最終更新日: 2026年10月8日(会議の経緯は第6回・2026年9月16日までを反映)
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– 純資産価額方式と事業承継税制の併用実務2026|評価差額38%控除・特例期限まで — 純資産価額方式(会社の資産・負債を時価で洗い替える方法)と事業承継税制の併用設計
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国税庁は2026年4月20日から「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」を開き、2026年9月16日の第6回までに、非上場株式の相続税評価を「規模別の区分を廃止し、残余利益方式(会社の帳簿上の純資産に、数年分の「通常期待される利益を上回る利益」を加える計算方法)を原則とする」方向の見直し案と、その試算を公表している。ただし、これは国税庁が示した案であり、決まった制度ではない。第5回の資料には「最終的には税制改正プロセスにおいて決定いただく」と明記されている。国税庁、日本商工会議所(日商)、経済産業省・中小企業庁は、この案について異なる見方を示している。本記事は、2026年10月8日時点で国税庁のウェブサイトに公表されている資料に基づき、決まったこと・案として出ていること・まだ決まっていないことを分けて整理する。
【早わかり表】決まったこと・案・未定
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 現行ルールとして適用中 | 類似業種比準方式・純資産価額方式・配当還元方式の3方式。純資産価額方式の法人税等相当率は、令和8年(2026年)4月1日以後に取得する株式等から38% |
| 国税庁のたたき台(議論中) | 規模別の区分を廃止して評価方式を原則一本化/原則的評価方式に残余利益方式を採用/純資産価額方式は「特定の評価会社」用に位置付け直し/配当還元方式は対象株主を絞る/残余利益の加算期間は5年程度/帳簿は法人税申告書をベースにする |
| 未定 | 還元率・しんしゃく率の水準、純資産価額方式の算式、配当還元方式の算式と対象株主、評価水準と税負担のあり方、施行時期。第4回に座長が「現時点で評価方式を一本化するであるとか、類似業種方式を廃止するといった合意はない」と述べている |
| 事業承継税制(現行) | 特例措置の適用期限は令和9年(2027年)12月31日、特例承継計画の提出期限は令和9年9月30日。経産省は令和9年度税制改正要望で「抜本見直し」を要望している(要望であり、決定ではない) |
有識者会議はここまで進んでいる(第1〜6回)
国税庁の開催案内(2026年4月16日公表)は、開催の趣旨を次のように述べている。
「今般、国税庁では、検査院の指摘も踏まえ、取引相場のない株式の相続税評価について、相続税法の時価主義の下、適正な評価制度の在り方を検討するため、有識者会議を開催します。」
委員は13名で、日本商工会議所、日本税理士会連合会、大学の研究者、M&A仲介会社の役員などで構成される。オブザーバーとして中小企業庁と全国商工会連合会が参加している(国税庁公表の委員名簿による)。座長は第1回で選出された。
| 回 | 開催日 | 主な内容(国税庁の議事要旨・資料から) |
|---|---|---|
| 第1回 | 2026年4月20日 | 座長選出。現行通達の問題点の議論。国税庁が会計検査院と同じ条件で行った実態把握(691社)の説明 |
| 第2回 | 2026年5月11日 | 相続税法22条の「時価」の意味、会社法上の考え方、M&A実務の評価方法の説明 |
| 第3回 | 2026年6月4日 | 日商・日本税理士会連合会・大学研究者の委員による説明。残余利益モデルの紹介 |
| 第4回 | 2026年7月3日 | 国税庁が「全体として相続税の増税を目的で行うものではない」と回答。たたき台を第5回に示す旨を予告 |
| 第5回 | 2026年8月20日 | 国税庁のたたき台(骨子)を提示。日商が国税庁案への試算を説明 |
| 第6回 | 2026年9月16日 | 残余利益方式の各論と、申告データ1,378社を使った試算を提示。日商、経産省・中小企業庁が意見書を提出 |
2026年10月8日時点で、国税庁の一覧ページに第7回の開催は掲載されておらず、第6回の議事要旨は「作成中」である。第7回以降の想定論点は後述する。
なぜ見直すのか
会計検査院の指摘と、国税庁の追試
背景の一つは、会計検査院の令和5年度決算検査報告である。令和2・3両年分の相続税・贈与税の申告から無作為に抽出した計1,600件を検査し、純資産価額に対する申告評価額の割合(中央値)が、大会社0.32倍、中会社0.50倍、小会社0.61倍と、規模が大きい区分ほど低く算定される傾向を指摘した。
国税庁は第1回の資料で、会計検査院と同じ条件の追試(691社)の結果を示している。
| 会社規模 | 会計検査院 | 国税庁の追試(691社) |
|---|---|---|
| 大会社 | 0.32倍 | 0.44倍 |
| 中会社 | 0.50倍 | 0.50倍 |
| 小会社 | 0.61倍 | 0.60倍 |
大会社の数値だけ差があるが、規模が大きく、類似業種比準方式の適用割合が高い区分ほど申告評価額が相対的に低く算定される、という傾向は、両者で同じである。
国税庁が整理した「評価額圧縮スキーム」の4類型
第5回の資料で、国税庁は現行の評価体系が租税回避(税負担を不当に減らす行為)に使われている例として、次の4類型を挙げた。経産省・中小企業庁は第6回の意見書で、このうち会社規模を恣意的に変えるスキームを国税庁が過去10年間で14件確認したとされている、と述べている。
| 類型 | 国税庁資料の説明 | 見直しの方向(案) |
|---|---|---|
| ① 会社規模の操作 | 大会社ほど評価額が低くなるため、意図的に規模を操作する | 規模によらず単一の評価方式にする |
| ② 利益等の操作 | オペレーティング・リース、役員報酬、役員退職金などで利益を一時的に操作する | 非経常的な損益を除いた「正常利益」で評価する |
| ③ グループ法人税制の利用 | 完全支配関係のある子会社へ資産を移し、親会社単体の評価額を下げる | グループ全体で評価する |
| ④ 配当還元方式の濫用 | 株主構成や議決権割合を操作し、配当還元方式だけを適用する。資料は「評価額を90%以上圧縮するスキームも可能」とし、株主構成の操作では「企業価値の総額から最大で約98%もの評価額圧縮を行う事例も存在」と記載 | 配当還元方式の対象株主の範囲を整理する |
現行ルールのおさらい
見直し案を読むには、現行の3方式の構造を知っておく必要がある。非上場株式(取引相場のない株式)は、財産評価基本通達に基づき、会社の規模と株主の区分に応じて評価される。
| 会社規模 | 原則的評価方式(同族株主等が取得する場合) |
|---|---|
| 大会社 | 類似業種比準方式(純資産価額方式を選択可) |
| 中会社(大) | 類似業種比準方式0.9:純資産価額方式0.1の併用(純資産価額方式を選択可) |
| 中会社(中) | 類似業種比準方式0.75:純資産価額方式0.25の併用(同上) |
| 中会社(小) | 類似業種比準方式0.6:純資産価額方式0.4の併用(同上) |
| 小会社 | 純資産価額方式(類似業種比準方式0.5:純資産価額方式0.5の併用も選択可) |
出典: 国税庁 第5回会議 骨子(05kijoshiryo_kabukaigi.pdf)2ページ。配当目的で少数の株式を持つ株主には、特例的評価方式として配当還元方式が適用される。
類似業種比準方式は、同業の上場会社の株価に、配当・利益・純資産(簿価)の3要素の比を掛けて計算し、さらに斟酌率(しんしゃくりつ。評価の安全性を見込んで割り引く係数)を掛ける。斟酌率は大会社0.7、中会社0.6、小会社0.5である。
純資産価額方式は、会社の資産・負債を相続税評価額に洗い替え、含み益(相続税評価額と帳簿価額の差)に法人税等相当率を掛けた額を差し引いて計算する。この法人税等相当率は、令和7年度税制改正で防衛特別法人税が創設されたことに伴う評価通達186-2の改正により、37%から38%になった。令和8年(2026年)4月1日以後に相続・遺贈・贈与で取得した株式等の評価に適用される(国税庁「取引相場のない株式等の評価(純資産価額方式における法人税額等相当額)」)。
配当還元方式は、年配当金額を10%で還元(割り戻して評価)する。算式は「年配当金額 ÷ 10% × 1株当たりの資本金等の額 ÷ 50円」で、1株当たりの資本金等の額が50円の場合の年配当金額は2円50銭を下限とする。
特定の評価会社には、比準要素数1の会社、3要素がすべて0の会社、株式等保有特定会社(株式等が総資産の50%以上)、土地保有特定会社(大会社70%以上・中会社90%以上)、開業後3年未満の会社、開業前または休眠中の会社、清算中の会社がある。これらは原則として純資産価額方式で評価する。詳細は特定の評価会社と株特ルール2026で整理している。
なお、令和8年度税制改正では貸付用不動産などの評価方法の見直しも決まっている(2027年1月1日以後の相続・贈与から適用)。内容は令和8年度税制改正|相続税・贈与税の全改正点と実務対応で解説している。相続税そのものの基礎控除・税率・申告期限は相続税の基礎控除・税率・計算ステップと申告期限の完全ガイドを参照されたい。
国税庁のたたき台(第5回・2026年8月20日)
第5回に配付された「取引相場のない株式の評価の見直し(骨子)」は、次の4本柱で「抜本的に評価体系の見直しを行うことが考えられる」とした。冒頭には「評価水準・税負担の在り方等も含め、最終的には税制改正プロセスにおいて決定いただく」との断りがある。
| 柱 | 骨子の内容 |
|---|---|
| その1 | 規模に応じた評価体系の廃止と評価方式の一本化。類似業種比準方式と純資産価額方式に基づく評価体系を廃止し、評価方式を原則一本化する |
| その2 | 株式の評価は企業価値総額を前提とする。上場会社との比較で1株の価格を出すのではなく、会社全体の価値から株式を評価する |
| その3 | 原則的評価方式としてインカムアプローチ(会社が将来生む収益に着目する評価の考え方)を導入し、そのうち「残余利益モデル」を採用する |
| その4 | 純資産価額方式と配当還元方式を見直す |
第5回の資料は、類似業種比準方式について「理論的な根拠や実証的な裏付けがなく」「存置することは困難ではないか?」と問い掛けている。一方、第4回の議事要旨では、国税庁は「類似業種比準方式を廃止するということを現時点で決定しているわけではない」と述べている。
残余利益方式のイメージ
残余利益方式の評価額は、「企業の保有資産(帳簿上の純資産)」に「数年分の超過収益(マイナスの場合を含む)」を加減して求める。超過収益とは、株主が通常期待する利益を上回る金額である。資料は次のように説明する。
- 保有資産は、時価ではなく、売却を前提としない継続企業の帳簿価額(簿価)を使う。時価への洗い替えは不要
- 赤字または低収益の会社は、簿価純資産より低い評価額になる
- 株主の期待収益率(還元率)は、上場株式の平均期待収益率などを参考に、CAPM(資本資産価格モデル。株式に期待される収益率を理論的に求める方法)で算定してはどうか、としている
純資産価額方式と配当還元方式の位置付け
- 純資産価額方式: 原則的評価方式ではなく、「特定の評価会社」の評価方式として位置付ける案。議決権割合50%以下の同族株主グループの株主等が持つ株式に認められている20%の評価減は、「廃止せざるを得ないのではないか」とされた
- 配当還元方式: 「特別の例外的措置」として存置したうえで、対象株主の範囲を見直す案。同族関係者の範囲を配偶者・直系血族・兄弟姉妹・1親等の姻族(配偶者の親など、婚姻によってできた親族)に狭めることなどが課題として挙げられた
第6回(2026年9月16日)で具体化された論点と試算
第6回の国税庁資料は、残余利益方式の各論を示した。いずれも「してはどうか」という提案の形で、確定ではない。
| 論点 | 国税庁資料の提案 |
|---|---|
| 使う帳簿 | 会計処理の違いで評価額に差が出ないよう、全企業が統一基準で作る法人税申告書をベースにする |
| 加算期間 | 超過収益を足し込む期間は「5年程度」。将来の予測利益は課税時期前5年の正常利益から算出する |
| 6年目以降 | 過小評価の可能性はあるが、安全性を考慮して加算しない(ターミナルバリューを加えない) |
| しんしゃく率 | 算式の末尾に掛ける。水準は「次回以降の会議」で議論する |
| オペレーティング・リース | 課税時期に存在するリースが「なかったものとした状態」に引き直して評価する |
| 親族である役員の報酬 | 経営の対価を上回る部分について、一定の割合を損金から控除して正常利益を計算する |
| 一時的な役員退職金 | 正常利益の計算では損金から控除する。純資産の修正はしない |
| 完全支配関係のある子会社の株式 | 簿価ではなく適正な価額に修正して親会社の評価額に反映する |
| 従業員持株会の株式 | 固定価格で取得・精算される株式は、一定の要件を満たす場合に固定価格で評価する |
| 資産管理会社 | 純資産価額方式で評価する。判定は「特定資産の帳簿価額÷総資産の帳簿価額が70%以上」または「特定資産の運用収入÷総収入金額が75%以上」のいずれかを基準とする案で、時価への洗い替えはせず帳簿価額で行う |
資産管理会社の基準は、事業承継税制の対象から除かれる「資産保有型会社」「資産運用型会社」を参考にしたものである。資料はあわせて、事業活動に必要な現金預貯金(運転資金)を特定資産から除くことや、不動産賃貸業など事業実態のある会社をどう区別するかを検討課題としている。
「特定の評価会社」として純資産価額方式などで評価する類型として、資料は、資産管理会社、組織再編直後の会社、開業後5年未満の会社、開業前の会社、休業中の会社、清算中の会社を挙げている。
国税庁の計算例
第6回の資料には、加算期間5年の計算例がある。前提は、年利益(税引後)1,000万円、年配当200万円、直前期末の純資産価額1億円、還元率8%(仮定)、しんしゃく率0.8(仮定)である。この場合の評価額は82,613,654円とされている。純資産価額(1億円)の約0.83倍である。残余利益を足し込んだ額に、最後にしんしゃく率0.8を掛けるため、年利益が純資産の10%(還元率8%を上回る水準)でも、評価額が簿価純資産を下回りうることを示す例である。資料にはこのほか、年利益500万円・年配当100万円で同じ前提とする計算例②(評価額68,530,155円)もある。
申告データ1,378社を使った試算
国税庁は、令和2年分から5年分の相続税・贈与税の申告のうち、非上場株式がある申告から無作為に抽出し、類似業種比準価額と純資産価額の両方を算出している1,378社について、残余利益方式の評価額を試算した。前提は「加算期間5年・還元率8%」の仮置きで、完全子会社株式の修正など個別の調整は考慮していない。数値は各区分の中央値である。
表1 純資産価額を100とした場合の評価額の水準(中央値)
| 区分(社数) | ROE(自己資本利益率。純資産に対する利益の割合)の中央値 | 現行 | しんしゃく率1.0 | 0.9 | 0.8 | 0.7 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 全体(1,378社) | 1.8% | 58.2 | 71.6 | 64.4 | 57.3 | 50.1 |
| 大会社(128社) | 3.9% | 38.2 | 79.8 | 71.8 | 63.8 | 55.8 |
| 中会社(820社) | 2.1% | 53.4 | 74.0 | 66.5 | 59.2 | 51.7 |
| 小会社(430社) | 0.6% | 63.8 | 63.2 | 56.8 | 50.5 | 44.2 |
表2 現行の申告評価額の中央値を100とした場合の増減(中央値)
| 区分 | しんしゃく率1.0 | 0.9 | 0.8 | 0.7 |
|---|---|---|---|---|
| 全体 | +28.1% | +15.2% | +2.3% | ▲10.4% |
| 大会社 | +114.7% | +93.2% | +71.7% | +50.3% |
| 中会社 | +40.2% | +26.1% | +12.1% | ▲1.9% |
| 小会社 | ▲1.9% | ▲12.0% | ▲21.8% | ▲31.6% |
表3 現行の申告評価額以下になる会社の割合
| 区分 | しんしゃく率1.0 | 0.9 | 0.8 | 0.7 |
|---|---|---|---|---|
| 全体 | 33.1% | 40.2% | 48.6% | 57.3% |
| 大会社 | 16.4% | 21.1% | 24.2% | 28.1% |
| 中会社 | 26.5% | 33.5% | 42.2% | 50.9% |
| 小会社 | 50.7% | 58.6% | 67.9% | 78.4% |
出典: 国税庁 第6回会議 資料(06shiryo_kabukaigi.pdf)9・10ページ(資料に印字されたページ番号。PDFファイル上では10・11枚目)。
表の読み方は次のとおりである。しんしゃく率を重く見込むほど(数字が小さいほど)、評価額は下がる。小会社は、どのしんしゃく率でも中央値でみて現行以下になりやすい。大会社は、しんしゃく率0.7でも中央値で現行より50.3%高く、現行以下になる会社は28.1%にとどまる。国税庁資料は、しんしゃく率0.8で大会社の水準が現行の小会社の水準(63.8)とほぼ同程度になる、と整理している。なお、これは国税庁が仮置きした前提での中央値であり、個々の会社の評価額は資産構成や収益力によって大きく異なる。
「増税か」をめぐる3者の見方
この見直し案が増税になるかどうかについて、公表資料から読み取れる立場は次のとおりで、記事としてはどれが正しいかを断定しない。
| 立場 | 主張(出典) |
|---|---|
| 国税庁 | 評価方法の適正化が目的で、「全体として相続税の増税を目的で行うものではない」(第4回)。試算では、小会社や赤字・低収益の会社を中心に評価額が下がる会社も存在する。高い収益率で純資産が積み上がる会社の評価額が上がるのは、類似業種比準方式でも同様であり、負担軽減を図るなら事業承継税制があるのではないか(第5回の回答) |
| 日本商工会議所 | 国税庁の試算では、最も有利な設定(しんしゃく率0.7)でも「大会社の約7割、全体でも4割超の企業が、現行方式より評価額が上昇する結果となり、相当数の企業にとって明確な増税となることが明らかにされた」。日商の試算では個社によって評価額の上昇幅は2〜5倍になる(第5回・第6回の意見)。評価と税負担の議論は一体で行うべきで、残余利益方式による評価体系の抜本的な変更に反対する立場 |
| 経済産業省・中小企業庁 | 会計検査院は現行の類似業種比準方式そのものが不適切とまでは指摘していない。恣意的な規模変更スキームが過去10年で14件であることへの対処は、まず現行方式の枠内でとりうる対応策から検討する余地がある。見直しは税収増加を目的としたものではないと説明されているが、業種や経営状況別の影響の試算を示し、丁寧に検証・議論すべき(第6回の意見) |
読むうえでの注意点が3つある。
- 日商の「約7割」「4割超」は、国税庁の表3から日商が読み取った数字である。 国税庁の資料に「上昇する会社の割合」は直接書かれていない。表3の「現行以下」の割合から逆算すると、しんしゃく率0.7では大会社の約72%、全体の約43%になり、日商の読みと整合する。ただし「以下」には評価額が同じ会社も含むため、これは概算である
- 日商の「2〜5倍」は、日商が一定の仮定(収益性の加算5年分・還元率8%・しんしゃく率0.7)を置いて、統計調査と実在企業50社の情報から作った仮想企業2万社などを使って行った試算である。 国税庁の試算ではなく、国税庁による検証も資料には示されていない
- 国税庁の試算は中央値であり、個社の影響を示すものではない。 経産省・中小企業庁は、第6回の国税庁資料の分析は企業規模別の中央値を示すにとどまり、影響の把握としては不十分と指摘している
還元率としんしゃく率はどうなるか
残余利益方式で評価額を大きく左右するのが、還元率(株主が通常期待する収益率)としんしゃく率である。どちらも未定である。
- 第6回の試算の還元率8%は、国税庁が仮置きした値である。第5回の資料は、還元率を上場株式の平均期待収益率などを参考にCAPMで算定してはどうか、と提案している
- 第3回の議事要旨によると、大学研究者の委員は、市場平均の投資収益率が直近10年で平均9.05%、直近20年で平均5.58%になると説明し、直近10年でみれば現行の配当還元方式の還元率10%はそれほど高くないのではないか、と述べている
- 第7回以降の想定論点には「還元率の算出方法」(一律とすることの是非、上場と非上場の差)が挙がっている
- しんしゃく率は、第6回の資料が「次回以降の会議」で還元率の考え方と併せて議論するとしている。表1〜3が示すとおり、しんしゃく率の水準で結果が大きく変わる
まだ決まっていないこと
第7回以降の想定論点
第6回の資料は、第7回会議以降の想定論点として次を挙げている。
- 純資産価額方式: 計算方法の簡便化/法人が3年以内に取得した不動産の取扱い/退職給付引当金等の取扱い/法人税額等相当額の控除とその対象範囲/議決権割合50%以下の同族株主グループの評価減/特定の評価会社の区分により異なる評価方法
- 還元率: 算出方法、一律とすることの是非、上場と非上場の差(所有と経営の一致の考慮を含む)
- 配当還元方式(少数株主): 存置の意義、適用される株主の範囲、算式の簡便化、原則的評価方式との評価額の乖離への対応
時期の見通し
国税庁の公表資料から確認できる時期の記載は次の2点である。
- 第4回の議事要旨: 「今回の見直しは税制改正プロセスを経て行うことになることから、今秋を目途に一定の方向性をお示しできるよう進めてまいりたい」
- 第5回の骨子: 評価水準・税負担の在り方等を含め、「最終的には税制改正プロセスにおいて決定いただく」
経産省・中小企業庁は、令和9年度税制改正要望で「取引相場のない株式の評価方式に関する見直し(相続税・贈与税)」について、企業の成長や事業承継を阻害しないよう慎重な検討が必要、との要望を出している。施行時期や適用開始日は、2026年10月8日時点の国税庁の公表資料には記載がない。 税制改正の日程は今後の公表を待つ必要がある。
事業承継税制との関係
評価ルールの見直しとは別に、法人版事業承継税制(非上場株式等の贈与税・相続税の納税猶予制度)の特例措置には期限がある。国税庁タックスアンサー No.4148 による現行の期限は次のとおりである。
| 項目 | 期間・期限 |
|---|---|
| 特例承継計画の提出 | 平成30年4月1日から令和9年(2027年)9月30日まで |
| 特例措置の適用(相続等・贈与) | 平成30年1月1日から令和9年(2027年)12月31日まで |
経産省・中小企業庁は令和9年度税制改正要望で、「事業承継税制の抜本見直し」を要望している。要望書には、10年間の時限的措置が期限を迎えることに伴い、「稼ぐ力」強化に取り組む中小企業等を後押しする措置へ抜本的に見直し・強化を行う、との趣旨が書かれ、適用期間は「検討中」とされている。これは要望であり、期限の延長や見直しが決まったわけではない。
評価と税負担の関係については、立場が分かれている。国税庁は第5回の回答で、円滑な事業承継の観点から負担を軽減するなら事業承継税制があるのではないか、との考えを示した。これに対し日商は評価と税負担の議論は一体で考えるべきと述べ、経産省・中小企業庁は、事業承継税制は中堅企業が対象外で、中小企業でも長期の管理コストなどで活用できる者が限られる実態を踏まえるべきと述べている。
今できる備え
見直し案が確定していない段階で、評価額を下げること自体を目的とした対策をとるのは勧められない。案の内容が変わりうることに加え、現行ルールでも、通達の定めによる評価が著しく不適当と認められる場合には、評価通達総則6項(通達どおりに評価すると著しく不適当な財産を、国税庁長官の指示を受けて別の方法で評価する定め)により評価されることがあるためである。次の3点は、案がどう決まっても無駄にならない。
- 現行ルールでの評価額を把握する。 直近の決算書を基に、類似業種比準方式と純資産価額方式のそれぞれで試算する。類似業種比準方式の仕組みと株価の試算は類似業種比準方式 見直し2027、純資産価額方式の実務は純資産価額方式と事業承継税制の併用実務2026で扱っている
- 事業承継税制の期限を押さえる。 特例承継計画の提出は2027年9月30日、特例措置の適用(相続・贈与)は2027年12月31日までである。承継の時期を検討している場合は、期限が要望の段階で変わりうることを踏まえつつ、現行の期限を前提に準備する
- 資産構成と決算内容を点検する。 たたき台では、特定資産(有価証券、遊休不動産、貸付用不動産、現預金など)の割合が高い会社は「資産管理会社」として純資産価額方式で評価される案になっている。自社が現行の特定の評価会社に該当するか、将来「資産管理会社」の基準に該当しうるかを、税理士に確認しておく
税制改正の内容は、国税庁のウェブサイトの有識者会議のページ(会議資料と議事要旨が掲載される)と、財務省が例年12月に公表する税制改正の大綱で確認できる。
よくある質問(FAQ)
Q: 非上場株式の評価ルールは、もう変わることが決まったのですか?
A: 決まっていません。国税庁は第5回に見直しの骨子を示しましたが、資料には「最終的には税制改正プロセスにおいて決定いただく」とあります。第4回の議事要旨には、座長が「現時点で評価方式を一本化するであるとか、類似業種方式を廃止するといった合意はない」と述べたことが記載されています。施行時期も、2026年10月8日時点の公表資料には記載がありません。
Q: 見直されると相続税は増えますか?
A: 国税庁、日商、経産省・中小企業庁で見方が分かれており、公表資料からは一律には言えません。国税庁の1,378社の試算(還元率8%・加算期間5年の仮置き)では、しんしゃく率0.7の場合、現行の申告評価額以下になる会社が全体の57.3%、大会社の28.1%、小会社の78.4%です。日商はこの試算から「大会社の約7割、全体でも4割超が上昇する」と読み、増税になる企業が多いと主張しています。国税庁は増税を目的としないと説明しています。自社への影響は、資産構成と収益力によって大きく異なります。
Q: 事業承継税制の適用期限は2027年12月31日ですか?
A: はい。国税庁タックスアンサー No.4148 によると、特例措置の対象となる相続・贈与は令和9年(2027年)12月31日までで、特例承継計画の提出は令和9年9月30日までです。経産省は令和9年度税制改正要望で抜本見直しを要望していますが、要望の段階で、期限の延長などが決まったわけではありません。
Q: 類似業種比準方式はなくなりますか?
A: 国税庁のたたき台は、類似業種比準方式を「存置することは困難ではないか」としています。他方で、第4回の議事要旨では、国税庁は廃止を現時点で決定しているわけではないと述べています。経産省・中小企業庁は、まず現行方式の枠内でとりうる対応を検討する余地があるとしています。現時点では、廃止も存続も決まっていません。
Q: 見直しはいつから適用されますか?
A: 公表資料には記載がありません。第4回の議事要旨には、税制改正プロセスを経て行うこと、今秋を目途に一定の方向性を示せるよう進めることが書かれています。適用開始日は、今後の公表を待つ必要があります。
免責事項
本記事は、2026年10月8日時点で国税庁のウェブサイトに公表されている有識者会議の資料・議事要旨、国税庁・経済産業省・会計検査院の公表資料に基づく解説記事です。見直し案は議論中であり、今後の会議や税制改正の過程で内容が変わる可能性があります。第6回の議事要旨は同日時点で「作成中」でした。個別の税務判断は、会社の規模・資産構成・後継者の有無等により大きく異なります。最終的な税務判断は必ず税理士にご相談ください。
出典・参考資料:
- 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」(会議資料・議事要旨の一覧)
- 国税庁 有識者会議 開催案内・委員名簿・第1回〜第6回の資料と議事要旨(
https://www.nta.go.jp/about/council/nai-hyoka/配下のPDF。第5回「資料」20260820/pdf/05shiryo_kabukaigi.pdf(類似業種比準方式への問い掛け・評価額圧縮スキーム4類型)、第5回「評価の見直し(骨子)」20260820/pdf/05kijoshiryo_kabukaigi.pdf、第6回「資料」20260916/pdf/06shiryo_kabukaigi.pdf、第6回 日本商工会議所意見06ikensyo_kabukaigi.pdf、第6回 経済産業省・中小企業庁意見06obikensyo_kabukaigi.pdf) - 国税庁「取引相場のない株式等の評価(純資産価額方式における法人税額等相当額)」令和8年3月通達改正解説
- 国税庁「No.4148 非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例等(法人版事業承継税制)」
- 国税庁「No.4638 取引相場のない株式の評価」
- 会計検査院「令和5年度決算検査報告 13. 相続等により取得した財産のうち取引相場のない株式の評価」
- 経済産業省 令和9年度税制改正要望「事業承継税制の抜本見直し」



