最終更新日: 2026年10月4日
令和7年法律第74号(2025年6月13日成立)により、在職老齢年金制度の支給停止基準額(法律上の名称は「支給停止調整額」)が2026年4月から大幅に引き上げられた。法律上の額は62万円(2024年度価格)で、賃金変動率で改定した2026年度の額は65万円である(厚生労働省・日本年金機構が公表済み)。2025年度の51万円から14万円の引上げとなり、厚生労働省は約20万人が新たに老齢厚生年金を全額受給できるようになると見込んでいる。本記事では、改正の全体像・支給停止額の計算式・年収別の受給シミュレーション・企業の定年再雇用における給与設計への影響・同時改正されるiDeCo加入年齢引上げや標準報酬月額上限引上げとの関係を、厚生年金保険法の条文に基づき体系的に整理する。
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在職老齢年金制度改正の全体像
改正の経緯と法的根拠
在職老齢年金制度は、厚生年金の被保険者として就労しながら老齢厚生年金を受給する者について、賃金と年金の合計額が一定の基準額を超えた場合に年金の一部又は全部を支給停止する仕組みである。高齢者の就労意欲を阻害しているとの指摘が長年にわたりなされてきた。
| 時期 | 事項 | 概要 |
|---|---|---|
| 2024年7月 | 社会保障審議会年金部会で議論開始 | 在職老齢年金の見直しを含む年金制度改革の検討を開始 |
| 2024年12月25日 | 社会保障審議会年金部会「議論の整理」 | 支給停止基準額の引上げ方針を取りまとめ |
| 2025年5月16日 | 年金制度改正法案を国会提出 | 「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案」 |
| 2025年6月13日 | 法律成立 | 衆議院で修正のうえ成立(令和7年法律第74号) |
| 2025年6月20日 | 公布 | 官報にて公布 |
| 2026年4月1日 | 施行 | 新たな支給停止基準額の適用開始 |
根拠: 厚生年金保険法第46条(改正後)、令和7年法律第74号附則
支給停止基準額の推移
支給停止基準額は、名目賃金変動率に応じて毎年度改定される仕組みであり、近年は段階的に引き上げられてきた。今回の法改正により、法律上の基準額が大幅に引き上げられる。
| 年度 | 支給停止基準額 | 変更の根拠 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 2022年度 | 47万円 | 名目賃金変動率による改定 | 60〜64歳と65歳以上の基準額を統一(2022年4月) |
| 2023年度 | 48万円 | 名目賃金変動率による改定 | — |
| 2024年度 | 50万円 | 名目賃金変動率による改定 | — |
| 2025年度 | 51万円 | 名目賃金変動率による改定 | — |
| 2026年度 | 65万円 | 法改正(法律上62万円)+ 賃金スライド | 令和7年法律第74号に基づく引上げ |
注: 法律上の額は「62万円」(2024年度価格)と規定されている(厚生年金保険法第46条第3項)。2026年度の実際の額は、2025年度に用いた名目賃金変動率(2.3%)と2026年度に用いる名目賃金変動率(2.1%)に応じて改定され、65万円となった(厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」)。マクロ経済スライドは関係しない。
改正の影響規模
厚生労働省の改正法の概要資料(2022年度末の65歳以上の数値・2024年度価格で試算)では、次のとおりとされている。
| 項目 | 改正前 | 見直し後 |
|---|---|---|
| 65歳以降で働く年金受給権者 | 308万人 | — |
| 支給停止者数 | 50万人 | 30万人(約20万人が新たに全額受給可能) |
| 支給停止対象額 | 約4,500億円 | 約2,900億円 |
支給停止額の計算方法
基本計算式
在職老齢年金の支給停止額は、厚生年金保険法第46条に基づき、以下の計算式で算出される。2026年4月以降の計算式は、基準額が65万円に変更される以外は現行と同一である。
支給停止額(月額)=(基本月額 + 総報酬月額相当額 − 65万円)÷ 2
| 用語 | 定義 | 計算方法 |
|---|---|---|
| 基本月額 | 老齢厚生年金額(報酬比例部分)÷ 12 | 加給年金額と繰下げ加算額を除いて計算(経過的加算額と老齢基礎年金は全額支給) |
| 総報酬月額相当額 | その月の標準報酬月額 + 直近1年間の標準賞与額の合計 ÷ 12 | 賞与を月割りして毎月の報酬に加算 |
| 支給停止基準額 | 基本月額と総報酬月額相当額の合計がこの額を超えた場合に支給停止が発生 | 2026年度:65万円 |
支給停止の判定フロー
| ステップ | 判定内容 | 結果 |
|---|---|---|
| 1 | 基本月額 + 総報酬月額相当額 を算出 | 合計額を確認 |
| 2 | 合計額 ≦ 65万円 か? | はい → 年金全額支給(支給停止なし) |
| 3 | 合計額 > 65万円 の場合 | 支給停止額 =(合計額 − 65万円)÷ 2 |
| 4 | 支給停止額 ≧ 基本月額 か? | はい → 年金全額停止 |
| 5 | 支給停止額 < 基本月額 の場合 | 年金月額 = 基本月額 − 支給停止額 |
改正前後の受給シミュレーション
ケース別:基本月額10万円の場合
老齢厚生年金の基本月額が10万円(年額120万円)の受給者について、総報酬月額相当額別の支給停止額を改正前後で比較する。
| 総報酬月額相当額 | 合計額 | 改正前(基準51万円)支給停止月額 | 改正後(基準65万円)支給停止月額 | 改正による年金月額の増加 |
|---|---|---|---|---|
| 30万円 | 40万円 | 0円(全額支給) | 0円(全額支給) | 0円 |
| 40万円 | 50万円 | 0円(全額支給) | 0円(全額支給) | 0円 |
| 42万円 | 52万円 | 5,000円 | 0円(全額支給) | +5,000円/月 |
| 45万円 | 55万円 | 20,000円 | 0円(全額支給) | +20,000円/月 |
| 50万円 | 60万円 | 45,000円 | 0円(全額支給) | +45,000円/月 |
| 55万円 | 65万円 | 70,000円 | 0円(全額支給) | +70,000円/月 |
| 60万円 | 70万円 | 95,000円 | 25,000円 | +70,000円/月 |
| 65万円 | 75万円 | 全額停止(10万円) | 50,000円 | +50,000円/月 |
注: 改正前の支給停止額=(基本月額+総報酬月額相当額−51万円)÷2、改正後=(基本月額+総報酬月額相当額−65万円)÷2で計算。2025年度の基準額51万円を改正前の比較対象とした。
ケース別:基本月額15万円の場合
老齢厚生年金の基本月額が15万円(年額180万円)の受給者について、同様に比較する。
| 総報酬月額相当額 | 合計額 | 改正前(基準51万円)支給停止月額 | 改正後(基準65万円)支給停止月額 | 改正による年金月額の増加 |
|---|---|---|---|---|
| 30万円 | 45万円 | 0円(全額支給) | 0円(全額支給) | 0円 |
| 36万円 | 51万円 | 0円(全額支給) | 0円(全額支給) | 0円 |
| 40万円 | 55万円 | 20,000円 | 0円(全額支給) | +20,000円/月 |
| 45万円 | 60万円 | 45,000円 | 0円(全額支給) | +45,000円/月 |
| 50万円 | 65万円 | 70,000円 | 0円(全額支給) | +70,000円/月 |
| 55万円 | 70万円 | 95,000円 | 25,000円 | +70,000円/月 |
| 60万円 | 75万円 | 120,000円 | 50,000円 | +70,000円/月 |
| 65万円 | 80万円 | 145,000円 | 75,000円 | +70,000円/月 |
年間ベースでの影響試算
基本月額10万円の受給者について、年間ベースでの影響を整理する。
| 総報酬月額相当額 | 年間給与収入(概算) | 改正前の年間年金額 | 改正後の年間年金額 | 年間増加額 |
|---|---|---|---|---|
| 42万円 | 約504万円 | 114万円 | 120万円 | +6万円 |
| 45万円 | 約540万円 | 96万円 | 120万円 | +24万円 |
| 50万円 | 約600万円 | 66万円 | 120万円 | +54万円 |
| 55万円 | 約660万円 | 36万円 | 120万円 | +84万円 |
| 60万円 | 約720万円 | 6万円 | 90万円 | +84万円 |
注: 年間給与収入は、標準報酬月額×12か月+年間の標準賞与額(=総報酬月額相当額×12)として概算。総報酬月額相当額50万円の場合、たとえば標準報酬月額36万円・年間賞与168万円(月割14万円)のようなケースで、36万円×12+168万円=600万円となる。
60歳〜64歳の在職老齢年金との関係
2022年4月の統一改正
2022年4月の制度改正(令和2年法律第40号)により、60歳〜64歳の在職老齢年金(旧・低在老)と65歳以上の在職老齢年金(旧・高在老)の支給停止基準額が統一された。改正前は60歳〜64歳の基準額が28万円と低く設定されていたが、65歳以上と同一の基準額に引き上げられた。
| 区分 | 2022年3月まで | 2022年4月以降 | 2026年4月以降 |
|---|---|---|---|
| 60歳〜64歳 | 28万円 | 47万円(統一) | 65万円 |
| 65歳以上 | 47万円 | 47万円 | 65万円 |
特別支給の老齢厚生年金への影響
60歳〜64歳で特別支給の老齢厚生年金を受給している者(1961年4月1日以前生まれの男性、1966年4月1日以前生まれの女性)についても、支給停止基準額は同じ65万円が適用される。
繰下げ受給と在職老齢年金の関係
支給停止部分は繰下げ増額の対象外
老齢厚生年金の繰下げ受給(66歳以降に受給開始を遅らせることで年金額を増額する制度)を選択する場合、在職老齢年金により支給停止されている部分は繰下げによる増額率(1月あたり0.7%、最大84%)の計算対象に含まれない。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 繰下げ増額率 | 1月あたり0.7%(年8.4%、最大75歳到達月まで=84%) |
| 増額対象 | 老齢厚生年金の「支給停止されていない部分」のみ |
| 支給停止部分 | 繰下げ増額の計算対象外(在職老齢年金で停止された額は増額されない) |
改正が繰下げ受給戦略に与える影響
支給停止基準額が65万円に引き上げられることで、在職老齢年金による支給停止額が減少又はゼロとなり、繰下げ増額の対象となる年金額が増加する。
| シナリオ | 基本月額 | 総報酬月額相当額 | 改正前の停止月額 | 改正後の停止月額 | 繰下げ対象増加額 |
|---|---|---|---|---|---|
| A | 10万円 | 50万円 | 45,000円 | 0円 | +45,000円 |
| B | 15万円 | 45万円 | 45,000円 | 0円 | +45,000円 |
| C | 12万円 | 60万円 | 105,000円 | 35,000円 | +70,000円 |
企業の定年再雇用における給与設計への影響
在職老齢年金を前提とした給与設計の見直し
多くの企業では、定年再雇用者の給与水準を設定する際に、在職老齢年金の支給停止基準額を考慮してきた。基準額が65万円に引き上げられることで、従来の給与設計の前提が大きく変わる。
| 設計方針 | 改正前の典型的な設計 | 改正後の見直しポイント |
|---|---|---|
| 年金カット回避型 | 年金+給与が51万円以下となるよう給与を抑制 | 65万円まで余裕ができるため、給与引上げの余地が大幅に拡大 |
| 手取り最大化型 | 年金カット分を考慮し、給与と年金のバランスを最適化 | 年金カットが減少するため、給与を引き上げても手取り総額が増加しやすい |
| 同一労働同一賃金型 | 職務内容に応じた給与を設定(年金は考慮しない) | 基準額引上げにより、年金カットの影響が自然に縮小 |
定年再雇用者の給与引上げシミュレーション
基本月額10万円(年金年額120万円)の定年再雇用者について、給与引上げが手取り総額に与える影響を試算する。
| 項目 | 改正前(標準報酬月額36万円) | 改正後(標準報酬月額44万円に引上げ) |
|---|---|---|
| 標準報酬月額 | 36万円 | 44万円 |
| 年間賞与 | 72万円(月割6万円) | 72万円(月割6万円) |
| 総報酬月額相当額 | 42万円 | 50万円 |
| 基本月額+総報酬月額相当額 | 52万円 | 60万円 |
| 支給停止月額(改正前基準51万円) | 5,000円 | — |
| 支給停止月額(改正後基準65万円) | — | 0円(全額支給) |
| 年金月額(実際の受給額) | 95,000円 | 100,000円 |
| 給与+年金の月額合計 | 455,000円 | 540,000円 |
注: 上記は社会保険料・所得税・住民税を考慮していない概算値。実際の手取り額は、標準報酬月額の引上げに伴う社会保険料増加分を控除する必要がある。
同時改正:iDeCo・標準報酬月額上限・遺族厚生年金
令和7年法律第74号に含まれる主要改正事項
在職老齢年金の見直しは、年金制度改革パッケージの一部として他の重要な改正と同時に成立している。同一の法律に含まれる主要改正事項を整理する。
| 改正事項 | 施行時期 | 概要 |
|---|---|---|
| 在職老齢年金の基準額引上げ | 2026年4月 | 支給停止調整額を62万円(2026年度は65万円)に引上げ |
| iDeCo加入年齢の引上げ | 2026年12月1日 | 加入可能年齢を70歳未満に拡大(対象者に条件あり) |
| 標準報酬月額上限の引上げ | 2027年9月〜 | 65万円→68万円(2027年9月)→71万円(2028年9月)→75万円(2029年9月) |
| 遺族厚生年金の見直し | 2028年4月 | 18歳未満の子のない20〜50代の配偶者を原則5年の有期給付に。60歳未満の男性を新たに支給対象に(配慮措置あり) |
| 基礎年金の給付水準の底上げ | 公布日(検討規定) | 次期財政検証で一定の場合に、基礎年金と厚生年金のマクロ経済スライドを同時に終了させる法制上の措置を講ずる、という条件付きの規定 |
iDeCo加入年齢70歳への引上げ
iDeCoの加入可能年齢は、2026年12月1日から70歳未満に引き上げられる。ただし、60歳以上70歳未満で新たに対象となるのは、国民年金被保険者のほか、iDeCoの加入者・運用指図者、企業型DC等の資産をiDeCoに移す人で、いずれも老齢基礎年金やiDeCoの老齢給付金を受給していない人に限られる。厚生年金に加入して働いていることは要件ではない。
対象となる「第5号加入者」の要件はiDeCo加入年齢70歳未満への引上げ|2026年12月1日施行「第5号加入者」は誰が対象かで解説している。
標準報酬月額上限の段階的引上げ
標準報酬月額の上限が現行の65万円から75万円に引き上げられる。これは高所得の被保険者の保険料負担を適正化するとともに、将来の年金給付額の算定基礎を拡大するものである。なお、同じ年金制度改正法に基づき社会保険の適用拡大(106万円の壁撤廃)も段階的に実施されるため、シニアパート従業員の厚生年金加入範囲と標準報酬月額上限の引上げが複合的に在職老齢年金の計算に影響する点にも留意が必要である。
| 時期 | 標準報酬月額上限 | 対応する報酬月額 |
|---|---|---|
| 現行 | 65万円 | 63.5万円以上 |
| 2027年9月 | 68万円 | 66.5万円以上 |
| 2028年9月 | 71万円 | — |
| 2029年9月 | 75万円 | — |
2026年度の年金額改定(マクロ経済スライド)
2026年度の年金額
2026年度の年金額は、名目手取り賃金変動率(2.1%)を用いて改定され、マクロ経済スライドによる調整後の改定率は以下のとおりである(厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」)。
| 項目 | 2025年度 | 2026年度 | 改定率 |
|---|---|---|---|
| 国民年金(老齢基礎年金の満額・1人分・月額) | 69,308円 | 70,608円(+1,300円) | +1.9% |
| 厚生年金(夫婦2人分の老齢基礎年金を含む標準的な年金額・月額) | 232,784円 | 237,279円(+4,495円) | +2.0% |
注: 厚生年金の標準的な年金額は、男性の平均的な収入(平均標準報酬(賞与含む月額換算)45.5万円)で40年間就業した場合の、老齢厚生年金と夫婦2人分の老齢基礎年金(満額)の合計。
マクロ経済スライドの影響
| 項目 | 2026年度の数値 |
|---|---|
| 物価変動率 | 3.2% |
| 名目手取り賃金変動率 | 2.1% |
| マクロ経済スライドによる調整 | 国民年金(基礎年金)▲0.2%、厚生年金(報酬比例部分)▲0.1% |
| 改定率(国民年金) | +1.9%(2.1%−0.2%) |
| 改定率(厚生年金) | +2.0%(2.1%−0.1%) |
今すぐやること:在職老齢年金改正2026年4月 対応チェックリスト
企業の人事・労務担当者向け
- 定年再雇用者の給与テーブルを見直す:2026年4月から基準額が65万円になったことを前提に、給与抑制設計を再検討する。年金+給与の合計を51万円以下に収めていた設計は65万円基準に改める
- 該当する再雇用者を個別にリストアップする:65歳以上で在職老齢年金の対象となっている従業員を特定し、改正後の年金受給額の変動を個別に確認する
- 60歳〜64歳の特別支給対象者(女性)を確認する:2026年度時点で特別支給の老齢厚生年金を受給中の女性従業員がいる場合は、同様に改正の影響を案内する
- 高年齢雇用継続給付の縮小との合わせ技で給与設計を最適化する:在職老齢年金の基準額引上げ・高年齢雇用継続給付の給付率縮小・社会保険料負担を総合的にシミュレーションする
受給者本人向け
- 自身の「基本月額」と「総報酬月額相当額」を確認する:ねんきんネット又は年金事務所で現在の年金額を確認し、改正後に支給停止がなくなるか・減少するかを確認する
- 繰下げ受給の選択肢を再検討する:改正により繰下げ増額の対象額が増加する可能性があるため、繰下げの損益分岐点を再計算する
- iDeCo加入年齢の引上げを確認する:2026年12月1日から、条件を満たせば70歳まで拠出できる。自分が対象になるかを確認する
社会保険労務士・年金相談員向け
- 顧問先企業の定年再雇用規程を確認する:在職老齢年金の基準額を前提とした給与設計の見直し提案を準備する
- 改正内容の説明資料を準備する:「62万円」と「65万円」の違い(法律上の基準額と実額の関係)を分かりやすく説明する資料を作成する
- 標準報酬月額上限引上げ(2027年9月〜)との複合的な影響を試算する:高報酬の受給者については、基準額引上げと上限引上げの両方を織り込んだシミュレーションを行う
FAQ
2026年4月1日から適用されている。令和7年法律第74号(2025年6月13日成立)に基づく改正であり、法律上の額は62万円(2024年度価格)、名目賃金変動率で改定した2026年度の額が65万円である。2026年3月分までは51万円(2025年度)が適用されていた。
いいえ。支給停止額は「(基本月額+総報酬月額相当額−65万円)÷2」で計算され、超過分の半額が停止されるにすぎない。たとえば合計額が70万円の場合、停止額は(70万−65万)÷2=2.5万円であり、基本月額から2.5万円を引いた額が支給される。基本月額を上回る停止額が計算された場合にのみ年金全額停止となるが、そのようなケースは合計額が相当高額の場合に限られる。
在職老齢年金は厚生年金の被保険者として就労している場合にのみ適用される。自営業者・フリーランス・業務委託など、厚生年金に加入していない働き方の場合は、収入の多寡にかかわらず在職老齢年金の支給停止は発生しない。老齢厚生年金は全額支給される。ただし、法人の代表取締役として報酬を得ている場合は、厚生年金の被保険者となるため在職老齢年金の対象となる。
できない。在職老齢年金により支給停止されている部分は、繰下げ受給による増額率(1月あたり0.7%、最大84%)の計算対象に含まれない。ただし、改正により支給停止額が減少又はゼロとなれば、繰下げ増額の対象となる年金額が増加するため、繰下げの経済的メリットは間接的に拡大する。
以下の3点を中心に説明することを推奨する。(1) 2026年4月から在職老齢年金の基準額が51万円→65万円に引き上がること、(2) これにより年金の支給停止が解消又は縮小される可能性があること(個別の状況による)、(3) 年金受給額の変動に伴い、所得税・住民税・介護保険料の負担が変わる可能性があること。具体的な年金額の変動は個人の年金記録に依存するため、年金事務所又はねんきんネットでの確認を促すことが適切である。
標準報酬月額上限が2027年9月に65万円→68万円に引き上げられる(その後2028年9月に71万円、2029年9月に75万円)ことで、高報酬の被保険者の「総報酬月額相当額」が従来より大きくなる。在職老齢年金の基準額が65万円に引き上がっても、高報酬者については支給停止額がむしろ増加するケースがありうる。たとえば、報酬月額が67万円の被保険者は、現行では標準報酬月額65万円で頭打ちとなるが、改正後は68万円が適用される。この結果、総報酬月額相当額が3万円増加し、支給停止額が1.5万円増加する計算となる。
2026年度の年金額改定率は、厚生年金が+2.0%、国民年金が+1.9%である(マクロ経済スライド調整後)。これは名目手取り賃金変動率(2.1%)に基づく改定であり、物価変動率(3.2%)を下回る水準である。在職老齢年金の基準額引上げによる「支給停止の解消・縮小」と、マクロ経済スライドによる「年金額の名目増加」は別の効果であり、両方が2026年4月から同時に適用される。
免責事項
本記事は、令和7年法律第74号(社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律)、厚生労働省・日本年金機構の公開情報に基づき、2026年10月時点で入手可能な情報をもとに作成した一般的な解説記事である。支給停止調整額は毎年度改定されるため、2027年度以降の額は日本年金機構の案内で確認されたい。
本記事に記載のシミュレーションは一定の前提条件に基づく概算値であり、個人の年金記録・就労状況・家族構成等により実際の年金額は異なる。具体的な年金額の確認はねんきんネット又は最寄りの年金事務所に、個別の給与設計・税務判断については社会保険労務士・税理士等の専門家に相談されたい。
参考文献・法令等
- 令和7年法律第74号「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律」(2025年6月13日成立、同年6月20日公布)
- 厚生年金保険法第46条(在職老齢年金に係る支給停止、改正後)、附則第8条の2
- 社会保障審議会年金部会「年金制度改正に関する議論の整理」(2024年12月25日)
- 厚生労働省年金局「年金制度改正法の概要」
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001523466.pdf - 厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000191631_00020.html - 日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/roureinenkin/zaishoku/20150401-01.html - 日本年金機構「年金の繰下げ受給」
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/roureinenkin/kuriage-kurisage/20140421-02.html - 厚生労働省「iDeCo(個人型確定拠出年金)の概要」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/kyoshutsu/ideco.html - 令和2年法律第40号「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」(2022年4月施行分:在職老齢年金の基準額統一)


