会社が相談を受けてどう動いたかである。措置義務の履行は、そのまま労災リスクの管理でもある。

【注意】 企業名公表に直接の罰金はないが、レピュテーションリスクは甚大である。加えて、安全配慮義務違反に基づく民事賠償請求のリスクが最も実務的に重要である。カスハラを受けた従業員が精神疾患を発症し、会社が「適切な措置を講じていなかった」と認定された場合、数百万円規模の損害賠償が命じられた裁判例がすでに存在する。措置義務の履行は「コスト」ではなく「リスク管理」として捉えるべきである。


業種別の対応ポイント

業種別のカスハラリスク分析(厚労省・令和5年度実態調査)

カスハラのリスクは業種によって大きく異なる。以下は厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査」令和5年度報告書の実測値である。「働く人が受けた割合」と「会社に相談が来た割合」は別の指標で、数字の大きさも順位も違うため、混同しないよう分けて示す。

① 働く人の側:過去3年間に顧客等からの著しい迷惑行為を一度以上受けた割合(全国20〜64歳の労働者8,000名への調査)

区分 割合
全体 10.8%
生活関連サービス業、娯楽業 16.6%(業種別で最も高い)
卸売業、小売業 16.0%
宿泊業、飲食サービス業 16.0%

同じ調査で、パワハラは19.3%、セクハラは6.3%。接客頻度が高いほど、受けた割合が高いという結果が出ている。男女差はほぼない(男性10.4%・女性11.1%)。

② 会社の側:過去3年間にカスハラの相談があった企業の割合(全国の従業員30人以上の企業・団体7,780社への調査)

区分 割合
全体 27.9%
医療、福祉 53.9%(業種別で最も高い)
宿泊業、飲食サービス業 46.4%
不動産業、物品賃貸業 43.4%

注目すべきは件数の推移である。 調査対象の6種類のハラスメントのうち、「件数が増加している」(23.2%)が「件数は減少している」(11.4%)を上回ったのはカスハラだけだった。他はすべて減少が優勢である。

③ 業種ごとの実務上の着眼点(法令・調査の数値ではなく、上記の傾向と各業種の業務特性から整理した編集部の見立て)

業種 起きやすい行為類型 高リスク場面
医療・福祉 暴力、暴言、セクハラ、長時間拘束 夜間対応、認知症ケア、救急外来
小売業 暴言、過度な返品要求、長時間クレーム レジ対応、接客カウンター
宿泊・飲食業 暴言、過度なサービス要求、SNS攻撃 チェックイン、苦情対応
介護 暴力、暴言、セクハラ、介護拒否 入浴介助、訪問介護
運輸・配送 暴言、不当な時間指定、置き配トラブル 再配達対応、時間指定配送
コールセンター 暴言、長時間拘束、脅迫 クレーム対応、解約受付
公務(窓口) 暴言、長時間拘束、制度への不満の投影 住民窓口、税務相談

【実務ポイント】準備している会社はまだ少数派である。 同じ令和5年度調査では、カスハラに関する取組として実施しているものが「特にない」と答えた企業が55.8%と過半数を占めた。判定基準についても3割以上の企業が策定していない。取組を進めるうえでの課題を聞いた設問では「特にない」(32.1%)が最も多く、具体的な課題としては「迷惑行為と正当なクレームや要求とを区別する明確な判断基準を設けることが難しい」(25.9%)が最多だった。判定基準の策定にあたって参考にしたものの最多は「厚生労働省が公表しているカスタマーハラスメントマニュアル」(25.3%)である。ゼロから作らず、まず厚労省のマニュアルを下敷きにするのが現実的である。

業種別の重点対応事項

業種 重点対応事項
医療・福祉 対応困難患者への複数名対応ルール、院内暴力対策マニュアル、診療拒否の法的整理(応招義務との関係)
小売業 店頭掲示によるカスハラ方針の周知、防犯カメラの活用、クレーム対応の録音体制
宿泊・飲食業 宿泊約款・利用規約へのカスハラ条項追加、SNS上の誹謗中傷への法的対応
介護 利用者・家族からのハラスメントに関する重要事項説明書への記載、契約解除条項の整備
運輸・配送 再配達時の対応ルール、通話録音、危険を感じた場合の即時撤退ルール
コールセンター 通話録音と告知、対応時間の上限設定、自動応答への切替基準、オペレーターのケア体制

東京都カスタマー・ハラスメント防止条例との関係

東京都条例の概要

東京都は、国に先行して2025年4月1日に「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」(令和6年東京都条例第140号。2024年10月11日公布)を施行している。

項目 内容
施行日 2025年4月1日
対象 東京都内における顧客等と就業者の関係
罰則 なし(理念条例)
顧客等の責務 カスハラに係る行為をしてはならない旨の努力義務
事業者の責務 カスハラ防止に必要な体制の整備、従業員への教育の努力義務
就業者の責務 顧客等に対してカスハラに係る行為をしてはならない旨の努力義務
東京都の責務 施策の推進、ガイドラインの策定、相談体制の整備

改正法(国法)と東京都条例の比較

比較項目 改正労働施策総合推進法(国法) 東京都条例
施行日 2026年10月1日 2025年4月1日(先行)
義務の性質 措置義務(法的義務) 努力義務
適用範囲 全国の事業主 東京都内の事業者・顧客等・就業者
行政措置 助言・指導・勧告・企業名公表 なし(理念条例)
顧客等への義務 なし(事業主への措置義務のみ) 顧客等にもカスハラ禁止の努力義務
罰則 なし(行政措置のみ) なし

東京都に事業所がある企業の対応

東京都に事業所がある企業は、2025年4月1日から東京都条例に基づく努力義務を負い、2026年10月1日からはさらに国法に基づく措置義務を負っている。

時期 適用法令 義務の程度
2025年4月1日〜 東京都条例 努力義務
2026年10月1日〜 東京都条例+改正労働施策総合推進法 努力義務+措置義務

顧客等への対応方針と法的措置

段階的対応フレームワーク

カスハラが発生した場合の顧客等への対応は、行為の重大性に応じて段階的に実施する。

段階 対応内容 適用場面
Level 1:注意喚起 丁寧にお断りする、行為の中止を口頭で求める 一過性の暴言、軽度の不当要求
Level 2:対応中止 電話を切る、来店対応を打ち切る、複数名で対応する 暴言の繰り返し、長時間拘束
Level 3:警告 書面による警告、来店・架電禁止の通知、弁護士名による内容証明送付 繰り返しのカスハラ、脅迫的言動
Level 4:法的措置 警察への通報・被害届提出、接近禁止の仮処分、損害賠償請求 暴力、傷害、ストーカー行為、業務妨害
Level 5:取引・契約の終了 サービス提供の拒否、契約の解除 改善が見込めない重大なカスハラ

法的措置の選択肢

措置 法的根拠 適用場面
警察への通報 刑法(暴行・傷害・脅迫・強要・威力業務妨害等) 犯罪行為に該当する場合
内容証明郵便 — 行為の中止を書面で正式に要求する場合
接近禁止の仮処分 民事保全法 つきまとい・反復的な来店がある場合
損害賠償請求 民法第709条(不法行為) 業務妨害による損害が発生した場合
診療拒否(医療機関) 医師法第19条(応招義務)との関係整理が必要 暴力・脅迫等により診療が困難な場合
契約解除 民法・各種約款 約款の解除条項に基づく場合

研修プログラムの設計

階層別研修の全体像

対象 研修内容 頻度 実施方法
全従業員 カスハラの定義と判断基準、相談窓口の利用方法、自分を守るための初動対応 年1回以上 eラーニング+集合研修
管理者 エスカレーション対応、被害従業員へのケア方法、記録の取り方、法的リスク 年1回以上 集合研修+ケーススタディ
相談窓口担当者 傾聴技法、事実確認の方法、カスハラ該当性の判定、メンタルヘルスの基礎知識 年2回以上 専門研修
現場リーダー 現場での初動対応、Level判定、管理者への報告方法 年1回以上 ロールプレイング研修

研修で扱うべきケーススタディ

ケース 状況 期待される対応
Case 1 レジで「お前の名前を教えろ。ネットに書くぞ」と繰り返す Level 2:複数名対応に切替、管理者へ報告、名札の個人名記載を検討
Case 2 電話で2時間以上同じ苦情を繰り返す Level 2:対応時間の上限を告知し、対応中止。再発時はLevel 3
Case 3 取引先の担当者が打合せで机を叩いて怒鳴る Level 2:複数名同席に切替、議事録を作成、上長から取引先上長に申し入れ
Case 4 患者が看護師を殴った Level 4:警察通報、被害届提出、診療継続の可否を判断

今すぐやること:カスハラ対策 対応チェックリスト

施行は2026年10月1日。すでに義務はかかっている。未着手の企業は、以下の優先順位で直ちに取りかかること。

最優先で終わらせる(措置義務の本体)

指針が「講じなければならない」と定めているのは以下である。このうち①②③は数日で形にできる。時間がかかるのは④。

  • ① カスハラには毅然と対応し労働者を保護する旨の方針を明確化し、管理職を含む全従業員に周知する(経営層・人事):トップメッセージ1枚と社内ポータルへの掲載で要件は満たせる。凝った規程を待つ必要はない〔措置(1)イ〕
  • ② カスハラの内容と「発生したときの対処の内容」を定めて周知する(人事・現場管理者):指針が例示する対処は「その場で管理職に報告し指示を仰ぐ」「一人で対応させない」「録音・録画する」「十分説明してもなお繰り返す場合は退店を求める・電話を切る」「犯罪に当たり得る言動は警察へ通報する」「現場で困難なら本社へ情報共有」「法的手続が要るなら弁護士へ相談」。まずこれをそのまま自社の対処手順として採用してよい〔措置(1)ロ〕
  • ③ 相談窓口を定めて従業員に周知する(人事・コンプライアンス):既存のハラスメント相談窓口と一体で設置してよいと指針が明記している。新設は不要。担当者を決めて周知するだけでも要件を満たす〔措置(2)〕
  • ④ 特に悪質な顧客等への対処方針をあらかじめ定めて周知し、実行できる体制を整える(法務・人事・現場管理者):ここが最も抜けやすい。 警察通報/警告文の発出/販売・サービス提供の停止(法令の制限内で)/出入り禁止/仮処分申立てのうち、自社でどれを、誰の判断で行うかを決め、関係部門の連携ルートを作る。警告文のひな形と弁護士への連絡経路まで用意して初めて「体制を整備した」と言える〔措置(4)〕
  • ⑤ 相談者等のプライバシー保護と、相談等を理由とする不利益取扱いの禁止を定めて周知する(人事):①〜④と併せて講ずべき措置。方針文書に条項を追加すれば足りる〔措置(5)イ・ロ〕

すぐ着手し、並行して進める

  • 就業規則(またはハラスメント防止規程)を改定する(人事・法務):常時10人以上の事業場は労働基準監督署への届出が必要。提出物は「就業規則(変更)届」+改定後の規則+従業員代表の「意見書」の3点。規程の改定が終わっていなくても、措置義務そのものは上記①〜⑤で満たせる。「規程改定が終わるまで何もしない」が最悪の選択
  • 従業員代表の選び方でつまずきやすい。 労働者の過半数で組織する労働組合があればその組合、なければ労働者の過半数を代表する者の意見を聴く(労働基準法第90条第1項)。この代表者には、労働基準法施行規則第6条の2により2つの要件がある。①管理監督者でないこと、②「就業規則について意見を述べる代表者を選ぶ」という目的を明らかにして行われた投票・挙手等の方法で選出され、かつ「使用者の意向に基づき選出されたものでない」こと。つまり、会社が指名した人は代表として認められない。パート・アルバイト・契約社員も母数に含める
  • 同条は、代表者になったこと・なろうとしたこと・代表者として正当な行為をしたことを理由に、不利益な取扱いをしてはならないとも定めている
  • なお、労基法第90条が求めているのは「意見を聴く」ことであり、同意を得ることではない。反対意見が書かれた意見書でも届出は受理される
  • カスハラ該当性の判定基準(マトリクス)を作る(人事・法務):厚労省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を下敷きにする。3割以上の企業がまだ基準を作れていない領域なので、完璧を目指さず暫定版から始める
  • 相談窓口担当者・管理職への研修を行う(人事):全従業員向けより先に管理職。初動の質はここで決まる
  • 顧客向けの掲示物・Webサイト上の告知を用意する(広報):指針は顧客等への方針の周知を「効果的」と位置づけている(義務ではない)
  • 他社から協力を求められたときの受付窓口を決める(法務・人事):第33条第3項の努力義務への備え

施行後に継続する

  • 全従業員向け研修を実施する(施行日に完了していなくてよいが、年1回以上の実施を定例化する)
  • 相談件数・対応状況を月次で集計し、傾向を分析する(人事部門)
  • カスハラ事例を蓄積し、判定基準と対応マニュアルを年1回見直す
  • 業界団体のガイドライン・好事例を継続的に収集する

業種別の最優先事項

  • 医療機関 → 応招義務との関係を整理した上での対応方針策定が最優先
  • 小売・飲食業 → 店頭掲示と現場対応マニュアルが最優先
  • 介護事業者 → 利用者・家族向け重要事項説明書の改定が最優先
  • コールセンター → 通話録音の告知・対応時間上限の設定が最優先
  • 運輸・配送 → 即時撤退ルールの策定が最優先

FAQ(よくある質問)

A

改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号)は2025年6月4日に成立し、カスハラ対策の義務化に関する規定は2026年10月1日に施行された。施行日以降、すべての事業主は4つの措置義務(方針等の明確化・周知啓発/相談体制の整備/事後対応/悪質な顧客等への抑止のための措置)と、それらに併せて講ずべき措置(相談者等のプライバシー保護・不利益取扱いの禁止)を履行する必要がある。なお、東京都では2025年4月1日に先行して「カスタマー・ハラスメント防止条例」が施行されているが、こちらは努力義務にとどまる。

A

改正法には直接の罰則(罰金・拘禁刑)は設けられていない。ただし、厚生労働大臣による助言・指導・勧告、および勧告に従わない場合の企業名公表が定められている。加えて、カスハラ対策を怠った結果として従業員が精神疾患等を発症した場合、安全配慮義務違反(労働契約法第5条)に基づく損害賠償責任を問われるリスクがある。労災認定基準にカスハラが明記されているため(2023年9月改正)、労災認定のリスクも高まっている。

A

カスハラの判断は「言動の内容」と「手段や態様」の2点に着目して総合的に行う。商品の不具合に対する交換・返金要求など、要求内容に正当な根拠があり、手段も社会通念の範囲内であれば正当なクレームであり、カスハラには該当しない。指針も「客観的にみて、社会通念上許容される範囲で行われたものは、いわば正当な申入れ」であってカスハラには当たらないと明記している。ただし、両方そろわないとカスハラにならない、という意味ではない。 指針は「一方のみが社会通念上許容される範囲を超える場合でもこれに該当し得る」としており、正当な苦情であっても大声での恫喝・長時間の拘束・人格を否定する暴言を伴えば、それだけでカスハラに該当し得る。指針では具体的な行為類型が例示されているため、自社の判定基準策定の参考にするとよい。

A

措置義務は事業主の規模を問わず、すべての事業主に適用される。従業員が1人でもいれば義務が生じる。ただし、措置の具体的な内容は事業規模に応じた合理的な範囲で判断される。小規模事業者であれば、(1)カスハラ対応方針を書面で作成して従業員に配布する、(2)経営者自身が相談窓口となる、(3)対応マニュアルを簡易な形で作成する、など実態に即した対応で足りる場合がある。

A

改正法第33条第1項は行為主体を「顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者」としており、取引先からの不当な言動もカスハラに該当し得る。指針は「取引先の担当者」「企業間での契約締結に向けた交渉を行う際の担当者」を明示的に挙げているうえ、今後取引する可能性のある者まで含めている。たとえば、発注元の担当者が受注側の従業員に対して、繰り返し人格を否定する発言を行う、不当な要求に応じるよう威圧するなどの行為は、カスハラとして対策の対象となる。BtoB事業者であっても措置義務の対象であることに変わりはない。加えて、自社の従業員が取引先の従業員に対して行為者になった場合、取引先から事実確認への協力を求められれば応じる努力義務がある(第33条第3項)。

A

対応の打ち切りは指針が想定している。指針は、事業主が定めておくべき「対処の内容」の例として「労働者から十分な説明を行った上で、なお繰り返しの要求が続く場合には、一定の時間の経過をもって退店を求めたり、電話を切ったりすること」を挙げている。ただし指針は同時に3つの留保を置いている。(1)消費者法制により定められている消費者の権利に留意すること、(2)障害者差別解消法の不当な差別的取扱いの禁止・合理的配慮の提供義務に留意し、顧客等との建設的対話を重ねること、(3)各業法等によりサービス提供の義務等が定められている場合や、サービスが途絶すると顧客等の生命や心身の健康に重大な影響が及ぶ場合があることに留意すること。医療機関の応招義務(医師法第19条)や電気・ガス等の供給義務は(3)に当たる。契約書・約款にカスハラを理由とする解除条項を事前に定めておくことが推奨される。

A

東京都条例は努力義務にとどまるのに対し、改正労働施策総合推進法は法的な措置義務を課すものであり、義務の程度が異なる。東京都条例への対応として体制を整備していれば、国法の施行時に必要な追加対応は最小限で済む可能性が高いが、以下の点は確認が必要である。(1)就業規則に国法の定義に即したカスハラの規定があるか、(2)相談窓口が措置義務の水準を満たしているか、(3)事後対応のフローが整備されているか。東京都条例は「顧客等にも努力義務を課している」点で国法にはない特徴があるため、東京都で事業を行う企業は両方の法令に対応する必要がある。


免責事項

本記事は、2026年10月5日時点の公開情報に基づいて作成したものである。改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号)は2025年6月4日に成立・6月11日公布され、カスハラ対策義務化に関する規定は2026年10月1日に施行された。指針は令和8年厚生労働省告示第51号として2026年2月26日に公布済みだが、今後発出される通達・Q&A等により運用の細部が補足される可能性がある。カスハラに該当するかどうかは個別の事案ごとに総合的に判断されるものであり、本記事の分類・例示がそのまま結論になるとは限らない。本記事の内容は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的助言を構成するものではない。自社の具体的な対応については、弁護士・社会保険労務士等の専門家にご相談いただきたい。


参考文献・法令等

法令・公式資料

解説記事・専門家論考

JG

実務ガイド編集部

AI執筆 + 編集部レビュー済み

本記事はAIが初稿を作成し、編集部が法令原文・官公庁通知・審議会資料等の一次情報と照合のうえ、内容を確認・編集しています。行政手続き・法改正・制度改正の実務情報を専門に扱う編集チームが、企業実務担当者・士業専門家向けに正確性の高いコンテンツを提供します。