業務改善助成金(令和8年度)|最低賃金の引上げと設備投資に最大600万円・申請期限は都道府県ごとに違う

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業務改善助成金(令和8年度)|最低賃金の引上げと設備投資に最大600万円・申請期限は都道府県ごとに違う
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最終更新日: 2026年10月5日

業務改善助成金は、事業場の中で一番低い時給(事業場内最低賃金)を50円以上引き上げ、生産性を上げる設備投資などをした中小企業・小規模事業者に、その費用の一部を国が助成する制度である。令和8年度の申請受付は令和8年9月1日に始まっており、申請の期限は都道府県ごとに違う。期限は「申請事業所の都道府県で適用される地域別最低賃金の発効日の前日」か「同年11月30日」のいずれか早い日だからである。2026年10月5日時点で、すでに期限を過ぎた都道府県もある(本文の一覧を参照)。


この記事でわかること

  • 令和8年度の助成上限額・助成率の全体像(厚労省リーフレットの表をそのまま掲載)
  • 申請期限の決まり方と、47都道府県の「発効日 → 申請期限」一覧
  • 令和7年度からの変更点(助成率の区切りが1,000円から1,050円へ、コースの再編ほか)
  • 申請から支給までの流れと、失敗しやすい落とし穴

最低賃金そのものの改定内容や、賃金計算・届出の実務は最低賃金2026年度改定の実務対応ガイドにまとめている。本記事は「その引上げに合わせて使える助成金」に絞って解説する。


1. 業務改善助成金とは|まず結論

厚生労働省のリーフレット「令和8年度業務改善助成金のご案内」(令和8年4月版)は、制度を次のように説明している。

事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)を50円以上引き上げ、生産性向上に資する設備投資等を行った場合に、その設備投資等にかかった費用の一部を助成する制度です。

押さえておく点は5つである。

  1. 助成の最大額は600万円(90円コースで、10人以上の賃金を引き上げる特例事業者の場合。後述の表)
  2. 賃上げと設備投資の両方が必要。どちらか片方だけでは対象にならない
  3. 事業所ごとに申請する。工場と事務所があれば、それぞれ別々に申請する
  4. 交付決定の後に計画どおり事業を進める。交付決定の前に設備を導入すると対象外
  5. 予算の範囲内で交付されるため、申請期間内に募集が終わる場合がある

事業場内最低賃金とは、事業場で最も低い時間給のことである。ただし業務改善助成金では、雇入れ後6か月を経過した労働者の賃金を基準にする(交付要綱第4条第1項)。計算方法は地域別最低賃金と同じで、最低賃金法第4条と同法施行規則第1条・第2条に基づく。


2. 対象になる事業者の条件

リーフレットが挙げる対象事業者の要件は3つである。

  • 中小企業・小規模事業者であること(大企業と密接な関係を有する、いわゆる「みなし大企業」でないこと)
  • 事業場内最低賃金が、令和8年度の地域別最低賃金未満であること
  • 解雇、賃金引下げなどの不交付事由がないこと

2-1. 「地域別最低賃金未満」の読み方

「一部変更のお知らせ」(令和8年4月)は、対象事業所の範囲を次のように示している。事業場内最低賃金が令和8年度改定後の地域別最低賃金額未満までの事業所が対象である。たとえば地域別最低賃金が改定前X円・改定後X+63円なら、事業場内最低賃金がX+62円までの事業所が対象になる。改定後の地域別最低賃金と同額の場合は対象外と明記されている。

Q&A(令和8年9月8日作成)はさらに、問3で「申請時点で、事業場で一番時間給が低い労働者(雇用保険被保険者)が改定後の地域別最低賃金額以上の場合には申請出来ません」、問6で「申請時にその時点の地域別最賃を下回っている事業場は、助成対象とはなりません」と答えている。すでに現行の地域別最低賃金を下回って支払っている場合は、助成金の前に最低賃金法違反の解消が先である。

2-2. そのほかの前提

  • 労働者を1人でも雇っている場合、労働保険に加入し、保険料を納めている必要がある(Q&A問4)。厚労省のページにも「労働者(従業員)がいない場合は、助成の対象となりません」とある
  • 賃金を引き上げる労働者は、少なくとも設立から6か月以上たった事業場で、雇入れ後6か月を経過した雇用保険被保険者が基準になる(Q&A問5)
  • 過去に業務改善助成金を活用した事業者も対象になる(リーフレット)。ただし同一事業所の申請は年度内1回まで

3. 助成上限額・助成率(令和8年度)

以下は厚労省リーフレットの表を、行と列の見出しごと写したものである。

3-1. コース別の助成上限額

コース区分 事業場内最低賃金の引上げ額 引き上げる労働者数 右記以外の事業者 事業場規模30人未満の事業者
50円コース 50円以上 1人 30万円 40万円
50円コース 50円以上 2~3人 40万円 70万円
50円コース 50円以上 4~5人 70万円 70万円
50円コース 50円以上 6~7人 90万円 90万円
50円コース 50円以上 8人以上 110万円 110万円
50円コース 50円以上 10人以上※ 130万円 130万円
70円コース 70円以上 1人 40万円 50万円
70円コース 70円以上 2~3人 50万円 100万円
70円コース 70円以上 4~5人 130万円 130万円
70円コース 70円以上 6~7人 180万円 180万円
70円コース 70円以上 8人以上 230万円 230万円
70円コース 70円以上 10人以上※ 300万円 300万円
90円コース 90円以上 1人 90万円 100万円
90円コース 90円以上 2~3人 150万円 240万円
90円コース 90円以上 4~5人 270万円 270万円
90円コース 90円以上 6~7人 360万円 360万円
90円コース 90円以上 8人以上 450万円 450万円
90円コース 90円以上 10人以上※ 600万円 600万円

※ 10人以上の上限額区分は、特例事業者が、10人以上の労働者の賃金を引き上げる場合に対象になる(リーフレット注記)。

表の読み方は、自社の「引き上げる労働者数」の行を見て、右端2列のどちらかを選ぶ形になる。事業場規模30人未満の事業者は、1人・2~3人の区分で上限額が高く設定されている。

3-2. 助成率

引上げ前の事業場内最低賃金 助成率
1,050円未満 4/5
1,050円以上 3/4

3-3. 助成される金額の決まり方

助成額は、設備投資等にかかった費用に助成率をかけた額と、助成上限額を比べて、いずれか安い方になる(リーフレット)。交付要綱第4条第2項により、助成対象経費の下限は10万円で、1,000円未満の端数は切り捨てる。

リーフレットの計算例は次のとおりである。

  • 事業場内最低賃金が1,040円なので、助成率は4/5
  • 8人の労働者を1,130円まで引き上げる(90円コース)ので、助成上限額は450万円
  • 設備投資などの額が600万円なら、600万円×4/5=480万円と上限450万円を比べ、安い方の450万円が支給される

もう1つ、同じ考え方で試算した例(筆者が表の数値を使って計算した仮定の例で、厚労省が示したものではない)を挙げる。引上げ前の事業場内最低賃金が1,060円の事業場(事業場規模30人以上)が、1人を50円引き上げて50円コースに申請する場合、助成率は3/4、上限は30万円である。設備投資が100万円なら、100万円×3/4=75万円より上限の30万円が小さいので、支給額は30万円になる。投資額が大きくても、上限額で頭打ちになる点は見落としやすい。

3-4. 特例事業者とは

リーフレットは、次の①または②に当てはまる事業者を特例事業者としている。

区分 要件
① 賃金要件 申請事業場の事業場内最低賃金が1,050円未満である事業者
② 物価高騰等要件 原材料費の高騰など社会的・経済的環境の変化等の外的要因により、申請前6か月間平均における利益率が前年度と比べ3%ポイント以上低下している事業者

②に該当する場合は、通常は助成対象外のパソコン等も対象になる(新規導入に限る)。なお、上限額表の「10人以上」の区分は特例事業者が対象である。


4. 令和7年度からの変更点

厚労省「令和8年度業務改善助成金の一部変更のお知らせ」(令和8年4月)に基づき、変更点を対比する。

項目 令和7年度(R7) 令和8年度(R8)
助成率の区切り(引上げ前の事業場内最低賃金) 1,000円未満 4/5、1,000円以上 3/4 1,050円未満 4/5、1,050円以上 3/4
申請コース 30円・45円・60円・90円の4コース 50円・70円・90円の3コース
引き上げる労働者数の区分 1人/2~3人/4~6人/7人以上/10人以上 1人/2~3人/4~5人/6~7人/8人以上/10人以上
引き上げる対象労働者 雇用保険被保険者に限られていなかった(「となりました」との記載による) 雇用保険被保険者
対象事業所の範囲 (従前)事業場内最低賃金が、改定前の地域別最低賃金+50円以内 事業場内最低賃金が、改定後の地域別最低賃金額未満(お知らせは「令和7年9月から引き続き実施するもの」と注記)
申請期間・賃金引上げ期間 (お知らせの比較表なし) 令和8年9月1日~、発効日の前日又は11月30日のいずれか早い日

そのほか、リーフレットとお知らせは次の点を挙げている。

  • 助成対象経費の特例となっていた自動車(特殊用途自動車を除く)は助成対象外になった
  • 物価高騰等要件の申出書(売上高総利益率・売上高営業利益率)の記入が、「最近3か月間のうち任意の1月」から「最近6か月間平均」になった
  • 令和7年9月5日以降は、賃金引上げ後の申請はできなくなった。以前は「地域別最低賃金の改定日の前日までに賃金引上げを実施していれば計画の提出は不要」としていた

5. 申請期限|都道府県別の一覧

5-1. 期限の決まり方

厚労省のページとリーフレットによると、令和8年度の申請期間・賃金引上げ期間は次のとおりである。

項目 内容
申請期間 令和8年9月1日~、申請事業所の都道府県において適用される地域別最低賃金の発効日の前日又は同年11月30日のいずれか早い日
賃金引上げ期間 令和8年9月1日~、申請事業所に適用される地域別最低賃金発効日の前日
事業完了期限 交付決定年度の1月31日

Q&A問50は、申請が期間末日までに労働局へ「到達」していることを求めている。到達の意味は申請方法ごとに違う。

  • 郵便の場合は、期間末日(行政機関の休日ならその前開庁日)までに労働局の担当部署へ必着。消印が期間内でも到達が遅れれば期間内の申請とは認められない。簡易書留等、送付の記録が残る方法で発送する
  • 来庁の場合は、期間末日(行政機関の休日ならその前開庁日)の受付時間内(8時30分~17時15分)に担当窓口へ
  • 電子申請の場合は、期間末日までにJグランツの申請が完了していること

5-2. 令和8年度 地域別最低賃金の発効日と申請期限

全国加重平均は1,177円(改定前1,121円、引上げ額56円)で、発効は令和8年10月1日~12月2日である。以下は、厚労省「令和8年度 地域別最低賃金 答申状況」(別紙)の改定額・発効日(予定)を写し、申請期限は上の規則に当てはめて筆者が算出したものである。

都道府県 改定後の最低賃金 発効日(予定) 申請期限(算出) 2026年10月5日時点
北海道 1,131円 令和8年10月1日 令和8年9月30日 締切済み
青森 1,090円 令和8年10月29日 令和8年10月28日 受付中
岩手 1,090円 令和8年12月1日 令和8年11月30日 受付中
宮城 1,098円 令和8年10月1日 令和8年9月30日 締切済み
秋田 1,090円 令和8年10月14日 令和8年10月13日 受付中
山形 1,092円 令和8年10月30日 令和8年10月29日 受付中
福島 1,094円 令和8年10月16日 令和8年10月15日 受付中
茨城 1,136円 令和8年10月18日 令和8年10月17日 受付中
栃木 1,125円 令和8年10月1日 令和8年9月30日 締切済み
群馬 1,120円 令和8年10月3日 令和8年10月2日 締切済み
埼玉 1,196円 令和8年10月1日 令和8年9月30日 締切済み
千葉 1,195円 令和8年10月1日 令和8年9月30日 締切済み
東京 1,280円 令和8年10月1日 令和8年9月30日 締切済み
神奈川 1,279円 令和8年10月1日 令和8年9月30日 締切済み
新潟 1,108円 令和8年10月1日 令和8年9月30日 締切済み
富山 1,119円 令和8年10月1日 令和8年9月30日 締切済み
石川 1,113円 令和8年10月3日 令和8年10月2日 締切済み
福井 1,112円 令和8年10月4日 令和8年10月3日 締切済み
山梨 1,113円 令和8年11月1日 令和8年10月31日 受付中
長野 1,117円 令和8年10月2日 令和8年10月1日 締切済み
岐阜 1,121円 令和8年10月1日 令和8年9月30日 締切済み
静岡 1,154円 令和8年10月15日 令和8年10月14日 受付中
愛知 1,195円 令和8年10月1日 令和8年9月30日 締切済み
三重 1,143円 令和8年10月1日 令和8年9月30日 締切済み
滋賀 1,136円 令和8年10月3日 令和8年10月2日 締切済み
京都 1,180円 令和8年11月16日 令和8年11月15日 受付中
大阪 1,231円 令和8年10月1日 令和8年9月30日 締切済み
兵庫 1,172円 令和8年10月1日 令和8年9月30日 締切済み
奈良 1,107円 令和8年10月4日 令和8年10月3日 締切済み
和歌山 1,101円 令和8年10月3日 令和8年10月2日 締切済み
鳥取 1,090円 令和8年10月3日 令和8年10月2日 締切済み
島根 1,092円 令和8年10月10日 令和8年10月9日 受付中
岡山 1,104円 令和8年10月2日 令和8年10月1日 締切済み
広島 1,141円 令和8年10月11日 令和8年10月10日 受付中
山口 1,101円 令和8年10月8日 令和8年10月7日 受付中
徳島 1,103円 令和8年11月1日 令和8年10月31日 受付中
香川 1,092円 令和8年10月1日 令和8年9月30日 締切済み
愛媛 1,093円 令和8年11月1日 令和8年10月31日 受付中
高知 1,086円 令和8年10月29日 令和8年10月28日 受付中
福岡 1,114円 令和8年10月4日 令和8年10月3日 締切済み
佐賀 1,095円 令和8年11月15日 令和8年11月14日 受付中
長崎 1,087円 令和8年11月2日 令和8年11月1日 受付中
熊本 1,092円 令和8年12月1日 令和8年11月30日 受付中
大分 1,096円 令和8年11月1日 令和8年10月31日 受付中
宮崎 1,085円 令和8年10月24日 令和8年10月23日 受付中
鹿児島 1,090円 令和8年10月25日 令和8年10月24日 受付中
沖縄 1,086円 令和8年12月2日 令和8年11月30日 受付中

注意点が3つある。

  1. 発効日は「予定」である。 答申状況の注記に「発効日は、答申公示後の異議の申出の状況等により変更となる可能性有」とある。期限もそれに連動するため、申請前に管轄の労働局で確認すること
  2. 12月に発効する岩手・熊本・沖縄は、いずれも期限が11月30日になる。 岩手・熊本(12月1日発効)は発効日の前日がちょうど11月30日である。沖縄(12月2日発効)は前日の12月1日より11月30日が早いため、11月30日で頭打ちになる
  3. 「受付中」は、算出した期限がまだ来ていないという意味にすぎない。 予算の範囲内で交付されるため、期間内に募集を終了する場合がある(リーフレット)。また賃金の引上げは申請より後に行う必要がある(お知らせ)ので、準備に時間をかける余裕はほとんどない

期限を過ぎた都道府県の事業場は、今年度の申請ができない。リーフレットが「必ず最新の交付要綱・要領で助成要件をご確認ください」と注意しているとおり、個別の扱いは労働局に問い合わせるのが確実である。


6. 助成対象になる設備投資と、ならないもの

6-1. 対象の考え方

助成対象は「生産性の向上、労働能率の増進に資する」と認められる設備投資等である(要綱第3条、Q&A問24)。リーフレットが挙げる例は次のとおりである。

経費区分 対象経費の例
機器・設備の導入 POSレジシステム導入による在庫管理の短縮、リフト付き特殊車両の導入による送迎時間の短縮
経営コンサルティング 国家資格者による、顧客回転率の向上を目的とした業務フロー見直し
その他 顧客管理情報のシステム化

パソコン、スマートフォン、タブレット等の端末と周辺機器の新規導入は、特例事業者のうち②(物価高騰等要件)に該当する場合のみ対象になる。一般事業者と①のみの特例事業者では対象外である(リーフレットの表)。

6-2. 対象にならない経費

Q&A問25は、次のような経費は助成対象にならないと答えている。

  • 単なる経費削減が目的の経費(例:LED電球への交換、通信費削減のためのプラン変更、資料作成の外注)
  • 快適化が目的の職場環境の改善経費(例:動線確保のためのレイアウト変更、エアコン設置、内装工事、机・椅子の増設)
  • 通常の事業活動に伴う経費(例:事務所借料、光熱費、従業員賃金、消耗品費、汎用事務機器の購入費)
  • 広告宣伝費・販売促進費(例:パンフレット・動画の作成、展示会の出展、ランディングページの作成)
  • 建築物の構築に関する経費(例:工場建屋、簡易建物の取得費)
  • 再生可能エネルギーの発電設備に係る費用、移動に要する費用(船舶・航空機等)
  • 娯楽性が高く生産性向上に直接資さない設備(例:ゲーム機)

加えて、リーフレットの「令和7年度からの変更点」にあるとおり、自動車(特殊用途自動車を除く)は対象外である。特殊用途自動車でも、導入できるのは原則としてナンバープレートの車種を表す数字が8で始まるもので、「使用の本拠の位置」が申請事業場の住所であることが要る(Q&A問39)。

6-3. 実務で迷いやすい点(Q&Aより)

  • 10万円の下限は税抜で判断する。税込104,500円は税抜95,000円で10万円未満になり対象外。ただし1つが10万円未満でも、他の設備投資と合計して10万円以上になれば対象(問26)
  • 納品や契約は必ず交付決定後。 交付決定前の納品・契約は助成を受けられない(問27)
  • 同等性能への入替えは対象外。 老朽化・破損の更新でも、既存より高い能力の機器を導入し生産性向上が認められる場合に限り対象(問30)
  • ホームページは、受発注と決済の両方が可能なもの、または受注機能を付加する作成・改修が対象。広告宣伝に当たる場合は対象外(問36)
  • リース・保守料金は助成実施年度に支払ったものに限る。複数年分を実施年度に支払った場合は、実施年度を含め3年分まで(問38)
  • 相見積もりは、契約予定額が10万円未満(税抜)の場合を除き、同一条件で2者以上が原則。関連会社や代表者の3親等以内の親族が作る見積書は認められない(問52)
  • 支払いは原則、振込払い。 クレジットカード払いでも事業完了期日(原則1月31日)までに口座から引き落とされていなければ対象外(問60)。振込手数料は対象外(問41)

7. 賃金引上げのルール

7-1. いつ、どのように引き上げるか

リーフレットとQ&Aの要点は次のとおりである。

  • 引上げは、交付申請の後から、申請事業場に適用される地域別最低賃金の発効日の前日までに実施する。発効日の当日に引き上げた場合は対象外(お知らせの申請例②)
  • 引上げ後の事業場内最低賃金と同額を就業規則等に定める必要がある。10人未満の事業場では就業規則に「準ずるもの」でもよいが、一般的な労働契約書・労働条件通知書は「準ずるもの」に当たらない(Q&A問58)
  • 複数回に分けた引上げは認められない。 10月1日に10円、11月1日に40円と分けて合計50円にしても、合算はされない(Q&A問18)
  • 引き上げる対象労働者は、週所定労働時間が20時間以上の雇用保険加入者(リーフレット)

7-2. 就業規則の適用日にも注意

Q&A問16は、賃金支払日ではなく就業規則等の改正・適用日が基準だと説明している。交付申請日が9月10日の場合、次のように分かれる。

賃金引上げに係る改正就業規則の適用日 結果
10月1日 要件を満たす
9月1日(実際の賃金引上げ日が10月1日でも) 申請日より前なので助成対象外

「賃金の支払いが申請後ならよい」と考えると外れる。就業規則の改正日・適用日が申請日より後であることを確認したい。

7-3. 「引き上げる労働者数」の数え方

リーフレットは、次の2種類の労働者を数えると説明している。

  • 事業場内最低賃金である労働者
  • 事業場内最低賃金である労働者の賃金を引き上げることで、賃金額が追い抜かれる労働者

いずれも、申請コースと同額以上賃金を引き上げる必要がある。引上げ後の事業場内最低賃金以上の賃金をすでに受けている労働者は算入できない。また、算入する労働者は申請日時点で雇用保険被保険者である必要がある(Q&A問20)。


8. 申請から支給までの流れ

手順 内容 注意点
1. 計画づくり 事業場内最低賃金の引上げ計画と設備投資等の計画を立てる 見積書を2者以上から取る(10万円未満を除く)
2. 交付申請 事業所の所在地を管轄する都道府県労働局へ、所定の様式で申請 郵送・来庁・Jグランツ(電子申請)。期限は労働局への到達で判断
3. 交付決定 労働局が審査し、通知 この後でないと設備の契約・納品はできない
4. 事業の実施 賃金引上げ、設備の導入、代金の支払い 賃金引上げは申請後〜発効日の前日。支払いは原則振込
5. 事業実績報告 事業完了後、労働局へ実績報告と助成金の支給申請 事業完了期限は交付決定年度の1月31日
6. 支給 審査のうえ交付額が確定し、助成金が振り込まれる 概算払(前払い)はできない(Q&A問66)

事業完了日は、①導入機器等の納品日、②助成対象経費の支払完了日、③賃金引上げ日(就業規則等の改正日)のいずれか遅い日になる(Q&A問40)。やむを得ない理由があり所轄労働局が認めた場合は、事業完了期限を交付決定年度の3月31日まで延ばせる。

交付要綱第13条によると、実績報告書と支給申請書は、事業の完了日から1か月を経過する日または翌会計年度の4月10日のいずれか早い日までに提出する。

社会保険労務士は、申請書等の作成・提出代行・事務代理を業務として行える(Q&A問67)。


9. 失敗しやすい落とし穴

9-1. 交付決定前の発注・納品

取り返しがつかない失敗の代表が、設備を先に発注してしまうことである。リーフレットは「交付決定前に助成対象設備の導入を行った場合は、助成の対象となりません」と明記している。見積りを取る段階と契約する段階を分けて管理したい。

9-2. 不交付事由に触れる

交付要綱第4条第4項は、次のような場合を交付の対象としないと定めている(抜粋)。

  • 申請書提出日の前日から6か月前の日から、実績報告日の前日または賃金引上げから6か月を経過した日のいずれか遅い日までの間に、解雇(労働者の責に帰すべき事由による場合などを除く)、労働者の時間当たり賃金の引下げ、所定労働時間の短縮等による月当たり賃金の引下げがあった場合
  • 助成対象経費を対象として、国または地方公共団体から補助金等を受けている場合
  • 申請書提出日の前日から1年前の日から一定の時点までの間に、労働関係法令違反が明らかになった場合(司法処分等)

Q&A問49は、労働基準監督署の是正勧告を受けている場合の取扱いも示している。申請書の提出日の前日から起算して1年前の日から実績報告を行った日の前日または賃金引上げから6か月を経過した日のいずれか遅い日までの間に是正勧告を受けていれば、申請できない。

9-3. 手当の減額で「引上げ」が目減りする

Q&A問17は、賃金体系を見直して一部の手当を減額する場合でも、それだけで対象外になるわけではないと答えている。ただし、精皆勤手当・通勤手当・家族手当も賃金総額に含めて判断し、賃金総額でみた引上げ額が各コースの所定額を下回れば、助成金利用による賃金の引上げとは認められない。

9-4. 他の助成金との重複

Q&A問47によると、助成対象が同一の設備投資等に要する費用でなければ併せて助成を受けられるが、補助目的等が重複する場合は併給調整の対象になりうる。また、業務改善助成金で賃金引上げの対象とした労働者を、キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)の支給対象労働者としてカウントすることはできない。キャリアアップ助成金の実務はキャリアアップ助成金 申請フロー実務ガイドで解説している。

9-5. 申請期限の取り違え

全国一律の締切だと思い込む誤りも起こりやすい。前章のとおり、期限は都道府県ごとの発効日で決まり、11月30日が上限である。事業所が複数の都道府県にある場合は、事業所ごとに期限が違う。


10. 設備投資の補助金との使い分け

業務改善助成金は「最低賃金を引き上げること」が条件である。賃上げの予定がなく、設備投資だけを支援してほしい場合は、別の制度が候補になる。

制度ごとに対象経費や併給のルールが違うため、同じ設備を複数の制度で二重に申請することはできない。先に目的と時期を決め、どの制度に何を充てるかを整理してから申請したい。


11. よくある質問(FAQ)

Q1. 従業員が1人だけの事業場でも申請できますか。

できる。上限額表には「1人」の区分があり、50円コースで30万円(事業場規模30人未満の事業者は40万円)などが設定されている。ただし、賃金を引き上げる労働者は雇用保険被保険者で、事業場内最低賃金は雇入れ後6か月を経過した労働者を基準に算定する。事業主のみで労働者がいない場合は対象外である。

Q2. 申請より先に賃金を上げてしまいました。

対象外になる可能性が高い。お知らせは、令和7年9月5日以降は賃金引上げ後の申請ができなくなったと明記している。Q&A問16の例でも、交付申請日より前に引き上げた場合は助成対象にならない。個別の事情は管轄の労働局に相談すること。

Q3. 発効日が10月の地域ですが、今から申請できますか。

発効日の前日が過ぎていれば、できない。申請期限は、発効日の前日と11月30日のいずれか早い日である。前章の一覧を、管轄の労働局が公表する最新の発効日と照らし合わせて確認すること。

Q4. 最低賃金を超えている従業員の賃金も上げる必要はありますか。

追い抜かれる労働者(事業場内最低賃金の引上げによって賃金額が逆転する労働者)は、人数に算入するなら申請コースと同額以上の引上げが必要である。一方、すでに引上げ後の事業場内最低賃金以上の労働者は、算入の対象にならない(リーフレット、Q&A問20)。

Q5. パートやアルバイトも対象ですか。

雇用保険被保険者であれば対象になる。週所定労働時間が20時間以上で、31日以上の雇用見込みがあれば、原則として被保険者となる(Q&A問22)。雇用保険に未加入の労働者は、「引き上げる労働者数」に含まれない。


12. まとめ

業務改善助成金は、事業場内最低賃金の引上げ(50円以上)と生産性向上の設備投資をセットで行う中小企業を支援する制度である。令和8年度は、助成率の区切りが1,050円になり、コースが50円・70円・90円の3つに再編された。最大は600万円(90円コース・10人以上・特例事業者)である。

押さえる点は次の5つである。

  1. 申請期限は「発効日の前日」と「11月30日」のいずれか早い日。都道府県ごとに違う
  2. 2026年10月5日時点で、10月1日〜10月4日に発効する都道府県の期限は過ぎている
  3. 設備の契約・納品は交付決定の後。賃金の引上げは申請の後で、発効日の前日まで
  4. 就業規則の改正・適用日が申請日より前だと対象外
  5. 助成額は「費用×助成率」と「上限額」の低い方。上限で頭打ちになりやすい

自社の期限は、管轄の都道府県労働局か業務改善助成金コールセンター(0120-366-440、平日9時~17時)で確認するのが確実である。賃上げ後の人件費や資金繰りの面では、日本政策金融公庫が事業場内最低賃金の引上げに取り組む事業者向けに融資を行っている(リーフレットの参考情報)。


出典

  • 厚生労働省「令和8年度業務改善助成金のご案内」(令和8年4月版)https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001693416.pdf
  • 厚生労働省「令和8年度業務改善助成金の一部変更のお知らせ」https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001693417.pdf
  • 厚生労働省「業務改善助成金Q&A(令和8年9月~)」(令和8年9月8日作成)https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001746753.pdf
  • 厚生労働省「中小企業最低賃金引上げ支援対策費補助金(業務改善助成金)交付要綱」https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001693388.pdf
  • 厚生労働省「業務改善助成金」ページ https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/shienjigyou/03.html
  • 厚生労働省 令和8年度地域別最低賃金改定のページ https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_75950.html および(別紙)令和8年度地域別最低賃金額答申状況 https://www.mhlw.go.jp/content/11302000/001745621.pdf

免責事項

本記事は、2026年10月5日時点で公開されている厚生労働省の資料に基づく一般的な情報提供であり、個別の申請の可否・支給額を保証するものではない。助成要件、上限額、申請期限、地域別最低賃金の発効日は変更される場合がある。申請にあたっては、最新の交付要綱・交付要領とQ&Aを確認し、管轄の都道府県労働局または業務改善助成金コールセンターに問い合わせること。

JG

実務ガイド編集部

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