薬局の賃上げ原資と人員確保2026|調剤ベースアップ評価料の使い道と、採用・定着の費用感

本記事は法令・通達・官公庁資料に基づき編集部が作成・検証しています。個別の法的・税務判断ではありません。最新の法令はe-Gov法令検索でご確認ください。
薬局の賃上げ原資と人員確保2026|調剤ベースアップ評価料の使い道と、採用・定着の費用感

「賃上げの原資はどこから出るのか」「人を採るか、今いる職員の給与を上げて残ってもらうか」。薬局経営者が直面するこの2つの問いを、制度の数字と実測データで整理する。

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結論:評価料は「賃上げの原資」にはなるが、採用費は出ない

  1. 調剤ベースアップ評価料は処方箋の受付1回につき4点(40円)。令和9年(2027年)6月以降は8点(80円)になる(令和8年厚生労働省告示第69号 別表第三 区分40)。
  2. 使い道は対象職員の基本給・毎月の手当の引上げと、それに伴う賞与・時間外手当・法定福利費の増加分に限られる(保医発0305第6号 区分40(2))。求人費用には使えない。
  3. 受付が月1,000回の薬局で、4点の月間収入は40,000円。対象職員3人に月10,000円ずつのベアを入れるには、法定福利費等の上乗せを15%と仮定して月約863回の受付が要る(試算は次章)。8点になれば約432回で足りる。
  4. 管理薬剤師と40歳以上の薬剤師は対象外。一番賃上げしたい層が対象外になりやすい。

賃上げの原資:評価料の仕組みと使途ルール

点数と施行日

適用時期 点数 金額(1点=10円)
令和8年(2026年)6月1日〜令和9年5月31日 4点 40円/受付1回
令和9年(2027年)6月1日以降 8点(所定点数の100分の200) 80円/受付1回

令和9年6月以降の100分の200は、告示の区分40の注2に書かれている。制度の全体像は調剤ベースアップ評価料シミュレーター2026で解説しており、本記事は「経営判断としてどう使うか」に絞る。

使途ルール(施設基準通知の原文から)

保医発0305第8号(施設基準の届出通知)第109の1(3)は、次のように定めている。

  • 評価料の収入は、対象職員の基本給または決まって毎月支払われる手当の引上げと、それに伴う賞与・時間外手当・法定福利費(事業者負担分を含む)等の増加分に用いる
  • ベア後に受付回数の変動で収入がベア額を上回り、追加のベアが難しい場合に限り、賞与などベア以外の賃金改善も認められる
  • 評価料で改善する項目以外の賃金項目(業績連動分を除く)の水準を下げてはならない
  • 賃金改善の実績は、原則として「令和8年3月時点の給与体系を当年度の職員に当てはめた場合の基本給等総額」と「算定年度の基本給等総額」の差で判断する。4月以降の昇給・ベアも、この差に出る限り実績になる読み方だ
  • 6月から翌年5月の収入は、当該年の4月から翌年3月の給与改善に充当してよい。ただし疑義解釈(その2)問5・問6は、賃金改善を算定開始月から実施し、収入は原則翌年5月までの改善に使い切るとする。後払いは前提にできない

注意したいのは、収入が上回った場合の例外はあるが、下回った場合の補填に関する定めは、施設基準通知(保医発0305第8号)第109の本文には見当たらない点だ。ベアは続く固定費だが、評価料の収入は受付回数で増減する。減ったときの差額は薬局の負担になる可能性がある。

自薬局の原資を試算する

前提

  • 評価料の収入は「受付回数×点数×10円」。受付回数は処方箋枚数と同じと仮定する
  • ベアに伴って増える賞与・時間外手当・法定福利費を、ベア額の15%と仮置きする(この15%は本記事の仮定で、公的な標準値ではない)
  • 数字は税引前の収入ベース

受付回数別:月間収入とベアに回せる額

月間受付回数 月間収入(4点) 年間(4点) ベア原資/月(4点・15%控除後) 月間収入(8点) ベア原資/月(8点・15%控除後)
1,000回 40,000円 480,000円 約34,800円 80,000円 約69,600円
1,500回 60,000円 720,000円 約52,200円 120,000円 約104,300円
2,500回 100,000円 1,200,000円 約87,000円 200,000円 約173,900円
4,000回 160,000円 1,920,000円 約139,100円 320,000円 約278,300円

「ベア原資」は、月間収入を1.15で割った額である。

逆算:何人にいくらのベアなら足りるか

必要な受付回数(月)=対象職員数×1人あたりのベア月額×1.15÷(点数×10円)。小数点以下は切り上げた。

対象職員数 1人あたりベア月額 必要な受付回数/月(4点) 必要な受付回数/月(8点)
3人 5,000円 432回 216回
3人 10,000円 863回 432回
5人 5,000円 719回 360回
5人 10,000円 1,438回 719回

月1,000回前後の薬局なら、4点でも3人に月10,000円のベアは回る。5人で月10,000円ずつだと4点では1,438回が要り、後述の平均的な薬局(月約1,416回)でもわずかに足りない。「対象職員の人数」と「ベア額」の掛け算が、受付回数に収まるかを先に確認するのが原資設計の第一歩だ。

賞与がベア額に連動する薬局では上乗せが大きくなりうる。3人・月10,000円(4点)なら、上乗せ30%なら30,000円×1.3÷40円=975回、50%なら30,000円×1.5÷40円=1,125回になる。50%だと月1,000回の薬局では足りない。これも本記事の仮定で、公的な基準ではない。

「平均的な薬局」の規模感

中央社会保険医療協議会「第25回医療経済実態調査」(令和7年実施)の法人立保険薬局(集計2・1,018施設)では、1施設当たりの年間処方せん枚数は16,996枚(月約1,416枚)だった。4点の評価料収入は年間679,840円、8点で約136万円になる。同じ表の給与費は1施設当たり32,841千円で、4点の収入はその約2.1%、8点で約4.1%にあたる。

給与費は賞与・退職金・法定福利費を含み、管理薬剤師や40歳以上の薬剤師の分も入る。対象職員だけで比べれば割合はこれより大きいが、評価料だけで給与水準を大きく動かせる規模ではない。薬局ごとの規模差は大きく、この平均は個別の目安にならない。規模別の試算は薬局規模別シミュレーション2026も参照してほしい。

評価料でカバーできない部分

対象職員の範囲が経営判断に直結する

対象職員は、施設基準通知で「事業主、使用者、開設者、管理者、40歳以上の薬剤師及び業務委託により勤務する者を除く」職員と定義される。事務職員に年齢制限はない。つまり、

  • 管理薬剤師は年齢にかかわらず対象外
  • 40歳以上の薬剤師も対象外
  • 40歳未満の薬剤師と事務職員は対象

管理薬剤師が対象外であることは、疑義解釈(その2)問8でも確認できる。40歳かどうかは、賃金の支払い対象となった月の初日時点で判定する(その3 問5)。派遣職員は、派遣元と相談して同程度以上の賃金改善を行うなどの要件を満たす薬局に限り、対象に含められる(その2 問2)。

経験豊富な薬剤師ほど、評価料の原資で賃上げしにくい構造だ。この層の待遇は別の原資で設計する必要がある。管理薬剤師の要件と給与の実態は管理薬剤師になる要件・年収相場2026で整理している。

実測:給与費は伸び、損益差額は下がっている

第25回医療経済実態調査の法人立保険薬局(1施設当たり)では、直近の事業年度(令和7年3月末までに終了した事業年度)と前の事業年度を比べると、給与費は31,419千円から32,841千円へ4.5%増えた。一方、損益差額は9,252千円から8,829千円に減り、収益等に対する構成比(直近の事業年度)は4.9%だった。人件費が先に上がり、利益が薄くなる構図が平均値でも出ている。

評価料は2026年6月開始でこの調査の期間外であり、賃上げ以外に使えないため、損益差額を直接押し上げる収入ではない。

人員確保:最低人数のルールと、採用費の実測

法令上の最低ライン

賃上げと並んで悩ましいのが人数だ。薬局の体制省令(昭和39年厚生省令第3号、令和8年5月1日施行版)第1条第1項は次のとおり。

  • 第2号:調剤に従事する薬剤師の員数が、一日平均取扱処方箋数を40で除した数(端数は切り上げ、1未満なら1)以上であること。眼科・耳鼻咽喉科・歯科の処方箋は、それぞれ3分の2を乗じて数える
  • 第6号:調剤に従事する薬剤師の週当たり勤務時間数の総和が、薬局の開店時間の1週間の総和以上であること

たとえば一日平均の処方箋が41枚なら、40で割って1.025、端数を切り上げて2人以上が必要になる。週の開店時間が48時間なら、薬剤師の勤務時間の合計も週48時間以上が要る。下限ぎりぎりで組むと、1人の退職がそのまま基準割れにつながるため、余裕を持った採用計画が要る。

人材確保にかかる外部支出の実測値

同じ第25回医療経済実態調査の法人立保険薬局(1施設当たり、直近の事業年度)には、人材確保に関わる外部支出の実測がある。調査の定義では、人材委託費は「派遣労働者を受け入れた場合の業務の対価としての費用」と「職員の採用に当たって支払った紹介手数料」の合計で、紹介手数料はその内数(再掲)だ。

項目 金額 収益に対する割合 前の事業年度からの伸び率
人材委託費(派遣の対価+紹介手数料) 802千円 0.4% 38.8%
うち紹介手数料 114千円 0.1% 65.2%

人材委託費から紹介手数料を引いた約688千円は派遣の対価で、採用費とは読めない。いずれも回答した全薬局の平均で、紹介会社を使っていない薬局も含み、1人採用あたりの額でもない。平均額は小さくても伸び率は大きい、という傾向を読む程度にとどめたい。1人採用あたりの手数料率は契約で変わるので、見積を取って比べるしかない。

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採るか、残すか:判断の順序

  1. 法令上の最低人数と、実際の勤務表の余裕を確認する(上の第2号・第6号)
  2. 評価料で賃上げできる対象職員を数える(40歳未満の薬剤師と事務職員)
  3. 対象外の職員(管理薬剤師・40歳以上)の待遇は別原資で考える
  4. 採用に踏み切るなら、採用費は評価料では賄えないので、別途予算を見込む

評価料のベアは既存の対象職員の定着策であって、採用の費用を出すものではない。採用と定着は、原資が別々だと割り切って予算を立てると整理しやすい。

運用の落とし穴:届出・報告・保管

届出と毎年8月の報告

厚生労働省の手続きフロー図によると、令和8年6月から算定するには令和8年5月7日から6月1日(必着)までに様式103の届出が必要だった。以後は毎年8月に様式104で報告する。

時期 提出するもの
令和8年(2026年)8月 賃金改善中間報告書(令和8年度の6〜7月時点の賃上げ状況)
令和9年(2027年)8月 賃金改善実績報告書(令和8年度の実績)と、令和9年度の中間報告書

令和9年6月以降に新たに算定を始める場合は、令和9年5月に該当の様式を提出する。ただし、令和8年度から継続して算定する場合は提出不要とフロー図に明記されている。令和8年8月の中間報告はすでに提出の時期を過ぎているため、未提出なら管轄の地方厚生(支)局に確認してほしい。

賃金を下げる場合と書類の保管

対象職員の賃金水準(評価料による賃金改善分を除く)を引き下げたうえで賃金改善を行う場合は、収支状況などを記載した様式94(特別事情届出書)を届け出る。また、実績報告書の根拠となる書類は、評価料を算定する年度の終了後3年間保管する(保医発0305第8号 第109の2(2)〜(4))。

周知・書面回答などの付随要件

施設基準通知 第109の1は、賃金改善の中身のほかに次も求めている。

  • 対象職員に、賃金改善の実施方法と就業規則の内容を周知する。賃金改善について照会を受けたら、書面を用いるなどして分かりやすく回答する((5))
  • 評価料の趣旨を踏まえ、労働基準法等を守る((4))
  • 店舗販売業を併設する薬局は、評価料の収入を店舗販売業の職員の賃上げに使わない((6))
  • 法人内で同一の給与体系の複数店は、様式104の別添2で集約して報告できる(第109の2(5))

補助金との二重カウントに注意

賃金改善の実績には、「令和7年度医療機関等における賃上げ・物価上昇に対する支援事業」によって交付される補助金による部分は含めない、と通知に書かれている。補助金で上げた分を評価料による賃金改善として報告しないこと。

令和9年6月に向けた設計

令和9年6月から評価料は8点になり、同じ職員構成・同じ受付回数なら収入は約2倍になる。上の逆算表のとおり、4点では足りなかった「5人・月10,000円」のベアも、8点なら719回で回る。ただし、一度上げたベアは下げにくい。8点を見込んで先に引き上げた場合の差額が出る期間は、薬局の持ち出しになりうる点には注意したい。収入は原則翌年5月までの賃金改善に使い切る扱い(疑義解釈その2 問6)なので、受取額を寝かせて後から上げる設計も取りにくい。

あわせて、調剤物価対応料も令和9年6月以降は1点から2点(所定点数の100分の200)になる。こちらは3月に1回に限り算定する項目で、留意事項通知の区分41には、使途を賃上げに限る記載は見当たらない。賃上げ原資に回すかどうかは経営判断になる。2026年改定の全体像と他の加算の取り方は2026年調剤報酬改定をわかりやすくまとめで整理している。

よくある質問(FAQ)

A

払えない。通知は、評価料の収入を対象職員の基本給または毎月の手当の引上げと、それに伴う賞与・時間外手当・法定福利費の増加分以外に用いることはできないと定めている(保医発0305第6号 区分40(2))。採用費は別の財源で見込む。

A

様式94の特別事情届出書は、評価料による賃金改善分を除いた賃金水準を引き下げたうえで賃金改善を行う場合の届出で、ベアを元に戻すための手続きではない。賃金の引下げには、労働者の同意など労働法上の手当ても要る(労働契約法第9条は、労働者と合意することなく就業規則の変更で不利益に労働条件を変更することを認めない)。実施前に地方厚生(支)局と社会保険労務士へ確認してほしい。個別の事情に対する可否までは断定しない。

A

通知は「基本給または決まって毎月支払われる手当」の引上げを原則とし、賞与などでの改善は、ベア実施後に収入がベア額を上回って追加のベアが難しい場合に限り認めている。最初から賞与で全額を配る設計は、施設基準通知 第109の本文には認められる根拠が見当たらない。

A

使えない。管理者は対象職員から除かれる。管理薬剤師の待遇は別の原資で設計する。

A

一日平均取扱処方箋数を40で割った数(端数切り上げ)以上の薬剤師が必要で、勤務時間の総和も開店時間の総和以上であることが求められる。詳細は上の「法令上の最低ライン」を参照。

まとめ

  • 調剤ベースアップ評価料は、対象職員への賃上げ原資であり、採用費の財源ではない
  • 原資は「受付回数×点数×10円」。対象職員数とベア額の掛け算が収まるか、先に逆算する
  • 管理薬剤師と40歳以上の薬剤師は対象外。その層の待遇は別原資で考える
  • 薬剤師の員数は処方箋40枚ごとに1人、勤務時間の総和は開店時間以上が法令上の下限
  • 令和9年6月から8点。ただし、上げたベアは下げにくい前提で設計する

賃上げの設計に迷うときは、まず調剤ベースアップ評価料シミュレーター2026で自薬局の受付回数と対象職員数を入れて、原資の規模を確かめてほしい。

参考資料・一次情報

本記事の点数・施設基準・報告時期は、以下の原文で確認しています(2026年10月11日確認)。最新の情報は各機関の公式サイトでご確認ください。

  • 診療報酬の算定方法の一部を改正する件(令和8年厚生労働省告示第69号)別表第三 調剤報酬点数表 区分40・区分41 — https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001665294.pdf
  • 厚生労働省保険局医療課長通知 保医発0305第6号(令和8年3月5日)別添3「調剤報酬点数表に関する事項」区分40・区分41 — https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001713883.pdf
  • 厚生労働省保険局医療課長通知 保医発0305第8号(令和8年3月5日・0402訂正後)第109 調剤ベースアップ評価料(抜粋) — https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001688452.pdf
  • 厚生労働省 疑義解釈資料の送付について(その2)(令和8年4月1日)別添 問2・問5・問6・問8 — https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001689076.pdf
  • 厚生労働省 疑義解釈資料の送付について(その3)(令和8年4月20日)問5 — https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001693874.pdf
  • 厚生労働省「令和8年6月以降に初めてベースアップ評価料の算定を始める保険薬局」(届出・報告のスケジュール図) — https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001695490.pdf
  • 薬局並びに店舗販売業及び配置販売業の業務を行う体制を定める省令(昭和39年厚生省令第3号)第1条 — https://laws.e-gov.go.jp/law/339M50000100003
  • 中央社会保険医療協議会「第25回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告」(令和7年実施)保険薬局(集計2) — https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/database/zenpan/jittaityousa/dl/25_houkoku_iryoukikan.pdf

免責事項:本記事の情報は2026年10月11日時点で確認した告示・通知・省令・調査報告に基づく。試算は記事内の仮定による概算で、個別の薬局の算定額や賃金改善額を保証しない。実際の算定・届出にあたっては、最新の告示・通知および所管の地方厚生(支)局の案内を必ず確認すること。本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の算定可否・届出内容・労務に関する専門的アドバイスではない。

JG

実務ガイド編集部

AI執筆 + 編集部レビュー済み

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