最終更新日: 2026-09-07
結論: 非上場株式の相続税・贈与税評価で「特定の評価会社」に認定されると、一般の会社なら使える類似業種比準方式(または規模別のL併用)が一切使えなくなり、原則として純資産価額方式100%、または株式等保有特定会社ならS1+S2方式での評価が強制される。財産評価基本通達189が定める6類型(比準要素数1の会社・株式等保有特定会社・土地保有特定会社・開業後3年未満/比準要素数0の会社・開業前/休業中の会社・清算中の会社)には、通達のかっこ書が定める条文上の優先順位があり、この順序を誤ると納税者が選べるはずの評価方式を失う。さらに議決権50%以下の取得や少数株主による取得なら評価額が下がる規定もあり、「該当した=必ず高くなる」とは限らない。加えて、国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」は2026年8月20日の第5回会合で、類似業種比準方式そのものを「存置することは困難ではないか」とし、純資産価額方式を「特定の評価会社の株式の評価方式」として位置づけ直す方向のたたき台を示した。実現すれば「特定の評価会社だけが不利」という現在の構図自体が変わる可能性がある。ただしこれは事務局のたたき台であり、複数の委員が拙速な議論に懸念を示しており、委員間の合意ではない。本記事では6類型の判定基準・優先順位・見落とされやすい減額規定を整理し、自社が該当するか確認できる判定フローと、有識者会議の最新動向まで解説する。個別事案は必ず税理士・公認会計士に相談のうえ判断してほしい。
※本記事は、非上場(同族)会社の株式を持つ経営者・後継者の方に向けた相続税・贈与税の評価の解説です。所得税の確定申告や年末調整の手続きを扱うものではありません。
関連記事(非上場株式評価クラスター)
– 非上場株式の相続税評価 見直し議論2027年度改正|国税庁専門委員会の論点 — 3評価方式横断のハブ記事・有識者会議の最新動向
– 類似業種比準方式 見直し2027|国税庁が示したたたき台と、中小企業オーナーの株価はどう動くか — 第5回たたき台の全体像・試算
– 純資産価額方式と事業承継税制の併用実務2026|評価差額38%控除・特例期限まで — 純資産価額方式の計算実務と特例税制
– 相続税の基礎控除・税率表・申告期限から計算フロー・特例まで2026年版 — 相続税の総合ピラー記事
1. なぜ「特定の評価会社」は税負担が増えるのか
1-1. 原則的評価方式の構造
非上場株式の相続税・贈与税評価には、大きく分けて2つのルートがある。
第一の「原則的評価方式」は、会社規模(大会社・中会社・小会社)に応じて類似業種比準方式(たたき台と試算はこちら)、純資産価額方式、またはその加重平均(L併用)を使い分ける方式だ。中会社では類似業種比準価額×L(0.60〜0.90)+純資産価額×(1−L)、大会社では類似業種比準方式100%(または純資産価額方式との低い方の選択)が原則となる。この仕組みにより、類似業種比準方式の恩恵(評価額の圧縮)を受けられる可能性がある。
なお、以下で繰り返し使う「同族株主」とは、財産評価基本通達188が定める概念で、株主の1人とその同族関係者(法人税法施行令第4条が定める特殊の関係のある個人・法人)が持つ議決権の合計数が、その会社の議決権総数の30%以上である場合における、その株主とその同族関係者をいう。ただし、議決権が最も多いグループの議決権合計が議決権総数の50%超である会社では、基準が「50%超」になる。つまり、議決権上位グループの合計が50%を超えない会社では30%以上、超える会社では50%超が同族株主の基準となる。個別の判定は税理士に確認してほしい。
第二の「特例的評価方式」である配当還元方式は、少数株主に適用される。ただし対象は「同族関係者以外かつ5%未満保有」の一言では説明しきれない。財産評価基本通達188は対象を4類型に分けて定めており、5%未満という要件が付くのはそのうち2つだけだ。同族株主のいる会社の同族株主以外の株主(5%要件なし)や、同族株主のいない会社で株主グループの議決権が15%未満の株主等も対象になる。該当するかどうかは、単純な保有比率だけでなく、同族株主に当たるか、株主グループの議決権が何%かによって決まる。
「特定の評価会社」に該当した場合、第一ルートが封じられ、純資産価額方式100%またはS1+S2方式が強制される(財産評価基本通達189)。純資産価額方式は、すべての資産・負債を相続税評価額に洗い替えたうえで算定するため、土地・有価証券等に含み益がある会社ほど評価額が高くなる。
会計検査院「令和5年度決算検査報告」(令和6年11月公表。第4章第2節「特定検査対象に関する検査状況」中の「第4 相続等により取得した財産のうち取引相場のない株式の評価について」)によれば、類似業種比準価額の中央値(11,622円)は純資産価額の中央値(42,648円)の27.2%にとどまる。ただし同じ報告書には規模別の実データもあり、純資産価額に対する申告評価額の割合の中央値は大会社0.32倍・中会社0.50倍・小会社0.61倍で、規模が大きい会社ほど差が大きいことが分かっている。逆数で言えば大会社は約3.1倍、中会社は約2.0倍、小会社は約1.6倍で、評価額が3〜4倍以上に開くのは大会社クラスの一部にとどまり、小会社ではそこまで開かない。特定の評価会社に該当することで評価額がどこまで上がるかは、自社の規模区分を踏まえて考える必要がある。
1-2. 中小企業オーナーへの影響
特定の評価会社問題が深刻化しているのは、次の3つの背景からだ。
①グループ会社化・持株会社化の進展:後継者への株式集約やグループ経営効率化を目的に持株会社を設立した結果、当該持株会社が「株式等保有特定会社」に該当してしまうケースが増えている。
②不動産投資の拡大:遊休資金の運用目的で法人名義の不動産投資が増加し、総資産に占める土地等の割合が上昇して「土地保有特定会社」に該当する会社も出ている。
③特例事業承継税制の2027年12月期限:類似業種比準方式の評価圧縮ができない状態で贈与・相続が発生すると、納税猶予制度を使っても純資産価額方式の高い評価額がベースになる。純資産価額方式で高く出た評価額をどう猶予・免除につなげるかは純資産価額方式と事業承継税制の併用実務(3ケース試算)で詳述しているが、その前提として「特定の評価会社に該当するかどうか」の確認は最初の必須作業だ。
2. 「特定の評価会社」6類型の全体像
なぜこの6類型だけが「特定」として原則的評価方式から外されるのか。国税庁は有識者会議の第4回会合(2026年7月3日)の資料で、次のように説明している。
比準要素数1の会社は、比準要素の半分以上がないことから上場企業に比準する前提を欠いているが、休業中の会社や清算中の会社の株式の評価とのバランスから、ある程度収益性を考慮することにも一定の合理性がある。
株式等保有特定会社と土地保有特定会社は、上場企業に比べて著しく株式等又は土地に偏った会社であり、上場企業に比準する前提を欠いている。
開業後3年未満の会社・比準要素数0の会社は、上場企業に比準する前提を欠いている。
開業前・休業中の会社は、事業活動を継続中である会社とは異なり、類似業種比準方式において必要な配当や利益などの数値を求めることができない。
清算中の会社は、課税時期において清算手続に入っている会社であり、清算分配見込額の割引現在価値で評価する。
共通する理由は「上場企業と比較する前提を欠く」ことだ。類似業種比準方式は、評価対象会社を業種目ごとの上場企業の平均株価に引き直して計算するため、比較の土台が成立しない会社には使えない、という考え方になる。
財産評価基本通達189は、特定の評価会社を以下6つの類型(類型番号189-(1)〜(6))に分類する。各類型の評価方法は別途の個別通達189-2〜189-6が定める。
| 類型番号 | 評価方法通達 | 類型名 | 判定基準の概要 | 強制される評価方式 |
|---|---|---|---|---|
| 189-(1) | 189-2 | 比準要素数1の会社 | ⓑ・ⓒ・ⓓのうち、直前期末はちょうど2つが0、直前々期末は2つ以上が0(条件が異なる) | 純資産価額方式100%(または通達189-2ただし書きによりL=0.25で評価) |
| 189-(2) | 189-3 | 株式等保有特定会社 | 総資産に占める株式等の割合が50%以上 | 純資産価額方式100%(またはS1+S2方式の選択可) |
| 189-(3) | 189-4 | 土地保有特定会社 | 総資産に占める土地等の割合が規模別の閾値以上 | 純資産価額方式100% |
| 189-(4) | 189-4 | 開業後3年未満の会社 | 課税時期において設立後3年未満 | 純資産価額方式100% |
| 189-(4) | 189-4 | 比準要素数0の会社 | ⓑ・ⓒ・ⓓがすべて0 | 純資産価額方式100% |
| 189-(5) | 189-5 | 開業前・休業中の会社 | 開業前または実質的な休業中 | 純資産価額方式100% |
| 189-(6) | 189-6 | 清算中の会社 | 清算中 | 清算中の会社の評価(財産評価基本通達189-6) |
※通達番号の読み方に注意:「189-(1)〜(6)」は通達189本文中で特定の評価会社を6類型に分類するための類型番号(括弧番号)である。一方、各類型の評価方法を定めるのは、これとは別の独立した個別通達「189-2〜189-6」(ハイフン番号)だ。両者は番号が似ているが役割が異なるため混同しないこと。
※通達189系にはこのほか189-7(株式の割当てを受ける権利等の発生している特定の評価会社の株式の価額の修正)も存在する。189-2〜189-6ですべての個別通達が尽きるわけではない。
3. 各類型の判定基準と評価方式(詳細)
3-1. 比準要素数1の会社(通達189-(1))
判定基準:類似業種比準価額計算の3要素(ⓑ配当・ⓒ利益・ⓓ純資産)のうち、直前期末の値が「0」であるものがちょうど2つあり、かつ直前々期末においては0が2つ以上ある会社(直前期末と直前々期末とで条件が異なる点に注意)。言い換えると、ⓑ・ⓒ・ⓓの「現在0でない要素の数(=比準要素数)」が1つだけの会社が該当する。直前期末で3つとも0の場合は、比準要素数1の会社ではなく後述の比準要素数0の会社(189-(4)ロ)に該当する。
判定対象期間に注意:通達189-(1)の注は「配当金額及び利益金額については、直前期末以前3年間の実績を反映して判定する」と定めている。後述する189-(4)の比準要素数0(直前期末以前2年間)とは対象期間の長さが異なるため、混同しないこと。
強制される評価方式:純資産価額方式100%が原則。ただし、通達189-2のただし書きに明文規定があり、納税者の選択によりLを0.25として通達179の(2)の算式(類似業種比準価額×0.25+純資産価額×0.75)で評価することもできる。この選択権は実務慣行ではなく通達上の明文規定に基づく(適用可否の最終判断は個別事案ごとに税理士に相談すること)。
判定順序に注意:比準要素数1の会社は、通達189-(1)のかっこ書で「次の(2)から(6)に該当するものを除く」と定められている。つまり株式等保有特定会社・土地保有特定会社等に同時に該当する場合は、そちらが優先し、比準要素数1としては扱われない。判定の順序は第4章で詳しく整理する。
実務上の落とし穴:設備投資等で利益が赤字になった事業年度が続いたり、無配政策を継続している場合に比準要素が0になりやすい。無配・赤字が続いた後に承継を実行すると、知らないうちに比準要素数1の会社に該当しているケースがある。
3-2. 株式等保有特定会社(通達189-(2))——いわゆる「株特」
判定基準:課税時期(相続開始日・贈与日)における、総資産価額(相続税評価額)に占める「株式・出資」の価額の割合が50%以上の会社。
計算式:株式等保有割合 = 株式・出資の相続税評価額 ÷ 総資産の相続税評価額 × 100
「株式等」の範囲には、上場株式・非上場株式・出資(合名会社・合資会社等への出資)および新株予約権付社債(会社法第2条第22号)が含まれる(財産評価基本通達189-(2)の規定上、対象は「株式、出資及び新株予約権付社債」)。公社債・投資信託受益証券等の一般的な社債は「株式等」に含まれないが、新株予約権付社債(転換社債型を含む)は「株式等」に該当する点に注意が必要だ。M&Aや持株会社の実務では新株予約権付社債の保有が珍しくなく、判定漏れが実害につながりやすい論点である。
強制される評価方式:原則として純資産価額方式100%。ただし、S1+S2方式を選択することも可能(評価方法を定めるのは通達189-3〔株式等保有特定会社の株式の評価〕のただし書き)。S1+S2方式は次節で詳述する。
50%という閾値の重要性:この閾値は一見単純に見えるが、「相続税評価額ベース」で計算する点に注意が必要だ。帳簿価額(=簿価)ベースでは50%未満でも、保有株式が路線価・時価評価で大きくなった結果、相続税評価額ベースで50%を超えることがある。課税時期直前のB/S構造を相続税評価額で組み直した「評価替えB/S」を作成して判定する必要がある。
中小企業グループでの典型的な引っかかりパターン:
- オーナーが複数の事業法人の株式を一つの持株会社(ホールディングカンパニー)に集約した
- 事業会社が子会社・関連会社株式を取得しグループ経営を進めた結果、株式保有割合が上昇した
- 不動産管理会社に設立当初から不動産賃貸と株式保有を混在させていた
3-2-1. S1+S2方式の仕組み
S1+S2方式は、株式等保有特定会社に限り認められる評価方式で、会社の資産を「株式等以外の部分(S1)」と「株式等の部分(S2)」に分割して評価し、その合計を評価額とする(通達189-3のただし書き)。
S1(株式等以外の部分の評価額):単に株式等を除いて残りをそのまま評価するのではない。通達189-3(1)イの定めにより、ⓑ配当・ⓒ利益には受取配当金等収受割合を乗じ、ⓓ純資産は「総資産(帳簿価額)に占める株式等の帳簿価額の割合を乗じた金額」に「利益積立金額×受取配当金等収受割合」を加えた金額(元のⓓが上限)とする。つまり単に株式等を除くのではなく、配当・利益の比準要素そのものを受取配当金等の割合で絞り込む計算になる。「あたかも株式を持たない会社として評価する」という理解では、実際の計算式と食い違う。具体的な算式は複雑なため、試算は税理士に依頼すべき専門的作業だ。
S1と比準要素数1が重なる場合の特則:評価会社の株式が189-(1)(比準要素数1の会社)の要件にも該当する場合、S1の計算は178の大会社、中会社又は小会社の区分にかかわらず、189-2の定めに準じて計算した金額(納税義務者の選択によりL=0.25で計算することもできる)とする(通達189-3(1)ただし書き)。判定の優先順位では株特が先に確定するが、比準要素数1という性質はS1の計算の中でなお効いてくる。
S2(株式等の部分の評価額):保有する株式・出資の部分を純資産価額方式で評価する。ただし通達189-3(2)の定めにより、株式等の価額の合計額(相続税評価額)からその計算の基とした株式等の帳簿価額の合計額を控除した残額があるときは、当該残額に186-2に定める割合(38%)を乗じて計算した金額を控除したうえで、発行済株式数で除して計算する。S2の計算には38%控除が入る。
子会社株式そのものの評価には38%控除が入らない点に注意:S2を出すため保有株式(子会社株式等)を評価し直す段階では、通達186-3(評価会社が有する株式等の純資産価額の計算)の注により、186-2の評価差額に対する法人税額等相当額を控除しない。
この場合における1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)の計算に当たっては、186-2…により計算した評価差額に対する法人税額等に相当する金額を控除しないのであるから留意する。
つまり、①親会社が保有する子会社株式そのものを評価する段階では38%控除は使えず、②その評価額をもとにS2(親会社の株式等の部分の評価額)を出す段階では38%控除が入る、という逆方向の扱いになる。孫会社→子会社→親会社と積み上げて評価するグループでは、この2つを混同しやすい実務論点だ。
S1+S2方式を選択すべきケース:
– 保有株式等以外の事業(製造業・サービス業等)の規模が大きく、類似業種比準方式の比準効果が高い会社
– S1部分の類似業種比準価額が低く(=低L値の恩恵がある)、S2の純資産評価額も比較的小さい場合
純資産価額方式100%を選択すべきケース:
– 保有株式等以外の資産に含み益が少なく、かつ保有株式等の評価額が帳簿価額に近い場合
– S1+S2方式の計算が複雑で、かつ節税メリットが小さい場合
実務では必ず両方式で試算し、納税者に有利な方を選択する。
3-3. 土地保有特定会社(通達189-(3))
判定基準:課税時期における、総資産価額(相続税評価額)に占める「土地等」の価額の割合が、会社規模に応じた閾値以上の会社。
| 会社規模 | 判定の閾値(土地等保有割合) |
|---|---|
| 大会社 | 70%以上 |
| 中会社 | 90%以上 |
| 小会社 | 総資産帳簿価額に応じて「イ」または「ロ」で判定(下記参照) |
小会社は「対象外」ではない。通達189-(3)は、総資産帳簿価額の大きさに応じて小会社を「大会社に準じる区分(イ)」と「中会社に準じる区分(ロ)」に振り分けて判定する。ロの閾値(下記のとおり卸売業7,000万円・小売サービス業4,000万円・その他5,000万円)は総資産帳簿価額として高い水準ではなく、小会社でも該当しうる。「小会社だから土地保有特定会社の対象外」という理解は誤りだ。
イ:総資産帳簿価額が大きい小会社(土地等保有割合70%以上で該当)
| 業種 | 総資産帳簿価額の閾値 |
|---|---|
| 卸売業 | 20億円以上 |
| 卸売業以外(小売・サービス・製造等) | 15億円以上 |
ロ:総資産帳簿価額が中規模の小会社(土地等保有割合90%以上で該当)
| 業種 | 総資産帳簿価額の閾値 |
|---|---|
| 卸売業 | 7,000万円以上 |
| 小売・サービス業 | 4,000万円以上 |
| その他(製造業等) | 5,000万円以上 |
(通達189-(3)イ・ロ。総資産帳簿価額がロの下限に満たない小会社のみが土地保有特定会社の判定対象外となる)
「土地等」の範囲:土地・借地権・地上権・永小作権等が含まれる。
強制される評価方式:純資産価額方式100%(S1+S2方式の選択は不可。株式等保有特定会社と異なる点に注意)。
3-4. 開業後3年未満の会社・比準要素数0の会社(通達189-(4))
開業後3年未満の会社:課税時期において会社の設立後3年が経過していない会社。比準要素(ⓑⓒⓓ)の実績が短く、類似業種比準方式の適用が馴染まないため、純資産価額方式100%が強制される。
比準要素数0の会社:ⓑ(配当)・ⓒ(利益)・ⓓ(純資産)のいずれも0の会社。実質的に業況が極めて低調な会社に相当し、類似業種との比較が意味をなさないため純資産価額方式100%が強制される。判定対象期間は、通達189-(4)の注により「配当金額及び利益金額については、直前期末以前2年間の実績を反映して判定する」。 3-1で述べた比準要素数1の会社(直前期末以前3年間)とは対象期間の長さが異なる点に注意すること。
(「開業後3年未満の会社および比準要素数0の会社」として同一通達189-(4)で規定されている。)
3-5. 開業前・休業中の会社(通達189-(5))
判定基準:課税時期において、まだ事業を開始していない会社(開業前)、または実質的に事業活動を停止している会社(休業中)。
法人登記はあるが事業収入がない、または仕入・販売活動が停止している状態が該当する。単に業績が悪い・売上が少ないだけでは「休業中」には該当しない(実質的な判断が必要)。
強制される評価方式:純資産価額方式100%。
3-6. 清算中の会社(通達189-(6))
判定基準:課税時期において清算手続き中の会社。
評価方法:通達189-6(清算中の会社の株式の評価)に基づき、清算分配見込み額の複利現価による評価を行う。残余財産の確定見込みがある場合、株式1株当たりの価額は「清算によって各株主が受け取ると見込まれる分配額の複利現価」として評価する。
3-7. 特定の評価会社に該当しても評価額が下がる2つの例外
ここまでは該当すると税負担が重くなる方向で説明してきたが、通達には評価額を引き下げる規定も置かれている。見落とすと本来より高い評価額で申告してしまう。
①取得者グループの議決権が50%以下なら、純資産価額が20%減額される(通達185ただし書き)
財産評価基本通達185ただし書きは、次のように定めている。
ただし、179の(2)の算式及び(3)の1株当たりの純資産価額については、株式の取得者とその同族関係者…の有する議決権の合計数が評価会社の議決権総数の50%以下である場合においては、上記により計算した1株当たりの純資産価額に100分の80を乗じて計算した金額とする。
比準要素数1の会社(189-2)・株式等保有特定会社(189-3)・土地保有特定会社(189-4)を定める通達は、いずれも本文の中でこの80%評価を引いている。つまり特定の評価会社に該当していても、株式の取得者とその同族関係者の議決権の合計が評価会社の議決権総数の50%以下(少数の持分で取得する場合など)であれば、純資産価額ベースの評価額は自動的に20%下がる。
②少数株主が取得する場合は、配当還元方式との低い方になる(189-2/-3/-4のなお書き)
3通達(189-2・189-3・189-4)はいずれも同趣旨のなお書きを持つが、文言は完全には同じではない。通達189-3のなお書きは次のように定めている。
当該株式が188に定める同族株主以外の株主等が取得した株式に該当する場合には、その株式の価額は、188-2の本文の定めにより計算した金額(この金額が本項本文又はただし書の定めによって評価するものとして計算した金額を超える場合には、本項本文又はただし書…の定めにより計算した金額)による
189-2のなお書きも同じ文言だが、189-4(土地保有特定会社・開業後3年未満の会社等)だけは「又はただし書」の部分が無く、比較の対象が本文の純資産価額のみになる。土地保有特定会社・開業後3年未満の会社等にはS1+S2やL=0.25のような選択制=ただし書きが存在しないためだ。
つまり、取得した株式が通達188に定める同族株主以外の株主等が取得した株式に該当する場合は、配当還元方式で計算した金額と、純資産価額方式・S1+S2方式で計算した金額とを比較し、低い方が採用される。
「特定の評価会社に該当した=必ず高い評価額になる」わけではない。承継の場面で誰が株式を取得するか(同族の中心的株主か、少数株主か)によって、実際の評価額は変わる。
4. 自社が「特定の評価会社」に該当するか確認する判定フロー
財産評価基本通達189の各号は、かっこ書で互いの除外関係を定めている。この除外関係が判定の条文上の優先順位そのものであり、順序を誤ると本来選べるはずの評価方式を失う。
| 号 | かっこ書 |
|---|---|
| (1) 比準要素数1 | 「次の(2)から(6)に該当するものを除く」 |
| (2) 株式等保有特定 | 「次の(3)から(6)までのいずれかに該当するものを除く」 |
| (3) 土地保有特定 | 「次の(4)から(6)までのいずれかに該当するものを除く」 |
| (4) 開業後3年未満等 | 「次の(5)又は(6)に該当するものを除く」 |
つまり判定は(5)開業前・休業中/(6)清算中 → (4)開業後3年未満・比準要素数0 → (3)土地保有 → (2)株式等保有 → (1)比準要素数1の順で行う。(5)と(6)の間には通達上の優先順位が定められていないため、この2つは同じステップで確認してよい。
以下のフローを「課税時期(相続開始日・贈与日)の財務数値(相続税評価額ベース)」で確認する。
STEP 1: 清算・開業前・休業の確認((5)・(6)は優先順位が定められていないため同一ステップ)
├─ 清算中 → 通達189-(6): 清算中の会社の評価へ
├─ 開業前または実質的休業中 → 通達189-(5): 純資産価額方式100%
└─ 上記非該当 → STEP 2へ
STEP 2: 開業後3年未満・比準要素数0の確認
ⓑ(直前期末以前2年間の配当)・ⓒ(同利益)・ⓓ(直前期末純資産)を確認
├─ 設立から3年未満 → 通達189-(4)イ: 純資産価額方式100%
├─ ⓑⓒⓓがすべて0(比準要素数0)→ 通達189-(4)ロ: 純資産価額方式100%
└─ 上記非該当 → STEP 3へ
STEP 3: 土地等保有割合の確認(相続税評価額ベース)
土地等保有割合 = 土地等の相続税評価額 ÷ 総資産の相続税評価額
├─ 大会社で70%以上 → 通達189-(3)「土地保有特定会社」: 純資産価額方式100%
├─ 中会社で90%以上 → 同上
├─ 小会社(イ:帳簿価額 卸売20億・卸売以外15億以上)で土地等割合70%以上 → 同上
├─ 小会社(ロ:帳簿価額 卸売7,000万・小売サービス4,000万・その他5,000万以上)で土地等割合90%以上 → 同上
└─ 上記非該当 → STEP 4へ
STEP 4: 株式等保有割合の確認(相続税評価額ベース)
株式等保有割合 = 株式・出資・新株予約権付社債の相続税評価額 ÷ 総資産の相続税評価額
├─ 50%以上 → 通達189-(2)「株式等保有特定会社」: 純資産価額方式100%またはS1+S2方式
└─ 50%未満 → STEP 5へ
STEP 5: 比準要素数の確認(ⓑ配当・ⓒ利益は直前期末以前3年間の実績で判定)
ⓑ(配当)・ⓒ(利益)・ⓓ(純資産)のうち0であるものを数える
├─ 直前期末でちょうど2つが0、かつ直前々期末で2つ以上が0(比準要素数1)→ 通達189-(1): 純資産価額方式100%(L=0.25選択も検討)
└─ 上記非該当 → 一般の原則的評価方式(通達179)を適用
※直前期末で3つとも0の会社はSTEP 2の比準要素数0(189-(4)ロ)で既に確定しているため、ここには来ない
→ 一般の評価方式: 会社規模に応じて類似業種比準方式・L併用・純資産価額方式を適用
旧フローとの違い:比準要素数1の判定を、土地保有・株式等保有より後の最終ステップに回している。土地保有特定会社・株式等保有特定会社にも当てはまる会社を比準要素数1として先に確定させてしまうと、本来選べるはずのS1+S2方式(株特該当時のみ選択可)を読者が失う。逆に開業後3年未満・比準要素数0(189-(4))は(5)(6)しか除外していないため、土地保有・株式等保有より先に確定させて構わない。
なお、上記のいずれかに該当しても、取得者グループの議決権割合や株主区分によって実際の評価額が下がる場合がある(第3章3-7を参照)。
重要注意事項:上記フローはあくまで判定の概要であり、「相続税評価額ベースでの総資産組み換え」は税理士による専門的作業が必要だ。特に、STEP 4の株式等保有割合は帳簿価額とは大きく異なる場合があるため、自社での確認には限界がある。承継の判断は必ず税理士・公認会計士に相談すること。
5. 類型別・規模別評価方式の早見表
| 類型 | 小会社 | 中会社(小・中・大) | 大会社 |
|---|---|---|---|
| 一般会社 | 純資産100%(またはL=0.50選択) | 類似×L + 純資産×(1-L) | 類似100%(または純資産との低い方) |
| 比準要素数1 | 純資産100%(L=0.25まで選択余地) | 同左 | 同左 |
| 株式等保有特定会社 | 純資産100%またはS1+S2方式 | 同左 | 同左 |
| 土地保有特定会社 | 帳簿価額がイ・ロの閾値以上かつ土地等保有割合基準超で純資産100%(閾値未満のみ対象外) | 純資産100% | 純資産100% |
| 開業後3年未満 | 純資産100% | 同左 | 同左 |
| 比準要素数0 | 純資産100% | 同左 | 同左 |
| 開業前・休業中 | 純資産100% | 同左 | 同左 |
| 清算中 | 清算会社評価 | 同左 | 同左 |
※ 規模にかかわらず「特定の評価会社」に該当すれば類似業種比準方式の恩恵は受けられない(株式等保有特定会社のS1部分を除く)。これが最大の特徴だ。ただし第3章3-7のとおり、議決権50%以下の取得・少数株主による取得では評価額が下がる。
6. 株式等保有特定会社(株特)の実務リスクと留意点
6-1. 「株特外し」— 制度改正で正面から塞がれようとしている手法
「株特外し」とは、課税時期の直前に株式等保有割合を50%未満に引き下げることで、株式等保有特定会社の認定を回避しようとする行為を指す実務用語だ。具体的には、借入金で不動産・設備・売掛金等の非株式資産を取得し、総資産に占める株式等の相対割合を下げる方法が使われてきた。
国税庁は、この手法を有識者会議で具体的な租税回避スキームの事例として提示している。 第4回会合(2026年7月3日)の議事要旨は、次のような手口を説明している。
海外子会社から多額の配当を実施させることにより、海外子会社の株価を低下させるとともに、配当を受領した会社は、保有株式の価格低下分の現金預貯金が増加し、株式等保有特定会社から外れ、類似業種比準方式が適用される会社へ転換させる
さらに、持株会社へ海外子会社から受領した配当を主な原資として持株会社へ資金貸付を行うとともに、管理部門を移すことにより、持株会社を類似業種比準方式が適用させる会社へ転換させることにより、評価額を圧縮する事例
第4回資料は、この手口を会社規模の操作と組み合わせた4段階のスキームとして、具体的な事例で示している。
評価額▲20億円 事例③【会社規模操作による株価圧縮(純資⇒類似)】税額▲10億円
①Y社創業家は、純粋持株会社のX社を設立し、株式交換によりY社(事業会社)をその傘下に置く
②Y社は、多数の海外子会社から受領する配当を大幅に増やし、海外子会社から資金を吸い上げ ※海外子会社の株価低下・Y社の現預金増加により、Y社の評価方式は純資産価額方式(株特)から類似業種比準方式へ
③X社は、株式等の保有割合を低下させるため、子会社であるY社から多額の借入を実施(株特外し)
④X社は、吸収分割によりY社の管理部門(資産等と多数の従業員)を承継し、会社規模を変更(小会社→大会社) ※③・④によりX社の評価方式は純資産価額方式から類似業種比準方式へ
「評価額▲20億円・税額▲10億円」は国税庁が示した事例の数値であり、統計的な平均値ではない。それでも、単独の借入だけでなく会社規模の操作まで組み合わせた事例として国税庁に把握されていることは重要だ。
そして第5回のたたき台(2026年8月20日)では、規模別区分を廃止する理由の一つとして「租税回避スキームの横行」が名指しで挙げられている。株特外しは、単に否認リスクがあるというだけでなく、制度改正によって正面から塞がれようとしている段階にある。
より直接的な否認規定が、総則6項ではなく財産評価基本通達189の本文そのものに置かれている点にも注意が必要だ。 通達189本文のなお書きは、次のように定めている。
なお、評価会社が、次の(2)又は(3)に該当する評価会社かどうかを判定する場合において、課税時期前において合理的な理由もなく評価会社の資産構成に変動があり、その変動が次の(2)又は(3)に該当する評価会社と判定されることを免れるためのものと認められるときは、その変動はなかったものとして当該判定を行うものとする。(財産評価基本通達189・本文のなお書き)
この規定の対象は(2)株式等保有特定会社と(3)土地保有特定会社の判定に限られ、他の類型には及ばない。要件は「合理的な理由もなく資産構成に変動があり」「その変動が該当を免れるためのものと認められるとき」で、該当すればその変動が無かったものとして判定される。Q3で述べる総則6項と異なり、国税庁長官の指示という手続要件はここには置かれていない。
判決の扱いについても補足しておく。最高裁令和4年4月19日判決(民集76巻4号411頁・令和2年(行ヒ)第283号・最高裁第三小法廷)は、通達による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するという事情がある場合には、通達を上回る価額で評価することが租税法上の平等原則に違反しないと判断した。ただし、価格のかい離が大きいというだけでは足りないとされている点にも留意が必要だ。
専門家への相談が必須:租税回避否認の判断基準は事案ごとに異なり、事業上の合理性・期間・金額規模・取引形態によって結論が変わる。本記事は「株特外しを推奨」するものではなく、リスクの把握と専門家相談の重要性、および制度改正の動向を伝えることを目的としている。
6-2. グループ再編と株特判定のタイミング
持株会社を設立する際、または子会社を設立・買収する際に、当初から株式等保有特定会社に該当しない構造を設計することが重要だ。
具体的には:
– 持株会社が事業子会社の株式だけを保有する純粋持株会社型では、ほぼ確実に株特に該当する
– 持株会社がグループ管理・コーポレートサービス・不動産管理等の実質的な事業を行っている場合、その事業用資産の評価額によっては株式等割合が50%未満になる可能性がある
– 子会社の株式評価額は「純資産価額方式等で再評価」されるため、子会社の含み益が大きいほど親会社の株式等評価額も上昇し、株特該当リスクが上がる
この問題は承継の設計段階から税理士と協議し、グループ構造と株式等保有割合の試算を行ったうえで判断することが現実的だ。
6-3. S1+S2方式の活用と計算の複雑性
S1+S2方式は「株特に該当しても類似業種比準方式の恩恵を一部享受できる」点で有利に働くケースがあるが、計算は複雑だ。
S1計算では、単に株式等を除いた「仮想会社」として類似業種比準価額を試算するのではなく、配当・利益の比準要素そのものを受取配当金等収受割合で絞り込む計算になる(第3章3-2-1参照)。S2(株式等部分の純資産価額評価)では、保有する非上場株式を連鎖的に再評価する必要があり、孫会社・ひ孫会社まで存在するグループでは、38%控除が段階ごとに入るか入らないかを見極めながら作業を進める必要があるため作業量が膨大になる。
税理士報酬・作業工数と、S1+S2方式採用による節税額を比較したうえで方式を選択することを推奨する。
7. 2027年度税制改正と特定の評価会社見直しの動向
7-1. この記事の前提そのものが見直しの対象になっている
ここまでの解説は現行の財産評価基本通達189に基づく。ところが国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」は2026年8月20日の第5回会合で、類似業種比準方式そのものを「存置することは困難ではないか」とするたたき台を示した。実現すれば、一般の会社も類似業種比準方式を使えなくなり、「特定の評価会社だけが類似業種比準方式を使えず不利」という本記事の構図自体が変わることになる。逆に純資産価額方式は「特定の評価会社の株式の評価方式」として位置づけが変わる方向にあり、特定の評価会社という概念そのものの重みが増す可能性がある。たたき台の全体像(規模区分の廃止・インカムアプローチへの転換・試算)は類似業種比準方式 見直し2027|国税庁が示したたたき台で解説している。
ただしこれは事務局の「たたき台」であり、委員の合意ではない。 第4回会合(2026年7月3日)の議事要旨では、複数の委員から拙速さを懸念する意見が出ている。
そんなに拙速にやる必要があるのかと考えており、きちんと検証しながら進んでいくべきである。今年の税制改正大綱に間に合わさなければいけないという縛りはどこにもないはずなので、そこに間に合わせていくために時間的に難しいという話では我々としては納得しがたい
7-2. 純資産価額方式の位置づけが変わる方向
第5回たたき台(2026年8月20日)は、純資産価額方式について次のように述べている。
継続企業を清算価値で評価すべきではないとの御意見を踏まえて、原則的評価方式ではなく、「特定の評価会社の株式の評価方式」として位置付けることとしてはどうか?
今後の検討事項としては、次の一文がある。
「特定の評価会社」の範囲と判定の基準をどうすべきか?
つまり、特定の評価会社は廃止対象ではなく、むしろ純資産価額方式の唯一の適用先として重みを増す方向にある。 ただし、現行の株式等保有特定会社・土地保有特定会社・比準要素数1の会社という6類型をそのまま引き継ぐのか、範囲や判定基準を再定義するのかは、たたき台に書かれていない。書かれていないことを推測で補うことはできない。
評価差額に対する法人税額等相当額(現行38%)についても、今後の検討事項として次のように挙げられている。
法人が取得した貸付用不動産の評価をどのようにすべきか?/法人税額等相当額の控除をどのように整理すべきか?/評価方法の簡便化をどのようにすべきか?/退職給付引当金等の負債の範囲についてどのようにすべきか?
第3回資料には、評価差額規定のうち現物出資等受入れ差額の取扱いについて次の指摘がある。
評価差額規定については、その存在意義及び適用範囲を改めて整理する必要があるものと考えられる
38%という数値を変更する方向性・代替値は、たたき台の時点では示されていない。
7-3. 制度側も「一時点判定」と「赤字急騰」を問題視している
有識者会議では、特定の評価会社の判定方法そのものへの問題提起も出ている。第3回会合の委員(実務家)発言。
特定の評価会社に該当すると原則純資産価額を中心とした評価となるため、該当した瞬間株価が跳ね上がるということが起きている。特に配当を出していない会社で赤字が基本的に3期続くと、比準要素数1の会社に該当するため、一気に株価が上がることになり、業績が悪いにもかかわらず、株価が上がることとなってしまい不合理である
第3回資料は、この問題を2つに整理している。
困りごと①:赤字続きでの株価急騰(比準要素数1の会社の株式)…
困りごと②:資産の一時的変動による特定会社化(土地保有特定会社等)課税時期における総資産の株式・土地割合が一時点ベースで判定される。上場株式の時価上昇や事業用地取得だけで該当するリスク。
第4回議事要旨は、事務局のまとめとして次のように記録している。
特定の評価会社の判定については、課税時期等の一時点のみで判定を行うことや、赤字が続くと特定の評価会社になり評価額が上昇することについて問題視する御意見をいただいた
「一時点判定」の問題は、本記事第3章3-2で述べた「課税時期直前のB/S構造を評価替えする必要がある」という実務上の負担と直結する論点だ。 制度側でも同じ問題が認識されている。
7-4. スケジュール — 書けるのはここまで
事務局は第4回会合で、今後の見通しについて次のように回答している。
有識者会議の回数については議論の状況次第であることはご理解願いたい/今回(第4回)の議論の状況にもよるが、評価方法の見直しについてのたたき台である事務局案は、次回(第5回)にお示しできればと考えている/いずれにしても、今回の見直しは税制改正プロセスを経て行うことになることから、今秋を目途に一定の方向性をお示しできるよう進めてまいりたい
これが一次資料にある唯一の時期の言及だ。 第6回の開催予定は公表されておらず、報告書のとりまとめ時期・税制改正大綱への反映時期を明記した一次資料もない。第5回の議事要旨も、本記事の更新時点では国税庁サイトで「作成中」として未公表だ。具体的な適用開始時期について確定的に書ける情報は、現時点では存在しない。
詳細は非上場株式の相続税評価 見直し議論2027年度改正|国税庁専門委員会の論点で継続的に追跡している。
7-5. 中小企業オーナーへの示唆
改定の方向性によって、現在の「特定の評価会社」ルールが緩和される可能性も厳格化される可能性もある。確実に言えるのは、2027年12月31日の特例事業承継税制の期限が「改定前の現行ルールで承継を完了できる最後のチャンス」になりうるということだ。
特に株式等保有特定会社(株特)に該当している持株会社オーナーは:
1. 現行の純資産価額方式またはS1+S2方式での評価額を試算する
2. 特例事業承継税制を活用した場合の納税猶予・免除の試算をする
3. 2027年9月30日までに特例承継計画を提出するかどうか判断する
以上の3ステップを2027年春までに完了させることが実務的な目標となる。
8. よくある疑問(FAQ)
A. 株特に該当した会社の株式評価(純資産価額方式またはS1+S2方式)を行う際、S2の計算では保有する子会社株式を財産評価基本通達に基づいて再評価する必要がある。子会社が一般の会社なら類似業種比準方式等で評価し、子会社自体も特定の評価会社なら純資産価額方式等で評価する。つまりグループの株式評価は「孫会社→子会社→親会社」と底から積み上げる連鎖評価になる。ここで見落としやすいのが38%控除の扱いだ。 子会社株式そのものを純資産価額方式で評価する段階(通達186-3)では、評価差額に対する法人税額等相当額38%は控除できない。一方、その評価額をもとにS2(親会社の株式等の部分の評価額)を計算する段階(通達189-3(2))では38%控除が入る。同じ「38%控除」という言葉が、連鎖評価のどの段階を指しているかで適用の有無が逆転するため、混同すると評価額を誤る。グループ規模が大きいほど作業量と時間が膨大になるため、承継スケジュールに十分な余裕を持たせる必要がある。
A. できない。通達189-(2)の判定は「相続税評価額ベース」で行う。土地が路線価評価で帳簿価額の3〜5倍になる、保有有価証券の時価が変動している等の理由から、帳簿価額ベースの割合と相続税評価額ベースの割合は大きく乖離することが多い。必ず「課税時期の相続税評価額で組み替えた評価替えB/S」を作成したうえで判定を行うこと。これは税理士に依頼すべき専門的作業だ。なお、株式評価額が確定した後の相続税の計算全体(基礎控除・税率表・申告期限)については相続税の基礎控除・税率・計算フロー2026年版を参照してほしい。
A. リスクは実在する。財産評価基本通達6(総則6項。通達は法令ではないため「条」ではなく項番号)は、通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は国税庁長官の指示を受けて評価すると定めており、税務署が現場判断だけで適用できるものではない。それでも、国税庁は有識者会議で株特外しを具体的な租税回避スキームの事例として提示しており(第6章6-1参照)、2027年度改正の議論では規模別区分の廃止理由として「租税回避スキームの横行」が名指しされている。「承継直前のみの資産取得・借入」「事業上の合理性の欠如」「過大な規模の取引」が重なると否認リスクが高まる点は変わらない。株特に該当しそうな場合は「外し」を検討する前に、S1+S2方式を使った場合の評価額と特例事業承継税制の組み合わせを先に試算し、納税負担の実額を把握することが先決だ。
A. 事業承継税制の適用要件(後継者要件・会社要件・先代経営者要件等)を満たしていれば、評価方式が純資産価額方式100%であっても特例事業承継税制は利用可能だ。評価額が高くても納税猶予・免除の仕組みは使える。ただし開業後3年未満の会社は、事業の安定性・継続性という観点で金融機関・都道府県からの認定審査が厳しくなる可能性がある点には留意してほしい。
A. 「特定の評価会社」の判定は課税時期(相続開始日・贈与日)の時点で行う。したがって、翌年(翌贈与年)に比準要素が回復すれば、次回の課税時期では比準要素数1の会社に該当しなくなる可能性がある。ただし通達189-(1)の注は「配当金額及び利益金額については、直前期末以前3年間の実績を反映して判定する」と定めており、直前期末・直前々期末の両方の比準要素を確認する。つまり今年の決算で利益・配当を計上しても、過去3年間の実績が反映される仕組みのため、直近1期だけ黒字化しても比準要素数1の会社と判定されることがある。なお、同じ189-(4)の比準要素数0の会社は判定対象期間が「直前期末以前2年間」と異なり、両者を混同しないよう注意が必要だ。承継の時期と決算の状況を合わせて事前にシミュレーションすることが重要だ。
A. ある。財産評価基本通達185ただし書きにより、株式の取得者とその同族関係者の議決権の合計が評価会社の議決権総数の50%以下であれば、純資産価額に100分の80を乗じて計算する(20%の減額)。また、取得する株式が通達188に定める同族株主以外の株主等が取得した株式に該当する場合は、配当還元方式で計算した金額と、純資産価額方式・S1+S2方式で計算した金額を比較し、低い方を採用する。特定の評価会社に該当したからといって自動的に高い評価額になるわけではなく、誰が取得するか(議決権割合・株主区分)によって結論が変わる(第3章3-7参照)。
9. まとめ:中小企業オーナーが今すべき3ステップ
「特定の評価会社」問題は、知らずに放置すると相続税・贈与税が数千万〜数億円単位で増加するリスクを持つ。以下の3ステップを今すぐ確認してほしい。
ステップ1:自社の「評価替えB/S」を作成し、特定の評価会社に該当するか判定する
直近決算書をもとに、保有資産・負債を相続税評価額に洗い替えた「評価替えB/S」を作成し、第4章の判定フロー((5)(6)→(4)→(3)→(2)→(1)の優先順位)に沿って株式等保有割合・土地等保有割合・比準要素数を確認する。これは税理士への依頼が不可欠だ。
ステップ2:該当する場合、評価方式を選択(S1+S2 vs 純資産100%)して評価額を確定する
株式等保有特定会社の場合、S1+S2方式と純資産価額方式100%の両方で試算し、より低い方を選択する。取得者グループの議決権割合や株主区分によって20%減額や配当還元方式との比較が使えないかも確認する(第3章3-7)。この時点で「特例事業承継税制を使った場合に猶予される税額」も合わせて試算する。
ステップ3:特例承継計画の提出期限(2027年9月30日)を念頭に行動スケジュールを立てる
特例事業承継税制の活用を検討するなら、認定経営革新等支援機関(税理士・金融機関等)との協議を開始し、特例承継計画のドラフトを作成する。計画提出から贈与・相続実行まで最低でも数か月の準備期間が必要なため、2026年末までには動き出すことが望ましい。あわせて、有識者会議の議論は本記事の前提そのものに関わる段階にあるため、2027年度税制改正の動向も並行して確認したい。
「特定の評価会社」の判定と評価方式の選択は、税額を大きく左右する最重要の専門判断だ。本記事は判断の全体像を示すことを目的としており、個別事案への適用は必ず税理士・公認会計士に相談のうえ行ってほしい。
引用一次ソース
- 国税庁 財産評価基本通達(第5章 取引相場のない株式等の評価)189
- 国税庁 財産評価基本通達 178(取引相場のない株式の評価上の区分)
- 国税庁 財産評価基本通達 179(取引相場のない株式の評価の原則)
- 国税庁 財産評価基本通達 185〜188(純資産価額・評価差額に対する法人税額等に相当する金額・同族株主以外の株主等が取得した株式)
- 国税庁 財産評価基本通達 総則6(この通達の定めにより難い場合の評価)
- 国税庁 タックスアンサー No.4638 取引相場のない株式の評価
- 国税庁 有識者会議 第1回議事要旨(2026年4月20日)
- 国税庁 有識者会議 第3回議事要旨(2026年6月4日)
- 国税庁 有識者会議 第3回資料(2026年6月4日)
- 国税庁 有識者会議 第4回議事要旨(2026年7月3日)
- 国税庁 有識者会議 第4回資料(2026年7月3日)
- 国税庁 有識者会議 第5回資料(2026年8月20日)
- 国税庁 審議会・研究会等(取引相場のない株式の評価に関する有識者会議)
- 会計検査院 令和5年度決算検査報告 第4章第2節「特定検査対象に関する検査状況」(第4 相続等により取得した財産のうち取引相場のない株式の評価について)
- 国税庁 タックスアンサー No.4148 非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予及び免除(法人版事業承継税制)
- 中小企業庁 事業承継税制特例措置
免責事項
本記事は2026年9月7日時点で公表されている一次資料(財産評価基本通達・国税庁有識者会議資料等)に基づき作成しています。税制は改正される可能性があり、本記事の内容は将来変更されることがあります。個別の相続税・贈与税の申告、事業承継の判断については、必ず税理士・公認会計士等の専門家にご相談ください。本記事の情報に基づいて行動した結果生じた損害等について、当サイトは責任を負いかねます。



