介護事業所の人材確保と処遇改善の原資2026|加算率の試算・採用手段の実測・賃金改善の守るべき線

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介護事業所の人材確保と処遇改善の原資2026|加算率の試算・採用手段の実測・賃金改善の守るべき線
目次▼

「人が足りない。賃上げの原資は処遇改善加算(介護報酬に上乗せされ、職員の賃金改善に使うお金)でまかなえるのか。採用にもそのお金を使えるのか」。介護事業者と施設管理者が、令和8年度に最初にぶつかる問いを、通知の原文と公的調査の実測値で整理する。

結論:加算は「賃上げの原資」であり、採用費は別に見込む

  1. 処遇改善加算の額は事業所の月間総単位数に、サービス別・区分別の加算率を掛けて決まる。令和8年6月以降、訪問介護の加算Ⅰイは27.0%、介護老人福祉施設の加算Ⅰイは16.3%(老発0313第6号 別紙1 表1-2・表1-4)。
  2. 受け取った加算は、加算額以上の賃金改善(基本給・手当・賞与等の引上げと、それに伴う法定福利費等の事業主負担の増加分)に使い切るのが算定要件。求人広告費や紹介手数料を、加算の収入から払うことは想定されていない。
  3. 採用の現場の実測では、人手が「不足」と答えた事業所が65.8%(令和7年度介護労働実態調査)。採用において効果があったと答えた方策は、実施した事業所の中で「賃金水準の向上」が38.4%と最も高い。加算を使った賃上げは、採用と定着の両方に効きうるが、採用活動そのものの費用は別予算になる。
  4. 経営面では、令和6年度決算の収支差率(収入に対する利益の割合)が全サービス平均で4.7%、赤字事業所が37.5%(令和7年度介護事業経営概況調査)。加算の取り漏らしと返還リスクの管理が、そのまま経営の安定につながる。

加算率の全体像と単位数は介護保険の単位数・地域区分一覧2026で、2026年6月改定の6区分の要件は処遇改善加算2026年6月改定の解説で扱っている。本記事は「経営判断として、加算と採用をどう組み立てるか」に絞る。

賃上げの原資:加算の仕組みと使途のルール

加算額の決まり方

老発0313第6号(令和8年3月13日・令和8年度分)は、処遇改善加算の単位数を、サービス別の基本サービス費に各種加算減算(処遇改善加算を除く)を加えた1月当たりの総単位数に、加算区分とサービス類型別の加算率を乗じた単位数と定めている。加算は区分支給限度基準額(利用者が1か月に使える介護サービスの上限)の算定対象から除外され、利用者の限度額を圧迫しない。

加算率は令和8年6月以降、区分Ⅰイ・Ⅰロ・Ⅱイ・Ⅱロ・Ⅲ・Ⅳの6区分。国の趣旨は、介護職員のみならず介護従事者を対象に月1.0万円(3.3%)の賃上げを実現し、生産性向上や協働化に取り組む事業者の介護職員には月0.7万円(2.4%)を上乗せする、というものだ(定期昇給0.2万円を含め、介護職員は最大月1.9万円(6.3%))。

月間総単位数別の試算

月間総単位数は事業所ごとに違う。次の数字は説明のための仮定で、実際の事業所の数値ではない。

区分 訪問介護(月間総単位数100,000単位と仮定)の加算率 加算の単位数 介護老人福祉施設(同2,500,000単位と仮定)の加算率 加算の単位数
Ⅰイ 27.0% 27,000単位 16.3% 407,500単位
Ⅰロ 28.7% 28,700単位 17.6% 440,000単位
Ⅱイ 24.9% 24,900単位 15.9% 397,500単位
Ⅱロ 26.6% 26,600単位 17.2% 430,000単位
Ⅲ 20.7% 20,700単位 13.6% 340,000単位
Ⅳ 17.0% 17,000単位 11.3% 282,500単位

円に換算するには、事業所の地域区分とサービス種別ごとの1単位の単価を掛ける(単価は地域区分一覧参照)。仮に1単位=10円とすると、訪問介護の例でⅣからⅠイに上がる差は月10,000単位=100,000円、ⅢからⅠロなら月8,000単位=80,000円になる。上位区分への移行で増える額は、上位区分の要件を満たすための人件費・体制整備の費用と見比べて判断する。

本人に回せる額の目安

加算額は、事業主負担の法定福利費等を含めた賃金改善に使う(Q&A第1版 問1-7)。このため、職員本人の給与に回せる額は加算額より小さくなる。事業主負担の増加率を15%と仮置きすると(この15%は本記事の仮定で、公的な標準値ではない)、訪問介護の加算Ⅰイ27,000単位(1単位10円なら月270,000円)の場合、本人に回せるのは270,000円÷1.15=約234,783円。対象職員が10人なら、均等配分で1人あたり月約23,478円になる。実際の率は、加入する保険や賞与の連動の仕方で変わる。

賃金改善の守るべき線(老発0313第6号・Q&A第1版)

加算額以上を賃金改善に充てる

事業者は、加算の算定額に相当する職員の賃金(基本給、手当、賞与等。退職手当を除く)の改善を実施しなければならない。基本給による賃金改善が望ましいとされ、令和7年度より増えた加算額(新規算定、上位区分への移行、令和8年度改定の加算率引上げ分)は、過去の独自の賃金改善の実績にかかわらず、新たに賃金改善を実施する必要がある。新規の賃金改善は、ベースアップ(賃金表の改訂で基本給や毎月の手当を一律に引き上げること)によるのが基本だ。

月額賃金改善要件

加算Ⅳの加算額の2分の1以上を、基本給または決まって毎月支払われる手当の改善に充てる。加算Ⅳ以外を算定する場合も、仮に加算Ⅳを算定するなら見込まれる加算額の2分の1以上を、基本給等に充てる。すでに満たしている事業所は、新規の取組は要らない。

賃金水準を下げない

特定した賃金項目を含め、賃金水準(賃金の高さ)を低下させてはならない。経営が悪化し、事業の継続のためにやむを得ず賃金水準を引き下げる場合は、特別事情届出書(別紙様式5)の届出が必要で、①収支が赤字などの経営状況、②引下げの内容、③経営と賃金水準の改善の見込み、④労使の合意の時期と方法を記載する。Q&A第1版 問1-11は、事業継続が著しく困難な場合でも、賃金水準を引き下げるには合理的な理由に基づき適切に労使の合意を得る必要があると明記している。引き下げた後に状況が改善したら、可能な限り速やかに引下げ前の水準に戻す必要がある。

偏った配分は禁止

加算を原資とする賃金改善を一部の職員や、同一法人内の一部の事業所だけに集中させる、職務や勤務の実態に見合わない著しく偏った配分は行わないこと(Q&A第1版 問2-6)。経験・技能のある介護職員(介護福祉士で勤続10年以上を基本とする)の処遇改善が重要である点には留意するが、事業所内での柔軟な配分は認められている。

実績が加算額を下回ると返還の対象

実績報告で賃金改善額が加算額を下回ると、算定要件を満たさないとして返還の対象になる。ただし、不足分を賞与等の一時金として職員に追加で配ることで、返還を求めない取扱いも差し支えないとされる(Q&A第1版 問1-9)。期末に慌てないよう、賃金改善の累計を毎月、加算の累計と並べて管理するのが実務の基本だ。

費用に含められるもの、含められないもの

費用 賃金改善額に含められるか 根拠
賃金改善に伴い増えた法定福利費(事業主負担分)・法人事業税の外形標準課税の付加価値額の増加分 含められる Q&A第1版 問1-7
キャリアパス要件・職場環境等要件を満たすために取り組む費用(研修費、機器の導入費など) 含められない Q&A第1版 問1-5
任意加入制度(退職手当共済制度の掛金等)の増加分 含められない Q&A第1版 問1-7

求人広告費や紹介手数料は賃金そのものではないため、加算額に相当する賃金改善の実績にはならない。採用費は、加算とは別に予算を立てる。

令和8年度の期限と、取り逃がさない手順

主な期日

手続き 期日 根拠
令和8年度の処遇改善計画書(令和8年4月・5月分を含む通常の場合) 令和8年4月15日(提出済みの時期) 老発0313第6号 4⑵
令和8年4月・5月は算定せず、令和8年6月から新たに算定する事業者の計画書(訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅介護支援、介護予防支援等) 令和8年6月15日(提出済みの時期) 同 4⑵
令和8年度の実績報告書 通常の場合、令和9年7月31日(最終の加算の支払があった月の翌々月末日) 同 4⑶
令和8年度特例要件の誓約を履行する期限(キャリアパス要件ⅠからⅤ・職場環境等要件の整備) 令和9年3月末 同 3⑴② ほか
計画書・実績報告書の根拠資料の保存 2年間 同 4⑵・⑶

令和9年度の計画書の提出期日は、令和8年度分の本通知には載っていない。令和9年度分の通知で改めて示されるため、都道府県の案内を確認してほしい。

賃金改善の実施時期

賃金改善の実施月は、算定対象月と同じでなくてもよい。例えば6月に算定する加算について、①6月中に見込額で支払う、②7月中に支払う、③報酬が国保連(国民健康保険団体連合会)の審査を経て振り込まれる8月に支払う、のいずれかを事業者が選ぶ(Q&A第1版 問1-8-1)。配分のあり方は、あらかじめ労使の合意を得るよう努める。

事業所を廃止する場合は、最終の賃金の支払までに加算額以上の賃金改善を行う必要がある。行えなかった月の加算は返還の対象になる(問1-8-2)。

令和8年度特例要件(加算Ⅰロ・Ⅱロの条件)

加算Ⅰロ・Ⅱロは、Ⅰイ・Ⅱイの要件に加えて、次のいずれかを満たす必要がある。

  • ケアプランデータ連携システムの利用(表1-2・表1-3に掲げるサービスに限る)
  • 生産性向上推進体制加算ⅠまたはⅡの算定(表1-3・表1-4に掲げるサービスに限る)
  • 所属法人が社会福祉連携推進法人に所属していること

申請時点で満たしていなくても、利用または算定を誓約すれば、申請時点から満たしているものとして扱われる。誓約した場合は令和9年3月末までに実行し、実績報告書で報告する。

サービス別の加算率(令和8年6月以降・全行)

老発0313第6号 別紙1 表1-2から表1-5。加算率は区分ごと・サービスごとに違い、隣の行と取り違えやすい。自社のサービス名の行を必ず確認する。

表1-2(訪問・通所系)

サービス区分 Ⅰイ Ⅰロ Ⅱイ Ⅱロ Ⅲ Ⅳ
訪問介護 27.0% 28.7% 24.9% 26.6% 20.7% 17.0%
夜間対応型訪問介護 26.7% 27.8% 24.6% 25.7% 20.4% 16.7%
定期巡回・随時対応型訪問介護看護 26.7% 27.8% 24.6% 25.7% 20.4% 16.7%
(介護予防)訪問入浴介護 12.2% 13.3% 11.6% 12.7% 10.1% 8.5%
通所介護 11.1% 12.0% 10.9% 11.8% 9.9% 8.3%
地域密着型通所介護 11.7% 12.7% 11.5% 12.5% 10.5% 8.9%
(介護予防)通所リハビリテーション 10.3% 11.1% 10.0% 10.8% 8.3% 7.0%
(介護予防)認知症対応型通所介護 21.6% 23.6% 20.9% 22.9% 18.5% 15.7%

表1-3(多機能・短期入所)

サービス区分 Ⅰイ Ⅰロ Ⅱイ Ⅱロ Ⅲ Ⅳ
(介護予防)小規模多機能型居宅介護 17.1% 18.6% 16.8% 18.3% 15.6% 12.8%
看護小規模多機能型居宅介護 16.8% 17.7% 16.5% 17.4% 15.3% 12.5%
(介護予防)短期入所生活介護 16.3% 17.6% 15.9% 17.2% 13.6% 11.3%
(介護予防)短期入所療養介護(老健) 9.0% 9.7% 8.6% 9.3% 6.9% 5.9%
(介護予防)短期入所療養介護(病院等) 6.2% 6.6% 5.8% 6.2% 4.7% 4.0%
(介護予防)短期入所療養介護(医療院) 6.2% 6.6% 5.8% 6.2% 4.7% 4.0%

表1-4(施設・居住系)

サービス区分 Ⅰイ Ⅰロ Ⅱイ Ⅱロ Ⅲ Ⅳ
(介護予防)特定施設入居者生活介護 14.8% 15.9% 14.2% 15.3% 13.0% 10.8%
地域密着型特定施設入居者生活介護 14.8% 15.9% 14.2% 15.3% 13.0% 10.8%
(介護予防)認知症対応型共同生活介護 21.0% 22.8% 20.2% 22.0% 17.9% 14.9%
介護老人福祉施設 16.3% 17.6% 15.9% 17.2% 13.6% 11.3%
地域密着型介護老人福祉施設 16.3% 17.6% 15.9% 17.2% 13.6% 11.3%
介護老人保健施設 9.0% 9.7% 8.6% 9.3% 6.9% 5.9%
介護医療院 6.2% 6.6% 5.8% 6.2% 4.7% 4.0%

表1-5(令和8年6月に加算が新設されたサービス)

サービス区分 加算率
(介護予防)訪問看護 1.8%
(介護予防)訪問リハビリテーション 1.5%
居宅介護支援、介護予防支援 2.1%

表1-5のサービスは区分の分け方がなく、令和8年度特例要件(ケアプランデータ連携システムの利用、または社会福祉連携推進法人への所属)か、加算Ⅳの取得に準ずる要件のいずれかを満たす必要がある。(介護予防)福祉用具貸与、特定(介護予防)福祉用具販売、(介護予防)居宅療養管理指導は、令和8年6月以降も加算の対象外(表1-7・加算率0%)。

人材確保の実測:採用率・離職率・不足感

公益財団法人介護労働安定センターの「令和7年度介護労働実態調査」(令和8年7月29日公表)の数字を、事業所調査と労働者調査を区別して示す。

採用率と離職率

  • 訪問介護員と介護職員を合わせた2職種の採用率は14.6%、離職率は12.4%(令和7年度)。採用率は2年ぶりの上昇だが、上昇幅は0.3ポイントと小幅で、低い水準が続く
  • 採用率・離職率の算式は、1年間の採用者(離職者)数÷令和6年10月1日時点の在籍者数×100
  • 年齢階層別では、29歳以下の離職率が17.3%(2職種計)と、他の年齢階層より高い
  • 事業所ごとの分布は、採用率が10%未満の事業所が50.6%、離職率が10%未満の事業所が54.3%

人手の不足感

区分 不足とする事業所(大いに不足+不足+やや不足) うち大いに不足+不足
事業所全体 65.8%(前年度65.2%) 32.0%
訪問介護員 82.9% 58.6%
介護職員 69.8% 36.2%

事業所全体の内訳は「大いに不足」11.1%、「不足」20.9%、「やや不足」33.8%。採用した従業員の人数や質の評価では、「人数・質ともに確保できていない」が30.6%、「質には満足だが、人数は確保できていない」が27.6%で、施設系(入所型)は「人数・質ともに確保できていない」が42.0%、居住系は38.6%だった。定着では、全体の18.7%が「定着率が低く困っている」と答え、施設系(入所型)は27.7%、居住系は23.7%と高い。

採用手段の実施率と効果

事業所調査(n=8,899)の採用活動の実施状況と、実施した事業所のうち「採用に効果があった」と答えた割合。

採用活動 実施している事業所 実施した事業所のうち「効果があった」
職員に対して友人・知人などの紹介を依頼 66.0% 47.3%
ハローワークや福祉人材センターの担当者に相談 64.8% 41.8%
有料職業紹介所を活用 37.9% 53.4%
事業所ホームページで自事業所のアピールポイントを求職者へ発信 36.8% 24.4%
民間の有料求人情報サイトを活用 36.3% 44.8%
過去の離職者に再雇用を打診(定年後の再雇用制度は除く) 18.2% 35.2%
SNSを活用して自事業所のアピールポイントを求職者へ発信 16.3% 27.6%

この表の「効果があった」は事業所の主観的な回答で、費用対効果を比べたものではない。有料職業紹介所の紹介手数料や求人サイトの掲載料は含まれていない。介護事業経営概況調査の統計表(収支の科目別の表)で確認した範囲では、紹介手数料の独立した科目は見当たらず、公的な平均額を示せない。手数料率は契約で変わるので、複数社から見積を取って比べる必要がある。

労働者が実際に就職した経路

労働者調査(n=20,675)で、現在の法人に就職した主な経路・経緯は、「友人・知人からの紹介」33.8%、「ハローワーク」19.4%、「求人情報サイト」9.6%、「民間の職業紹介」3.9%。勤続1年未満(この1年間に就職したと考えられる者、n=1,602)に限ると、「友人・知人からの紹介」29.3%が最多で、次いで「求人情報サイト」が21.3%と、全体より高い。

過去1年間にスポットワーク(単発・短時間の雇用)を利用した事業所は8.9%で、そのうち正社員等へ雇用したことがあるのは28.0%だった。

採用と定着に効果があった方策(抜粋)

事業所調査の「採用や職場定着・離職防止の方策」(22項目の抜粋)。実施割合と、実施した事業所のうち効果があったとする割合。

方策 実施している事業所 採用に効果があった 職場定着に効果があった
賃金水準の向上(※) 61.4% 38.4% 51.6%
時間外労働の削減 58.7% 22.7% 44.1%
有給休暇等の各種休暇の取得や勤務日時の変更をしやすい職場づくり 75.4% 28.6% 57.9%
人間関係が良好な職場づくり 74.2% 22.4% 54.6%
仕事と育児や介護の両立支援 58.9% 23.5% 51.0%
能力や仕事ぶりを処遇に反映 51.1% 13.6% 40.0%
介護テクノロジーの導入、業務改善等により業務負担の軽減 32.5% 16.9% 33.9%

(※)調査票では賃金水準の向上の幅を特定しておらず、各回答者がそれぞれの任意の想定の幅で答えている。「何円上げれば採用に効く」とは読めない。

採用に効果があったとする割合の最大は「賃金水準の向上」、職場定着では「有給休暇等の各種休暇の取得や勤務日時の変更をしやすい職場づくり」だった。採用は賃金、定着は休みやすさと人間関係という傾向が、事業所の回答に出ている。なお中途採用者が直前の介護関係の仕事を辞めた理由は「職場の人間関係に問題があったため」が27.3%で最も高く、その具体的な内容の45.8%が「上司や先輩からの指導や言動がきつかったり、パワーハラスメントがあった」だった。

賃金の実測

労働者調査で、賃金支払形態が月給の人の通常月の平均月収は254,951円、前年度に比べ2.4%の増加。職種別では訪問介護員(4.1%)、介護職員(3.1%)、生活相談員(3.1%)の伸びが高い。時給の人の平均時給は1,321円、前年度に比べ4.7%の増加だった。自社の賃金表を見直す際の、全国の参考値になる。

経営の実測:収支差率と給与費割合

令和7年度介護事業経営概況調査(令和7年5月実施、令和5・6年度決算を調査。有効回答8,099施設・事業所、有効回答率46.2%)の令和6年度決算から。収支差率は税引前で物価高騰対策関連補助金を含まない値、給与費割合は収入に対する給与費の割合。

サービス 収支差率 収入に対する給与費の割合 赤字事業所の割合
介護老人福祉施設 1.4% 63.5% 44.3%
介護老人保健施設 0.6% 64.3% 49.3%
訪問介護 9.6% 67.8% 35.1%
通所介護 6.2% 60.9% 37.4%
特定施設入居者生活介護 5.3% 43.6% 27.4%
認知症対応型共同生活介護 4.9% 63.5% 30.7%
居宅介護支援 6.2% 76.2% 40.0%
全サービス平均 4.7%(加重平均) - 37.5%

注意点が3つある。①この調査は令和6年度決算までで、令和8年6月の加算率の引上げは反映されていない。②サービスごとの有効回答率は33.4%から61.3%まで開きがあり、1施設当たりの平均は個別の事業所の目安にならない。③訪問介護は収支差率が9.6%(令和5年度の11.1%から1.5ポイント低下)でも、赤字事業所が35.1%ある。平均の黒字は、個別の黒字を意味しない。

給与費割合が6割台の事業所では、賃金改善の実績管理のわずかなズレが収支に響く。加算率の上昇分を、賃金改善の実績と対応させて管理するところから始めたい。

人員配置の下限:1人の退職が基準割れになる場面

加算の算定以前に、指定基準の人員配置を割ると指定の運営に支障が出る。2026年10月11日時点で施行中の条文(令和6年厚生労働省令第164号による改正を反映した2025年4月1日施行版)から、代表的な二つを示す。

  • 訪問介護(指定居宅サービス等基準 第5条):訪問介護員等の員数は、事業所ごとに常勤換算方法で2.5以上。サービス提供責任者は、常勤の訪問介護員等のうち、利用者40人またはその端数を増すごとに1人以上(利用者数は前3月の平均値)。常勤のサービス提供責任者を3人以上配置し、サービス提供責任者の業務に主として従事する者を1人以上配置している事業所で、業務が効率的に行われている場合は、利用者50人またはその端数を増すごとに1人以上とできる
  • 特別養護老人ホーム(指定介護老人福祉施設基準 第2条):介護職員と看護職員の総数は、常勤換算方法で入所者3人またはその端数を増すごとに1人以上。看護職員は、入所者が30人を超えない施設で1人以上、30人超50人以下で2人以上、50人超130人以下で3人以上。入所者の数は前年度の平均値

たとえば入所者80人の特別養護老人ホームなら、80÷3=26.67を切り上げた27人(常勤換算)が介護職員と看護職員の合計の下限になる。常勤換算とは、職員の勤務延時間数の総数を、常勤の従業者が勤務すべき時間数で割って、常勤の人数に直す計算方法だ。下限ぎりぎりで組むと、1人の退職がそのまま基準割れにつながる。他の加算の人員要件(夜間の配置など)はサービスごとに別にあり、本記事では扱わない。

判断の順序:採るか、上げるか、残すか

  1. 自社のサービスと現在の加算区分を確認し、上位区分に上がったときの増加額を試算する(加算の単位数×地域区分の単価)
  2. 増加額のうち、事業主負担を除いた分を、誰にいくら配るかを決める。基本給のベースアップを基本に、月額賃金改善要件(加算Ⅳの2分の1以上を基本給等に)を満たす
  3. 一度上げた基本給は下げにくいことを前提に、加算率の変動(次回改定)と受け取る単位数の増減を見込む
  4. 職場環境等要件の取組を、採用・定着の施策と兼ねる。表4の「入職促進に向けた取組」には、幅広い採用の仕組みの構築や職業体験の受入れが、「両立支援・多様な働き方の推進」には、有給休暇を取得しやすい雰囲気づくりや短時間正規職員制度が並ぶ。加算Ⅰ・Ⅱ系を算定するなら区分ごとに2以上の取組が必要で、Ⅲ・Ⅳは1以上。加算Ⅰ・Ⅱ系は取組内容を介護サービスの情報公表制度かホームページで公表する
  5. 採用費は加算とは別の財源で見込む。紹介会社や求人サイトは見積の比較を前提に、友人・知人の紹介やハローワークなど低コストの手段と併用する
  6. 賃金改善の累計を毎月管理し、実績報告(通常の場合、令和9年7月31日)に備える。根拠資料は2年間保存する

地域の自治体の独自の支援策は、地域差が大きい。公的な補助の探し方は地方自治体の主要補助金制度と申請のポイント、国の支援パッケージの存在は医療・介護等支援パッケージ2026を参照してほしい(本記事では金額・要件を確認していないため、記載しない)。

運用の落とし穴

1. 加算の「取り漏らし」と「上位区分の誤算」

加算の区分変更や新規算定には、居宅系サービスは算定を開始する月の前月15日、施設系サービスは算定を開始する月の1日までに体制届出が必要(老発0313第6号 4⑴)。計画書は、その年度に初めて加算を算定する月の前々月の末日までに提出する。期日を過ぎた場合の扱いは通知に書かれていないため、算定開始月を決める前に、都道府県の案内で期日を確認する。

2. 就業規則の整備が前提

キャリアパス要件Ⅰ(任用要件・賃金体系の整備)とⅢ(昇給の仕組みの整備)は、就業規則等の書面での整備と全介護職員への周知が必要。常時雇用する者が10人未満で就業規則の作成義務がない事業所は、内規等の整備・周知でもよい。令和8年度は、特例要件を満たす事業所に限り、令和9年3月末までの整備を誓約すれば、申請時点から満たしているものとして扱われる。

3. 派遣職員・出向者への配分

派遣労働者であっても加算の対象にできる。賃金改善の方法を派遣元と相談し、処遇改善加算を原資とする派遣料等の上乗せが、派遣元から派遣職員の給与に上乗せされるよう協議する(Q&A第1版 問2-4)。在籍型の出向者や業務委託職員の扱いは、問2-5-1以降を確認する。

4. 変更の届出

就業規則の改訂(職員の処遇に関する内容に限る)、キャリアパス要件の適合状況の変更(算定区分に変更が生じる場合)、合併や法人内の事業所の増減などは、変更届出書の対象(老発0313第6号 5⑴)。変更に気づいたら、期日を逃さず届け出る。

よくある質問(FAQ)

Q1. 求人広告費や紹介手数料を、処遇改善加算の収入で払ってよいですか?

払う前提の制度ではない。通知は、加算の算定額に相当する職員の賃金の改善を実施することを求めており、賃金改善額に含められるのは、賃金(基本給、手当、賞与等)の改善と、それに伴う法定福利費等の事業主負担の増加分。Q&A第1版 問1-5は、キャリアパス要件や職場環境等要件を満たすために取り組む費用すら、賃金改善額に含めてはならないとしている。採用費は別に見込む。

Q2. 実績報告で賃金改善額が加算額に届かなかったら?

算定要件を満たさないものとして返還の対象になる。ただし、不足分を賞与等の一時金として職員に追加で配分することで、返還を求めない取扱いとしても差し支えないとされる(問1-9)。実績が加算額に届かない見込みが出た時点で、早めに都道府県へ相談する。

Q3. 赤字で、賃金水準を下げたいのですが?

賃金水準を下げる場合は、特別事情届出書の提出が必要で(老発0313第6号 5⑵)、そのうえで合理的な理由に基づき適切に労使の合意を得なければならない(Q&A問1-11)。基本給を上げつつ賞与を下げた場合は、賃金全体の水準が下がっていれば特別事情届出書が必要で、賃金全体の水準が下がっていなければ、個々の項目の水準が下がっても不要とされる(問1-12)。個別のケースがどちらに当たるかは、都道府県に確認してほしい。

Q4. 職員が10人に満たない小さな事業所でも要件は同じですか?

賃金改善の考え方は同じ。キャリアパス要件で「就業規則に代わる内規等」でよいとされる点、職場環境等要件の生産性向上の取組で、1法人に1事業所だけを運営する小規模事業者は、一定の取組(表4の㉔)を実施していればよいとされる点が異なる。

Q5. 紹介会社を使うと、いくらかかりますか?

本記事で確認した公的調査(介護労働実態調査・介護事業経営概況調査)には、1人採用あたりの手数料の統計が見当たらない。契約で変わるので、複数社から見積を取るしかない。

まとめ

  • 処遇改善加算は賃金改善の原資で、採用活動の費用ではない。加算額=月間総単位数×加算率。自社のサービス名の行を確認する
  • 加算額以上の賃金改善(法定福利費等を含む)が算定要件。下回ると返還の対象になる。賃金水準を下げるには届出と労使の合意が要る
  • 採用では「賃金水準の向上」、定着では「休みやすさ」と「人間関係」が、事業所の回答で効果が高かった。ただし主観回答で、費用対効果ではない
  • 令和8年度の実績報告は通常の場合令和9年7月31日。特例の誓約は令和9年3月末までに実行する
  • 人員配置の下限(訪問介護の常勤換算2.5以上、特養は入所者3人に1人以上)は余裕を持って組む

加算率の一覧と地域区分ごとの単価は、介護保険の単位数・地域区分一覧2026、計画書の書き方は処遇改善加算の計画書作成・届出ガイドで確認できる。

参考資料・一次情報

本記事の加算率・要件・期日・人員配置・調査値は、以下の原文で確認しています(2026年10月11日確認)。最新の情報は各機関の公式サイトでご確認ください。

  • 厚生労働省老健局長通知 老発0313第6号「介護職員等処遇改善加算に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について」(令和8年3月13日・令和8年度分)別紙1 表1-2〜表1-7 — https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001675724.pdf
  • 厚生労働省老健局老人保健課 事務連絡「介護職員等処遇改善加算に関するQ&A(第1版)」(令和8年3月13日) — https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001675711.pdf
  • 公益財団法人介護労働安定センター「令和7年度『介護労働実態調査』結果の概要について」(令和8年7月29日) — https://www.kaigo-center.or.jp/content/files/report/R7_jittai_chousa_press.pdf
  • 同「令和7年度介護労働実態調査 介護労働者の就業実態と就業意識調査 結果報告書」(2026年7月) — https://www.kaigo-center.or.jp/content/files/report/R7_jittai_chousa_roudousya.pdf
  • 厚生労働省老健局老人保健課「令和7年度介護事業経営概況調査結果」 — https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/153-1/r07_gaikyoukekka.pdf
  • 同「令和7年度介護事業経営概況調査結果の概要(案)」(社会保障審議会介護給付費分科会 介護事業経営調査委員会 第42回) — https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001603551.pdf
  • 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)第5条 — https://laws.e-gov.go.jp/law/411M50000100037
  • 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号)第2条 — https://laws.e-gov.go.jp/law/411M50000100039

免責事項:本記事の情報は2026年10月11日時点で確認した通知・Q&A・省令・調査報告に基づく。試算は記事内の仮定による概算で、個別の事業所の加算額や賃金改善額を保証しない。実際の算定・届出にあたっては、最新の通知および所管の都道府県・市区町村の案内を必ず確認すること。本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の算定可否・届出内容・労務に関する専門的アドバイスではない。

JG

実務ガイド編集部

AI執筆 + 編集部レビュー済み

本記事はAIが初稿を作成し、編集部が法令原文・官公庁通知・審議会資料等の一次情報と照合のうえ、内容を確認・編集しています。行政手続き・法改正・制度改正の実務情報を専門に扱う編集チームが、企業実務担当者・士業専門家向けに正確性の高いコンテンツを提供します。