最終更新日: 2026-08-03
結論: 非上場株式の相続税・贈与税評価で「特定の評価会社」に認定されると、一般の会社なら使える類似業種比準方式(または規模別のL併用)が一切使えなくなり、原則として純資産価額方式100%、または S1+S2方式での評価が強制される。これは株価評価に直接的な上昇圧力をかけ、相続税・贈与税の負担を大幅に増やす可能性がある。財産評価基本通達178〜189が定める「特定の評価会社」には6つの類型があり(比準要素数1の会社・株式等保有特定会社・土地保有特定会社・開業後3年未満/比準要素数0の会社・開業前/休業中の会社・清算中の会社)、それぞれ異なる判定基準と強制される評価方式が存在する。とくに「株式等保有特定会社(いわゆる「株特」)」は、持株会社化が進んだ中小企業グループで知らずに該当してしまうケースが多く、事業承継の実務で最も見落とされやすいリスクの一つだ。本記事では6類型の判定基準・閾値・条文番号を整理し、自社が該当するか確認できる判定フローと、2027年度税制改正に向けた見直し議論の影響まで解説する。個別事案は必ず税理士・公認会計士に相談のうえ判断してほしい。
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1. なぜ「特定の評価会社」は税負担が増えるのか
1-1. 原則的評価方式の構造
非上場株式の相続税・贈与税評価には、大きく分けて2つのルートがある。
第一の「原則的評価方式」は、会社規模(大会社・中会社・小会社)に応じて類似業種比準方式(改定シナリオと株価試算はこちら)、純資産価額方式、またはその加重平均(L併用)を使い分ける方式だ。中会社では類似業種比準価額×L(0.60〜0.90)+純資産価額×(1−L)、大会社では類似業種比準方式100%(または純資産価額方式との低い方の選択)が原則となる。この仕組みにより、類似業種比準方式の恩恵(評価額の圧縮)を受けられる可能性がある。
第二の「特例的評価方式」である配当還元方式は、少数株主(同族関係者以外かつ5%未満保有等)に適用される。
「特定の評価会社」に該当した場合、第一ルートが封じられ、純資産価額方式100%またはS1+S2方式が強制される(財産評価基本通達189)。純資産価額方式は、すべての資産・負債を相続税評価額に洗い替えたうえで算定するため、土地・有価証券等に含み益がある会社ほど評価額が高くなる。類似業種比準方式の中央値が純資産価額の中央値の27.2%にとどまるという会計検査院の調査(令和5年度決算検査報告 第4章第4節)を踏まえると、特定の評価会社に該当することで評価額が3〜4倍以上になるケースも珍しくない。
1-2. 中小企業オーナーへの影響
特定の評価会社問題が深刻化しているのは、次の3つの背景からだ。
①グループ会社化・持株会社化の進展:後継者への株式集約やグループ経営効率化を目的に持株会社を設立した結果、当該持株会社が「株式等保有特定会社」に該当してしまうケースが増えている。
②不動産投資の拡大:遊休資金の運用目的で法人名義の不動産投資が増加し、総資産に占める土地等の割合が上昇して「土地保有特定会社」に該当する会社も出ている。
③特例事業承継税制の2027年12月期限:類似業種比準方式の評価圧縮ができない状態で贈与・相続が発生すると、納税猶予制度を使っても純資産価額方式の高い評価額がベースになる。純資産価額方式で高く出た評価額をどう猶予・免除につなげるかは純資産価額方式と事業承継税制の併用実務(3ケース試算)で詳述しているが、その前提として「特定の評価会社に該当するかどうか」の確認は最初の必須作業だ。
2. 「特定の評価会社」6類型の全体像
財産評価基本通達189は、特定の評価会社を以下6つの類型(類型番号189-(1)〜(6))に分類する。各類型の評価方法は別途の個別通達189-2〜189-6が定める。
| 類型番号 | 評価方法通達 | 類型名 | 判定基準の概要 | 強制される評価方式 |
|---|---|---|---|---|
| 189-(1) | 189-2 | 比準要素数1の会社 | ⓑ・ⓒ・ⓓのうち0が2つ以上 | 純資産価額方式100%(または通達189-2ただし書きによりL=0.25で評価) |
| 189-(2) | 189-3 | 株式等保有特定会社 | 総資産に占める株式等の割合が50%以上 | 純資産価額方式100%(またはS1+S2方式の選択可) |
| 189-(3) | 189-4 | 土地保有特定会社 | 総資産に占める土地等の割合が規模別の閾値以上 | 純資産価額方式100% |
| 189-(4) | 189-4 | 開業後3年未満の会社 | 課税時期において設立後3年未満 | 純資産価額方式100% |
| 189-(4) | 189-4 | 比準要素数0の会社 | ⓑ・ⓒ・ⓓがすべて0 | 純資産価額方式100% |
| 189-(5) | 189-5 | 開業前・休業中の会社 | 開業前または実質的な休業中 | 純資産価額方式100% |
| 189-(6) | 189-6 | 清算中の会社 | 清算中 | 清算中の会社の評価(財産評価基本通達189-6) |
※通達番号の読み方に注意:「189-(1)〜(6)」は通達189本文中で特定の評価会社を6類型に分類するための類型番号(括弧番号)である。一方、各類型の評価方法を定めるのは、これとは別の独立した個別通達「189-2〜189-6」(ハイフン番号)だ。両者は番号が似ているが役割が異なるため混同しないこと。対応関係は次のとおり。比準要素数1の会社=類型189-(1)/評価方法189-2、株式等保有特定会社=類型189-(2)/評価方法189-3、土地保有特定会社=類型189-(3)/評価方法189-4、開業後3年未満・比準要素数0の会社=類型189-(4)/評価方法189-4、開業前・休業中の会社=類型189-(5)/評価方法189-5、清算中の会社=類型189-(6)/評価方法189-6。
3. 各類型の判定基準と評価方式(詳細)
3-1. 比準要素数1の会社(通達189-(1))
判定基準:類似業種比準価額計算の3要素(ⓑ配当・ⓒ利益・ⓓ純資産)のうち、直前期末の値が「0」であるものが2つ以上あり、かつ直前々期末においても0が2つ以上ある会社。
言い換えると、ⓑ・ⓒ・ⓓの「現在0でない要素の数(=比準要素数)」が1つだけの会社が該当する。
強制される評価方式:純資産価額方式100%が原則。ただし、通達189-2のただし書きに明文規定があり、納税者の選択によりLを0.25として通達179の(2)の算式(類似業種比準価額×0.25+純資産価額×0.75)で評価することもできる。この選択権は実務慣行ではなく通達上の明文規定に基づく(適用可否の最終判断は個別事案ごとに税理士に相談すること)。
実務上の落とし穴:設備投資等で利益が赤字になった事業年度が続いたり、無配政策を継続している場合に比準要素が0になりやすい。無配・赤字が続いた後に承継を実行すると、知らないうちに比準要素数1の会社に該当しているケースがある。
3-2. 株式等保有特定会社(通達189-(2))——いわゆる「株特」
判定基準:課税時期(相続開始日・贈与日)における、総資産価額(相続税評価額)に占める「株式・出資」の価額の割合が50%以上の会社。
計算式:株式等保有割合 = 株式・出資の相続税評価額 ÷ 総資産の相続税評価額 × 100
「株式等」の範囲には、上場株式・非上場株式・出資(合名会社・合資会社等への出資)および新株予約権付社債(会社法第2条第22号)が含まれる(財産評価基本通達189-(2)の規定上、対象は「株式、出資及び新株予約権付社債」)。公社債・投資信託受益証券等の一般的な社債は「株式等」に含まれないが、新株予約権付社債(転換社債型を含む)は「株式等」に該当する点に注意が必要だ。M&Aや持株会社の実務では新株予約権付社債の保有が珍しくなく、判定漏れが実害につながりやすい論点である。
強制される評価方式:原則として純資産価額方式100%。ただし、S1+S2方式を選択することも可能(評価方法を定めるのは通達189-3〔株式等保有特定会社の株式の評価〕のただし書き)。S1+S2方式は次節で詳述する。
50%という閾値の重要性:この閾値は一見単純に見えるが、「相続税評価額ベース」で計算する点に注意が必要だ。帳簿価額(=簿価)ベースでは50%未満でも、保有株式が路線価・時価評価で大きくなった結果、相続税評価額ベースで50%を超えることがある。課税時期直前のB/S構造を相続税評価額で組み直した「評価替えB/S」を作成して判定する必要がある。
中小企業グループでの典型的な引っかかりパターン:
- オーナーが複数の事業法人の株式を一つの持株会社(ホールディングカンパニー)に集約した
- 事業会社が子会社・関連会社株式を取得しグループ経営を進めた結果、株式保有割合が上昇した
- 不動産管理会社に設立当初から不動産賃貸と株式保有を混在させていた
3-2-1. S1+S2方式の仕組み
S1+S2方式は、株式等保有特定会社に限り認められる評価方法で、会社の資産を「株式等以外の部分(S1)」と「株式等の部分(S2)」に分割して評価し、その合計を評価額とする(通達189-3のただし書き)。
S1(株式等以外の部分の評価額):
– 会社の総資産から株式等を除いた資産・負債を抽出し、あたかも「株式を持たない会社」として通常の原則的評価方法(類似業種比準方式または規模別L併用)で評価する
– これにより株式等以外の事業部分については、規模・業種に応じた類似業種比準方式の恩恵を受けられる
S2(株式等の部分の評価額):
– 保有する株式・出資の部分を純資産価額方式で評価する
– 保有株式が上場株式であれば終値評価、非上場株式であれば財産評価基本通達に基づき再評価(孫会社まで連鎖)
S1+S2方式を選択すべきケース:
– 保有株式等以外の事業(製造業・サービス業等)の規模が大きく、類似業種比準方式の比準効果が高い会社
– S1部分の類似業種比準価額が低く(=低L値の恩恵がある)、S2の純資産評価額も比較的小さい場合
純資産価額方式100%を選択すべきケース:
– 保有株式等以外の資産に含み益が少なく、かつ保有株式等の評価額が帳簿価額に近い場合
– S1+S2方式の計算が複雑で、かつ節税メリットが小さい場合
実務では必ず両方式で試算し、納税者に有利な方を選択する。
3-3. 土地保有特定会社(通達189-(3))
判定基準:課税時期における、総資産価額(相続税評価額)に占める「土地等」の価額の割合が、会社規模に応じた閾値以上の会社。
| 会社規模 | 判定の閾値(土地等保有割合) |
|---|---|
| 大会社 | 70%以上 |
| 中会社 | 90%以上 |
| 小会社 | 総資産帳簿価額に応じて「イ」または「ロ」で判定(下記参照) |
小会社は「対象外」ではない。通達189-(3)は、総資産帳簿価額の大きさに応じて小会社を「大会社に準じる区分(イ)」と「中会社に準じる区分(ロ)」に振り分けて判定する。実際には多くの小会社が「ロ」に該当するため、「小会社だから土地保有特定会社の対象外」という理解は誤りだ。
イ:総資産帳簿価額が大きい小会社(土地等保有割合70%以上で該当)
| 業種 | 総資産帳簿価額の閾値 |
|---|---|
| 卸売業 | 20億円以上 |
| 卸売業以外(小売・サービス・製造等) | 15億円以上 |
ロ:総資産帳簿価額が中規模の小会社(土地等保有割合90%以上で該当)
| 業種 | 総資産帳簿価額の閾値 |
|---|---|
| 卸売業 | 7,000万円以上 |
| 小売・サービス業 | 4,000万円以上 |
| その他(製造業等) | 5,000万円以上 |
(通達189-(3)イ・ロ。総資産帳簿価額がロの下限に満たない小会社は土地保有特定会社の判定対象外だが、上記のとおりロの閾値は数千万円と低いため、大半の小会社は判定対象に含まれる点に注意)
「土地等」の範囲:土地・借地権・地上権・永小作権等が含まれる。
強制される評価方式:純資産価額方式100%(S1+S2方式の選択は不可。株式等保有特定会社と異なる点に注意)。
3-4. 開業後3年未満の会社・比準要素数0の会社(通達189-(4))
開業後3年未満の会社:課税時期において会社の設立後3年が経過していない会社。比準要素(ⓑⓒⓓ)の実績が短く、類似業種比準方式の適用が馴染まないため、純資産価額方式100%が強制される。
比準要素数0の会社:ⓑ(配当)・ⓒ(利益)・ⓓ(純資産)のいずれも0の会社。実質的に業況が極めて低調な会社に相当し、類似業種との比較が意味をなさないため純資産価額方式100%が強制される。
(「開業後3年未満の会社および比準要素数0の会社」として同一通達189-(4)で規定されている。)
3-5. 開業前・休業中の会社(通達189-(5))
判定基準:課税時期において、まだ事業を開始していない会社(開業前)、または実質的に事業活動を停止している会社(休業中)。
法人登記はあるが事業収入がない、または仕入・販売活動が停止している状態が該当する。単に業績が悪い・売上が少ないだけでは「休業中」には該当しない(実質的な判断が必要)。
強制される評価方式:純資産価額方式100%。
3-6. 清算中の会社(通達189-(6))
判定基準:課税時期において清算手続き中の会社。
評価方法:通達189-6(清算中の会社の株式の評価)に基づき、清算分配見込み額の複利現価による評価を行う。残余財産の確定見込みがある場合、株式1株当たりの価額は「清算によって各株主が受け取ると見込まれる分配額の複利現価」として評価する。
4. 自社が「特定の評価会社」に該当するか確認する判定フロー
以下のフローを「課税時期(相続開始日・贈与日)の財務数値(相続税評価額ベース)」で確認する。
STEP 1: 清算・開業前・休業の確認
├─ 清算中 → 通達189-(6): 清算中の会社の評価へ
├─ 開業前または実質的休業中 → 通達189-(5): 純資産価額方式100%
└─ 上記非該当 → STEP 2へ
STEP 2: 開業後3年未満の確認
├─ 設立から3年未満 → 通達189-(4): 純資産価額方式100%
└─ 3年以上経過 → STEP 3へ
STEP 3: 比準要素数の確認
ⓑ(直前期末配当)・ⓒ(直前期末利益)・ⓓ(直前期末純資産)が0のものを数える
├─ 3つとも0(比準要素数0)→ 通達189-(4): 純資産価額方式100%
├─ 1つだけ0でない(比準要素数1)かつ直前々期末も同様 → 通達189-(1): 純資産価額方式100%(L=0.25選択も検討)
└─ 2つ以上が0でない → STEP 4へ
STEP 4: 株式等保有割合の確認(相続税評価額ベース)
株式等保有割合 = 株式・出資の相続税評価額 ÷ 総資産の相続税評価額
├─ 50%以上 → 通達189-(2)「株式等保有特定会社」: 純資産価額方式100%またはS1+S2方式
└─ 50%未満 → STEP 5へ
STEP 5: 土地等保有割合の確認(相続税評価額ベース)
土地等保有割合 = 土地等の相続税評価額 ÷ 総資産の相続税評価額
├─ 大会社で70%以上 → 通達189-(3)「土地保有特定会社」: 純資産価額方式100%
├─ 中会社で90%以上 → 同上
├─ 小会社(イ:帳簿価額 卸売20億・卸売以外15億以上)で土地等割合70%以上 → 同上
├─ 小会社(ロ:帳簿価額 卸売7,000万・小売サービス4,000万・その他5,000万以上)で土地等割合90%以上 → 同上
└─ 上記非該当 → 一般の原則的評価方式(通達179)を適用
→ 一般の評価方式: 会社規模に応じて類似業種比準方式・L併用・純資産価額方式を適用
重要注意事項:上記フローはあくまで判定の概要であり、「相続税評価額ベースでの総資産組み換え」は税理士による専門的作業が必要だ。特に、STEP 4の株式等保有割合は帳簿価額とは大きく異なる場合があるため、自社での確認には限界がある。承継の判断は必ず税理士・公認会計士に相談すること。
5. 類型別・規模別評価方式の早見表
| 類型 | 小会社 | 中会社(小・中・大) | 大会社 |
|---|---|---|---|
| 一般会社 | 純資産100%(またはL=0.50選択) | 類似×L + 純資産×(1-L) | 類似100%(または純資産との低い方) |
| 比準要素数1 | 純資産100%(L=0.25まで選択余地) | 同左 | 同左 |
| 株式等保有特定会社 | 純資産100%またはS1+S2方式 | 同左 | 同左 |
| 土地保有特定会社 | 帳簿価額がイ・ロの閾値以上かつ土地等保有割合基準超で純資産100%(閾値未満のみ対象外/大半の小会社はロで対象) | 純資産100% | 純資産100% |
| 開業後3年未満 | 純資産100% | 同左 | 同左 |
| 比準要素数0 | 純資産100% | 同左 | 同左 |
| 開業前・休業中 | 純資産100% | 同左 | 同左 |
| 清算中 | 清算会社評価 | 同左 | 同左 |
※ 規模にかかわらず「特定の評価会社」に該当すれば類似業種比準方式の恩恵は受けられない(株式等保有特定会社のS1部分を除く)。これが最大の特徴だ。
6. 株式等保有特定会社(株特)の実務リスクと留意点
6-1. 「株特外し」の概念と否認リスク
「株特外し」とは、課税時期の直前に株式等保有割合を50%未満に引き下げることで、株式等保有特定会社の認定を回避しようとする行為を指す実務用語だ。具体的には、借入金で不動産・設備・売掛金等の非株式資産を取得し、総資産に占める株式等の相対割合を下げる方法が使われてきた。
しかし、この手法には重大なリスクがある。
租税回避否認のリスク:国税庁・裁判例は、相続税・贈与税の租税回避行為に対して「実質主義」による課税を認めている。株特外しが専ら贈与・相続税の回避を目的とした「形式的」な取引であると認定されれば、財産評価基本通達に定めがある場合でも同通達によらない評価(「評価通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産」条項)が適用されるリスクがある。最高裁2022年4月19日判決(マンション購入による相続税圧縮事案)は、路線価評価が時価の約3割にとどまる場合に総則6項(通達によらない評価)の適用を認めており、株特外しへの応用可能性が指摘されている。
「課税時期の直前だけ」の取引が問題になりやすい:
– 贈与・相続発生の数か月前に突然大きな設備投資や不動産取得を行った
– 取得した資産が実質的に事業に使われておらず、比率調整のためだけの取引と見られる
– 借入金でのキャッシュ回転が事業上の合理性がない
専門家への相談が必須:租税回避否認の判断基準は事案ごとに異なり、事業上の合理性・期間・金額規模・取引形態によって結論が変わる。本記事は「株特外しを推奨」するものではなく、リスクの把握と専門家相談の重要性を伝えることを目的としている。
6-2. グループ再編と株特判定のタイミング
持株会社を設立する際、または子会社を設立・買収する際に、当初から株式等保有特定会社に該当しない構造を設計することが重要だ。
具体的には:
– 持株会社が事業子会社の株式だけを保有する純粋持株会社型では、ほぼ確実に株特に該当する
– 持株会社がグループ管理・コーポレートサービス・不動産管理等の実質的な事業を行っている場合、その事業用資産の評価額によっては株式等割合が50%未満になる可能性がある
– 子会社の株式評価額は「純資産価額方式等で再評価」されるため、子会社の含み益が大きいほど親会社の株式等評価額も上昇し、株特該当リスクが上がる
この問題は承継の設計段階から税理士と協議し、グループ構造と株式等保有割合の試算を行ったうえで判断することが現実的だ。
6-3. S1+S2方式の活用と計算の複雑性
S1+S2方式は「株特に該当しても類似業種比準方式の恩恵を一部享受できる」点で有利に働くケースがあるが、計算は複雑だ。
S1計算では、「株式等以外の資産・負債で構成された仮想会社」として類似業種比準価額を試算するため、実質的に2社分の評価作業が必要になる。また、S2(株式等部分の純資産価額評価)では、保有する非上場株式を連鎖的に再評価する必要があり、孫会社・ひ孫会社まで存在するグループでは作業量が膨大になる。
税理士報酬・作業工数と、S1+S2方式採用による節税額を比較したうえで方式を選択することを推奨する。
7. 2027年度税制改正と特定の評価会社見直しの動向
7-1. 国税庁有識者会議の議論
国税庁は2026年4月20日、「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」(座長:佐藤英明・慶大教授)を発足させ、財産評価基本通達の抜本見直しに着手した(国税庁 有識者会議 第1回議事要旨)。
議論の重点は類似業種比準方式の見直し(業種区分の精緻化・比準要素ウェイト・斟酌率の変更)にあるが、特定の評価会社についても以下の論点が浮上している。
- 株式等保有特定会社の閾値(50%)の見直し:50%という閾値が「持株会社化の正常な経営判断を阻害している」との意見がある一方、「閾値を引き上げれば租税回避に使われる」との慎重意見もあり、結論は未定。
- S1+S2方式の計算の簡素化:計算の複雑性が納税者の実務負担を高めているとの問題意識があり、計算方法の簡素化が検討される可能性がある。
- 純資産価額方式そのものの見直し:特定の評価会社だけでなく、純資産価額方式の評価差額に対する控除率(現行38%)や算定方法全体の見直しが議題になっている。
これらの改定は令和9年度(2027年度)税制改正大綱(2026年12月公表予定)に反映され、令和10年(2028年)1月以降適用となる可能性が見込まれる。ただし2026年8月時点では議論継続中であり、具体的な改定内容・時期は確定していない。
詳細は非上場株式の相続税評価 見直し議論2027年度改正|国税庁専門委員会の論点で継続的に追跡している。
7-2. 中小企業オーナーへの示唆
改定の方向性によって、現在の「特定の評価会社」ルールが緩和される可能性も厳格化される可能性もある。確実に言えるのは、2027年12月31日の特例事業承継税制の期限が「改定前の現行ルールで承継を完了できる最後のチャンス」になりうるということだ。
特に株式等保有特定会社(株特)に該当している持株会社オーナーは:
1. 現行の純資産価額方式またはS1+S2方式での評価額を試算する
2. 特例事業承継税制を活用した場合の納税猶予・免除の試算をする
3. 2027年9月30日までに特例承継計画を提出するかどうか判断する
以上の3ステップを2027年春までに完了させることが実務的な目標となる。
8. よくある疑問(FAQ)
A. 株特に該当した会社の株式評価(純資産価額方式またはS1+S2方式)を行う際、S2の計算では保有する子会社株式を財産評価基本通達に基づいて再評価する必要がある。子会社が一般の会社なら類似業種比準方式等で評価し、子会社自体も特定の評価会社なら純資産価額方式等で評価する。つまりグループの株式評価は「孫会社→子会社→親会社」と底から積み上げる連鎖評価になる。グループ規模が大きいほど作業量と時間が膨大になるため、承継スケジュールに十分な余裕を持たせる必要がある。
A. できない。通達189-(2)の判定は「相続税評価額ベース」で行う。土地が路線価評価で帳簿価額の3〜5倍になる、保有有価証券の時価が変動している等の理由から、帳簿価額ベースの割合と相続税評価額ベースの割合は大きく乖離することが多い。必ず「課税時期の相続税評価額で組み替えた評価替えB/S」を作成したうえで判定を行うこと。これは税理士に依頼すべき専門的作業だ。なお、株式評価額が確定した後の相続税の計算全体(基礎控除・税率表・申告期限)については相続税の基礎控除・税率・計算フロー2026年版を参照してほしい。
A. リスクは実在する。前述のとおり、最高裁2022年4月19日判決以降、国税当局は財産評価基本通達6条(総則6項)による通達外評価の適用に積極的だ。「承継直前のみの資産取得・借入」「事業上の合理性の欠如」「過大な規模の取引」が重なると否認リスクが高まる。株特に該当しそうな場合は「外し」を検討する前に、S1+S2方式を使った場合の評価額と特例事業承継税制の組み合わせを先に試算し、納税負担の実額を把握することが先決だ。
A. 事業承継税制の適用要件(後継者要件・会社要件・先代経営者要件等)を満たしていれば、評価方式が純資産価額方式100%であっても特例事業承継税制は利用可能だ。評価額が高くても納税猶予・免除の仕組みは使える。ただし開業後3年未満の会社は、事業の安定性・継続性という観点で金融機関・都道府県からの認定審査が厳しくなる可能性がある点には留意してほしい。
A. 「特定の評価会社」の判定は課税時期(相続開始日・贈与日)の時点で行う。したがって、翌年(翌贈与年)に比準要素が回復すれば、次回の課税時期では比準要素数1の会社に該当しなくなる可能性がある。ただし通達189-(1)の判定は「直前期末」と「直前々期末」の両方の比準要素を確認するため、2年以上連続して比準要素が回復していることが必要になる。つまり今年の決算で利益・配当を計上しても、昨年・一昨年の比準要素が0であれば、今課税年度では比準要素数1の会社と判定されることがある。承継の時期と決算の状況を合わせて事前にシミュレーションすることが重要だ。
9. まとめ:中小企業オーナーが今すべき3ステップ
「特定の評価会社」問題は、知らずに放置すると相続税・贈与税が数千万〜数億円単位で増加するリスクを持つ。以下の3ステップを今すぐ確認してほしい。
ステップ1:自社の「評価替えB/S」を作成し、特定の評価会社に該当するか判定する
直近決算書をもとに、保有資産・負債を相続税評価額に洗い替えた「評価替えB/S」を作成し、株式等保有割合・土地等保有割合・比準要素数を確認する。これは税理士への依頼が不可欠だ。
ステップ2:該当する場合、評価方式を選択(S1+S2 vs 純資産100%)して評価額を確定する
株式等保有特定会社の場合、S1+S2方式と純資産価額方式100%の両方で試算し、より低い方を選択する。この時点で「特例事業承継税制を使った場合に猶予される税額」も合わせて試算する。
ステップ3:特例承継計画の提出期限(2027年9月30日)を念頭に行動スケジュールを立てる
特例事業承継税制の活用を検討するなら、認定経営革新等支援機関(税理士・金融機関等)との協議を開始し、特例承継計画のドラフトを作成する。計画提出から贈与・相続実行まで最低でも数か月の準備期間が必要なため、2026年末までには動き出すことが望ましい。
「特定の評価会社」の判定と評価方式の選択は、税額を大きく左右する最重要の専門判断だ。本記事は判断の全体像を示すことを目的としており、個別事案への適用は必ず税理士・公認会計士に相談のうえ行ってほしい。
引用一次ソース
- 国税庁 財産評価基本通達(第5章 取引相場のない株式等の評価)第189条
- 国税庁 財産評価基本通達 178(取引相場のない株式の評価上の区分)
- 国税庁 タックスアンサー No.4638 取引相場のない株式の評価
- 国税庁 有識者会議 第1回議事要旨(2026年4月20日)
- 会計検査院 令和5年度決算検査報告 第4章第4節 取引相場のない株式の評価
- 国税庁 タックスアンサー No.4148 非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予及び免除(法人版事業承継税制)
- 中小企業庁 事業承継税制特例措置
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本記事は2026年8月3日時点の公表情報(財産評価基本通達・国税庁有識者会議資料等)に基づき作成しています。税制は改正される可能性があり、本記事の内容は将来変更されることがあります。個別の相続税・贈与税の申告、事業承継の判断については、必ず税理士・公認会計士等の専門家にご相談ください。本記事の情報に基づいて行動した結果生じた損害等について、当サイトは責任を負いかねます。



