2026年10月1日、全国の最低賃金が改定される。毎年秋の風物詩だが、今年は引き上げ幅がとくに注目されている。厚生労働省の中央最低賃金審議会は2026年度の目安額を答申し、各都道府県が独自に決定する流れだ。影響を受ける従業員を見落とした場合、最低賃金法違反として50万円以下の罰則の対象になる。早めの実務準備が必要だ。
最低賃金の種類と現状
| 種類 | 概要 | 決定主体 |
|---|---|---|
| 地域別最低賃金 | 都道府県単位で定める | 都道府県労働局 |
| 特定(産業別)最低賃金 | 特定の産業・職種に適用(地域別より高い水準) | 都道府県労働局(業者申出) |
地域別最低賃金は全ての労働者に適用される下限ラインだ。時給制・日給制・月給制・出来高払制を問わず対象となる。
現行(2025年10月改定後)の目安水準(2025年度改定実績ベース):
– 全国加重平均:約1,055円
– 東京都:1,163円(全国最高水準)
– 神奈川県:1,162円
– 大阪府:1,114円
– 最低水準(東北・九州の一部県):950円台
2026年度は中央審議会の審議を経て8〜9月に答申、各都道府県が10月1日前後に発効する予定。
なぜ2026年は要注意か
政府は「2030年代半ばまでに全国平均1,500円」の目標を掲げており、2024〜2026年は毎年50〜70円規模の引き上げが続いている(2025年実績は50円引き上げ)。複数年連続の大幅引き上げは小幅な対応では追いつかないリスクがある。
特に影響が大きいのは次のケースだ:
- 時給制パート・アルバイトを多数雇用している業種(小売、飲食、介護、物流)
- 固定残業代込みで月給を設定している場合(最低賃金を下回るケースが見落とされやすい)
- 特定最低賃金が存在する産業(製造業の一部職種など)
STEP1:影響を受ける従業員の洗い出し
改定前に必ず実施すること:
時給換算の計算方法
月給制・日給制の場合、時給換算して最低賃金と比較する必要がある。
月給制の時給換算式:
時給換算額 = 月給 ÷ 月の所定労働時間
ただし、以下は最低賃金との比較対象から除外する:
– 精皆勤手当、通勤手当、家族手当
– 時間外・深夜・休日割増賃金
計算例(除外対象を差し引いてから計算):
– 月給200,000円の内訳:基本給180,000円+通勤手当15,000円+精皆勤手当5,000円
– 比較対象額(除外後):180,000円(通勤手当・精皆勤手当は除外)
– 180,000 ÷ 160時間 = 1,125円 → 最低賃金と比較する数字はこちら
– ※月給総額(200,000円)をそのまま割ると誤って高い数字になるため注意
チェックすべき従業員リスト
- [ ] 時給制アルバイト・パート全員
- [ ] 日給制の日雇い・短時間労働者
- [ ] 月給制の中で最低賃金付近の従業員
- [ ] 試用期間中(試用期間中も最低賃金は全額適用される。減額特例はない)
STEP2:賃金テーブルの見直し
影響従業員の確認と引き上げ幅の決定
最低賃金を下回っている従業員には必ず引き上げが必要だ。ただし、ちょうど最低賃金に合わせるだけでは不十分な場合がある。
実務上の注意点:
1. 最低賃金スレスレに合わせると、翌年また違反リスクが生じる
2. 他の従業員との賃金バランス(逆転現象)に注意
3. 正社員登用時の賃金体系との整合性
賃金逆転問題への対処
パートの時給が引き上げられた結果、正社員の賃金との差が縮まる「逆転」が起きることがある。この場合、正社員側の賃金体系も見直す必要が生じる。
STEP3:就業規則・賃金規程の変更
賃金改定に合わせ、就業規則(賃金規程)を変更する場合は手続きが必要だ。
就業規則変更の流れ
① 変更案の作成
↓
② 過半数代表者(または労働組合)への意見聴取
↓
③ 労働基準監督署への届出(変更届+意見書)
↓
④ 従業員への周知(掲示・配布・イントラネット等)
ポイント:
– 意見聴取は「同意」ではなく「聴取すること」が義務(反対意見でも届出は可能)
– 届出は事業場を管轄する労働基準監督署へ
– 常時10人以上の労働者を使用する事業場が届出義務の対象(10人未満は届出義務なし。ただし就業規則を作成・運用している場合は従業員への周知が必要)
賃金改定通知書の交付
就業規則の変更とあわせ、個別の従業員に賃金改定の通知書を交付することが望ましい。特に労働条件通知書(雇用契約書)に賃金額を明記している場合は、書面による合意変更が必要になる。
STEP4:給与計算システムの更新
改定日(10月1日)以降の給与から新しい最低賃金を反映させる。10月分給与の支払日が11月の場合も、10月1日以降の労働時間分から新賃金を適用する(日割り計算)。
よくある計算ミス
- 10月は「改定前の日数分」と「改定後の日数分」を分けて計算する必要がある
- 深夜・時間外手当も時給ベースが上がれば割増額が増える点を忘れない
実務チェックリスト(10月改定対応版)
8〜9月(答申後):
– [ ] 新最低賃金額の確認(自社が属する都道府県・産業)
– [ ] 特定最低賃金の確認(製造業・小売業等は要確認)
– [ ] 影響従業員のリストアップと時給換算
– [ ] 賃金テーブル改訂案の作成
– [ ] 正社員との逆転チェック
9月中旬〜末:
– [ ] 過半数代表者への意見聴取(就業規則変更の場合)
– [ ] 就業規則変更届の作成
– [ ] 従業員への賃金改定通知
10月1日前後:
– [ ] 労働基準監督署への届出
– [ ] 給与計算システムの更新
– [ ] 従業員への周知
11月(10月分給与支払後):
– [ ] 最低賃金違反がないか最終確認
特定最低賃金に注意
製造業、小売業、その他一部の産業では、地域別最低賃金より高い「特定最低賃金」が設定されている場合がある。特定最低賃金が適用される場合は、その額が下限となる。
確認方法:厚生労働省の「最低賃金特設ページ」または各都道府県労働局のウェブサイト。
まとめ
最低賃金改定への対応は、「改定額を確認して給与を上げるだけ」ではない。就業規則の変更、従業員への通知、給与計算システムの更新まで一連の手続きが必要だ。特に影響従業員の洗い出しは丁寧に行い、見落としによる最低賃金法違反を防ぐことが重要だ。
答申は例年8月上旬頃に出るため、夏以降に本記事を再確認し、新金額をもとに具体的な対応を進めてほしい。
本記事は公開時点の情報に基づいています。最低賃金額は毎年改定されるため、厚生労働省および各都道府県労働局の最新情報を必ず確認してください。個別の労務管理については社会保険労務士へのご相談をお勧めします。



