本記事は2026年10月19日時点の民法(e-Gov法令検索で取得した、同日時点で施行中の条文)と、裁判所ウェブサイトの手続案内にもとづく一般的な解説です。個別の事案では、遺言の内容、財産の評価、生前贈与の時期や趣旨によって結論が変わります。実際に請求する場合や、請求を受けた場合は、弁護士または家庭裁判所の窓口に相談してください。期限が迫っている場合は、解説を読む前にまず相談先を確保してください。
結論|遺留分は「兄弟姉妹以外の相続人」に保障された最低限の取り分で、請求先は金銭、期限は知った時から1年です
- 遺留分とは、亡くなった人(被相続人)が遺言や生前贈与で自由に財産を処分しても、一定の相続人には必ず残される最低限の取り分のことです。裁判所は「法律上取得することが保障されている最低限の取り分」と案内しています
- 遺留分を持つのは、兄弟姉妹以外の相続人です。配偶者、子(子が亡くなっていれば孫などの代襲者)、親などの直系尊属が対象で、兄弟姉妹にはありません(民法第1042条第1項)
- 全体としての割合は、親など直系尊属だけが相続人なら3分の1、それ以外は2分の1です。これに各人の法定相続分を掛けたものが、一人ひとりの遺留分になります(同条第1項・第2項)
- 計算の土台になる財産には、相続開始前の贈与も加わります。相続人への贈与は原則10年前まで(結婚・養子縁組・生計の資本としての贈与に限る)、相続人以外への贈与は原則1年前までです(第1044条)
- 遺留分が侵害されたとき、請求できるのは金銭です(遺留分侵害額請求・第1046条第1項)。不動産そのものの返還を求める制度ではありません
- 請求権は、相続の開始と、遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年、または相続開始から10年で消滅します(第1048条)。期限は短いので、思い当たる人は早めに動いてください
遺言を書く側として備えたい方には、遺言制度改正2026|押印廃止・保管証書遺言の新設はいつから?も合わせて確認してください。遺言の書き方を変えると、遺留分をめぐる争いを減らせることがあります。
この記事の対象読者
- 「自分に遺留分があるのか」「いくら請求できるのか」を知りたい相続人の方
- 「全財産を特定の人に残す」遺言を書きたい、または書いてもらった方
- 「遺留分を請求された」「請求されるかもしれない」という立場の方
相続全体の流れ(相続税、登記、遺産分割)は別の記事で扱っています。本記事は、遺留分に絞って、条文の順に「誰が」「いくら」「何を基準に」「どう請求し」「いつまでか」を説明します。
遺留分とは|遺言があっても残る「最低限の取り分」
人は、遺言で自分の財産を誰にどれだけ残すかを、原則として自由に決められます。たとえば「全財産を長男に」「お世話になった友人に」という遺言も、書くこと自体はできます。
ただし、それを無制限に認めると、残された配偶者や子が生活に困ることがあります。そこで民法は、一定の相続人に対して、遺言や贈与でも奪えない最低限の取り分を保障しています。これが遺留分です。
ここで大切なのは、次の2点です。
- 遺言が無効になるわけではありません。 「全財産を長男に」という遺言があれば、まずはその遺言どおりに財産が移ります。遺留分は、遺言の効力を消すものではなく、不足分をお金で取り戻す権利です
- 何もしなければ、遺留分は戻ってきません。 遺留分を持つ人が請求して初めて、侵害された分の支払を求められます。請求には期限があります(後述)
なお、遺産分割の話し合い(相続人どうしで誰が何を取るかを決める手続き)と、遺留分の請求は別の手続きです。遺言が有効にあるときは、遺言が分け方を決めているので、遺産分割ではなく遺留分の問題として争点になります。遺産分割協議の進め方は遺産分割協議と不動産相続 実務ガイド2026を参照してください。
誰が遺留分を持つのか|兄弟姉妹には遺留分がない
遺留分を持つのは、民法第1042条第1項の文言どおり「兄弟姉妹以外の相続人」です。整理すると次のとおりです。
| 立場 | 遺留分 | ポイント |
|---|---|---|
| 配偶者 | あり | 常に相続人になります |
| 子 | あり | 養子を含みます。子が相続開始前に亡くなっていれば、その子(孫)が代襲して相続人になり、遺留分も持ちます(第887条第2項) |
| 親など直系尊属 | あり | 子や孫がいない場合に相続人になります(第889条第1項第1号)。割合が3分の1になる場合があります |
| 兄弟姉妹 | なし | 相続人にはなりますが、遺留分は保障されません |
| 兄弟姉妹の子(甥・姪) | なし | 兄弟姉妹を代襲して相続人になっても、遺留分はありません |
出典:民法第887条、第889条、第1042条(2026年10月19日時点の条文)。
つまり、「子がおらず、配偶者もおらず、親も亡くなっていて、兄弟姉妹だけが相続人」という場合、遺言で全財産を他の人に渡すことができ、兄弟姉妹は遺留分を主張できません。
相続人でなければ遺留分もない
遺留分は、相続人であることが前提です。次の人は遺留分を持ちません。
- 相続を放棄した人: 相続の放棄をした人は、初めから相続人とならなかったものとみなされます(第939条)。したがって遺留分もありません。放棄の手続きは相続放棄2026年完全ガイドで解説しています
- 相続欠格に当たる人: 被相続人を故意に死亡させて刑に処せられた人や、遺言書を偽造・隠匿した人などは、相続人になれません(第891条)
- 相続権を失った人(廃除など): 子が相続権を失った場合、その子の子が代わりに相続人になります(第887条第2項)。この場合、遺留分を持つのは代襲した人です
- 相続人ではない人: 内縁の配偶者、子の配偶者、代襲相続が起きていない孫などは、そもそも相続人ではないので、遺留分もありません
「長年介護をしてくれた長男の妻」のような相続人でない人は、遺留分はありませんが、別に特別寄与料(第1050条)の請求が認められる場合があります。ただし、その請求は特別寄与者が相続の開始と相続人を知った時から6か月、または相続開始から1年を過ぎると、家庭裁判所に協議に代わる処分を求められなくなります(同条第2項)。遺留分とは別の制度なので、混同しないでください。
遺留分の割合|全体の2分の1か3分の1に、法定相続分を掛ける
遺留分の割合は、2段階で決まります。
手順1:全体の遺留分(総体的遺留分)を決める
民法第1042条第1項は、次のとおり定めています。
- 直系尊属のみが相続人である場合: 3分の1
- それ以外の場合: 2分の1
「それ以外」とは、配偶者がいる場合や、子がいる場合です。たとえば、配偶者と子、配偶者のみ、子のみ、配偶者と親、といった組み合わせは、すべて2分の1です。
手順2:一人ひとりの遺留分を決める
相続人が複数いるときは、手順1の割合に、各人の法定相続分(第900条・第901条)を掛けます(第1042条第2項)。
法定相続分は、第900条で次のように定められています。
- 配偶者と子: 各2分の1。子が複数なら、子の分を人数で等分します
- 配偶者と直系尊属: 配偶者3分の2、直系尊属3分の1
- 子、直系尊属が複数いる場合: 各自の相続分は等しい
これをもとに計算した、代表的な組み合わせの早見表です。
| 相続人の組み合わせ | 全体の遺留分 | 各人の遺留分 |
|---|---|---|
| 配偶者のみ | 2分の1 | 配偶者 2分の1 |
| 子1人のみ | 2分の1 | 子 2分の1 |
| 子2人のみ | 2分の1 | 子 各4分の1 |
| 配偶者と子1人 | 2分の1 | 配偶者 4分の1、子 4分の1 |
| 配偶者と子2人 | 2分の1 | 配偶者 4分の1、子 各8分の1 |
| 配偶者と親2人 | 2分の1 | 配偶者 3分の1、親 各12分の1 |
| 親2人のみ | 3分の1 | 親 各6分の1 |
表の算式は、たとえば「配偶者と子2人」なら、全体2分の1に、配偶者の法定相続分2分の1を掛けて配偶者は4分の1、子は法定相続分が各4分の1なので2分の1に4分の1を掛けて各8分の1です。「配偶者と親2人」なら、配偶者は2分の1に3分の2を掛けて3分の1、親は2分の1に3分の1を掛けて6分の1となり、それを親2人で等分して各12分の1です。
注意: この表は、法定相続分どおりに相続人が決まる前提のものです。第1042条第2項の「第900条及び第901条の規定により算定した各自の相続分」を使うため、遺言で相続分を指定されていても、遺留分の計算にはこの法定の相続分を使います。
遺留分の計算の基礎になる財産|生前贈与は何年前まで入るか
遺留分は「全体の財産」に割合を掛けて計算します。その「全体の財産」を、民法は遺留分を算定するための財産の価額と呼んでいます(第1043条第1項)。
被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額
算式にすると次のとおりです。
基礎財産 = 相続開始時の財産 + 算入される贈与 - 債務の全額
ここで、実務で最も迷うのが「算入される贈与」の範囲です。
贈与の算入期間(第1044条)
| 贈与の相手 | 算入される範囲 | 根拠 |
|---|---|---|
| 相続人以外(第三者、孫など) | 相続開始前1年間にしたもの | 第1044条第1項 |
| 相続人 | 相続開始前10年間にしたもの。ただし婚姻・養子縁組のため、または生計の資本として受けた贈与に限る | 同条第3項 |
| 相続人以外・相続人を問わず | 贈与する側と受ける側の双方が、遺留分を持つ人に損害を与えることを知ってした贈与は、上の期間より前のものも算入 | 同条第1項後段 |
たとえば、次のように考えます。
- 長男が9年前に、自宅購入の資金として1,000万円をもらっていた場合: 生計の資本としての贈与なので、10年以内であり、算入されます
- 長男が15年前にもらった1,000万円: 10年より前なので、原則として算入されません。ただし、双方が他の相続人に損害を与えると知っていた場合は別です
- 友人に8か月前に贈与した500万円: 相続人以外への贈与で1年以内なので、算入されます
- 友人に3年前に贈与した500万円: 1年より前なので、原則として算入されません。ただし、損害を与えることを知っていた場合は別です
贈与した財産の価額は、受けた人の行為で財産が滅失したり価格が増減したりしていても、相続開始の時にそのままの状態であるものとみなして評価します(第1044条第2項、第904条)。
なお、「相続人への贈与は10年」という扱いは、第1044条第3項で定められています。2019年7月1日より前に始まった相続には、旧制度の考え方が適用される場合があります。裁判所の案内でも、2019年7月1日より前に開始した相続と、同日以降に開始した相続は区別されています。
債務・負担付きの贈与・不相当な対価
- 債務は全額を差し引きます(第1043条第1項)。借金や未払いの税金などが該当します
- 負担付贈与(たとえば、住宅を贈る代わりにローンを引き継がせる、という贈与)は、目的の価額から負担の価額を引いた額で算入します(第1045条第1項)
- 不相当な対価でした売買などは、双方が遺留分を持つ人に損害を与えると知っていた場合に限り、その対価を負担とする負担付贈与とみなされます(同条第2項)
- 条件付きの権利や、存続期間が不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価で価格を決めます(第1043条第2項)
遺留分侵害額の計算例
遺留分が侵害されているかどうか、いくら侵害されているかは、第1046条第2項の算式で計算します。
遺留分侵害額 = 個別の遺留分 - 遺贈・特別受益の贈与の価額 - 遺産から取得する額 + 承継する債務の額
(第1046条第2項。第1号が遺留分権利者が受けた遺贈と特別受益にあたる贈与、第2号が遺留分権利者が取得すべき遺産の価額、第3号が遺留分権利者が承継する債務の額)
ここでいう特別受益とは、相続人が亡くなった人から受けた、婚姻・養子縁組のための贈与や生計の資本としての贈与のことです(第903条第1項)。遺贈(遺言による財産の譲渡)も同じ項で並べて定められており、いずれも「すでに受け取った分」として、自分の遺留分から差し引かれます。
例1:全財産を長男に遺贈した場合
- 家族: 被相続人、長男、次男(配偶者なし)
- 財産: 相続開始時に4,000万円。債務なし。生前贈与なし
- 遺言: 全財産を長男に遺贈する
計算は次のとおりです。
- 基礎財産 = 4,000万円(生前贈与も債務もないため)
- 次男の遺留分 = 2分の1 × 法定相続分2分の1 = 4分の1 = 1,000万円
- 次男が受けた遺贈・贈与や、取得する遺産はゼロ
- 次男の遺留分侵害額 = 1,000万円
次男は、長男に対して1,000万円の支払を請求できます。
例2:債務と生前贈与がある場合
- 家族: 被相続人、長男、次男(配偶者なし)
- 財産: 相続開始時の積極財産(プラスの財産)5,000万円
- 債務: 1,000万円(法定相続分どおり、長男・次男が500万円ずつ引き継ぐと仮定)
- 生前贈与: 相続開始の6か月前に、相続人でない第三者へ1,000万円
- 遺言: 5,000万円の財産を全部、長男に遺贈する
計算は次のとおりです。
- 基礎財産 = 5,000万円 + 1,000万円(贈与は1年以内なので算入)- 1,000万円(債務の全額)= 5,000万円
- 次男の遺留分 = 5,000万円 × 4分の1 = 1,250万円
- 次男が受けた遺贈・贈与や、取得する遺産はゼロ
- 次男が承継する債務 = 500万円(第1046条第2項第3号により加算)
- 次男の遺留分侵害額 = 1,250万円 - 0 + 500万円 = 1,750万円
債務を次男が引き継ぐ分は、請求できる額に加算されます(第1046条第2項第3号)。
誰にいくら請求できるかは、次のとおり別の条文が決めています。この例では、遺贈を受けた長男が先に負担し、贈与を受けた第三者はその後に負担する、という順序になります(第1047条第1項第1号)。さらに、受遺者・受贈者が相続人である場合は、その相続人自身の遺留分を超える部分が、負担の限度になります(同条第1項かっこ書き)。実際の請求先と金額の配分は事案ごとに異なるため、専門家に確認してください。
この計算例は説明用の簡略化したものです。 不動産の評価額の出し方、債務の承継のしかた、特別受益の有無など、実際には争いになりやすい論点が多くあります。
遺留分侵害額請求|請求できるのは「金銭」
制度の変更点(2019年7月1日)
遺留分を取り戻す請求は、以前は「遺留分減殺請求」と呼ばれ、財産そのものを取り戻す性格がありました。現在の「遺留分侵害額請求」は、金銭の支払を請求する制度です。裁判所の調停手続案内も、2019年7月1日より前に開始した相続については「遺留分減殺による物件返還請求調停」、同日以降に開始した相続については「遺留分侵害額の請求調停」と区別しています。
条文では、遺留分権利者およびその承継人は、受遺者または受贈者に対して、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求できるとされています(第1046条第1項)。
したがって、「実家の土地の持分を返してほしい」という請求はできません。土地がいくらの価値で、遺留分に相当する金額はいくらか、という金銭の問題として整理されます。
請求を受けた側の負担
請求を受けた受遺者・受贈者は、次の定めに従って負担します(第1047条)。
- 負担の順序: 受遺者と受贈者がいる場合は、受遺者が先に負担します。受贈者が複数いるときは、後の贈与を受けた人から順に負担します(同条第1項第1号・第3号)
- 遺言での別段の定め: 受遺者が複数いる場合などは、目的の価額の割合に応じて負担しますが、遺言者が遺言で別の意思を示していたときは、それに従います(同項第2号ただし書き)
- 負担の限度: 受け取った遺贈・贈与の価額が限度です(同項柱書き)
- 支払の猶予: 裁判所は、受遺者・受贈者の請求により、支払について相当の期限を与えることができます(同条第5項)。不動産しか財産がなく、すぐに現金を用意できないときに使われる制度です
- 無資力のリスク: 受遺者・受贈者がお金を持たないために生じた損失は、遺留分を請求する側が負担します(同条第4項)
手続きの流れ
遺留分侵害額請求には、決まった方式を定めた条文はありません。一般的には次の順で進みます。
- 相手方に請求の意思を伝える: 期限内に請求の意思表示をしておくことが重要です。実務では、いつ請求したかを後から証明できるよう、内容証明郵便が使われることが多いとされています
- 当事者の話し合い(協議): 金額や支払方法を相続人どうしで話し合います
- 家庭裁判所の調停: 話し合いがまとまらないときは、家庭裁判所に「遺留分侵害額の請求調停」を申し立てられます(裁判所「相続に関する調停」)。訴訟を起こす前に、まず家事調停を申し立てる必要があります(家事事件手続法第257条第1項)
- 訴訟: 調停でも合意できなければ、訴訟で判断を求めることになります
調停で合意して調書に記載されると、その記載は確定判決(裁判が確定したもの)と同一の効力を持ちます(家事事件手続法第268条第1項)。判決や、確定判決と同一の効力を持つものは、相手が支払わないときに差押えなどの強制執行を行うための根拠(債務名義)になります(民事執行法第22条第1号・第7号)。具体的な執行の手続きは、弁護士や裁判所に確認してください。
調停は、裁判官と調停委員が間に入って話し合いを進める手続きです。裁判所の案内では、遺留分侵害額の請求調停は「遺産分割において贈与や遺贈のために受け取る相続財産の割合が法定の最低限度を下回った場合に、その回復について話し合う手続」とされています。
請求の期限|知った時から1年、相続開始から10年
民法第1048条は、遺留分侵害額の請求権の期限を、次の2つで定めています。
- 遺留分権利者が、相続の開始と、遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年間行使しないとき
- 相続開始の時から10年を経過したとき
どちらか早いほうで、請求権は消滅します。
「知った時」とは何か
条文は「相続の開始」と「遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったこと」の両方を知った時としています。たとえば、父が亡くなったことは当日に知っていても、遺言の内容を知らなければ、1年のカウントは始まりません。遺言書が開示されて、自分の取り分が遺留分に満たないと分かった時点が、1つの目安になります。
ただし、「いつ知ったことになるか」は、事案ごとに具体的な事情で判断されます。遺言の内容を知った日を、手元の記録(遺言書の写し、手紙の消印、メールなど)で残しておくことをおすすめします。
期限をめぐる注意点
- 1年は短い: 家族の葬儀や四十九日、相続税の準備などに追われているうちに、あっという間に過ぎる期間です
- 10年は「知らなくても」進む: 遺言の存在を知らなかったとしても、相続開始から10年を過ぎれば、請求権は消滅します
- 侵害の事実が分かったら動く: 遺留分が侵害されているかどうかの計算に自信がなくても、期限内に請求の意思表示をしておく、という考え方が一般的です。計算は専門家と一緒に進められます
遺留分の放棄|生前にできるのは家庭裁判所の許可を得た場合だけ
遺留分は放棄することもできます。ただし、放棄の時期によって条件が異なります。
- 相続開始前(生前)の放棄: 家庭裁判所の許可を受けたときに限り、効力が生じます(民法第1049条第1項)。家族が口約束や念書で「遺留分は放棄する」と約束しても、それだけでは効力はありません
- 共同相続人の一人が放棄した場合: 他の共同相続人の遺留分には影響しません(同条第2項)。他の人の遺留分が増える、といったことはありません
裁判所の手続案内にも、「遺留分放棄の許可」として、相続人が相続の開始前に遺留分を放棄するための手続きが載っています。
生前の放棄が許可されるかどうかは、家庭裁判所が本人の自由な意思によるものか、放棄の理由に合理性があるか、代償(見返り)があるか、などを見て判断すると説明されることが一般的です。ただし、この判断基準は条文にはなく、本記事では詳細を確認していません。
遺言を書く人が備える方法
「遺留分を請求されると、残された人が困る」「争いを避けたい」という場合、次のような備えが考えられます。
1. 遺留分を意識して配分を決める
最も確実なのは、遺言の配分を決める時点で、各相続人の遺留分に相当する金額を確保しておくことです。たとえば、例1の家族なら、次男に最低でも4分の1に相当する財産を残す形にしておけば、遺留分侵害額請求の対象になりにくくなります。
2. 「付言事項」で理由を伝える
遺言書には、財産の配分とは別に、家族へのメッセージを書けます。これを一般に付言事項と呼びます。なぜこの配分にしたのか、感謝の気持ち、争わないでほしいという願いを書いておくと、受け取った側の納得につながることがあります。ただし、付言事項に法的な拘束力はなく、遺留分の請求を止める効力もありません。
3. 生前に遺留分の放棄をしてもらう
前述のとおり、家庭裁判所の許可を得れば、生前の放棄が有効になります(第1049条)。ただし、当事者の自由な意思が前提であり、一方的に求められるものではありません。
4. 生前贈与の時期と内容を整理する
相続人への贈与は、10年前までのうち、婚姻・養子縁組・生計の資本としての贈与が、遺留分の基礎財産に入ります(第1044条第3項)。相続人以外への贈与は、1年前までです。贈与したから遺留分の計算から外れる、とは限りません。
5. 不動産中心の財産は、支払う現金を考える
財産の大半が自宅などの不動産の場合、遺留分侵害額請求を受けると、現金で支払う必要が生じます。請求を受けた側は、裁判所に支払期限の猶予を求められます(第1047条第5項)が、あらかじめ現金や、現金化しやすい財産を残しておくほうが、後々の負担は軽くなります。
6. 遺言の負担の順序を指定する
受遺者が複数いる場合、目的の価額の割合に応じて遺留分侵害額を負担しますが、遺言者が遺言で別の意思を示したときは、それに従います(第1047条第1項第2号ただし書き)。遺言の書き方を専門家と相談して決めておくと、争いを減らせることがあります。
遺言そのものの作成方法や保管方法は遺言制度改正2026|押印廃止・保管証書遺言の新設はいつから?で解説しています。
よくある誤解
誤解1:「遺言があれば、遺留分は関係ない」
誤りです。遺言で「全財産を長男に」と書いても、他の相続人(兄弟姉妹を除く)には遺留分があります。遺言は有効なまま、不足分を金銭で請求する、という形になります。
誤解2:「兄弟姉妹にも遺留分がある」
誤りです。民法第1042条第1項は「兄弟姉妹以外の相続人」と明記しています。兄弟姉妹と、その代襲者である甥・姪に遺留分はありません。
誤解3:「遺留分は請求しなくても自動的にもらえる」
誤りです。遺留分は、請求して初めて支払を求められる権利です。期限(知った時から1年)を過ぎると、時効で消滅します。
誤解4:「財産そのものを返してもらえる」
2019年7月1日以降に開始した相続では、現在の制度は金銭請求です。以前の遺留分減殺請求とは異なります。
誤解5:「贈与は何年前のものでも、遺留分に入る」
誤りです。相続人以外への贈与は原則1年前まで、相続人への贈与は10年前まで(婚姻・養子縁組・生計の資本に限る)です。ただし、遺留分を持つ人に損害を与えると双方が知っていた贈与は、期間外でも算入されます。
誤解6:「生前に口約束で放棄してもらえば大丈夫」
誤りです。相続開始前の遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可がなければ効力がありません(第1049条第1項)。
よくある質問(FAQ)
兄弟姉妹以外の相続人にあります。全体の遺留分は、親など直系尊属だけが相続人なら3分の1、それ以外は2分の1で、これに各人の法定相続分を掛けて個別の割合が決まります(民法第1042条)。たとえば配偶者と子2人なら、配偶者が4分の1、子が各8分の1です。
遺言に書いても、遺留分の請求を禁止する効力はありません。遺留分は法律が相続人に保障している権利で、遺言で奪えないからこそ「遺留分」と呼ばれます。遺留分を放棄してもらうには、生前に家庭裁判所の許可を受けた放棄が必要です(第1049条第1項)。
法律上の請求は金銭です(第1046条第1項)。ただし、請求の相手方と話し合い、不動産などの現物で支払うことに合意することは妨げられていないと考えられますが、その場合の登記や税金の扱いは別に確認が必要です。
遺留分権利者が、相続の開始と、遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年です(第1048条)。それとは別に、相続開始の時から10年を過ぎると、知らなくても請求できなくなります。
まずは相手方との協議です。まとまらなければ、家庭裁判所に「遺留分侵害額の請求調停」を申し立てます(裁判所「相続に関する調停」)。訴えを起こす前に、まず家事調停を申し立てるのが原則です(家事事件手続法第257条)。
相続人への贈与は、相続開始前10年以内のもので、婚姻・養子縁組のため、または生計の資本として受けたものに限り算入されます(民法第1044条第3項)。10年より前の贈与でも、双方が他の相続人に損害を与えると知っていた場合は算入される可能性があります。
裁判所は、受遺者・受贈者の請求により、支払について相当の期限を与えることができます(第1047条第5項)。まずは相手方と、分割払いなどの支払方法を話し合い、まとまらない場合は専門家に相談してください。
まとめ|遺留分は「誰に」「いくら」を押さえ、期限は1年と覚えておく
- 遺留分は、兄弟姉妹以外の相続人に保障された最低限の取り分です。割合は全体で2分の1(直系尊属のみなら3分の1)に、法定相続分を掛けて決まります
- 計算の土台には、相続開始前の贈与も加わります。相続人への贈与は10年(婚姻・養子縁組・生計の資本に限る)、相続人以外は1年が原則です
- 請求できるのは金銭で、期限は知った時から1年、または相続開始から10年です。計算に自信がなくても、期限内に請求の意思を伝えておく動き方が重要です
- 遺言を書く人は、遺留分を踏まえた配分、付言事項、事前の放棄の許可、現金の確保で備えられます
相続全体の見通しを立てたいときは、相続税の基礎控除と計算4ステップや、不動産を受け継ぐ場合の相続登記の義務化も合わせて確認してください。
参考:関連する条文と出典
- 民法 第887条、第889条、第891条、第899条、第900条、第901条、第902条、第903条、第904条、第939条、第1042条〜第1049条、第1050条(e-Gov法令検索
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089、2026年10月19日取得) - 家事事件手続法 第244条、第257条(e-Gov法令検索
https://laws.e-gov.go.jp/law/423AC0000000052、2026年10月19日取得) - 裁判所「相続に関する調停」(遺留分侵害額の請求調停・遺留分減殺による物件返還請求調停の区別)
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_03_5/index.html - 裁判所「遺留分放棄の許可」(家事審判の手続案内)
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_02_5/index.html



