病院・診療所の「予約キャンセル料」「予約システム利用料」2026年6月新設を完全解説|患者・医療機関の実務ガイド

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病院・診療所の「予約キャンセル料」「予約システム利用料」2026年6月新設を完全解説|患者・医療機関の実務ガイド
目次

この記事でわかること(300字サマリ)

2026年6月1日、厚生労働省通知(令和8年3月27日 保医発0327第7号)により、医療機関が保険診療と別に患者から徴収できる「療養の給付と直接関係ないサービス等」の取扱いが改正されました。新設は①Wi-Fi利用料、②在留外国人への多言語対応費用、③選定療養における予約に基づく診察の患者都合によるキャンセル料(診察日の直前にキャンセルした場合に限る)、④予約やオンライン診療の受診に係るシステム利用料の4項目です。このうち③のキャンセル料を徴収できるのは、その医療機関が選定療養として「予約に基づく診察」を実施し、一定の要件(保医発0313003号第15項)を満たしている場合に限られます。事前説明と患者同意も必須要件です。本記事では患者・医療機関双方の実務を、療担規則・選定療養の法的構造・消費者契約法の条文ベースで整理します。


1. ニュースの整理:「6月から病院ドタキャンで料金請求」は本当か?

2026年に入り、複数の経済系メディア・FP系メディアが「6月1日から病院をドタキャンするとキャンセル料を取られる」といった見出しで報じ、患者の間で不安が広がりました。一方の医療機関側でも「うちでも料金表を作らないといけないのか」「無断キャンセルの常習患者から本当に取り立てられるのか」と問い合わせが急増しています。

しかし、結論から言えばこの見出しは半分正しく、半分は誤解です。

正確には、2026年3月27日付の厚生労働省保険局医療課長通知(保医発0327第7号)により、「療養の給付と直接関係ないサービス等の取扱いについて」(平成17年9月1日 保医発第0901002号)の一部が改正され、令和8年6月1日から適用されることになりました。改正の核心は、保険診療とは別にもらえる「実費」の例示として、「ケ Wi-Fi利用料 等」「エ 在留外国人の診療に当たり必要となる多言語対応に要する費用」「ク 選定療養における予約に基づく診察の患者都合によるキャンセル料(診察日の直前にキャンセルした場合に限る)」「セ 予約やオンライン診療の受診に係るシステム利用料 等」の4項目が新設されたことです。中でも「ク」は、単なる予約制の医療機関ではなく、選定療養として「予約に基づく診察」を実施している医療機関に限って認められるという限定が原文冒頭に付いています。

しかも、キャンセル料はどの医療機関でも徴収できるわけではありません。通知の新設「ク」は「選定療養における予約に基づく診察」に限定されており、対象の医療機関は保医発0313003号第15項が定める要件(対面診療・待たせすぎ禁止・院内掲示とウェブサイト掲載・地方厚生(支)局長への報告等、詳細は後述3-2)を満たしている必要があります。そのうえで「診察日の直前にキャンセルした場合に限る」こと、「事前説明+患者同意」を得ることという2要件を満たさない徴収は通知違反です。本記事では、この「半分の真実」を条文・通知ベースで正しく切り分け、患者と医療機関双方が誤解なく対応できるよう整理します。


2. 法的根拠の3層構造:なぜ「原則無料」なのか

医療機関が患者から取れる費用を理解するには、3つの法律レイヤーを順に押さえる必要があります。

2-1. 第1層:民法(診療契約は準委任契約)

患者と医療機関の間に成立するのは「診療契約」であり、判例・通説上は準委任契約(民法656条)と位置付けられています。準委任契約では、受任者(医療機関)は委任された事務を善管注意義務をもって処理する義務を負い、委任者(患者)は報酬支払義務(民法648条)と費用前払義務(民法649条)を負います。

ここで重要なのは、準委任契約はいつでも各当事者が解除できる(民法651条1項)という点です。患者は理由を問わず予約をキャンセルでき、医療機関も同じく契約を解除できます。ただし「相手方に不利な時期」に解除した場合、解除した側はやむを得ない事由がない限り損害賠償責任を負います(同条2項)。これが、医療予約キャンセル料の民事的な土台になります。

2-2. 第2層:消費者契約法9条(平均的損害を超える違約金は無効)

患者は消費者契約法上の「消費者」、医療機関は「事業者」に該当するため、医療予約のキャンセル料条項には消費者契約法9条1号が適用されます。

当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの。当該超える部分。

つまり、医療機関がいくら「無断キャンセル料1万円」と規程で定めても、その金額が同種の予約キャンセルで生じる平均的な損害額を超える部分は無効になります。この「平均的損害」の解釈の先例としてしばしば引用されるのが最高裁平成18年11月27日判決ですが、同判決は学納金返還訴訟であり、医療予約に直接適用された判例ではない点に注意してください。あくまで消費者契約法9条1号の解釈基準として援用されているにとどまります。

平均的損害は、解除に伴う逸失利益から、再予約により補填される利益と、解除により支出を免れる経費を控除して算定されます。実務上は、

  • キャンセルされた時間枠に他患者の予約が入る可能性が高い一般外来 → 平均的損害は限りなく小さい
  • 検査薬剤・造影剤を当日朝に発注済みの自由診療MRI/PET → 実損が具体的に発生
  • 高額自由診療(人間ドック・美容医療・自由診療枠の確保コスト) → 当日キャンセルで再予約困難なら相応の損害

というように、診療類型と時期によって認められる金額が大きく変わるのがポイントです。なお消費者契約法は2022年改正で、事業者が消費者から求められた際にキャンセル料の算定根拠を説明する「努力義務」(同法9条2項)も追加されています。

2-3. 第3層:健康保険法・療担規則(保険診療では原則無料の原則)

ここが医療予約キャンセル料が一般のサービス業と決定的に違うところです。

保険医療機関及び保険医療養担当規則(療担規則、昭和32年厚生省令第15号)第5条(一部負担金等の受領)は、保険医療機関が患者から受け取ることができる費用を、健康保険法第74条(一部負担金)の規定による一部負担金、食事療養標準負担額、生活療養標準負担額、そして評価療養・患者申出療養・選定療養に係る費用(療担規則第5条第2項)に限定して列挙しています。この列挙にない費用は原則として徴収が認められないという構造になっており、これが「保険診療は原則無料」と言われる法的な根拠です。例外として認められるのは、

  • 入院時食事療養費・生活療養費の標準負担額
  • 保険外併用療養費制度(選定療養・評価療養・患者申出療養)における自己負担
  • 療養の給付と直接関係ないサービス等(平成17年9月1日 保医発第0901002号の通知ベース)

の3カテゴリのみ。今回の2026年6月改正は、このうち3つ目の「療養の給付と直接関係ないサービス等」の例示リストが追加された格好です。

そして、この3つ目のカテゴリには重要な制約があります。それは「保険診療そのものに対する追加料金ではなく、あくまで保険診療とは別の、付随的な物・サービスに対する費用」でなければならないということ。「診察料に上乗せして1,000円」のような徴収は依然として違法です。


3. 2026年6月改正の核心:通知本文で新設された4項目

令和8年3月27日付の通知(保医発0327第7号)により、平成17年9月1日 保医発第0901002号の一部が改正され、令和8年6月1日から適用されています。改正後の通知本文では、保険診療と別に徴収できる「療養の給付と直接関係ないサービス等」の例示として複数の項目が列記され、そのうち4項目に「(新設)」マークが付されています。

3-1. 改正前 vs 改正後の対比

新旧対照表(保医発0327第7号)によれば、今回新設されたのは次の4項目です。項目記号は「(1)日常生活上のサービスに係る費用」と「(5)その他」という異なるグループに属するため、枝番だけでなくグループ番号とセットで特定する必要があります(例えば単に「カ」とだけ書くと、(1)カ=ゲーム機・パソコン貸出しか、(5)カ=マタニティースイミングかが区別できません)。

グループ・枝番 新設項目 内容
(1)ケ Wi-Fi利用料 等 院内Wi-Fi等の通信サービス利用料
(5)エ 在留外国人の診療に当たり必要となる多言語対応に要する費用 通訳の手配料や翻訳機の使用料等
(5)ク 選定療養における予約に基づく診察の患者都合によるキャンセル料 診察日の直前にキャンセルした場合に限る。事前説明・同意が必須
(5)セ 予約やオンライン診療の受診に係るシステム利用料 等

一方、以下の項目は改正前から通知本文に存在しており、今回の改正で内容は変わっていません(新旧対照表では「(略)」表記で、条文上の変更はありません)。

グループ・枝番(改正後) 項目 備考
(1)カ ゲーム機、パソコン(インターネットの利用等)の貸出し 改正前から存在
(5)ウ 日本語を理解できない患者に対する通訳料 改正前から存在
(5)キ 患者都合による検査のキャンセルに伴い使用することのできなくなった検査薬剤等の費用 現に生じた物品等に係る損害の範囲内に限る。改正前から存在

(出典: 保医発0327第7号 新旧対照表、令和8年3月27日)

3-2. 大前提:「選定療養における予約に基づく診察」とは何か

新設「ク」のキャンセル料を語るうえで欠かせないのが、この項目の原文冒頭にある「選定療養における」という限定句です。この5文字がある以上、キャンセル料を徴収できるのは「選定療養としての予約に基づく診察」を実施している医療機関に限られます。単に予約を受け付けているだけの医療機関、電話やアプリで順番を管理しているだけの医療機関は、この項目を根拠にキャンセル料を取ることはできません。

この制度は次の3層構造で成立しています。

  1. 健康保険法第63条第2項第5号:「被保険者の選定に係る特別の病室の提供その他の厚生労働大臣が定める療養」を選定療養と定義(内容は厚生労働大臣への委任)
  2. 平成18年厚生労働省告示第495号 第2条第2号:選定療養の類型として「予約に基づく診察」を指定(告示本体はこの1行のみで、実務要件は次の通知に委任)
  3. 保医発0313003号 第15項「予約に基づく診察に関する事項」(令和8年3月27日付 保医発0327第6号により改正、令和8年6月1日適用の現行版):実際に選定療養として予約診察を実施するための運用要件を定める

第15項が定める要件は次の11項目です(数値・文言は原文どおり)。

項目 要件
(1) 予約診察は対面で行われるものでなければ、特別の料金の徴収は認められない
(2) 予約時刻から30分程度以上患者を待たせた場合は、予約料の徴収は認められない
(3) 予約料を徴収しない時間を各診療科ごとに、少なくとも延べ外来診療時間の2割程度確保する
(4) 予約患者でない患者も概ね2時間以上待たせない
(5) 予約診察は10分程度以上の診療時間の確保に努め、医師又は歯科医師1人につき1日概ね40人を限度とする
(6) 院内掲示に加え、原則としてウェブサイトに掲載(自ら管理するホームページ等を有しない場合を除く)
(7) 予約料の徴収は患者の自主的な選択に基づく予約診察のみ。病院側の一方的な都合による徴収は不可
(8) 予約料の額は曜日・時間帯・標榜科等で複数定めてよいが、社会的に見て妥当適切なものであること(金額の上限規定は原文になし)
(9) 特別の料金等の内容を定め又は変更しようとする場合は、別紙様式3により地方厚生(支)局長にその都度報告する(事前の許可・届出ではなく「報告」)
(10) 専ら予約患者の診察に当たる医師又は歯科医師がいてもよい
(11) 予約診察の時刻は夜間・休日・深夜でもよい。ただしその場合、時間外加算・休日加算・深夜加算は算定できない

なお、(2)(3)(5)の数値は原文が「程度」「概ね」という語を用いており、厳密な閾値として定められているものではありません。判断に迷う場合は所轄の地方厚生(支)局に確認してください。

したがって、「予約を受け付けているだけの医療機関」=選定療養として予約料を徴収しておらず、上記の要件を満たしていない医療機関は、新設「ク」を根拠にキャンセル料を徴収することはできません

ただし、これは「予約料を徴収していない医療機関がキャンセル料を一切徴収できない」という意味ではありません。あくまで通知「ク」を根拠にはできない、という限定にとどまります。当日キャンセルで検査薬剤等の実費が現に発生している場合は通知「キ」(現に生じた物品等に係る損害の範囲内)が使える余地がありますし、保険診療の枠外(自由診療)であれば民法・消費者契約法の一般則で個別に契約条項を定めることも可能です(詳細は4章)。

3-3. 新設「ク」キャンセル料の正確な要件

通知本文の新設「ク」は、3-2で見た「選定療養における予約に基づく診察」を実施している医療機関であることを大前提としたうえで、文言レベルでさらに以下の要件を課しています。これを満たさない徴収は通知違反となります。

ク 選定療養における予約に基づく診察の患者都合によるキャンセル料(診察日の直前にキャンセルした場合に限る。なお、診察の予約に当たり、患者都合によるキャンセルの場合には費用徴収がある旨を事前に説明し、同意を得ること。)

ポイントは3点。

  1. 選定療養としての予約診察であること:保医発0313003号第15項(1)〜(11)の要件を満たし、予約料を選定療養として徴収していること(3-2参照)
  2. 「診察日の直前」限定:数日前のキャンセル、前日昼までの連絡等は通知が想定する「直前」に該当しない可能性が高い。各医療機関の規程で「前日◯時以降」「当日キャンセル」などと明確に定義する必要がある。なお、通知は「直前」の具体的な時間を定めていないため、医療機関側が設定した基準は消費者契約法9条2項の説明努力義務の対象となり、根拠を説明できる状態にしておく必要がある
  3. 事前説明+同意の取得:予約時点で「直前キャンセルすると料金が発生する」旨を必ず説明し、同意を取得すること。同意なき徴収は通知違反

3-4. 新設「セ」予約・オンライン診療システム利用料

セ 予約やオンライン診療の受診に係るシステム利用料 等

スマホ予約アプリ、オンライン診療プラットフォーム、Web問診システム等の利用料を、保険診療とは別の付随サービス料として徴収できることが明確化されました。「セ」には「ク」のような「選定療養における」という限定句が付いていないため、選定療養としての予約診察の実施要件(3-2の11項目)は「セ」自体には及びません。ただし、患者が任意で選択できること(例:電話予約や対面予約も併存させる)、料金を事前掲示・同意取得することは、通知第1項の一般要件として求められる点は変わりません。

3-5. 新設「ケ」Wi-Fi利用料

ケ Wi-Fi利用料 等

院内Wi-Fi等の通信サービス利用料は、今回の改正で「(1)日常生活上のサービスに係る費用」の「ケ」として明確に新設されました(改正前は明示的な例示がなく、「(1)カ ゲーム機、パソコン(インターネットの利用等)の貸出し」の枠組みで読む余地があるにとどまっていました)。今後は独立した徴収項目として、料金表への明記・院内掲示・患者への説明を行ったうえで徴収できます。

3-6. 改正前から存在し、今回変更されていない項目

以下は改正前の通知にも存在し、新旧対照表では「(略)」=内容の変更なしとして扱われている項目です。「今回の改正で追加された」わけではない点に注意してください。

  • (5)ウ:日本語を理解できない患者に対する通訳料
  • (1)カゲーム機、パソコン(インターネットの利用等)の貸出し
  • (5)キ:患者都合による検査のキャンセルに伴い使用することのできなくなった検査薬剤等の費用(現に生じた物品等に係る損害の範囲内に限る

3-7. 新設4項目に共通する性格

新設された4項目((1)ケ・(5)エ・(5)ク・(5)セ)は、いずれもコロナ禍以降に普及したオンライン予約・オンライン診療システムや、在留外国人診療、無断キャンセル対応など、平成17年の原通知が想定していなかった実務ニーズに対応するため、例示リストに追加されたものです。ただし、「ク」のキャンセル料だけは、選定療養としての予約診察という既存の制度(3-2参照)に乗った運用が前提であり、単に「新しく徴収してよくなった」という他の3項目とは性格が異なります。選定療養の要件を満たしていない医療機関にとっては、キャンセル料を徴収するために新たに予約診察の体制(対面・掲示・地方厚生局への報告等)を整える必要があるという意味で、実務上の負担は小さくありません。


4. 「キャンセル料」は誰から・いくら取れるのか

ここから本題の「キャンセル料」を詳しく解きほぐします。患者・医療機関のどちらが読んでも判断できるよう、保険診療枠自由診療枠で線引きを明確にします。

4-1. 保険診療予約のキャンセル:原則「取れない」と新設「ク」の関係

保険診療の予約をキャンセルしても、医療機関側は「診療を受けなかった分」の点数を請求することはできません。これは療担規則の大原則です(2-3参照)。なぜなら保険診療の報酬は「実際に行った医療行為」に対して算定されるものであり、提供していない診療の対価を取ることは保険外併用療養費制度の枠組みからも認められないためです。

2026年6月の改正で新設された「ク 選定療養における予約に基づく診察の患者都合によるキャンセル料」は、その医療機関が選定療養として予約診察を実施している場合に限り、かつ「診察日の直前」キャンセル・「事前説明・患者同意」を満たした場合のみ徴収できるものです。「初診料3,000円を丸ごと取る」「再診料相当額を請求する」といった保険診療の点数の代替徴収は、改正後も認められません。

具体的に徴収が許容されるのは、おおむね以下のようなケースです。どの根拠に基づくかで、必要な前提条件が異なります。

ケース 根拠 前提条件
選定療養の予約診察を実施している医療機関での、直前・無断キャンセル 通知「ク」 保医発0313003号第15項の要件を満たし、事前説明・同意取得済みであること
事前準備(造影剤・特殊検査試薬の発注等)で実費が確定しているキャンセル 通知「キ」 現に生じた物品等に係る損害の範囲内。選定療養の予約診察であることは要件ではない
予約システム自体の運用料(月額・回数課金型) 通知「セ」 患者の任意選択・事前掲示・同意取得(選定療養の予約診察要件は及ばない。3-4参照)

逆に、以下は原則として徴収が認められません。

  • 選定療養としての予約診察を実施していない医療機関が、通知「ク」を根拠にキャンセル料を徴収するケース → 3-2の要件を満たしていない以上、そもそも「ク」の対象外
  • 待合室で待ち時間が長い一般外来でのキャンセル → 他患者が繰り上がるため平均的損害ほぼゼロ
  • 数日前・前日午前までの予約変更・キャンセル → 通知「ク」の「直前」要件に該当しない可能性が高い
  • 急な体調変化、災害、感染症発症等のやむを得ない事由によるキャンセル → 民法651条2項ただし書きにより損害賠償義務免除

4-2. 自由診療予約のキャンセル:契約条項が機能する領域

これに対し、自由診療(人間ドック・PET検査・自由診療美容医療・予約制ワクチン・自由診療枠の確保等)では、保険給付の枠外なので療担規則の制約が及ばず、純粋に民法と消費者契約法の問題として処理されます。

下表の金額は業界相場感であり、自院の規程設定にあたっては必ず自院の平均的損害を実データで算定したうえで設定してください。消費者契約法9条1号により、平均的損害を超える部分は無効と判断され得ます。

自由診療の類型 業界相場感(実費根拠の提示が必須) 注意点
人間ドック・脳ドック 当日50〜100%、前日30〜50% 検査試薬発注済みなら実費根拠を提示
PET検査・造影CT/MRI 当日100%が認められやすい FDG等は当日朝に発注、再販不能
自由診療美容医療(注射系) 当日30〜50% 薬剤発注済みかが判定要素
予防接種(自費分) 前日まで無料、当日実費 ワクチン廃棄リスクの実費根拠
高度先進医療の自由診療枠 個別契約条項に従う 平均的損害の挙証責任に注意

ただし自由診療であっても消費者契約法9条1号は適用される点に注意が必要です。「いかなる理由でも100%徴収」「キャンセル時期を問わず全額」といった一律条項は、平均的損害を超える部分が無効と判断される可能性があります。

4-3. 「やむを得ない事由」での免除はどう考えるか

民法651条2項ただし書きは、解除に「やむを得ない事由」がある場合は損害賠償義務を負わないと定めています。重要なのは、患者の属性(高齢者・乳幼児・障害者など)で機械的に免除されるわけではなく、「急な体調変化等の具体的事実」が認定されるかどうかで判断される点です。

医療予約キャンセルで一般に「やむを得ない事由」と評価されやすいのは、

  • 急な体調不良の発生(救急搬送、高熱、感染症の発症等の具体的事実)
  • 家族の急な体調不良(同居家族・要介護家族の救急搬送等)
  • 大規模災害(地震・台風での交通機関停止、避難指示)
  • 家族の死亡・葬儀
  • 新型コロナ等の感染症陽性(出歩くこと自体が制限)

など。これらは年齢・属性にかかわらず誰にでも起こり得る事象であり、高齢者・乳幼児・障害者は事実として急な体調変化が起こりやすいという意味で例示に挙げられるにすぎません。逆に「うっかり忘れた」「予定が重なった」「気が変わった」は原則として通常のキャンセルとして扱われます。医療機関が自院の規程で免除事由を具体的事実ベースで明文化しておくことが、トラブル予防の最大のポイントです。


5. 患者向けFAQ:取られるケース・取られないケース

ここからは患者・家族向けに、典型的なシーンを具体的に整理します。

A

A. 一般的な保険診療の小児科予約であれば、取られないのが原則です。急な発熱という具体的な体調不良の事実は民法651条2項にいう「やむを得ない事由」に該当しやすく、ほとんどの医療機関では免除事由として規程に明記されています。当日朝に電話連絡することと、再予約の意思を伝えておくのが望ましい対応です。

ただし、自由診療の予防接種(インフルエンザワクチン等)で当日キャンセルした場合は、廃棄実費(数千円程度)を請求される可能性があります。事前にクリニックの規程を確認しましょう。

A

A. 大規模災害・交通機関停止は典型的な「やむを得ない事由」です。一律に「当日キャンセル100%」とする条項は、消費者契約法9条1号により無効と判断される可能性が高いです。施設側に事情を説明し、再予約への振替を求めましょう。応じない場合は、後述の消費者ホットライン188へ相談できます。

A

A. 民法上の「やむを得ない事由」に該当するため、損害賠償義務は原則発生しません。会葬礼状や死亡診断書のコピー等で事情を示せば、ほとんどの医療機関で免除されます。

A

A. 院内感染防止の観点からむしろ受診回避が望ましいケースであり、徴収は妥当性を欠きます。医療機関側が「来ないでください」と指示するのが標準で、後日改めて受診する形になります。請求された場合は、感染症発症の事実を伝えて減免を求めてください。

A

A. まず確認すべきは金額の妥当性より前に、その医療機関が選定療養として「予約に基づく診察」を実施しているかという点です。具体的には、

  • 予約料(選定療養の特別料金)を掲示・徴収しているか
  • 院内掲示に加え、自院ウェブサイトにも掲示しているか(保医発0313003号第15項(6))
  • 予約時刻から30分以上待たされていないか(待たされていれば、そもそも予約料自体の徴収が認められません=第15項(2))

これらを満たしていない「予約を受け付けているだけ」のクリニックは、新設「ク」を根拠にキャンセル料を徴収することはできません。そのうえで、要件を満たしている医療機関についても、2026年6月施行の通知(保医発0327第7号)では、新設「ク」キャンセル料の徴収には「予約時点での事前説明と患者同意」が要件として明記されています。さらに消費者契約法2022年改正により、事業者は求められればキャンセル料の算定根拠を説明する努力義務を負います(同法9条2項)。

  • 「自院は選定療養として予約診察を実施している」と説明されたか(掲示・ウェブサイトの確認)
  • 「予約時に料金発生の説明を受けたか?」を思い返す
  • 「平均的損害の算定根拠は?」と質問する
  • 院内掲示・規程の写しの提示を求める
  • 領収書に「キャンセル料(療養の給付と直接関係ないサービス)」の名目で区分発行されているか確認

説明を拒否された場合や根拠が不明瞭な場合は、消費者ホットライン188(局番なし)に相談できます。

A

A. いいえ。「予約制」を名乗っていても、選定療養として「予約に基づく診察」を実施し、保医発0313003号第15項の要件(対面診療・院内掲示とウェブサイト掲載・地方厚生(支)局長への報告等)を満たしていなければ、新設「ク」を根拠にキャンセル料を取ることはできません。単にネット予約システムで順番を管理しているだけの医療機関は対象外です。取れるかどうか迷ったら、Q5の確認軸(予約料の掲示・ウェブサイト掲載の有無)で判断してください。

A

A. 段階的に以下の窓口を活用できます。

  1. 消費者ホットライン 188(局番なし):地域の消費生活センターに繋がり、無料で相談・あっせんを依頼可能
  2. 医療安全支援センター(各都道府県・保健所設置市に設置):医療機関とのトラブル全般の相談窓口
  3. 管轄の地方厚生(支)局:保険診療上のルール違反(療担規則違反)の疑いがある場合
  4. 法テラス(日本司法支援センター):少額訴訟・支払督促等の法的手続きの相談
  5. 少額訴訟:60万円以下の金銭請求なら、簡易裁判所で1日結審の少額訴訟手続きを利用可能

特に「保険診療部分の上乗せ徴収」(例:再診料の自費上乗せ)が疑われる場合は、地方厚生(支)局への情報提供が有効です。療担規則違反は保険医療機関の指定取消事由にもなり得る重大な問題として扱われます。


6. 医療機関向け実務チェックリスト:規程整備から領収書まで

ここからは医療機関の事務長・院長・経営企画担当者向けです。2026年6月1日の改正施行までに、以下のステップを完了させることを推奨します。

6-1. 院内規程の整備項目

最初のステップ:自院が「選定療養における予約に基づく診察」を実施しているかの確認

新設「ク」キャンセル料を徴収するには、自院が保医発0313003号第15項(1)〜(11)の要件(対面診療・30分以上待たせない・院内掲示とウェブサイト掲載・地方厚生(支)局長への報告等、3-2参照)を満たした選定療養としての予約診察を実施している必要があります。この前提を満たさないまま実費徴収規程だけを整備しても、通知「ク」の根拠にはなりません。 未実施の場合は、まず予約診察を選定療養として位置付ける手続き(別紙様式3による地方厚生(支)局長への報告等)から着手してください。

そのうえで、患者から「療養の給付と直接関係ないサービス等」を徴収する場合、院内規程(実費徴収規程・キャンセルポリシー)を整備します。最低限以下を明記してください。

  • 徴収対象サービスの一覧(新設「ク」キャンセル料、「セ」予約・オンライン診療システム利用料、「ケ」Wi-Fi利用料、既存「ウ」通訳料、「エ」多言語対応、「カ」設備貸出、「キ」検査キャンセル時の薬剤費等)
  • 各サービスの料金額と算定根拠
  • キャンセル料の発生条件(通知「ク」の「直前」を自院ではどう定義するか:例「前日17時以降のキャンセル」「当日キャンセル」「無断キャンセル」等)
  • 予約時の事前説明手順と同意取得方法(通知「ク」の必須要件)
  • 免除事由(具体的事実ベースの例示:急な体調変化、災害、家族の死亡等)
  • 領収証の発行方法
  • 問い合わせ・異議申立ての窓口

特にキャンセル料の算定根拠は、消費者契約法9条2項の説明努力義務に対応するため、内部資料として整備しておくのが望ましいです(例:「過去6か月の自由診療PET検査の当日キャンセル発生率と再予約成功率から、平均逸失利益を◯円と算出」など)。

6-2. 院内掲示の必須要素

療担規則および関連通知に基づき、保険医療機関は院内の見やすい場所(受付窓口・待合室等)に料金表を掲示しなければなりません。2026年6月以降は新設「ク」「セ」「ケ」もこの掲示に含める必要があります。

  • 各サービス名・料金額の明示
  • 「保険外サービス」「療養の給付と直接関係ないサービス」と明記し、保険診療と区別
  • 文字サイズ・配置に配慮(高齢患者でも読める大きさ)

加えて、令和6年診療報酬改定で、院内掲示事項は原則としてウェブサイトへの掲載も必須となっています(ウェブサイトを自ら管理しない場合を除く。経過措置は令和7年5月31日まで=既に終了)。自院HPの「料金案内」ページに新設項目の追加掲載を忘れずに

6-3. 同意取得(書面 vs 口頭)の効力差

通知では、徴収にあたって「徴収に係るサービスの内容及び料金を明示した文書に患者側の署名を受けること」が原則とされています。新設「ク」キャンセル料は通知本文で予約時点での事前説明と同意取得が要件として明記されているため、書面同意の優先度が特に高くなります。

取得方法 効力 推奨される場面
書面同意(署名) 強い:紛争時に立証容易 キャンセル料規程、自由診療全般、システム利用料
包括同意書(入院時等) 強い:以後の都度徴収にも有効 入院患者への複数サービス提供
予約フォームのチェックボックス 中:オンライン予約での実用解 Web予約・アプリ予約での新設「ク」対応
口頭同意+録音 中:立証は可能だが争点化リスク 緊急対応で書面が間に合わない場合
口頭同意のみ 弱い:紛争時に立証困難 推奨しない

特に新設「ク」キャンセル料については、患者が予約した時点で「キャンセルポリシーに同意した」とみなせる仕組み(予約フォームのチェックボックス、対面予約時の同意書サイン)を整えるのが安全です。

6-4. 領収証・明細書の記載ルール

患者から保険外費用を徴収した場合、他の費用と明確に区別した内容のわかる領収証を発行することが通知で義務付けられています。

  • 保険診療分(一部負担金)と保険外サービス分を別欄に
  • 各保険外サービスは項目名と金額を個別表示
  • 「お世話料」「施設管理料」「雑費」など曖昧な名目は禁止
  • 消費税の扱いを明記(医療行為に密接関連する場合は非課税の判断あり、要顧問税理士確認)

6-5. キャンセル料の「平均的損害」根拠資料

トラブル時の最大の防御線は、自院の平均的損害を実データで算定した内部資料を保有していることです。最低限、以下のデータを蓄積してください。

  1. 過去6〜12か月のキャンセル発生件数と時間別分布(特に「直前」該当の判定基準データ)
  2. 当日キャンセル時の他患者繰り上がり成功率
  3. 検査試薬・造影剤の発注タイミングと廃棄実費
  4. 自由診療予約枠の単価と再予約成功率
  5. キャンセル対応に要する事務工数(電話連絡、再調整)

これらをExcel管理し、消費者契約法9条2項の説明請求に対して即座に開示できる体制を整えます。

6-6. スタッフ研修と問い合わせ対応フロー

受付・看護師・事務職員が改正内容と院内規程を統一的に説明できるよう、施行前にスタッフ研修を実施します。特に以下の典型シーンへの対応をロールプレイ形式で訓練してください。

  • 患者から「なぜ取られるのか」と問われた場合の説明(通知「ク」「セ」の根拠提示)
  • 「他院では取られなかった」とのクレーム対応
  • 子供の急な発熱等、免除事由(やむを得ない事由)に該当する申し出への判断
  • 「予約時に説明を受けていない」と言われた場合の対応(同意エビデンスの確認)
  • 消費者ホットラインから問い合わせがあった場合の対応窓口

6-7. 6月1日までのタイムライン

時期 作業内容
〜2026年5月10日 院内規程ドラフト作成、顧問弁護士・社労士チェック
5月11〜20日 院内掲示の作成・印刷、HP更新の準備、予約システム同意画面改修
5月21〜31日 スタッフ研修、書面同意書・領収証様式の更新
6月1日 改正施行・新規程の運用開始、HP公開、院内掲示差替え
6月以降 月次でキャンセル発生実績を集計、平均的損害根拠の更新

7. 関連記事と内部リンク

本記事の論点に関連する詳細は、以下の記事も参照してください。


8. まとめ:誤解を避けて落ち着いて対応する

2026年6月1日の通知改正(令和8年3月27日 保医発0327第7号)は、報道で誇張されたような「ドタキャン即罰金」の制度ではありません。保険診療では原則無料・実費徴収には事前説明と同意が必須という大原則は変わらず、今回新設された4項目(Wi-Fi利用料・多言語対応費用・キャンセル料・システム利用料)のうち、キャンセル料(「ク」)は選定療養として「予約に基づく診察」を実施している医療機関に限定されるという性格の強いものです。新設されたキャンセル料も「選定療養における予約に基づく診察」を実施している医療機関が、「診察日の直前」かつ「事前説明+同意」を満たした場合に限り徴収できるもので、無条件に課せるものではありません。

患者側は「請求する医療機関が選定療養の予約診察を実施しているかを確認する」「請求されたら根拠と事前説明の有無を質問する」「やむを得ない事由なら毅然と免除を求める」という基本姿勢を、医療機関側は「選定療養の要件充足→規程・掲示・同意・領収証」の順で整えたうえで、平均的損害の算定根拠を実データで持つこと——この両方が整えば、無用なトラブルは防げます。

施行は2026年6月1日。それまでに患者・医療機関双方が、正しい知識をもって備えることが重要です。


参考資料(一次ソース)

  • 厚生労働省「『療養の給付と直接関係ないサービス等の取扱いについて』の一部改正について」(令和8年3月27日 保医発0327第7号、令和8年6月1日から適用):https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001707281.pdf
  • 厚生労働省 通知一覧ページ(保医発関連の最新告示・通知):https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67729.html
  • 厚生労働省「療養の給付と直接関係ないサービス等の取扱いについて」(平成17年9月1日 保医発第0901002号、原通知)
  • 厚生労働省「『療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等』及び『保険外併用療養費に係る厚生労働大臣が定める医薬品等』の実施上の留意事項について」(平成18年3月13日 保医発第0313003号、令和8年3月27日 保医発0327第6号改正・令和8年6月1日適用の現行版。第15項「予約に基づく診察に関する事項」):https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/15-3.pdf
  • 平成18年厚生労働省告示第495号「厚生労働大臣の定める評価療養、患者申出療養及び選定療養」(第2条第2号「予約に基づく診察」):https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=84aa8411&dataType=0&pageNo=1
  • 厚生労働省 中央社会保険医療協議会(中医協)総会資料(2026年1月9日):https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-chuo_128154.html
  • 健康保険法・国民健康保険法(e-Gov 法令検索):https://laws.e-gov.go.jp/
  • 保険医療機関及び保険医療養担当規則(療担規則、昭和32年厚生省令第15号、e-Gov):https://laws.e-gov.go.jp/law/332M50000100015
  • 消費者契約法9条(e-Gov):https://laws.e-gov.go.jp/law/412AC0000000061
  • 消費者庁「消費者契約法 逐条解説」第9条解説:https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/consumer_contract_act/annotations/assets/consumer_system_cms203_230915_16.pdf
  • 最高裁判所平成18年11月27日判決(学納金返還訴訟、消費者契約法9条1号の解釈先例として援用):https://www.courts.go.jp/

※本記事の数値・条文は2026年8月21日時点で確認した一次資料に基づいて記載しています(初出:2026年5月25日)。具体的な徴収可否・運用については、所轄の地方厚生(支)局および顧問弁護士に確認してください。

免責事項

本記事は2026年8月21日時点で一次資料を確認のうえ記載した一般的な解説であり(初出:2026年5月25日)、個別の医療機関の運用や患者の状況への適用を保証するものではありません。具体的な徴収可否・金額・手続きについては、所轄の地方厚生(支)局、顧問弁護士、消費生活センター(消費者ホットライン188)等にご相談ください。

JG

実務ガイド編集部

AI執筆 + 編集部レビュー済み

本記事はAIが初稿を作成し、編集部が法令原文・官公庁通知・審議会資料等の一次情報と照合のうえ、内容を確認・編集しています。行政手続き・法改正・制度改正の実務情報を専門に扱う編集チームが、企業実務担当者・士業専門家向けに正確性の高いコンテンツを提供します。