最終更新日: 2026年9月
2025年5月14日に公布された「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律」(令和7年法律第33号)により、労働者数50人未満の事業場についても、ストレスチェックの実施が努力義務から義務へ変わる。施行日は2028年(令和10年)4月1日で確定している。厚生労働省は総合ページで「令和10年4月1日から、労働者数50人未満の事業場にも ストレスチェックが義務化されます。」と告知しており、e-Gov法令検索にも同日施行の条文が登録済みである。あわせて厚労省は2026年2月25日に「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」を公表済みで、その後に概要版(スタートガイド)と社内規程のWordひな形も無料で公開されている。準備に必要な道具はすでに揃っている。精神障害に係る労災の支給決定件数は令和7年度に1,082件と過去最多を更新し続けており、50人未満の事業場の実施率は3割前後にとどまる。本記事では、確定した施行日を起点に、厚労省マニュアルが推奨する実施体制、外部委託の費用、助成金で実際に受け取れる金額、高ストレス者対応、集団分析の「10人ルール」までを一次ソースに当たって解説する。
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改正労働安全衛生法の概要と施行スケジュール
ストレスチェック制度の法的根拠と改正経緯
ストレスチェック制度は、労働安全衛生法第66条の10に基づき、労働者の心理的な負担の程度を把握するための検査として2015年12月に導入された。
50人未満が努力義務にとどまっていた根拠は、条文本体ではなく附則にある。労働安全衛生法の附則第4条(心理的な負担の程度を把握するための検査等に関する特例)は、こう書いている。
第十三条第一項の事業場以外の事業場についての第六十六条の十の規定の適用については、当分の間、同条第一項中「行わなければ」とあるのは、「行うよう努めなければ」とする。
第13条第1項の事業場とは、産業医の選任義務がある事業場、つまり常時50人以上の労働者を使用する事業場のことである。裏返すと50人未満の事業場は、「行わなければならない」を「行うよう努めなければならない」と読み替える扱いを受けてきた。2028年4月1日の施行で、この附則第4条そのものが削除される。条文本体(第66条の10第1項)は改正前も改正後も「事業者は、労働者に対し…検査を行わなければならない」のままで、規模による線引きは一切書かれていない。削除によって、本体の義務がそのまま50人未満にも及ぶ構造である。
| 時期 | 事項 | 概要 |
|---|---|---|
| 2014年6月 | 労働安全衛生法改正(ストレスチェック制度創設) | 50人以上の事業場に実施義務、50人未満は附則で努力義務 |
| 2015年12月 | ストレスチェック制度施行 | 年1回以上の実施を義務化 |
| 2024年3月29日 | 厚生労働省「ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会」第1回開催 | 座長:川上憲人 東京大学大学院医学系研究科デジタルメンタルヘルス講座特任教授 |
| 2024年11月1日 | 同検討会 中間とりまとめ公表 | 50人未満事業場への義務拡大を提言。その後、労働政策審議会で議論 |
| 2025年5月14日 | 改正労働安全衛生法公布(令和7年法律第33号) | 安衛法附則第4条を削る改正規定を含む |
| 2026年2月25日 | 「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」公表 | 「ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会」が作成。その後、概要版(スタートガイド。令和8年3月付)、モデル社内ルール例・モデル社内規程例のWordファイル、周知用リーフレット(令和8年6月付)が順次公開 |
| 2026年6月10日 | 厚労省が施行日を告知 | 「令和10年4月1日から小規模事業場においてもストレスチェックが義務になります」 |
| 2026年6月30日 | 労働安全衛生規則の一部を改正する省令(令和8年厚生労働省令第112号)公布 | 集団分析に「特定の個人を識別することができない方法で」を追加 |
| 2027年4月1日 | 上記省令の施行 | 集団分析の方法に関する従来の解釈を明文化 |
| 2028年4月1日 | 50人未満の事業場への実施義務化(施行日確定) | 安衛法附則第4条が削除され、本体の義務が全事業場に及ぶ |
根拠: 労働安全衛生法第66条の10・附則第4条(e-Gov法令検索 347AC0000000057)、労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号・2025年5月14日公布)、厚生労働省「ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策」ページ
改正の背景:メンタルヘルス労災の深刻化
ストレスチェック義務拡大の背景には、精神障害に係る労災の支給決定件数の増加がある。
| 年度 | 精神障害の支給決定件数(業務災害) | 前年度比 |
|---|---|---|
| 2019年度(令和元年度) | 509件 | — |
| 2020年度(令和2年度) | 608件 | +19.4% |
| 2021年度(令和3年度) | 629件 | +3.5% |
| 2022年度(令和4年度) | 710件 | +12.9% |
| 2023年度(令和5年度) | 883件 | +24.4% |
| 2024年度(令和6年度) | 1,056件 | +19.6% |
| 2025年度(令和7年度) | 1,082件 | +2.5% |
出典: 厚生労働省「過労死等の労災補償状況」。令和7年度分は2026年7月15日公表で「支給決定件数は1,082件で前年度比26件の増加」、令和6年度分は2025年6月25日公表で「支給決定件数は1,056件で前年度比173件の増加」と記載されている。
件数は2020年度以降、毎年度過去最多を更新し続けている。ただし直近の令和7年度は前年度比+2.5%と伸びが大きく鈍っており、増加のペース自体は変わってきている。ここでいう「支給決定件数」は当該年度中に業務災害等と認定した件数であり、請求が前年度以前のものも含む点に注意してほしい。
精神障害の労災認定基準にはカスタマーハラスメントが2023年9月に追加されており、顧客対応を伴う職場ではストレスチェックとカスハラ対策を一体的に進めることが望ましい。精神障害が労災認定された場合の休業補償額は労災給付額シミュレーターで年収・療養日数別に試算できる。療養が長期化して傷病補償年金に切り替わるケースや、自殺・過労死に至り遺族補償年金の対象となるケースについては労災年金系給付3種完全解説で受給要件・等級判定・厚生年金との併給調整まで整理している。
国の数値目標と、現状との距離
第14次労働災害防止計画(2023年度〜2027年度・令和5年3月策定)は、アウトプット指標として次の2つを掲げている。原文の逐語である。
・メンタルヘルス対策に取り組む事業場の割合を2027年までに 80%以上とする。
・使用する労働者数 50 人未満の小規模事業場におけるストレスチェック実施の割合を2027年までに 50%以上とする。
50人未満のストレスチェック実施率には「2027年までに50%以上」という数値目標が別に立っている。 義務化(2028年4月)はその翌年度であり、国としては義務化を待たずに半数まで引き上げたい、という設計になっている。
これに対する足元の数字が以下である。
| 指標 | 令和7年(2025年)調査 | 令和6年(2024年)調査 | 目標 |
|---|---|---|---|
| メンタルヘルス対策に取り組む事業所の割合(全体) | 63.0% | 63.2% | 2027年までに80%以上 |
| 同(労働者50人以上) | 93.7% | 94.3% | — |
| 同(労働者30〜49人) | 72.0% | 69.1% | — |
| 同(労働者10〜29人) | 54.6% | 55.3% | — |
| 取り組んでいる事業所のうち「ストレスチェックの実施」(50人以上) | 89.8% | 89.8% | — |
| 同(30〜49人) | 58.4% | 57.8% | — |
| 同(10〜29人) | 55.9% | 58.1% | — |
出典: 厚生労働省「令和7年 労働安全衛生調査(実態調査)結果の概況」。原文は「メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合は63.0%[令和6(2024)年調査63.2%]であり、事業所規模別にみると、労働者50人以上の事業所で93.7%[同94.3%]、労働者数30~49人の事業所で72.0%[同69.1%]、労働者数10~29人の事業所で54.6%[同55.3%]となっている。」
この調査は「ストレスチェックの実施」をメンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所を分母として集計している。全事業所を分母にした実施率は公表されていないため、上の2つを掛け合わせて試算すると次のようになる(厚労省の公表値ではなく本記事による計算)。
| 事業所規模 | 全事業所ベースの実施率(試算) | 計算式 |
|---|---|---|
| 50人以上 | 約84.1% | 93.7% × 89.8% |
| 30〜49人 | 約42.0% | 72.0% × 58.4% |
| 10〜29人 | 約30.5% | 54.6% × 55.9% |
50人未満はおおむね3割から4割で、「2027年までに50%以上」という目標にはまだ距離がある。10〜29人の層が最も低いという構図は、2022年(令和4年)調査の時点から変わっていない。
50人未満事業場に適用される義務内容と免除措置
まず確認:「50人未満」の数え方と、誰が対象者になるか
自社を50人未満だと思っていても、労基署への報告が必要な「50人以上」に当たることがある。厚労省マニュアルはこの点をわざわざ注意喚起している。
労働基準監督署への報告の要否の基準となる「常時使用している労働者が 50 人以上」の「常時使用している労働者」とは、ストレスチェックの対象者のように契約期間や週の労働時間によるのではなく、常態として使用されているかどうかで判断します。そのため、労働時間数が短いアルバイトやパートタイム労働者、派遣先の派遣労働者であっても、継続して雇用し常態として使用していれば、カウントに含める必要があります。
「ストレスチェックの対象者」が50人未満であっても、「常時使用している労働者」が 50 人以上となり、労働基準監督署への報告が必要となる場合がありますので、注意しましょう。
2つの「50人」は数え方が違う、というのが要点である。
| 場面 | 何を数えるか |
|---|---|
| ストレスチェックの対象者(誰に受けてもらうか) | 契約期間と週の労働時間の要件を満たす者(下記) |
| 労基署への報告義務の有無(常時50人以上か) | 常態として使用しているか。短時間のアルバイト・パート、派遣先で受け入れている派遣労働者も含める |
対象者となる「常時使用する労働者」の要件は、一般定期健康診断と同じである。契約の名称や国籍は関係しない。
① 期間の定めのない労働契約により使用される者(期間の定めのある労働契約により使用される者であって、当該契約の契約期間が1年以上である者並びに契約更新により1年以上使用されることが予定されている者及び1年以上引き続き使用されている者を含む。)であること。
② その者の1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の4分の3以上であること。
さらに「1週間の労働時間数が通常の労働者の4分の3未満である労働者であっても、上記の①の要件を満たし、労働時間数が通常の労働者のおおむね2分の1以上である者に対しても、ストレスチェックを実施することが望まれます」とされている。義務ではないが、線引きで迷ったらここまで広げておくと安全である。
あわせて押さえておきたい点が3つある。
- 派遣労働者は派遣元に実施義務がある。 受け入れている側(派遣先)が実施する義務は負わない。ただし上記のとおり、報告義務の判定では頭数に数える
- 労働者本人に受検義務はない。 一般定期健康診断と違い、法律は労働者に受けることを義務づけていない。厚労省の方針表明モデル例も「従業員にストレスチェックを受ける義務まではありませんが、メンタルヘルス不調で治療中等の特別な事情がない限り、全員が受けることが望まれます」と書いている
- 「事業場」は場所の単位で数える。 マニュアルは「原則として、工場、事務所、店舗など同一場所にあるものを一の事業場と考え、同一企業であっても、場所的に分散している場合は別個の事業場となります」としている。全社で60人でも、30人ずつ2拠点なら、それぞれが50人未満の事業場になる
義務化される事項
改正で削除されるのは附則第4条だけなので、50人未満の事業場に及ぶのは第66条の10とその委任先である労働安全衛生規則第52条の9以下の規定である。産業医の選任・衛生委員会・労基署報告は、もともと別の条文が「50人以上」と書いているために適用されない。改正によって特別に免除されるわけではなく、線引きの根拠がそれぞれ違う点に注意してほしい。
| 事項 | 50人以上 | 50人未満(2028年4月以降) | 根拠 |
|---|---|---|---|
| ストレスチェックの年1回実施 | 義務 | 義務 | 法66条の10第1項/規則52条の9 |
| 結果の本人通知 | 義務 | 義務 | 法66条の10第2項/規則52条の12 |
| 高ストレス者への面接指導(申出時) | 義務 | 義務 | 法66条の10第3項/規則52条の16第2項 |
| 医師からの意見聴取・就業上の措置 | 義務 | 義務 | 法66条の10第5項・第6項/規則52条の19 |
| 面接指導結果の記録を5年間保存 | 義務 | 義務 | 規則52条の18第1項 |
| 検査結果の記録を5年間保存 | 本人同意を得て提供を受けた場合に義務 | 同左 | 規則52条の13第2項 |
| 集団分析 | 努力義務 | 努力義務 | 規則52条の14 |
| 産業医の選任 | 義務 | 対象外 | 法13条1項/施行令5条が「50人以上」 |
| 衛生委員会の設置 | 義務 | 対象外 | 法18条/施行令9条が「50人以上」 |
| 労基署への実施報告 | 義務 | 対象外 | 規則52条の21が「常時五十人以上の労働者を使用する事業者」と限定 |
つまり5年保存の義務が事業者に生じるのは、本人の同意を得て個人結果の提供を受けた場合だけである。同意がなければ、そもそも事業者は個人結果を持っていない。その場合に事業者が負うのは規則第52条の11の「検査を行つた医師等による当該検査の結果の記録の作成の事務及び当該検査の実施の事務に従事した者による当該記録の保存の事務が適切に行われるよう、必要な措置を講じなければならない」という義務であって、自ら保存する義務ではない。外部委託する場合は、委託契約の中で保存を担保させることがこの「必要な措置」にあたる。なお面接指導の結果の記録(規則52条の18)は本人が申し出て実施した以上、事業者が作成・5年保存する義務を負う。こちらは条件が付かない。
3つの「対象外」の実務的意義
| 事項 | 対象外である理由 | 実務上どうするか |
|---|---|---|
| 産業医の選任 | 法13条1項の産業医選任義務が50人以上を対象としており、今回の改正は同条に手を触れていない | 面接指導を行う医師は別途確保する必要がある。地域産業保健センター(無料)、外部委託先のオプション、産業保健に対応する医療機関との個別契約のいずれか |
| 衛生委員会の設置 | 法18条の衛生委員会設置義務が50人以上を対象 | 厚労省マニュアルは「社内の実施体制・実施方法について、労働者の意見を聴く」手順を置いている。委員会がなくても意見聴取は行う |
| 労基署への報告 | 規則52条の21が対象を「常時五十人以上の労働者を使用する事業者」と明記 | 報告は不要だが、実施したこと自体の記録は残す。なお50人以上の報告は現行規則で「電子情報処理組織を使用して」行うこととされており、電子申請が前提である |
ストレスチェックの実施手順(50人未満事業場向け)
厚労省マニュアルが推奨する実施体制
厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」(2026年2月25日公表)は、50人未満の事業場について原則として外部委託による実施を推奨し、次の役割分担を示している。以下はその概要版(スタートガイド)からの逐語引用である。
労働者のプライバシー保護の観点から、原則、外部委託による実施が推奨されます。
○ 個人結果等の健康情報の取扱は外部機関で完結し、事業場内では取り扱いません。
〇 実務担当者には、衛生推進者又は安全衛生推進者を選任することが望まれます。
| 区分 | 役割 | 担う人 |
|---|---|---|
| 事業場内 | 実施責任者 | 事業者 |
| 事業場内 | 実施計画・実施管理、委託先との契約・連絡調整 | 実務担当者(衛生推進者または安全衛生推進者が望ましい) |
| 外部機関 | 調査票の選定、高ストレス者の評価方法の決定、面接指導の要否の判断 | 実施者(医師・保健師・一定の研修を受けた歯科医師・看護師・精神保健福祉士・公認心理師) |
| 外部機関 | 実施者の指示による実施事務(調査票の回収・データ入力、個人結果の記録の保存、面接指導の申出勧奨等) | 実施事務従事者 |
名前が似ていて紛らわしいので、健康情報を扱うかどうかで覚えるとよい。実施者と実施事務従事者は個人の健康情報を扱う(だから守秘義務がかかる)。実務担当者は扱わない(だから人事権があっても構わない)。前の2つは外部機関に置き、最後の1つだけを社内に置く、というのがマニュアルの推奨形である。
ここが、50人以上の事業場向けの一般的な解説と最も違うところである。一般的な解説は「実施事務従事者を社内から選ぶ(人事権を持つ者は不可)」と書くが、厚労省のマニュアルは実施事務従事者も外部機関側に置き、個人の健康情報を社内にいっさい入れない形を推奨している。 従業員が数人から数十人の職場では、誰が高ストレスかが容易に推測できてしまうためである。
社内に置くのは「実務担当者」で、この人が扱うのは実施計画・委託先との連絡調整・実施管理といった事務であり、個人結果ではない。衛生推進者・安全衛生推進者は、労働安全衛生規則第12条の2に基づき常時10人以上50人未満の労働者を使用する事業場に選任義務がある役職なので、多くの事業場ではすでに存在する。新たに人を立てる必要はない(メンタルヘルス推進担当者を選任しているならその人でもよい)。労働者数10人未満で衛生推進者等がいない事業場については、マニュアルは「事業者自らが…事業場内の実務を担うことが考えられます」としている。
ここで、よくある誤解をひとつ解いておきたい。「人事権を持つ人は関われない」は、実務担当者には当てはまらない。 マニュアルは明記している。
※ 労働者の健康情報を取り扱わないため、人事に対して直接の権限を持つ監督的地位にある者を指名することも可能です。
人事権による制限がかかるのは「実施の事務に従事する者」のほうである。規則第52条の10第2項は「検査を受ける労働者について解雇、昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある者は、検査の実施の事務に従事してはならない」と定めている。外部委託して実施事務を外部機関が担うなら、この制限は社内の実務担当者には及ばない。小さな会社で「人事に関わらない人がいない」と悩む必要はない、ということである。
実施者・実施事務従事者には守秘義務がかかる。根拠は労働安全衛生法第105条(健康診断等に関する秘密の保持)で、「第六十六条の十第一項の規定による検査…の実施の事務に従事した者は、その実施に関して知り得た労働者の秘密を漏らしてはならない」と定めている。
全体フロー
| ステップ | 実施事項 | 担当 | 時期目安 |
|---|---|---|---|
| Step 1 | 制度導入の方針表明、労働者の意見聴取、社内ルールの作成・周知 | 事業者/実務担当者 | 実施3か月前 |
| Step 2 | 委託先の選定(サービス内容事前説明書を出させて比較)・契約 | 事業者/実務担当者 | 実施2か月前 |
| Step 3 | 従業員への事前説明・周知 | 実務担当者 | 実施1か月前 |
| Step 4 | 調査票の配布・回答・回収 | 外部機関(実施事務従事者) | 年1回 |
| Step 5 | 結果の個人通知(本人へ直接) | 外部機関(実施者) | 遅滞なく |
| Step 6 | 高ストレス者の判定・面接指導の申出勧奨 | 外部機関(実施者) | 結果通知と同時 |
| Step 7 | 面接指導の実施(申出があった場合) | 事業者が医師へ依頼 | 申出後 遅滞なく |
| Step 8 | 医師からの意見聴取 → 就業上の措置 | 事業者 | 面接指導後 遅滞なく |
| Step 9 | 面接指導結果の記録の作成・保存 | 事業者 | 5年間 |
Step 1:方針表明・意見聴取・社内ルール
50人未満の事業場には衛生委員会がないため、代わりに労働者の意見を聴く手順をマニュアルが置いている。決めるのは次の事項である。
| 決定事項 | 内容 | 留意点 |
|---|---|---|
| 実施時期 | 毎年○月に実施する | 繁忙期を避ける |
| 使用する調査票 | 職業性ストレス簡易調査票(57項目) | 国が推奨する版 |
| 調査形態 | 紙またはウェブ | 紙の場合の受渡し方法まで決める |
| 実施者 | 外部委託先の医師・保健師等 | 事業場に産業医がいないため外部 |
| 実務担当者 | 社内の担当者 | 衛生推進者・安全衛生推進者が望ましい |
| 高ストレス者の選定基準 | 数値基準を定める | 後述 |
| 面接指導の依頼先 | 外部委託先のオプション/地域産業保健センター/医療機関 | 事前に確保 |
| 結果の保存 | 外部機関で保存 | 委託契約で担保する |
社内ルールに定めることが望まれる事項として、マニュアルは6つを挙げている。実施体制/実施方法/記録の保存/情報管理/情報の開示、訂正等及び苦情処理/不利益な取扱いの防止である。「個人情報の取扱いは明確にしておくことが重要です」と付記されている。周知は「事業場内イントラネットへの掲載や規程の配付等により行ってください」とされている。
「労働者の意見を聴く」をどうやるか
衛生委員会がない事業場でも、労働安全衛生規則第23条の2により「安全又は衛生に関して関係労働者の意見を聴く機会」を設けることとされている。マニュアルは、この既存の機会を使えばよいとしている。
関係労働者の意見を聴く機会は、必ずしも会議体の構成をとる必要はありませんが、それぞれの事業場の実情に応じて、実効性が確保できる方法により、できるだけ様々な現場や立場の労働者から意見を聴くことが重要です。
例えば、事業者としての方針を表明しつつ、…社内ルールの案をあらかじめ作成した上で、事業場内に周知し、労働者に意見を募るといった方法も考えられます。
マニュアルが挙げている「意見を聴く機会」の実例は、定例の業務ミーティング、朝礼などの打合せ、他の委員会の開催に併せる形、月1回の安全会議といったものである。新しい会議を立てる必要はない。 進め方としては、①社内ルールの案を先に作る、②周知して意見を募る、③意見を踏まえて確定する、という順が最も手数が少ない。衛生推進者・安全衛生推進者を中心に行うことが望ましいとされている。なお、実施後にも「実施状況やそれを踏まえた実施方法等の改善等について、関係労働者の意見を聴くことが望まれます」とされている。
Step 2:使用する調査票
厚生労働省が推奨する「職業性ストレス簡易調査票」は57項目で構成され、以下の3領域を測定する。
| 領域 | 質問項目数 | 測定内容 | 質問例 |
|---|---|---|---|
| A. あなたの仕事についてうかがいます | 17項目 | 仕事の量的負担、質的負担、身体的負担、対人関係、職場環境、仕事のコントロール、技能の活用、適性度、働きがい | 「非常にたくさんの仕事をしなければならない」「働きがいのある仕事だ」 |
| B. 最近1か月間のあなたの状態についてうかがいます | 29項目 | 活気、イライラ感、疲労感、不安感、抑うつ感、身体愁訴 | 「ひどく疲れた」「気がはりつめている」「よく眠れない」 |
| C. あなたの周りの方々についてうかがいます | 9項目 | 上司・職場の同僚・配偶者、家族、友人等の3者それぞれについて、①気軽に話ができるか ②困った時に頼りになるか ③個人的な問題の相談をきいてくれるか(3者×3問=9項目) | 「次の人たちはどのくらい気軽に話ができますか?」 |
| D. 満足度について | 2項目 | 仕事の満足度、家庭生活の満足度 | 「仕事に満足だ」「家庭生活に満足だ」 |
高ストレス者の判定で使う領域Bの29項目は、A・C・Dとは回答肢が異なる(Bは「ほとんどなかった/ときどきあった/しばしばあった/ほとんどいつもあった」、A・Cは4段階の程度、Dは「満足/まあ満足/やや不満足/不満足」)。判定の数値基準を読むときは、この違いを前提にしている点に注意してほしい。
Step 4-5:高ストレス者の判定基準
法令は判定の数値基準を定めていない。規則第52条の15は、面接指導の対象を「検査の結果、心理的な負担の程度が高い者であつて…面接指導を受ける必要があると当該検査を行つた医師等が認めたもの」と定めるだけである。実際の基準は、実施者の提案を踏まえて事業者が決める。厚労省マニュアルの記述である。
高ストレス者の選定方法については、上記の「職業性ストレス簡易調査票」を使用する場合は、厚生労働省が示す基準・方法によることが適当です。実施者(委託先)の提案等を踏まえて決定してください。
なお、面接指導対象者は、高ストレス者の選定結果を踏まえて、実施者(委託先)が選定することになります。
その「厚生労働省が示す基準」として、実施マニュアルで広く用いられている合計点方式が次のものである。
| 判定基準 | 内容 | 該当条件 |
|---|---|---|
| 基準1 | 心身のストレス反応(領域B)の評価点が高い | 領域Bの合計点が77点以上 |
| 基準2 | ストレス要因と周囲のサポートの評価点が一定以上で、心身のストレス反応も一定以上 | 領域A+Cの合計点が76点以上、かつ領域Bの合計点が63点以上 |
基準1または基準2のいずれかに該当する場合、高ストレス者と判定される。この数値は法令で固定されたものではなく、委託先の提案によって異なりうる点に注意してほしい。委託先を比較するときは、どの基準を採るのかを説明させるとよい。
| 判定後の対応 | 担当 | 内容 |
|---|---|---|
| 結果通知 | 実施者→本人 | 高ストレス者である旨を個人結果と併せて通知 |
| 面接指導の勧奨 | 実施者→本人 | 医師による面接指導の申出を勧奨。申出窓口と申出方法も併せて通知させる |
| 面接指導の実施 | 事業者が医師へ依頼 | 本人の申出があった場合、遅滞なく実施(規則52条の16第2項) |
| 医師からの意見聴取 | 事業者 | 面接指導後、遅滞なく(規則52条の19) |
| 就業上の措置 | 事業者 | 医師の意見を勘案し、必要があると認めるときに就業場所の変更・作業の転換・労働時間の短縮・深夜業の回数の減少等(法66条の10第6項) |
| 記録の作成・保存 | 事業者 | 面接指導結果の記録を作成し5年間保存(規則52条の18) |
申出の勧奨を行うのは事業者ではなく実施者である。 規則第52条の16第3項は「検査を行つた医師等は、前条の要件に該当する労働者に対して、申出を行うよう勧奨することができる」と定めている。事業者は誰が高ストレス者かを知らないのだから、個別に声をかけることはそもそもできない。勧奨したが反応がない場合の再勧奨も、外部委託先の実施者に依頼する形になる。 委託先を選ぶ段階で、申出がなかった対象者へのフォローをどうするかを確認しておくとよい。
従業員が数人の職場では、封筒を渡す動作そのものが情報になる。なお、個人結果を紙で通知する場合、「内容が分からないように密封された封筒(封書)に入れて事業場に提供され、事務担当者等から個人に配布することは差し支えありません」とされている。封をした状態であれば、社内の担当者が配ってよい。
外部委託先の選定と費用
外部委託が推奨される理由
これは記事の推奨ではなく、厚労省マニュアルが明示している方針である。「労働者のプライバシー保護の観点から、原則、外部委託による実施が推奨されます」。理由は次のように整理できる。
| 理由 | 解説 |
|---|---|
| 実施者の確保 | 産業医がいないため、外部の医師・保健師等を実施者として確保する必要がある |
| プライバシー保護 | 小規模事業場では個人の特定が容易。個人結果等の健康情報の取扱いを外部機関で完結させ、事業場内では扱わない |
| 実施事務従事者の確保 | 規則52条の10第2項により、解雇・昇進・異動に直接の権限を持つ監督的地位にある者は実施事務に従事できない。小規模事業場では該当しない人を確保しにくい |
| 専門的な判定 | 高ストレス者の評価方法の決定、面接指導の要否の判断は実施者が担う |
| 面接指導の一体提供 | ストレスチェックから面接指導までを一体で提供するオプションを持つ委託先がある |
| 記録保存 | 個人結果の記録の保存は、外部機関の実施事務従事者の業務としてマニュアルに位置づけられている |
費用の目安
費用体系はおおむね次のように分かれる。金額は2026年9月時点の一般的な相場感であり、事業者・時点・条件により変動する。
| 費用項目 | 金額目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 基本料金(事業場単位) | 20,000円〜100,000円/事業場 | 初期設定・管理費 |
| 実施料金(人数単位) | 300円〜1,000円/人 | 質問票配布・回収・判定・通知 |
| 医師面接指導 | 10,000円〜50,000円/人 | 高ストレス者が申し出た場合のみ発生 |
| 集団分析オプション | 無料〜50,000円 | 部署別分析等 |
ただし、この区分の切り方そのものを疑う必要がある。何が基本料金に入り、何がオプションになっているかは委託先ごとに違い、そこが比較の焦点になる。次項で扱う。
委託先の選び方 — 「サービス内容事前説明書」を出させる
厚労省マニュアルは、委託先の比較を感覚でやらせない仕組みを用意している。
2-2 ストレスチェックの委託先を選定します。選定に当たっては、外部機関から「サービス内容事前説明書」を作成・説明してもらい、提案内容を確認します。
確認すべき論点は、大きく2つに整理されている。
- ストレスチェック及び集団分析を、その外部機関に委託するのか
- 医師の面接指導を、どこに依頼するのか(外部機関のオプションサービス/地域産業保健センター/産業保健に対応する医療機関等と別途契約)
料金についてマニュアルが特に注意しているのは、どこまでが標準サービスでどこからがオプションかという切り分けである。
ストレスチェックの実施方法や、特に料金体系(どこまでが標準サービスか/オプションサービスか、別料金とされている内容は適切か等)についてチェックします。
【実務ポイント】 「1人○○円」という表示価格だけで比べると失敗する。マニュアルは、実施者及び実施事務に従事する内部スタッフ(実施体制)+実施事務経費+システム提供+データ保管といった実施に不可分の費用は、原則として実施料金に含まれているべきという考え方を示している。これらが別料金になっていないかを確認すること。あわせて見るべき点を挙げる。
– 実施者(医師・保健師等)が誰か明示されているか。高ストレス者の判定を誰が行うか
– 紙とウェブの両方に対応しているか(1人1台のPCや個人の社用メールアドレスがない職場では紙が現実的)
– 個人結果の通知が、第三者に知られない形で直接本人に行われるか
– 面接指導の申出窓口と申出方法が通知文に書かれるか
– 個人結果の記録の保存を外部機関側で行うか。何年分か
– 集団分析について、受検者が10人を下回る集団をどう扱うか
– 定期健康診断を同じ機関に委託している場合、健診とストレスチェックの個人結果の扱いが区別されているか
なお、産業保健総合支援センター(産保センター)は実施を委託する先ではない。制度導入の相談・研修・訪問支援を無料で行う公的機関であり、ストレスチェックそのものを代行してくれるわけではない。委託先候補を探す前に、まずここに相談して全体像を把握する、という使い方をする。地域産業保健センター(地産保)も同様に委託先ではないが、医師の面接指導の依頼先としては正式な選択肢としてマニュアルに挙げられている。
助成金・支援制度
利用可能な支援制度一覧
個々の中小企業が自社で直接申請できるストレスチェックの助成金は、現在は存在しない。使えるのは、事業主団体経由の助成金と、無料の公的サービスである。
| 制度名 | 実施主体 | 誰が申請するか | 内容 |
|---|---|---|---|
| 団体経由産業保健活動推進助成金 | 独立行政法人労働者健康安全機構 | 事業主団体等(個別企業は申請できない) | 傘下の中小企業に産業保健サービスを提供した費用の一部を助成 |
| 地域産業保健センター(地産保) | 全国350か所 | 事業場が直接利用 | 50人未満の事業場向けに、医師の面接指導等を無料で提供 |
| 産業保健総合支援センター(産保センター) | 47都道府県に設置 | 事業場が直接利用 | 制度導入支援、研修、相談。事業場への訪問支援も無料 |
| ストレスチェック制度サポートダイヤル | 労働者健康安全機構 | 誰でも電話 | 0570-031050(平日10:00〜17:00、土日祝・年末年始を除く)。通話料は利用者負担 |
団体経由産業保健活動推進助成金の実際の金額
「費用の90%、上限500万円」という数字だけを見ると大きく感じるが、1社あたりで受け取れる額はまったく別の水準である。令和8年度の手引の逐語を確認してほしい。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 補助割合 | 助成対象経費の10分の9。ただし傘下の構成事業主に参加費等の費用負担を求める場合、その負担額によって助成金額が異なる |
| 支給上限額 | 1つの事業主団体等・特別加入団体(労災保険の特別加入者で構成される団体)あたり500万円。ただし都道府県事業主団体に該当する場合は1,000万円 |
| ストレスチェックの上限(50人未満の事業場に限る) | 60万円(都道府県事業主団体は120万円)。かつストレスチェックの実施は1人につき200円、集団分析は構成事業主1者につき3,000円 |
| 医師面接指導の上限 | 60万円(同120万円)。事業場を訪問して実施する場合の構成事業主1者当たり上限額は合計10万円 |
| 申請回数 | 1団体につき、年度ごとに1回限り |
| 申請手続 | 事業主団体が労働者健康安全機構に申請(jGrants=国の補助金電子申請システムを使用)。個々の企業は申請できない |
効くのは「1人につき200円」のほうである。 本記事の外部委託費用の相場(1人あたり300円〜1,000円)に照らすと、助成でカバーされるのは実費の2割(1人1,000円の場合)から7割弱(1人300円の場合)にとどまり、「90%が返ってくる」わけではない。上限500万円・1,000万円は団体全体の枠であって、1社に配分される額ではない。
地域産業保健センターの活用法
地域産業保健センター(地産保)は、50人未満の事業場を対象に無料の産業保健サービスを提供する公的機関である。厚生労働省は「地産保(全国350か所に設置)では、労働者数50人未満の小規模事業場を対象に、長時間労働者や高ストレス者に対する医師の面接指導等の産業保健サービスを無料で提供しています」と案内している。
| 提供サービス | 内容 | 費用 |
|---|---|---|
| 健康相談窓口 | 医師等による健康相談 | 無料 |
| 面接指導 | 高ストレス者に対する医師面接指導 | 無料 |
| 保健指導 | 保健師等による保健指導 | 無料 |
| メンタルヘルス相談 | メンタルヘルスに関する相談対応 | 無料 |
| 個別訪問支援 | 事業場への訪問による産業保健指導 | 無料 |
プライバシー保護と情報管理
50人未満事業場特有のプライバシーリスク
ストレスチェック制度において、結果の取扱いに関するプライバシー保護は最重要事項の一つである。特に50人未満の小規模事業場では、以下の理由からプライバシーリスクが高い。
| リスク要因 | 具体的な状況 | 対策 |
|---|---|---|
| 個人の特定が容易 | 従業員が少ないため、誰が高ストレスか推測されやすい | 外部委託により結果を事業場外で管理 |
| 実施事務従事者の確保が困難 | 人事権を持たない従業員がいない場合がある | 外部委託先に実施事務を一括委託 |
| 面接指導の申出が目立つ | 申出の事実自体が周囲に知られやすい | 面接指導の場所・時間を工夫(外部施設の利用等) |
| 集団分析のプライバシー | 集団が小さいと個人が特定される | 原則、受検者10人以上の集団で分析。下回る場合は全57項目の合計点の平均値や「仕事のストレス判定図」など個人が特定されない方法に限る(後述) |
法令上のプライバシー保護規定
| 規定 | 内容 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 結果の事業者への提供制限 | 検査を行った医師等は、あらかじめ本人の同意を得ないで、検査の結果を事業者に提供してはならない | 労働安全衛生法第66条の10第2項後段 |
| 同意の取得方法 | 同意は書面又は電磁的記録によらなければならない | 労働安全衛生規則第52条の13第1項 |
| 不利益取扱いの禁止 | 面接指導の申出をしたことを理由とする不利益取扱いの禁止 | 労働安全衛生法第66条の10第3項後段 |
| 受検しないことを理由とする不利益取扱い | ストレスチェックを受けないことを理由とする不利益取扱いも禁止 | ストレスチェック指針 |
| 実施事務従事者の守秘義務 | 検査の実施の事務に従事した者は、その実施に関して知り得た労働者の秘密を漏らしてはならない | 労働安全衛生法第105条(健康診断等に関する秘密の保持) |
| 実施事務からの除外 | 解雇・昇進・異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある者は、検査の実施の事務に従事してはならない | 労働安全衛生規則第52条の10第2項 |
| 検査結果の記録の保存 | 本人の同意を得て提供を受けた場合、事業者が記録を作成し5年間保存 | 労働安全衛生規則第52条の13第2項 |
| 記録の作成・保存事務の担保 | (同意がない場合)医師等による記録の作成、実施事務従事者による記録の保存が適切に行われるよう必要な措置を講じる | 労働安全衛生規則第52条の11 |
| 面接指導結果の記録の保存 | 事業者が記録を作成し5年間保存(本人同意の有無を問わない) | 労働安全衛生規則第52条の18第1項 |
| 心身の状態に関する情報の適正管理 | 健康確保に必要な範囲で収集し、目的の範囲内で保管・使用する。適正管理に必要な措置を講じる | 労働安全衛生法第104条 |
集団分析と職場環境改善
集団分析の意義と方法
ストレスチェックの集団分析は、個人結果を部署・職種等の集団単位で集計し、職場のストレス要因を把握するための手法である。労働安全衛生規則第52条の14に基づく努力義務で、事業場の規模を問わない(50人以上でも努力義務である)。
厚労省の周知資料は、制度の位置づけをこう説明している。
ストレスチェック制度」は、ストレスチェック(検査)のほか、集団分析・職場環境改善まで含めた一体的な仕組みです。
使用する調査票が国の「職業性ストレス簡易調査票」(57項目)または簡略版(23項目)であれば、「これに関して公開されている『仕事のストレス判定図』によることが適当」とマニュアルは述べている。
| 分析手法 | 内容 |
|---|---|
| 仕事のストレス判定図 | 仕事の量的負担・コントロール・上司の支援・同僚の支援の4軸で健康リスクを評価 |
| 部署別分析 | 部署ごとのストレス要因の比較 |
| 経年比較 | 前年度との比較による変化の把握。マニュアルは集団分析結果を事業者が5年間保存することが望ましいとしている |
「10人ルール」の正確な内容 — 10人未満でも打つ手はある
集団分析には人数の下限がある。ここは記事の読者が最も誤解しやすいところなので、厚労省の説明を正確に写す。
集団分析結果については、集計・分析の単位が 10 人を下回る場合には、個人が特定されるおそれがあることから、原則として集団分析結果の提供を受けてはいけません。
※ 集団分析の下限人数の「10 人」は、在籍労働者数ではなく、実際の受検者数(有効なデータ数)でカウントする必要があります。
数えるのは在籍者ではなく受検者である。 12人の職場でも、受検が8人なら10人を下回る。
そして重要なのは、10人を下回っても集団分析を諦める必要はないという点である。厚労省のリーフレットは、個人が特定されるおそれのない方法として2つを例示している。
※ 10人を下回る場合でも、以下の例のような個人が特定されるおそれのない方法により、集団分析を実施することが可能です。
・ ストレスチェック調査票の全57項目の合計点について集団の平均値を求める方法
・ 「仕事のストレス判定図」を用いて分析する方法
(ただし、これらの方法であっても、極端に少人数の場合は個人の特定につながるため不適切)
※ 特に、事業場自体が小規模の場合には、10人以上のより大きな集団を構成するよう工夫した上で、集団分析を実施するようにしてください。
つまり「仕事のストレス判定図」は、10人を下回る場合に使える側の手法である。部署別に割らず事業場全体を1つの集団として扱う、といった工夫が先に来る。
2027年4月1日から施行される省令改正
集団分析の条文が改正される。労働安全衛生規則の一部を改正する省令(令和8年厚生労働省令第112号・令和8年6月30日公布・令和9年4月1日施行)により、第52条の14第1項に文言が追加される。
第52条の14 事業者は、検査を行つた場合は、当該検査を行つた医師等に、当該検査の結果を当該事業場の当該部署に所属する労働者の集団その他の一定規模の集団ごとに、特定の個人を識別することができない方法で、集計させ、その結果について分析させるよう努めなければならない。
施行通達(令和8年6月30日付け基発0630第2号)は、この改正の性格をこう説明している。
これは、集団分析については、個々の労働者が特定できないことを前提とする従来の解釈を明文化した趣旨であること。…従来の運用に変更を加えるものではないこと。
なお、特定の個人が識別可能な方法により集団分析を行うことは、本改正に基づく集団分析の実施の努力義務を履行したことにならないことはもとより、労働者のプライバシー保護の観点から許容されない趣旨であること。
やることが増える改正ではない。 ただし「個人が識別できる形で分析したら、努力義務を果たしたことにならない」と明文で言われた点は押さえておきたい。委託先との契約書や社内ルールに集団分析の方法を書いているなら、この文言に照らして確認しておくとよい。
集団分析結果の活用例
| ストレス要因 | 対策例 | 期待効果 |
|---|---|---|
| 仕事の量的負担が高い | 業務分担の見直し、人員補充の検討 | 過重労働の軽減 |
| 仕事のコントロールが低い | 裁量権の拡大、業務手順の柔軟化 | 自律性の向上 |
| 上司のサポートが低い | 管理職研修(ラインケア)の実施 | コミュニケーション改善。障害者雇用率引上げに伴い精神障害者を雇用する職場ではラインケア研修が特に重要 |
| 同僚のサポートが低い | チーム体制の見直し、定例ミーティングの実施 | 孤立の防止 |
今すぐやること:ストレスチェック義務化対応チェックリスト
施行日は2028年4月1日で確定している。本記事の最終更新時点(2026年9月)から逆算した工程が以下である。
Phase 1:現状把握・方針決定(2026年度中)
- 厚労省のマニュアルとスタートガイドを入手する(経営者/実務担当者):マニュアル本体は2026年2月25日に公表済み。まず4ページの概要版(スタートガイド。令和8年3月付)から読む。モデル社内ルール例・モデル社内規程例のWordファイルも「労働者数50人未満の小規模事業者の方」ページから無料でダウンロードでき、加工して使ってよいと明記されている
- 自社の人数を2通りで数える(経営者):①ストレスチェックの対象者(契約1年以上かつ週の労働時間が通常の労働者の4分の3以上)と、②労基署報告の要否を決める「常時使用している労働者」(短時間のパート・アルバイト、受け入れている派遣労働者も含む)。②が50人以上なら報告義務が発生する。複数拠点があるなら事業場(場所)ごとに数える
- 実務担当者を決める(経営者):衛生推進者または安全衛生推進者(10人未満の事業場では事業者自身)。健康情報を扱わない立場なので、人事権のある人でも構わない
- 地域産業保健センターに連絡する(経営者/実務担当者):全国350か所。無料の医師面接指導の内容と、申込みの手順を確認しておく。判断に迷う点はストレスチェック制度サポートダイヤル(0570-031050、平日10:00〜17:00)でも相談できる
- 加盟する事業主団体に助成金を提案する(経営者):商工会議所・協同組合・業種別団体に「団体経由産業保健活動推進助成金」による団体実施を打診する。受付は年度当初の1か月程度で締め切られる(2026年度は6月10日開始・7月10日終了)ため、年度が替わる前に話を通しておく
Phase 2:委託先選定・社内ルール整備(2027年度前半)
- 外部機関に「サービス内容事前説明書」を作らせて比較する(実務担当者):複数社から取得し、実施者が誰か、どこまでが標準サービスでどこからがオプションか、医師の面接指導をどこに依頼するかを突き合わせる
- 社内ルールを作成し周知する(経営者/実務担当者):厚労省のモデル例をベースに、実施時期・調査票・実施者・結果の取扱い・高ストレス者対応・面接指導の申出窓口と申出方法・不利益取扱いの禁止を明文化する
- 労働者の意見を聴く(経営者/実務担当者):衛生委員会がない代わりに、実施体制・実施方法について労働者の意見を聴く手順を踏む。衛生推進者等を中心に行うことが望ましいとされている
- 集団分析の単位を設計する(実務担当者):受検者が10人以上になる集団の切り方を先に決める。下回る見込みなら、事業場全体を1つの集団にする、全57項目の合計点の平均値や「仕事のストレス判定図」を使う、といった方法を委託先と合意しておく
Phase 3:トライアル実施・本格運用(2027年度後半〜2028年度)
- トライアルとして1回実施する(実務担当者):受検率、高ストレス者への申出勧奨の伝え方、面接指導の依頼から実施までの日数、集団分析の出力内容を検証する
- 従業員へ説明する(経営者/実務担当者):目的が「メンタルヘルス不調の未然防止であって不調者の発見ではない」こと、個人結果は会社に来ないこと、受検義務はないこと、面接指導を申し出た事実と結果は会社に伝わること、申出を理由に不利益は生じないことを文書で伝える。厚労省のマニュアルに方針表明のモデル文がある
- 2028年4月1日以降の年1回実施体制を確立する(実務担当者):実施月を固定し、委託先と年間契約を結ぶ。面接指導結果の記録は事業者が5年間保存する
FAQ
2028年(令和10年)4月1日である。施行日はすでに確定している。 改正労働安全衛生法(令和7年法律第33号)は2025年5月14日に公布され、当初は「公布後3年以内に政令で定める日」とされていたが、厚生労働省は2026年6月10日に「令和10年4月1日から小規模事業場においてもストレスチェックが義務になります」と告知した。厚労省の総合ページ、小規模事業場向けマニュアルの概要版(令和8年3月)、周知用リーフレット(令和8年6月)のいずれにも同じ日付が記載されており、e-Gov法令検索でも2028年4月1日施行の条文が参照できる。「まだ施行日が決まっていない」と書いている解説は情報が古い。
産業医の選任は不要である。労働安全衛生法上、産業医の選任義務は従来どおり50人以上の事業場に限られる。ただし、高ストレス者が面接指導を申し出た場合に対応する医師の確保は必要であり、地域産業保健センター(無料)の活用や、外部委託先のパッケージに含まれる医師面接サービスを利用する方法がある。
外部委託の場合、1人あたり300円〜1,000円(質問票の実施・判定・通知)に加え、事業場単位の基本料金20,000円〜100,000円が目安である(2026年9月時点の相場感)。高ストレス者への医師面接指導は1人あたり10,000円〜50,000円が別途かかる。ただし地域産業保健センターを利用すれば面接指導は無料である。なお比較の際は、実施体制・実施事務経費・システム提供・データ保管といった実施に不可分の費用が表示料金に含まれているかを必ず確認すること。これらが別料金になっていると、表示価格の安さは意味を持たない。
対象となる。2028年4月1日以降、事業場の規模にかかわらず実施義務が生じる。産業医の選任や労基署への報告は対象外だが、これは免除ではなく、それぞれの条文がもともと50人以上を対象にしているためである。10人未満の事業場では衛生推進者・安全衛生推進者の選任義務もないため、厚労省マニュアルは「事業者自らが…事業場内の実務を担うことが考えられます」としている。集団分析については、受検者が10人を下回る場合、原則として分析結果の提供を受けてはならない。ただし全57項目の合計点の集団平均値を求める方法や「仕事のストレス判定図」を用いる方法であれば実施可能とされている。
本人の同意なく事業主が個人結果を見ることはできない。 労働安全衛生法第66条の10第2項後段が「当該医師等は、あらかじめ当該検査を受けた労働者の同意を得ないで、当該労働者の検査の結果を事業者に提供してはならない」と定めており、同意は書面または電磁的記録によらなければならない(規則第52条の13第1項)。厚労省マニュアルも「事業者が個人結果の提供を受けることは基本的にありません」としている。ただし面接指導については別である。本人が申し出た事実と面接指導の結果は事業者に伝わる。就業上の措置を講じる前提として必要だからであり、マニュアルはこの点を本人へあらかじめ通知しておくよう求めている。
個々の企業が直接申請できる助成金は現在ない。 使えるのは、商工会議所・協同組合・業種別団体などの事業主団体が申請する「団体経由産業保健活動推進助成金」である。助成率は助成対象経費の10分の9、支給上限は1団体あたり500万円(都道府県事業主団体は1,000万円)だが、これは団体全体の枠であって1社あたりの額ではない。1社に効いてくる上限は「ストレスチェックの実施は1人につき200円」「集団分析は構成事業主1者につき3,000円」「事業場を訪問して行う医師面接指導は構成事業主1者当たり合計10万円」である。実費の90%が戻るわけではない点に注意してほしい。なお2026年度分は2026年6月10日に受付を開始し、予算上限に達したため同年7月10日で受付を終了している。申請するのは団体なので、翌年度に使いたければ年度が替わる前に団体側へ働きかける必要がある。地域産業保健センターの医師面接指導は、助成金とは無関係に無料で利用できる。
面接指導は本人の申出に基づいて実施されるものであり、強制はできない。そもそもストレスチェックの受検自体に労働者の義務はない(一般定期健康診断と異なる点である)。面接指導を希望しないことを理由とする不利益取扱いも禁止されている。実務的には、(1)実施者から本人に対して面接指導の必要性を丁寧に説明する、(2)面接指導の申出窓口以外の相談できる窓口を情報提供する、(3)セルフケアに関する情報提供を行う、といった対応になる。厚労省マニュアルは(2)について「面接指導以外の相談できる窓口についても、情報提供することが望まれます」とし、厚労省が運営するポータルサイト「こころの耳」の相談窓口(電話・メール・SNS)を挙げている。誰でも無料で利用できる。なお勧奨を行うのは事業者ではなく実施者である(本文「高ストレス者の判定基準」参照)。
確認が必要である。 ストレスチェックの対象者の数え方と、労基署報告の要否を決める「常時使用している労働者」の数え方は違う。厚労省マニュアルは注意を促している。報告の要否の基準となる「常時使用している労働者」は、「契約期間や週の労働時間によるのではなく、常態として使用されているかどうかで判断」し、「労働時間数が短いアルバイトやパートタイム労働者、派遣先の派遣労働者であっても、継続して雇用し常態として使用していれば、カウントに含める必要があります」とされている。その結果、「『ストレスチェックの対象者』が50人未満であっても、『常時使用している労働者』が50人以上となり、労働基準監督署への報告が必要となる場合があります」。なお「事業場」は場所の単位で数えるので、同一企業でも拠点が分かれていれば別々に判定する。
免責事項
本記事は、2026年9月時点で公開されている法令・通知・公表資料に基づき作成した一般的な解説記事である。50人未満の事業場への実施義務化の施行日(2028年4月1日)は確定しているが、施行に向けて関係省令・指針がさらに改正される可能性はある。外部委託の費用相場は民間の提供条件であり、時点や事業者により変動する。助成金の助成率・上限額・受付期間は年度ごとに変わるため、申請前に独立行政法人労働者健康安全機構の最新の手引で必ず確認されたい。本文中に「本記事による計算」と明示した全事業所ベースの実施率は、厚生労働省が公表している2つの値を掛け合わせた試算であり、厚労省の公表値ではない。ストレスチェックの実施・運用にあたっては、最新の法令・指針及び所轄の労働基準監督署の指導を確認されたい。本記事の内容に基づく実施・運用により生じた損害について、筆者及び運営者は一切の責任を負わない。個別の事案については、社会保険労務士や産業医等の専門家に相談されることを推奨する。
参考文献・法令等
- 労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第66条の10・第104条・第105条・附則第4条
https://laws.e-gov.go.jp/law/347AC0000000057 - 労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号・2025年5月14日公布)
- 労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)第52条の9〜第52条の21
https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000032 - 労働安全衛生規則の一部を改正する省令(令和8年厚生労働省令第112号・令和8年6月30日公布・令和9年4月1日施行)/同省令の施行について(令和8年6月30日付け基発0630第2号)
https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/001716818.pdf - 厚生労働省「ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/index.html - 厚生労働省「労働者数50人未満の小規模事業者の方」(マニュアル・スタートガイド・モデル規程例)
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https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/001678866.pdf - 厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」スタートガイド(令和8年3月)
https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/001678875.pdf - 厚生労働省「ストレスチェックの『集団分析』を適切に実施しましょう!」(令和8年7月)
https://www.mhlw.go.jp/content/001725894.pdf - 厚生労働省「労働者数50人未満の事業者もストレスチェックが義務になります!」(令和8年6月)
https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/001679776.pdf - 厚生労働省「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/dl/stress-check_j.pdf - 厚生労働省「心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」(平成27年4月15日 心理的な負担の程度を把握するための検査等指針公示第1号)
- 厚生労働省「令和7年度『過労死等の労災補償状況』を公表します」(2026年7月15日公表)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_74476.html - 厚生労働省「令和6年度『過労死等の労災補償状況』を公表します」(2025年6月25日公表)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_59039.html - 厚生労働省「令和7年 労働安全衛生調査(実態調査)結果の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/r07-46-50_gaikyo.pdf - 厚生労働省「第14次労働災害防止計画」(令和5年3月)
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001116307.pdf - 厚生労働省「ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会 中間とりまとめ」(令和6年11月1日公表)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44880.html - 独立行政法人労働者健康安全機構「団体経由産業保健活動推進助成金」
https://www.johas.go.jp/occ-health/subsidy/ - 独立行政法人労働者健康安全機構「令和8年度 団体経由産業保健活動推進助成金の手引」
https://www.johas.go.jp/wp-content/uploads/2026/06/0615org_josei_tebiki_R8-1.pdf - 独立行政法人労働者健康安全機構「地域産業保健センター」
https://www.johas.go.jp/occ-health/regional-occ-health-centers/ - 厚生労働省「こころの耳」(働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト)
https://kokoro.mhlw.go.jp/
