最終更新日: 2026-07-23
「自宅は残したい。でも預貯金も生活費として確保したい」——配偶者が亡くなったとき、遺された配偶者が直面するのがこのジレンマです。自宅の所有権をすべて相続すると、その評価額が高いために預貯金の取り分が減り、老後資金が不足しかねません。この問題を解決するために2020年4月1日に施行されたのが「配偶者居住権」です。所有権を子に、住む権利を配偶者に分けることで、住まいと生活資金を両立できます。さらに、この権利は配偶者の死亡(二次相続)で消滅すると相続税が課されないため、一次・二次を通算すると節税につながる場合があります。一方で、設定登記の件数は年間900件前後と低調で、相続全体の0.2%程度にとどまります。本記事では、設定登記の実務手順・登録免許税・相続税評価の計算例・向くケースと向かないケースを、一次情報に基づいて実務ガイドとして解説します。
免責事項: 本記事は2026年7月時点の一般的な制度解説であり、個別案件の法的・税務判断を提供するものではありません。相続税評価額・節税効果は財産内容・相続人構成・小規模宅地等の特例の適用可否によって大きく異なります。設定登記の可否や課税関係の最終判断は、司法書士・税理士・弁護士などの専門家、および法務局・国税庁の公式情報でご確認ください。本記事の情報に基づいて行動した結果生じた損害について、当サイトは責任を負いません。
1. 配偶者居住権とは——「住む権利」と「所有権」を分ける仕組み
配偶者居住権とは、法務省の説明によれば「残された配偶者が被相続人の所有する建物に居住していた場合で、一定の要件を充たすときに、被相続人が亡くなった後も、配偶者が、賃料の負担なくその建物に住み続けることができる権利」です。根拠は民法第1028条〜第1036条で、2018年の民法(相続法)改正により新設され、2020年4月1日以降に発生した相続から適用されています。
ポイントは、自宅を「所有権」と「配偶者居住権(住む権利)」の2つに分けられることです。従来は自宅を相続する人が所有権をまるごと取得するしかありませんでしたが、この制度により、
- 配偶者 … 配偶者居住権(原則として終身、住み続けられる)
- 子など他の相続人 … 配偶者居住権の負担が付いた所有権(負担付所有権)
というように、権利を分割できます。配偶者居住権は所有権より評価額が低く抑えられるため、配偶者は自宅に住み続けながら、その分だけ預貯金など他の財産を多く取得できる、という設計です。
1-1. 配偶者短期居住権との違い
よく混同されるのが「配偶者短期居住権」(民法第1037条〜第1041条)です。両者はまったく別の制度です。
| 項目 | 配偶者居住権 | 配偶者短期居住権 |
|---|---|---|
| 期間 | 原則終身(遺産分割等で期間指定も可) | 原則として遺産分割確定日または相続開始から6か月を経過する日のいずれか遅い日まで(遺産分割が不要な場合は所有者の消滅申入れから6か月) |
| 成立方法 | 遺産分割・遺言・家庭裁判所の審判で「取得」する | 要件を満たせば当然に発生(手続き不要) |
| 登記 | 可能(第三者対抗要件になる) | 登記できない |
| 財産的価値・相続税評価 | あり(評価額を算定して課税対象) | なし(原則として相続税の課税対象にならない) |
| 譲渡 | できない | できない |
配偶者短期居住権は、遺産分割が終わるまでの「引っ越し猶予」のような暫定的な権利で、自動的に発生します。一方、本記事のテーマである配偶者居住権は、意図的に「取得」しなければ発生せず、登記もできる、財産的価値のある権利です。以下、「配偶者居住権」は原則として長期のもの(民法第1028条)を指して解説します。
(出典: 法務省「配偶者居住権とは何ですか?」)
2. 配偶者居住権を設定できる要件と3つの成立方法
配偶者居住権が成立するには、次の要件をすべて満たす必要があります(民法第1028条)。
- 配偶者が法律上の配偶者であること(内縁関係では成立しない)
- 被相続人が所有していた建物に、相続開始時に配偶者が居住していたこと
- その建物が被相続人と配偶者以外の第三者との共有でないこと(被相続人が単独所有、または被相続人と配偶者の共有であればOK)
- 次の3つのいずれかの方法で配偶者居住権を「取得」すること
成立方法① 遺産分割
相続人全員による遺産分割協議で、配偶者が配偶者居住権を取得すると合意する方法です。相続開始後に相続人間で話し合って決めるため、もっとも一般的なルートです。遺産分割協議書に配偶者居住権の設定を明記します。遺産分割の進め方は「遺産分割協議と不動産相続 実務ガイド」で詳しく解説しています。
成立方法② 遺言(遺贈)
被相続人が生前に遺言で「配偶者に配偶者居住権を遺贈する」と定めておく方法です。相続開始と同時に配偶者に取得させることができ、遺産分割協議の紛糾を避けられます。注意点として、配偶者居住権は「遺贈」の目的とする必要があり、「相続させる」旨の遺言(特定財産承継遺言)では設定できないとされています。配偶者が居住権を望まない場合に放棄しやすくするための配慮です。
成立方法③ 家庭裁判所の審判
遺産分割協議がまとまらない場合、家庭裁判所の審判によって配偶者居住権を取得する方法です。ただし裁判所が審判で設定できるのは、(1)共同相続人間で配偶者に配偶者居住権を取得させる合意がある場合、または(2)配偶者が希望し、かつ建物所有者の受ける不利益を考慮してもなお配偶者の生活維持のため特に必要と認める場合、に限られます(民法第1029条)。
ワンポイント: 生前に確実に配偶者へ住まいを残したいなら、遺言(遺贈)による設定がもっとも安全です。遺言制度は2020年施行の自筆証書遺言書保管制度なども含めて整備が進んでいます。
3. 【登記実務】設定登記の手順・連件申請・登録免許税
配偶者居住権は取得しただけでは不十分です。登記をしなければ、第三者に権利を主張できません(民法第1031条)。たとえば所有権を取得した子が建物を第三者に売却した場合、配偶者居住権の登記がなければ、買主に「住む権利」を対抗できず、退去を求められるおそれがあります。設定登記は必須と考えてください。
3-1. 登記は「共同申請」が原則
配偶者居住権の設定登記は、登記権利者である配偶者と、登記義務者である建物所有者(子など)が共同で申請します。
- 建物所有者が協力しない場合 → 配偶者は、登記手続を命じる確定判決を得て単独申請できます。
- 遺産分割の審判で「所有者は配偶者居住権の設定登記手続をすべき」旨が命じられている場合 → 配偶者が単独で申請できます。
3-2. 実務は「連件申請」が基本
配偶者居住権を設定する前提として、まず建物の所有権が被相続人から相続人(子など)へ移転している必要があります。登記義務者となる「建物所有者」が確定していないと、居住権を設定できないためです。そこで実務では、次の順序で連件申請(同一の登記所へ複数の申請を連続して提出)します。
| 申請順 | 登記の種類 | 申請人 | 登記の目的 |
|---|---|---|---|
| 1件目 | 建物所有権の移転登記(相続・遺贈) | 相続人(子など) | 被相続人 → 子へ所有権を移す |
| 2件目 | 配偶者居住権の設定登記 | 配偶者(権利者)+子(義務者) | 移転後の所有者を義務者として居住権を設定 |
1件目で所有者を確定させ、その所有者を義務者として2件目で居住権を設定する、という流れです。
3-3. 登録免許税は「建物価額の1000分の2」
配偶者居住権の設定登記にかかる登録免許税は、不動産(建物)の価額の1000分の2(0.2%)です。
- 課税標準となる「建物の価額」は、原則として固定資産課税台帳に登録された固定資産税評価額を用います(登録価格がない場合は登記官の認定価額)。
- 課税対象は建物のみで、土地(敷地利用権)は登記の課税対象になりません。配偶者居住権は建物に対する権利だからです。
【計算例】固定資産税評価額が建物1,000万円の場合
→ 1,000万円 × 2/1000 = 登録免許税2万円
これとは別に、1件目の相続による所有権移転登記には、不動産(建物・土地)の価額の1000分の4(0.4%)の登録免許税がかかります。司法書士に依頼する場合は報酬(建物1件あたりおおむね5万〜10万円程度が一つの目安。事務所により異なる)が別途必要です。
(出典: 国税庁 No.7191 登録免許税の税額表)
3-4. 必要書類の例
一般的な設定登記(2件目)で求められる書類は次のとおりです。ケースにより増減するため、最終的には管轄法務局または司法書士にご確認ください。
- 登記原因証明情報(遺産分割協議書、遺言書、審判書など権利取得の根拠書面)
- 登記義務者(建物所有者)の登記識別情報または登記済証
- 登記義務者の印鑑証明書(作成後3か月以内)
- 登記権利者(配偶者)の住所証明情報(住民票など)
- 建物の固定資産評価証明書(登録免許税算定用)
- 司法書士に依頼する場合は委任状
登記のタイミングの落とし穴: 遺産分割協議書や公正証書遺言があっても、登記をしなければ第三者に対抗できません。相続後は速やかに(1件目の所有権移転と連件で)設定登記まで済ませておくのが安全です。相続登記そのものは2024年4月1日から義務化され、正当な理由なく3年以内に申請しないと10万円以下の過料の対象になります。詳しくは「相続登記の義務化(過料10万円)と申請手順」を参照してください。
(出典: 法務局「登録免許税の計算」、法務省 配偶者居住権の制度概要)
4. 【相続税評価】計算方法と数値例——二次相続の節税メカニズム
配偶者居住権には財産的価値があるため、相続税の課税対象になります。評価方法は相続税法第23条の2および財産評価基本通達に定められています。評価は「建物」と「土地(敷地)」それぞれについて、「配偶者側の権利」と「所有者側の権利」に分けて算定します。
4-1. 4つの評価額を算定する
相続開始により、次の4つの財産が生じます。
| 財産 | 取得する人 | イメージ |
|---|---|---|
| ① 配偶者居住権 | 配偶者 | 建物に住む権利 |
| ② 居住建物の所有権 | 子など | 建物の所有権(①の負担付き) |
| ③ 敷地利用権 | 配偶者 | 土地を利用する権利 |
| ④ 居住建物の敷地所有権 | 子など | 土地の所有権(③の負担付き) |
4-2. 評価の計算式(国税庁)
国税庁タックスアンサー No.4666 に基づく計算式は次のとおりです。
① 配偶者居住権の価額
配偶者居住権 = 建物の相続税評価額
− 建物の相続税評価額 ×(耐用年数 − 経過年数 − 存続年数)÷(耐用年数 − 経過年数)
× 存続年数に応じた法定利率による複利現価率
② 居住建物の所有権の価額
居住建物の価額 = 建物の相続税評価額 − 配偶者居住権の価額(①)
③ 敷地利用権の価額
敷地利用権 = 土地の相続税評価額
− 土地の相続税評価額 × 存続年数に応じた法定利率による複利現価率
④ 居住建物の敷地所有権の価額
敷地所有権 = 土地の相続税評価額 − 敷地利用権の価額(③)
4-3. 変数の定義(ここが計算の肝)
- 耐用年数 … 建物の構造ごとの住宅用耐用年数を1.5倍した年数。例: 木造22年 × 1.5 = 33年、鉄筋コンクリート47年 × 1.5 ≒ 71年。
- 経過年数 … 建築時から配偶者居住権設定時までの年数。6か月以上の端数は1年に切り上げ、6か月未満は切り捨て。
- 存続年数 … 配偶者居住権が続く年数。終身の場合は、配偶者の平均余命(完全生命表による。設定時の属する年の1月1日時点で公表されている最新のもの)。同じく6か月以上切り上げ、6か月未満切り捨て。期間を定めた場合はその年数。
- 複利現価率 … 存続年数と法定利率から求める係数。国税庁の複利表を参照。法定利率は現在3%(民法第404条。2020年4月1日時点で年3%、3年ごとに見直し。評価には「配偶者居住権が設定された日に適用される法定利率」を用いる)。
- ※(耐用年数 − 経過年数 − 存続年数)がマイナスになる場合は、その項をゼロとして扱います。
注意(法定利率の見直し): 法定利率は3年ごとに見直され、2020年4月1日以降は年3%です。令和7年法務省告示第73号により、2026年4月〜2029年3月の第3期も年3%と確定しています。ただし実際の設定時点で適用される利率と、その利率に対応する複利現価率は、念のため国税庁の最新資料で確認してください。
4-4. 具体的な計算例(数値は前提条件つき)
以下は制度理解のための試算例です。実際の評価額は個別の固定資産税評価額・路線価・平均余命により変わります。
【前提条件】
- 配偶者: 70歳女性、居住権は終身
- 建物: 木造(耐用年数22年 × 1.5 = 33年)、築8年(経過年数 = 8年)、建物の相続税評価額 = 1,000万円
- 土地: 相続税評価額 = 3,000万円
- 存続年数: 平均余命に基づき 20年(例示値。実際は完全生命表で確認)
- 存続年数20年・法定利率3%の複利現価率 = 0.554(例示値。国税庁複利表で確認)
① 配偶者居住権
= 1,000万円 − 1,000万円 ×(33 − 8 − 20)÷(33 − 8)× 0.554
= 1,000万円 − 1,000万円 × 5 ÷ 25 × 0.554
= 1,000万円 − 1,000万円 × 0.2 × 0.554
= 1,000万円 − 110.8万円
= 約889.2万円
② 居住建物の所有権(子)
= 1,000万円 − 889.2万円 = 約110.8万円
③ 敷地利用権(配偶者)
= 3,000万円 − 3,000万円 × 0.554
= 3,000万円 − 1,662万円 = 1,338万円
④ 敷地所有権(子)
= 3,000万円 − 1,338万円 = 1,662万円
このケースで配偶者が取得する財産(① 889.2万円 + ③ 1,338万円 = 約2,227万円)に対し、子が取得する所有権系(② 110.8万円 + ④ 1,662万円 = 約1,772.8万円)となります。合計は当然、自宅の評価額4,000万円と一致します(889.2 + 110.8 + 1,338 + 1,662 = 4,000万円)。相続税額そのものは基礎控除や税率、他の財産と合算して決まります。全体像は「相続税の基礎控除と計算4ステップ」で、概算額は「相続税シミュレーター」で試算できます。
(出典: 国税庁 No.4666 配偶者居住権等の評価、国税庁 相続税法基本通達 第23条の2関係)
4-5. 二次相続で「消滅=非課税」になる節税メカニズム
配偶者居住権の最大の特徴は、配偶者が亡くなると権利が消滅し、その消滅によって子(所有者)に相続税が課されない点です。
- 一次相続(夫が死亡): 配偶者が配偶者居住権(例2,227万円)、子が負担付所有権(例1,772.8万円)を取得。配偶者の取得分には配偶者の税額軽減(1億6,000万円または法定相続分まで非課税)が使えるため、一次相続の税負担は抑えられることが多い。
- 二次相続(配偶者が死亡): 配偶者居住権は配偶者の死亡で当然に消滅します。子は元々所有していた負担付所有権が、居住権の負担が外れて完全な所有権になりますが、これは「配偶者から居住権の価値を相続した」のではなく「もともと持っていた所有権の負担が消えた」だけと整理されます。したがって消滅した居住権の価値には相続税が課税されません。
結果として、配偶者居住権を設定しなかった場合(自宅の所有権すべてが二次相続の課税対象になる)と比べ、二次相続の相続財産を圧縮できるため、一次・二次を通算すると相続税が軽くなるケースがあります。これが「配偶者居住権の節税効果」と呼ばれる仕組みです。
重要な注意点: 節税になるかどうかは、一次・二次を通算し、かつ小規模宅地等の特例の適用可否まで含めてシミュレーションしなければ判断できません。特例の適用関係によっては、二次相続の節税以上に一次相続の税額が増えることもあります。また、消滅事由によって課税関係が異なる点に注意してください。配偶者の死亡・存続期間の満了による消滅は課税されません(存続期間満了は当初の予定どおりの消滅であり、相続税法基本通達9-13の2により課税関係が生じません)。一方、合意解除や放棄によって途中で消滅させた場合は課税が生じえます——対価なく消滅させると所有者に贈与税、対価を払って消滅させると配偶者に譲渡所得税が課される可能性があります。
(出典: 国税庁 No.4666、消滅時の課税関係は相続税法・所得税法および国税庁通達に基づく)
5. 向くケース/向かないケース——なぜ利用件数は年900件台なのか
制度自体は便利に見えますが、実際の設定登記件数は年間900件前後(法務省の登記統計等をもとにした報道・専門家分析)にとどまり、相続全体に占める割合は約0.2%という低調ぶりです。ここに、この制度の「本当に使える場面」が見えてきます。
5-1. 配偶者居住権が「向く」ケース
- 自宅の評価額が高く、預貯金が少ない。所有権をすべて相続すると生活資金が不足する。居住権にすれば安く住まいを確保でき、他の財産を多く取得できる。
- 子と配偶者の仲が必ずしも良くない(前妻の子など)。所有権を子に、居住権を配偶者に分けることで、配偶者の住まいを法的に確保しつつ将来のトラブルを避けられる。
- 将来の二次相続まで含めて相続税の圧縮を狙いたい(かつ通算シミュレーションで有利と確認できる)。
5-2. 配偶者居住権が「向かない」・使われない理由
利用が伸びない主な理由は次のとおりです。
- 配偶者の税額軽減で一次相続はもともと軽い。配偶者は1億6,000万円まで非課税のため、そもそも一次相続で自宅を全部相続しても税負担が生じないケースが多く、わざわざ居住権を設定する動機が弱い。
- 将来、自宅を売りたくなっても売れない。配偶者居住権は譲渡できず、老人ホーム入居などで自宅を出ても、居住権を現金化しにくい(合意解除には課税リスク)。所有者(子)が売ろうにも居住権付きでは買い手がつきにくい。
- 手続きが複雑でコストがかかる。連件登記、評価計算、二次相続シミュレーションなど、司法書士・税理士の関与が前提になり、少額の相続では割に合わない。
- 制度の認知度が低い。2020年施行と新しく、実務経験のある専門家も限られる。
- 柔軟性の低さ。いったん設定すると変更・解消が難しく、家族構成の変化に対応しづらい。
つまり配偶者居住権は「万人向けの節税策」ではなく、自宅の比重が大きく、住まいと生活資金の両立や再婚家庭の権利保護といった特定の事情がある場合に、専門家と通算シミュレーションをしたうえで使う特殊な選択肢、というのが実態です。自宅を活用せず現金化を優先するなら、居住権を設定せず「相続した不動産を売る全手順」で解説する売却ルートのほうが合理的な場合も少なくありません。
5-3. 2026年時点の制度動向
配偶者居住権そのものの改正は2026年7月時点で確認されていません。2026年度(令和8年度)税制改正は貸付不動産の評価見直しなどが主体で、配偶者居住権の評価方法への直接の変更は本記事執筆時点で確認されていません(今後の告示・通達で変わる可能性はあるため、設定時点の最新情報を必ず確認してください)。
6. よくある質問(FAQ)
法律上、登記は成立要件ではありません(遺産分割・遺言・審判で取得すれば成立します)。しかし、登記しなければ第三者に権利を主張できません(民法第1031条)。所有者である子が建物を第三者に売却したり、建物に抵当権が設定されたりすると、登記のない配偶者は買主・抵当権者に対抗できず、最悪の場合退去を求められます。実務上、設定登記は必須と考えてください。
一次相続では基本的に安くなりません(配偶者の取得分が居住権と敷地利用権に分かれるだけで、財産価値の合計は変わらず、配偶者の税額軽減も使えます)。節税効果が出るのは二次相続で、配偶者の死亡により居住権が消滅しても子に課税されないためです。ただし小規模宅地等の特例の適用関係によっては一次相続の税額が増える場合もあり、必ず一次・二次を通算したシミュレーションで判断する必要があります。
登録免許税は建物の固定資産税評価額の1000分の2(0.2%)です。建物評価額1,000万円なら2万円です。土地(敷地利用権)は登記の課税対象外です。これとは別に、前提となる相続による所有権移転登記に建物・土地の価額の1000分の4(0.4%)、司法書士に依頼する場合はその報酬(建物1件あたり5万〜10万円程度が一つの目安。事務所により異なる)がかかります。
配偶者居住権は原則として存続します(建物に住まなくなっても自動的には消滅しません)。ただし現金化しづらいのが難点です。居住権を放棄したり、所有者との合意で解消したりすることは可能ですが、その際に対価がなければ所有者に贈与税、対価を払えば配偶者に譲渡所得税が課される可能性があります。入居費用の捻出方法まで含めて事前に検討しておくことが重要です。
使えません。配偶者居住権が認められるのは法律上の配偶者(婚姻届を出している配偶者)に限られます(民法第1028条)。内縁関係の場合は成立しないため、生前贈与・遺贈・生命保険の活用など別の方法で住まいを確保する必要があります。
できません。配偶者居住権を遺言で設定するには「遺贈する」という表現が必要です。「相続させる」旨の遺言(特定財産承継遺言)では設定できないとされています。これは、配偶者が居住権を望まない場合に放棄しやすくするための配慮です。遺言で確実に設定したいなら「配偶者に配偶者居住権を遺贈する」と明記し、公正証書遺言など確実な方式で作成することをおすすめします。
敷地利用権・敷地所有権のいずれについても、要件を満たせば小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等)を適用できるとされています。ただし適用面積の按分や、配偶者・子それぞれの取得部分での要件充足が問題になり、計算が複雑です。特例の適用可否は節税効果を大きく左右するため、必ず税理士に確認してください。
7. まとめ——「使える人」を見極めるのがこの制度の要点
配偶者居住権は、自宅の「住む権利」と「所有権」を分けることで、遺された配偶者の住まいと生活資金を両立させ、二次相続では権利消滅による非課税効果で相続税を圧縮できる制度です。要点を整理します。
- 成立は遺産分割・遺言(遺贈)・審判の3ルート。遺言は「遺贈する」と明記する。
- 登記は第三者対抗要件として実質必須。相続登記と連件で申請し、登録免許税は建物価額の1000分の2。
- 相続税評価は法定利率3%の複利現価率と存続年数・耐用年数から算定。二次相続での消滅は非課税。
- ただし節税判断は一次・二次通算+小規模宅地等の特例まで含めたシミュレーションが不可欠。
- 利用が年900件台と低調なのは、配偶者の税額軽減で一次相続がもともと軽いこと、現金化しにくいこと、手続きコストの高さが理由。自宅の比重が大きい・再婚家庭・住まいと資金の両立が課題、といった特定のケースで真価を発揮する特殊な選択肢です。
設定するかどうかは、必ず司法書士・税理士と相談し、通算シミュレーションと登記・課税リスクの確認を行ったうえで判断してください。遺産分割全体の進め方は「遺産分割協議と不動産相続 実務ガイド」、相続税の全体像は「相続税の基礎控除と計算4ステップ」もあわせてご覧ください。



